梅雨時日本列島、今日も今日とて天気は雨だ。
北海道には梅雨がないと聞くが、心底うらやましい。こう連日雨続きだと参ってしまいそうだ。
まあ、反面日本らしくていいとも思うし、空梅雨になったらなったで調子が狂うものでもあるが。
天気は一日雨模様といっても気温は高く、なにもしなくても背中に汗がじっとりと浮いてくるのがわかる。
下ろしたての夏服が台無しだ。そういえば、素肌の上に直接シャツを羽織るヤツもいるが、俺にはよくわからない。
Tシャツで一枚隔てないとピッタリ肌に張り付いて物凄く気持ち悪いからだ。それとも、その気持ち悪さの中にも趣があるというのか。ウウム。
などとどうでもいいことを考えながら傘から滴り落ちる水滴を眺めていると、視界の隅にぱたぱたと駆けてくる雨傘が映った。
「ごめんねぇ、しょーちゃん」
息を切らせたその下でにへー、と微笑む女の子。
名を今井 舞(いまい まい)という。上から読んでも下から読んでもいまいまい、が自己紹介に必ず含まれるこの小動物は、
俺こと宇木野 士洋(うきの しよう)の幼馴染みであり、妹分であり、さらには恋人でもあるという忙しいヤツだ。
ちなみに回文は小学生の頃俺が面白がって考えてやったコイツ唯一の鉄板ギャグだったりする。
もっとも、言い終わった後得意げににへー、と笑うので思わずこっちも微笑んでしまう、というのだから反則じみた代物だが。
「遅いぞ、マイ」
「えへへ。あのね、朝起きたらもう八時回ってた」
………遅れるわけだ。
こいつは、はっきり言ってトロい。のんびりやでクラス一の癒し系の名を欲しいままにし、
マスコットの地位を不動のものとしているが、それはあくまでも愛玩動物的な可愛がり方であり、
実際に昔からツルんでる俺としては頭を抱えたくなることもしばしばだ。
おかげでこいつのトロさに世界で一番耐性がついた俺は、いつの間にかマイの保護者的ポジションに任命されてしまった。
………まぁ、それは望むところだが。
「走らないと遅刻しちまうぞ」
「えー、また走るの」
「えー、じゃない。ほら、ダッシュダッシュ」
正直、走っても微妙なラインだと思う。俺たちは夢も目標もなく、ただ『近いから』という理由で今の高校を受験したため、
学校自体は徒歩でも通える距離にあるが、何せこいつの足は、ものすごく遅いのだ。春先の体力測定のたび泣きそうになっているヤツである。
実際今年は泣いてたし。そのくせ持久力は妙にあるので冬場のマラソン大会では結構好成績を収めていたりする。
俺にとっては小走り程度で、マイにとっては全力に近い疾走で、雨の住宅街を駆ける。
走っていると傘がぶれるので段々雨に濡れてきて気持ち悪い。
一定以上になれば逆にテンションも上がるというのに、本当に鬱陶しい雨だ。男ならもっと土砂降りになりやがれ。
「おい、マイ。大丈夫か」
不意に、マイの様子が気になった。
知らずにペースが速くなっていき、俺の後に続くマイがひっくりかえってしまうのはガキの頃からよくある話だ。
こういう所に気を配っていかないと、マイの保護者は名乗れない。
「はっ、はっ、へ、平気だよ。しょーちゃん」
足場が悪いためか少しフラついているが、まあ大丈夫だろう。こいつの持久力なめんな―――と。
「はあ、はあ………どうか、した?前見て、はあ、走らないと、危ないよ」
「い、いや。なんでもない」
慌てて曲げた首を戻す。今、俺はウソをつきました。
なんでもなく、ない。
雨に濡れたマイの制服はしっとりと背丈に似合わない豊かなボディラインを描いていて、
ピンクの可愛いブラがうっすら透け、こちらを挑発している。
―――俺以外誰も知らない、一生知らせるつもりも無いマイの一面が脳裏にフラッシュバックし、
思わず呼吸のタイミングを乱す生唾をゴクリと飲み込んだ。
「も、もう少しだからな。がんばれ」
ここの小道を抜けたら校舎裏に辿り着く。フェンスを乗り越えればもう安心だ。
本当は正門以外立ち入り禁止なんだけど、遅刻の危機だ。知ったことか。
と、無理矢理意識をマイから逸らしていると、急に視界が開けた。
小道を抜けたのだ。よし、もう安心だ。このペースなら授業には滑り込みで間に合うだろう。
しっかし、この濡れた制服と蒸し暑い教室でさっぱりわからない授業を受けるのか―――気が滅入ることはなはだしい。
―――と。
「―――――――――!!」
全身が粟立つような感覚がした。慌てて身を引く。急に立ち止まった俺の背中にマイがぶつかって小さく悲鳴をあげた。
その俺たちの目の前を―――トラックが通り過ぎていった。
危ないところだった。住宅地から続くこの小道は近道になるが、
視界が悪く大型車両も通れるT字路になっているので思わぬ事故を引き起こすこともあるのだ。
幸い死んじまったヤツはいないというが、自転車をぶつけて前輪がひん曲がったヤツならクラスにも数人はいる。
時々注意を促すプリントが配られたりする危険地帯なのだ。
「大丈夫か、マイ」
振り返った俺は思わず目を見開いた。
尻餅をついたマイのスカートは完全にまくれ上がっていて、ブラと揃いのピンクのショーツが丸出しになっている。
転んだ時傘を手放したようで、もとより濡れていたシャツは完全に身体に張りついて、マイの柔肌が透き通ってしまっていた。
乱れた髪はまるで事後のような妖艶さで、俺は―――。
「へ、平気だよ。しょーちゃん。えへ、びっくりしちゃったね」
―――俺は、平気じゃない。
「マイ。体操服、あるか」
「ううん、持ってないよ。今日は体育、ないでしょ」
「じゃあ、俺のジャージを貸してやる。教室までひとっ走り取ってくるから、それまで」
唇を、ひと舐め。
「旧倉庫で、待ってろ」
マイは目を丸くした。そうなのだ。
旧倉庫で待ってろ。
それは、俺たちにとって特別で、大切な意味を持つ言葉なのだ。
「………うん、わかった」
マイは少し頬を染めて大きな瞳で俺を見上げ、こくんと、頷いた。
それを見届けた後、俺は駆け出す。
マイのペースに合わせたものじゃない、体育祭でリレーアンカーを務めたこともある疾走。雨粒が弾け飛ぶような神速。
まったく俺ってヤツは、自覚以上にわかりやすい性格らしい。
うだつの上がらない雨が今、なんて、なんて、なんて心地がいい。
火照った身体を冷まさぬように。それでいて、オーバーヒートを起こさぬように。
今、天は他の誰でもないこの俺を祝福している!!………いや、俺たちを、だな。なあ、マイ?
「お待たせ」
息を整えながら、俺は薄暗い倉庫の中に足を踏み入れた。
―――旧倉庫。
この学校には倉庫と名のつくものが四つあり、そのうち二つは体育倉庫である。跳び箱やらマットやらがある想像通りのものだ。体育館と武道館、それぞれにひとつ。
さらにイベント倉庫。体育祭や文化祭など大きなイベントで使われるセットが片付けられている。
毎年セットは変わっていくのに前年度のものをわざわざ保存していくのでちょっとした博物館じみている。
文化祭の時なんか、開放するだけで客がとれるんじゃないだろうか。
そして、ここが旧倉庫と呼ばれる実質、雑多物置小屋である。
もともと剣道の武具やらを仕舞うためのものらしいのだが、数年前に武道館が新しく建てられたことによってこの倉庫は存在理由を失った。
今では部活連中が好き勝手にモノを放置していくという混沌空間となっている。しかも必要なものは大抵部室に置きっぱなしにするので、整理に来るヤツもほとんどいないという状態だ。
勿論、普通は鍵がかかっていてすんなりとは入れない。
しかし、今この時俺は堂々と扉を開け、その埃っぽいひんやりとした空気を嗅ぐことができる。種は簡単で、以前ここに侵入したとき、倉庫の窓の鍵を壊しておいたのだ。
おかげでマイを先に忍び込ませていた俺はこうやって中から鍵を開けてもらうことができた。
教員連中の中には鍵が壊れていることに気付いているヤツもいるだろうが、学校側が使わない倉庫にセキュリティなんて必要ないのだろう。
そのまま放置されている。そのいい加減さ、俺は嫌いじゃないぜ、センセ。
「いらっしゃい、しょーちゃん。準備、出来てるよ」
そう言ってはにかむマイは、すでに制服を脱いでしまっている。濡れた制服では寒かったんだろうな、きっと。
その背後に目をやると、ごちゃごちゃとした辺りと比べ不自然に何もないスペースが広がり、そこに畳マットが敷いてあった。
武道館が出来たとき不必要になった備品のひとつである。
「ちょっと狭くないか」
「えー、でもこんなもんじゃない?」
まあ、いいか。どうせ最後の方はいつもワケわかんなくなっているんだ。地べたに転がろうが関係ない。マイは嫌がるだろうが。
「さて、じゃあさっそくおっぱじめますか」
「う、うん………」
胸の前で手をごにゃごにゃしているマイ。……もう何度も身体を重ねているのに、コイツのトロさは全然変わらんな。
まあ、これが後に面白いことになるので別にこのままでもいいか。むしろ、このままがいいか。
「………ん」
する時の二人の約束。開始の合図は優しいキスで。
「………ん、んふ」
それが、段々と。
「ぴちゃ……ちゅ、ちゅ、ちゅる、ずず……」
深く、深く。濃厚に絡み合うものになっていく。
「………しょーちゃぁん………」
「マイ………」
お互いを、求めていく。
「ふぁ、あ、ああぁ、しょーちゃん、しょーちゃん……気持ちいいよお」
俺の頭に覆いかぶさるようにして切ない声をあげる生まれたままの姿のマイ。
俺は一度マイの女の子の部分から口を離し、知らず自然に口元が歪むのを自覚した。
そこはてらてらと銀色の妖しい光を放ち、ゆっくりと淫らに動いて俺を誘う。
指を二本ほど突っ込んでやると、これまたいやらしい嬌声をあげて粘液を垂れ流すのだ。
他の女がどうだかは、経験が無いのでわからない。しかし、それにしてもマイの愛液は随分と濃い方だろう。
………異常に、といってもいいかもしれない。
量も勢いもそれ相当のもので、コイツが本気で感じ始めたら辺りにぬらぬらと光る結界ができてしまう。
まるで―――そう。陸に上がった巻貝が、あたりを這いまわった跡のように。
そして、コイツを感じさせるなんて、俺にとってそう難しい話じゃないのだ。
「……ひっっ!!!っっ!!!……あはっ!!!…あうんんっっ!!!」
マイに指を突っ込んだまま激しく動かしてやる。いい声で鳴くんだもんなぁ、ホントに。
やがてぴっ、ぴっ、と細かい飛沫が飛び始め、マイの声色が切羽詰ってくる。もうそろそろか。
――――――さあ、出て来い。角を出し、槍を出し、その色に狂った目玉を見せてみろ。
「あ、あっ、あっ!あ……あああああああああーーーーーーーっっっっっっ!!!!!!!!」
一際高い声をあげ、びくんびくんと痙攣したかと思うと、くたくたとへたり込んでしまうマイ。まずは、一回。
マイは汗と涎と愛液でぐっしょりと濡れてしまっている。さあ、ここからが本番だな。
「………ああ、しょーちゃぁん………」
まだ腰が抜けているのか、ずるずると這い寄りしだれかかってくるマイ。
ぬらり、と濡れそぼった股の間から愛液が糸を引く。
「こんど、わたしがぁ………」
言うが早いか、俺はマイに押し倒された。俺は驚くでもなく、抵抗もなく、自然にそれを受け入れる。
「しょーちゃん、しょーちゃん」
切なく鳴きながら俺の制服を邪魔だと言わんばかりに剥ぎ取ってしまう。
全身を舐め回し、吸い付いて跡を残す。かぶりつくような勢いで俺の雄を咥え、しごき、喉の奥で受け入れ、犯していく。
普段の大人しいマイからは想像もつかない乱れ振りだ。それを、快楽に身を任せながら俺はニヤニヤと見つめている。
こんなマイは俺しか知らない。こいつを猫っ可愛がりするクラスメイトも、休み時間にじゃれあっている友達も、こいつを生み育てた親御さんだって、
マイにこんないやらしい一面があるのなんて夢にも思わないに違いない。
俺の、マイ。俺だけの、マイ。
これが、貝殻から姿を現したかたつむりの姿なのだ。
マイは、いつもは引っ込み思案だが、それは本当に“引っ込んでいる”のではないか、と思うときがある。
………まあ、それはほぼ八割がたこうしてマイを狂わせている時なのだが。
つまり、普段は大人しく殻の奥に隠れているが、雨に濡れれば―――雨のように降り注ぐ、熱い体液に濡れれば―――本性である積極性が顔を出す、といったところか。
まったく、我ながら品がない。
「マイ、胸でしてくれないか」
………それが、どうした。獣の行為にマナーなどあってないようなもの。
俺たちはじぐじぐと、お互いを貪り食らうのみだろう。
俺に注文され、奉仕するのがそんなに嬉しいのか。俺の愛しいかたつむりは蕩けきった眼で微笑うのだった。
――――――絡みあう、ふたり。薄暗い室内で、影は、ひとつ。
もっと動いて、絶叫にも似た声をあげ。どうせ雨音がすべてをかき消してくれるだろう。
水溜りが出来るほどの淫液を迸らせ、実際に水溜りができていた。いつの間に失禁したのか、敷いていたはずのマットはどこへ行ってしまったのか。
どうでもいい。関係ない。犯す。犯す。犯す。犯す。犯す。犯す。お互いがお互いを犯す。
どこからが自分で、どこまでが相手なのか。どうでもいい。関係ない。もっと擦って、達してもなお止らず。
渦巻く殻は、お互いの肢体。求め、求め、奪い、奪い、喰らい、愛し合う。
それはきっと、人類が誕生するより遥かな昔。
生き物が、まだかたつむりのような姿をしていた頃から続く、もっとも原始的な行為のひとつ。
お互いがお互いをかき混ぜあう狂乱の儀式。
「マイっ!マイっ!マイっ!マイっ!マイっ!!」
「しょーちゃん!しょーちゃん!しょーちゃん!しょーちゃん!しょーちゃん!!」
やがて来る、ひと際大きな波に。
二人の終わらない行為は、再び、幕を下ろす。
「結局さ、さぼっちゃったね。授業」
雨は、まだ止む気配はない。
俺たちは案の定泥だらけになった身体を払い、とりあえず着替えて、しかしまだ倉庫の中にいた。
マイが完全に腰を抜かしてしまったのだ。
俺の身体もけだるさが残っているし、もう少しだらだらしていたい。
「授業………ね。もう、なんかいいや。今日はさっさと帰ろうぜ」
「だね~~。匂い、しょーちゃんのニオイ、いっぱいついちゃったもん。出て行ったら退学になっちゃうよ」
匂いか。確かにな。
と、いうか後始末はどうしよう。
前回学校内でいたした時も、飛び散ったマイ液を残らずふき取るのに苦労したし、どうして俺たちは場所が特殊だとこうもポンポンとネジが飛ぶのか。
まあ旧倉庫は更衣室よりは人も寄り付かないし後始末も楽なのだが………。
「おしっこ漏らすんだもんなぁ、マイ」
「だってぇ………」
羞恥心で泣きそうなマイ。
そんなマイの頭を、ぐしぐしと乱暴に撫でてやる。
安心しろって。俺のマイ。
どんなになったって、俺がお前を手放さないさ。
お前の居場所は昔っから、俺の傍って相場が決まってるんだからな。
雨はいまだ止まず。梅雨はまだまだ明けそうにない。
きっとこの空の下のどこかに咲く紫陽花の葉の下で、かたつむりが雨宿りでもしているに違いない。
MY@MAI~新ジャンル『かたつむり』妖艶伝~ 完
女「しょーちゃぁん……あっついよぉ~~」
男「そりゃあ夏だからな。しょうがねぇよマイ」
女「わたし暑いの苦手だよぉ~~」
男「殻にひっこんでればいいだろ」
女「わたしかたつむりじゃないよぉ~~」
男「似たようなモンだろうが」
女「ひどいよぉ~~」
男「なぁマイ」
女「なぁに?しょーちゃん」
男「暑いな」
女「暑いよぉ」
男「なぁマイ」
女「なぁに?しょーちゃん」
男「 く っ つ く な 」
女「 や 」
新ジャンル「控えめがっちり」
最終更新:2007年09月03日 17:12