「まさかあの春く…いや『春ちゃん』が君だったとはな…」
春樹による『玲姉ちゃん』の一言で尽きかけていた戦意を完全に喪失したのか、
ベッドに力無く崩れ落ちる千所玲。
突然の変貌ぶりに室内の人間は驚くしかない。
「ねえ、母さん…一体どうなってるの?」
「さぁ、ね。」
不安げな妹と肩をすくめる母には構わず、春樹は目の前で力無くうなだれる、
かつての初恋相手へと話し掛ける。
「ごめん…俺、玲姉ちゃんが校長なんて全く気付かなかった…いくらイメージが変わった…」
「お互い様だよ…私とてあの『春ちゃん』が高校生で、しかもあの青山先生の息子だなんて…
想像すらしなかったよ…」
『グスン…青山先生の鈍感…グスグス…青山先生のばかばか…』
『…おねえちゃん、どこかいたいの?』
『えっ!?だ、大丈夫よ…悲しいことがあっただけ…』
『かなしいのかなしいの、とーんでけー!!!…もう、おねえちゃんなかないで』
『優しいね…私の名前は玲よ。君はなんてお名前?』
『…ぼくは…』
『あっはるっ!!ほかのオンナとあそんじゃだめー!!』
『はるくん!!いくよ!!』
『(ズルズル)…れ、れいねえちゃんまたねー』
『くすっ…はるちゃんか…』
遠き出逢いの日を思い出す二人。思えば公園でのみ出逢い、お互いの名字すら知らなかった。
「玲姉ちゃん、いや千所校長先生。何があったか俺には分からない。
だがここにいる人は俺の大事な人達なんだ。許して貰えないだろうか?」
そう言って深々と頭を下げる春樹。
「変わらないな、その優しい所は…もしその身に責任が被っても…かい?」
「ああ」
すると背後から春樹を庇う声が。
「春樹!!あたし達は被害者なんだぞ!!」
「そうよ!!ハルは悪くないもの!!」
陽子とルカ、二人は声だけでなく身を呈して春樹と玲の間に割って入る。
「黙って…馬鹿姉とルカ義姉さん…校長…私も謝るから…(未来の妻として)」
「まめこ!!そのいみしんな()はなんですか!!」
「それより『義姉さん』ってなんなのよ!!」
「み、みんな落ち着いてよ~…」
にわかに騒がしくなった室内を見わたして、玲は苦笑いを浮かべる。
「夏実先生…いや夏実さん。いいご子息をお持ちになりましたね」
「うふふ…秋くんの子供だしね。まだ諦めはつかないかしら?」
「いいえ、卒業します。偽りの自分と青山先生から…」
夏実へ簡単にではあるが、敗北を宣言し青山秋彦への思いを断ち切る玲。
だがしかし。
『春ちゃんを大人の男に育てる楽しみか、ならまだまだ色々経験して貰った方が…』
春樹の受難は続き、彼を巡る環境は一層混迷の度合いを増すのであった。
新醤油学園 青春編
「Target Lock Again」
最終更新:2009年01月24日 02:19