新醤油学園からほど近い交番でのこと。
「…本当に申し訳ありませんでした…家の若い者が…」
「いやいや。貴子ちゃんの家の人だと分かってたら、こんな大事にしなかったのに」
中年の警官は穏やかに話しかける。
「塩崎…勝四郎くんだっけか?あんまり貴子ちゃんに迷惑をかけちゃいかんぞ」
「す、すみません…」
勝四郎にしてみれば失態ここに極まれりである。
呼び出しは無視するは、サボってデートするは、挙句の果てに
補導されて主君に迎えに来てもらうでは。
幸いにも今回のピンチは警官が大の貴子ファンであったことで、危うきを逃れたものの。
「…勝四郎…今月は給料抜き…!!」
「ううっ……(⊃дT)」
「…と言いたい所だけど……相方に免じて5%カットで許す」
「た、貴子様っ!!」
「…代りに特別任務を…与える…」
「は、はい!!」
「…で勝四郎が晩飯を作るのは兎も角。肝心の貴はどこへ?」
「さ、さぁ……?」
夕食の場に妹の姿が見えない事に不審を抱いた陽子。
割烹着姿が妙に板につく勝四郎に内心感心しつつも、疑問をぶつけていく。
「今日だけなのか?」
「い、いえ。暫く『人生を賭けて戦うから』とのことです」
「くそ…春樹ん家に入り浸る気だな…」
「…みたいネ。陽子サマはリードされてるヨ……この煮ビタシ美味ネ」
右隣で恋人の料理に舌鼓を打つレーファ。
「…あたしは負けない!!だからレーファ、何か策を考えやがれ!!」
「ホント人任せネ…ではこんなアイデア、陽子様的にどうネ?」
レーファの話に最初怪訝な表情だった陽子は、次第に身を乗り出して聞きいっていった…
次の日。
「豆田姉が休みなんて珍しいわね、明日はきっと雨よ」
「多分陽子のことだから爆裂な寝坊してるかも」
「まめこもしらなかったみたいですし…」
青山家に帰る真智子、夕圭にルカの三人は本日欠席した陽子について噂話をしていた。
「…話は変わるけど、昨日の変な視線はなんだったのかしら?」
「…すとーかーですかねぇ?」
「まあ、真智ちゃんに付き纏っても、食べてる所しか見れないけどさ」
「ふじょくです…」
あと10歩で青山家の玄関にさしかかったその時。
「おー!!三人ともお疲れさん!!」
突如響く陽子の声。
「よ、陽子!?ど、どこにいるの!?」
「夕圭!!上、上だ!!」
三人が見上げると、青山家の隣家のベランダから陽子が手を振っている。
「な!!そこから下りなさいって!!」
「あんでだよ?」
「その家の人に迷惑でしょうが!!」
血相を変えて怒鳴る夕圭に、陽子は事も無げにある事実を告げる。
「ん、今日からあたしの家だぜ。ま、借家だけど」
「…とりあえず話して貰おうか。豆田姉」
あの後真智子達は「まだ片付いてねえ!!」と抗議する陽子を三人がかりで
青山家居間へと引っ張りこみ、詳しい話を聞くことにした。
「…んー、あたしももう16だしさ、そろそろ独り立ちを…」
「嘘だ!!!!」
陽子の弁明は夕圭の一言にかき消される。
「決めつけんなよ…第一あたしがなんで…」
「大方春樹くん絡みで突然の独り暮らしなんでしょ!!」
「うっ…」
「でも今朝までお隣は普通に生活してたのに…」
ルカが首を傾げる。
「…まぁ、それなりに金積んだしな。決して無理強いはしてねえぞ」
「…まめあね…おそろしいこ!!」
この後帰宅した春樹が陽子の一件を聞いて、流石に呆れたのは言うまでもなし。
「豆田…本当やることなすことぶっ飛んでるよなぁ…」
「…でも貴子ちゃんが一人あの豆田邸で暮らすのは、なんか可哀想だな」
夕圭がポツリと漏らす。
「…あの家に一人?」
「うん。お手伝いさんはいるみたいだけど。ご両親は海外にいるらしいから」
「…………」
翌朝、爆睡中の陽子を襲ったのは……
バババババン!!!!
「い、いってえ!!!!」
「…起きろ馬鹿姉」
半分寝惚け眼の陽子が目にしたのは、片手に空気銃を持った妹。
「た、貴っ!?何しにきたんだよ!!」
「…今日から私も…この家で暮らすから…」
「なっ!?あ、あたしの家だぞここは!!」
「…春樹さんの…指示…でご飯は毎日青山家で取ることに…」
次々に決定事項を告げられて目を白黒させる陽子だったが…
「…仕方ねぇ、貴は隣の部屋使えよ」
「……いいの?」
「独り立ちを黙ってた罰だからな、あたしも貴がいないと寂しいし」
「お姉ちゃん…」
「だが春樹の隣はあたしのもんだからな!!んじゃ先行くぜ!!」
「あっ…もう…」
仲良く姉妹和解ムードで終われば美しかったのだが…
「豆田ぁ!!せめてパジャマの下くらいははいてこいよ!!」
春樹の心労は増大する一方なのであった…
新醤油学園 青春編
「豆田姉妹確変チャンス」
最終更新:2009年01月24日 02:21