俺、柏木和也はとある夢を見ていた。
『…久しぶりだな。この夢…。』
空を飛ぶ夢である。…しかも腹に250kg爆弾を抱えた零戦六二型に乗って、63年以上も前の空を飛んでいる。
もっとも、この機を飛ばしているのは柳川敬一と言う名の軍人であり、俺にできるのは見ることだけ。
…この機の攻撃目標は敵空母群であり、俺が見ているのは、敬一が命を落とした特攻作戦である。
「…くそっ、後ろに…。うわぁああ!!!」
右手後方を飛んでいた列機が落ちる。…同じく爆装仕様の零戦。
「柳川少尉!!ご武運を!!」
無線から飛び込んでくる断末魔と爆発音。
「…酒井も殺られたか。」
酒井だけじゃなく、今田、東に田川…。…これで編隊を組んでいた部下たちは、自分を除いて全て喰われた。
しかし、悲しみや怒り以上に、諦めの色が強いセリフが零れ落ちる。…例え振り切っても、彼らの死は別の形で待っているのだから。
一方、酒井機を落としたグラマンF6Fの方だが、こちらもすぐに柳川機への攻撃を行えなかった。
どうやら直援に廻った紫電改が食い止めてくれているようである。
この隙に、目視で空母を確認できる距離まで接近はできた。もっともその分、対空砲火の火線は濃密になっている。
柳川少尉が操る零戦は海面スレスレの突入ルートを取っており、あとは標的に衝突する時を待つだけである。
「…ここが俺の死に場所か。」
やがて幾筋かの火線が機体にかすり始めた。…もうすぐ、彼は空母の護衛についていた駆逐艦の機銃で落とされる。
「…美代子さん。今まで言えなかったが、君のことが好きだった。
喜久子くん。…折角、千人針を縫ってもらったのに、俺はここまでみたいだ。
大二郎…。貴様はまだ死ぬな。生きて帰って、美代子くんと幸せになれ。」
きっとその当時は、誰も聞き届けることができなかった柳川敬一の遺言…。
その一言を聞き届けた後に、視界が光に包まれて意識がフェードアウトしていく。
いつものように、この夢が終わったようだ。
目を開けると、ここ最近いつもの様に、俺を覗き込んでいる二人の顔。
「カズヤ!?大丈夫ですか!?…酷くうなされていたようですが。」
心配気な表情をみせる恋人のマギーと
「…アンタも見たんでしょ?大尉殿の…。」
疲労した表情を見せている恋人兼従姉の柏木由美 。
…きっと彼女も、彼女に憑いていた佐々木さんの最後を『また』看取ったのだろう。
「ああ。またあの夢だ。…だからという訳だが、今日って何か予定あるか?
…お盆だし、終戦記念日だし、久しぶりに墓参りでも行こうと思ってな。」
「はい。判りました。」
「それが良いわね。」
俺の考えに同意してくれる2つの声と、
「ああ。それなら『らてんもの』の猥褻本が良い。前に墓前に供えてくれたヤツが良かったからな!
え~と何だ、白人と『いんでぃあん』との混血の娘か?巨乳で褐色の肌の女人が多いとなお良いぞ!!」
なぜか事細かに供え物のリクエストをしてくれる男の声。
振り返ると、当たり前と言わんばかりにふんぞり返ってる大尉殿と…
「…敬一さん、酷いです…。」
涙ながらに恋人の貞操義務を咎める佐々木喜久子さん。…号泣してるな、佐々木さん。
さらにその騒動の影で目立たないが、確実にいるもう一つの影…。
「…柏木殿。…ぼた餅、無いのですか。orz」
別の理由で涙ながらに蹲る酒井飛行兵曹長殿。
再起動した由美はイスを片手に大尉に対して折檻を始め、マギーは喜久子を慰めている。
その結果、盆の割には正月並みな騒がしさに満たされる我が家(ワンルームの学生寮)。
誰一人として聞いているとは思えないが、世帯主としてとりあえず言っておく。
「とりあえず、盆が明けるまでゆっくりしていけ…。」
新ジャンル「【妖怪】人間以外の男の子とのお話 お盆編【幽霊】 きけわだつみのこえ」
最終更新:2009年01月24日 02:35