新醤油学園 青春編 「見習い執事の事情」

塩崎久蔵、当年17歳の豆田家執事見習い。
塩崎家の分家に生を受けた彼だが、思慮深い性格、武芸の冴えより周囲から高く評価されていた。
一時は「豆田家婿入り」と当主に考えられもしていたのだが、本人の強い希望と豆田姉妹の
「久蔵は良い奴だけどあたしの好みじゃ…」
「……却下」
といった意見により、話は流れてしまった経緯がある。


さてその久蔵の姿を豆田邸、夜の武道場に見ることができる。
「ふぅ…」
「見事じゃな久蔵、相変わらずの冴えじゃ」
「勘兵衛先生…黙って見てるとは人の悪い」
現れたのは禿頭白髭の老人、豆田家の顧問弁護士・市川勘兵衛である。

齢70を過ぎても矍鑠とした老人であり、いまだ現役で久蔵と勝四郎の武芸師匠でもある。
「何か勝四郎の奴め、おさんどんをしとったが?」
「ああそれは…」
久蔵は事情を勘兵衛に説明する。
「なんとまあ…相変わらずぶっ飛んだ嬢ちゃんじゃのぉ…」
「ははは」
久蔵としても笑うしかない。


一時間後、稽古を終えた久蔵は応接室へと勘兵衛を案内し、話し相手を勤めていた。
「にしても久蔵」
「はい?」
「絵美ちゃんとは上手くやっとるか?」

ブホッ

お茶を吹いた久蔵。
「せ、先生!!変なことを言わないで…」
「どこが変じゃ、おぬしにとって絵美ちゃんとはそんな存在なのか?」
「い、いや…しかしなぜそのような…」


うろたえる久蔵に勘兵衛老人は事も無げに言う。
「いやなに、来る途中で会うただけじゃ。…娘らしく綺麗になって…」
「は、はは…」
「チチも尻もバッチリじゃな、ワシがあと五年若ければほっとかんぞ」
「…先生は相変わらずお盛んですな」
ジト目で見る弟子を気にすることなく、師匠は答えて一言。
「ワシは生涯現役じゃ!!」

その後勘兵衛老人の愚痴(最近孫娘が冷たい事)に暫く付き合った後、久蔵は話を切り出す。
「先生の今日の本題とはいかなる御用事で?」
「気付いておったか…」
「もう十年も師事を受けてますから」
勘兵衛老人は僅かに目を細めて話し出す。
「嬢ちゃん、陽子嬢ちゃんの方じゃが、ご当主から連絡があっての」
「陽子様に?」
「見合いの話が出てきたんじゃ」
「見合い…ですか…でもまだ陽子様は16になったばかり。早過ぎは?」

勘兵衛老人は首肯し、話を続ける。
「ワシも思うたよ、しかしそれがご当主の意思であれば避けられぬ…」
「…当主が今の状況を知ったら騒ぎになりますね」
「幸い相手は選考中とのことじゃ、ワシから推薦も出来ようしな」
「成程。で聞き込みという訳ですな、陽子様の思い人を」
「…理解が早くて助かるが、その時代がかった言い回しはなんじゃ?」


勘兵衛老人が帰った後に、自室で久蔵は一枚の写真をじっと見る。

『青山春樹…又聞きにしか過ぎないが、なかなかの人物らしい…詳しく調べてみるか』


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「見習い執事の事情」

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最終更新:2009年01月24日 02:37
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