「お」
待ち合わせ時間を5分過ぎて、俺は駅前にやってきた。もちろん、待ち合わせ時間はきっちり守るさ。
俺は時間にうるさい血統書付きの日本人だからな。しかし俺は毎回必ず待ち合わせ時間を
少し過ぎてから現れるようにしている。何故って、少し待たせてやった方がコイツは喜ぶからだ。
待っている時間も楽しいらしい。俺としても、待っているコイツの姿を遠くで眺めるのは楽しい。
しかしやっぱり早く会いたいので、焦らしてやる時間は5分が限界だ。アイツとしても、もちろん俺としても。
「と」
そう、コイツは俺を好きだと言ってくれた女の子。そして、俺が好きだと言える女の子。
いつでも直球で、感情をシークタイムゼロセコンドで放出する元気の塊。それが時々珠に傷だけど、
同時にこの上ない長所でもある。むしろ珠が輝きすぎて(俺が)失明するのでコイツはこれで良し。
「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
素直ヒート。
だだだだーと助走をつけ、獲物に襲い掛かる熊の如き体勢で飛び掛ってきた俺の恋人。
俺はそんな彼女に応えるべく両手を広げ、ヒートを爽やかに抱きとめると見せかけて西はスペインの
マタドールよろしく寸前でひらりと身を躱して、ついでに足も引っ掛けておいた。
どんがらがっしゃと派手な音を立てて不法駐輪の自転車の列に突っ込んでいくヒート。
いやぁ、流石に駅前だけあって自転車が沢山止めてあるもんだ。しかも花火大会当日とあらば
なおさらといったところか。
会場となる神社、及び河川敷一帯は警備員の目も厳しい駐輪禁止区域となるので、
みんなこの駅前に止めていくというわけである。それはわかる。しかしそもそも駅前に自転車やバイクを
止めるのは禁止されており、ちゃんと駐輪所もあるのだ。なのにこのザマ。
ヒートがぶつかるから危ないっていうのに、みんなそんなに有料が嫌いか。ですよねー。
「って、酷いぞ男ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
倒れた自転車の下敷きになってしばらくぐったりしていたヒートが、がおーと両手を挙げて立ち上がる。
おお、復活した。
「復活した、じゃないッ!あそこは普通アハハウフフと抱きとめてくれるところだろう!」
「はっはっは。冗談じゃない」
「酷いぞ男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ぶわぁ、と涙腺を決壊させるヒートにカラカラと笑ってから、俺は血でだくだくと濡れたヒートの顔を拭いてやる。
「ほら、動くなよ」
「……ん、んぅ」
ぐしぐしと擦って、よし、これで綺麗になった。
ついでに頭をなでなでしてやったら、ヒートは照れたのか顔を赤くし、
うじゅぅぅ、と口をへの字にして黙ってしまった。
いつも騒がしいヒートは黙ると可愛い代名詞のような女の子だ。
俺はもちろん、いつものうるさいヒートも好きだけど。
「待ったか?」
「い、いや!待ってない!わたしも今来たところだッ!!」
「そっか。奇遇だな。俺も今来たところだ」
「ああ!……え?あ?うん……うん?」
何かがおかしいが、しかし何がおかしいのかよくわからずに首を傾げているヒート。
ヒートは基本的にバカである。テストなんかは平均点辺りをうろうろしているらしいが、
端的に言ってバカである。だがそこがいい。バカワイイともいう。
セキセイインコのように首を傾げているヒートをしばらく観察してから、
俺はきびすを返してヒートを顎で促した。
「そろそろ行こうぜ。花火にはまだ早いけど、その前に出店を色々回っておくのが日本の夏祭りってやつだ」
「むむ!そうだな!」
コクコクと頷くヒートがてててとついてくる。
―――ああ、そうだ。ひとつ、言い忘れていた。
「ヒート。浴衣、可愛いな」
「………………………………………………………」
ヒートは目をぱちくりと瞬かせ、ぼん、と顔を真っ赤にさせたかと思うと、ついには俯いてしまった。
と、思ったらプルプル震えだす。
「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」
にゃー、と両手をあげて襲い掛かってくるヒート再び。うんうん、いい笑顔だ。
どんな表情をしているヒートも可愛いけど、コイツはやっぱり笑顔が一番いい。さすが俺の惚れた女。
もちろん俺はこうなることはちゃんと予測できていたので、焦らず騒がず
ヒートの浴衣の襟を掴んで腰を落とし、帯に足を添えてそのまま突っ張らせ、投げ飛ばした。
いわゆる世に言う巴投げ。取ってて良かった通信柔道講座。ヒートはそのまま不法駐輪の
自転車の列に突っ込んでいき―――……今度は、なかなか起き上がってこなかったとさ。
めでたしめでたし。
「めでたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
あ、復活した。
ぴーひゃらしゃんしゃん。
ぴーひゃらしゃんしゃん。
陽気な祭囃子が耳に踊る、今日は楽しい夏祭り。普段はただだだっ広いだけのこの神社の境内も、
今夜だけは屋台や人でごったがえしている。
普段は人ごみなんて嫌いな俺だけど、今日この日は別だ。ずらりと並んだ屋台はたこ焼き、焼きそば、リンゴ飴。
射的にくじ引き。仮面ライダーのパチもんのようなお面が売ってあったので、ひとつ買ってヒートにくれてやる。
光る腕輪とか、プラスチックの指輪とか。一晩経ったらもう愛着はなくなっているような安っぽいアイテムが、
今夜だけはこんなにも魅力的に映るのは何故なんだろうな?
これぞ日本の風情の成せるワザってやつですか。ううん、粋だねェ。
ゆったりと流れていく、浴衣を見せっこしている友達同士っぽい女の子たち、
父親がチビを肩車しているような家族連れ、そしてお互いの綿飴を食べさせあっているアベックたち。
見た感じまっとうな根性は持っていなさそうな、鼻ピアスの男たちなんかもすれ違う。
お祭りで浮き足立っている女の子をお持ち帰りするのが目的だろうか。
清も濁も交じり合う、この感じは悪くない。ただ、同じく男二人なのに何故か手を繋いで
ぴったり寄り添って歩いていく輩を見たときはさすがにギョッとした。
深く考えるな俺。ヒートでも見て心を落ち着けろ。
「チョコバナナはおやつに入りますかー!?」
と、俺の腰にも届かないような背丈のガキどもがその小さな手に小銭を握り締めて走っていった。
不覚にも頬が緩む。ううん、ロリコンだのショタコンだのペドフィリアだの何かとうるさい昨今だが、
やはりガキがガキらしくはしゃいでいる姿はいいものだ。
「男ぉぉぉぉぉぉ!!金魚!ほら!金魚!赤ぁぁぁぁぁぁぁい!ようし今救ってやるぞぉぉぉぉぉぉぉ!
男ぉぉぉ!わたしの勇士をとく見さらせぇぇぇぇぇぇ!!」
そしてヒートも普段の二割り増しではしゃいでいる。なんだろう、同じはしゃいでいる姿なのに
なんだか微妙な笑いがこみ上げてくるような。
そしてヒート、金魚すくいの『すくい』は『救い』じゃなくて『掬い』だぞ。むしろ『巣食い』か。
金魚巣食い。なんとなく、ピラニアみたいに集団で襲いかかってくる金魚を想像した。
金魚といえど侮っては命取りというわけか。
そんなどうでもいいことを考えている間に、ヒートはどぉりゃぁぁぁぁぁ!と水槽にポイを力いっぱい突っ込んで、
うぉっしゃぁぁぁぁぁ!とこれまた力いっぱいポイを引き上げている。当然そんな動きじゃ
金魚どころかタニシだって掬えやしない。むしろ店の親父に水を跳ね飛ばして微妙な顔をされていた。
「むむぅ、魚類の分際で小癪な!よぉぉし、おっちゃん!もう一回だぁぁぁぁぁ!!」
でりゃぁぁぁ。失敗。「もう一回!」うぉらぁぁぁ。失敗。「もう一回!」
ちぇすとぉぉ。失敗。「もう一回!」どっせぇぇい。失敗。「もう一回!」
かにみそぉぉ。失敗。「もう一回!」ぼんちゅぁぁ。失敗。
「もう一回!」
「やめろバカ」
流石に見ていられなくなり、200円を突き出そうとするヒートからお金を取り上げた。
大雨の中傘も合羽もないのに某ウォルトさんのキャラクターをマスコットにした遊園地の
シーの方に行ってきた帰りみたいになってる店の親父が「やっと保護者が現れたか」みたいな顔で見上げてくる。
すんませんね。俺、基本的にコイツがバカやってるところを見るのは嫌いじゃないんで。
しかし余りに乱暴にポイを振り回す女の子を面白がってギャラリーができてしまったので、
流石に黙っているわけにもいかなくなった次第である。
いくらヒートがヒート級のバカとはいえ女の子だ。見世物になるのを良しとは思わない。
「男、気をつけろ!この魚類、エラ呼吸の割になかなかてだれだぞ!」
「安心しろ。俺は全日本金魚すくい協会のチャンピオンと同じ国籍を持つ男だ」
おぉー、とギャラリーからどよめきがあがる。表立っては言えないが、それだけではない。
俺はそのチャンピオンと同等の四肢の数を持っているのだ。人呼んで五体満足。しかしこれを公の場で言うと
怪訝な顔をされること請け合いなので人前で言ってはいけない。これが五体満足な者の暗黙のルールである。
「ニイちゃん、えらい自信ありげじゃねーか」
東○ディズニーシー帰りから復活した捻り鉢巻の親父がニヤリと笑う。覗く金歯がいやらしい。
俺は(ヒートから奪った)二百円を無言で渡した。そんな俺の様子に、店の親父がピクリと太い眉毛を動かした。
親父も悟ったらしい。この俺が、ただの金魚すくいラーではないことを。
「………………………」
俺はポイを水につけると、そのまま動きを止めた。これは金魚すくいのコツである。
水面から金魚を追いかけるなんてヒートのやることだ。金魚はすばやい。
追いかけても無駄にポイに負担をかけるだけだ。ならばどうするか?
諸君はワニガメをご存知だろうか。彼らはすばやい魚を巧みに捕えて餌としている。鈍重な亀が、だ。
その秘訣はズバリ追いかけないこと。届かない相手を追うことのなんと不毛なことか。
彼らは岩陰にじっと動かず、待って、待って、鼻先に魚が泳いできたときだけ神速で動いて捕えるのである。
動かないものは岩と同じ。金魚すくいでも同じだ。金魚がポイの上を通過したとき、初めて機会は訪れる。
音もなくポイが滑る。水面に向かって斜め45度。修正、40度。金魚が気付く。翻る朱。
無駄だ、魚類。貴様の逃走ルートは既に見えている―――!!
―――――――――ッッッ!!
「………まずは一匹」
ポイを高く掲げ、俺は呟いた。素人目には何が起きたのかわからなかったろう。一瞬の間を置いて、
金魚がお椀の中に落ちてくる。ギャラリーから歓声があがり、屋台の親父が驚愕に目を見開く。
「す、すごいぞ男ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
抱きついてくるヒート。しかし俺はそれを手で制し、静かに首を振った。
近づくな、ヒート。ここは戦場だ。だが安心しろ。堪え性のないお前にいつまでも黙っていろとは言わない。
俺は人差し指を立て、そっとヒートの唇にあてた。
「―――3分。それで全てを終わらせる」
「ま、まさか坊主、十年前金魚すくいという金魚すくいを荒らしまわった、あの伝説の―――!!?」
屋台の親父が何か言っている。懐かしい限りだ。十年も前。昔の話さ。
あの時の俺はまだケツの青いヒヨッコだった。っていうか実際まだ小学生だったし。
屋台の親父よ。余計なことは言ってくれるな。今、その話を語る言葉はいらない。
ただ―――ポイを握る、封印したはずのこの右手がやたらに疼く。
そう。
俺はしゅるるるる、と乾いた藁束転がる西部のガンマンの如くポイを回し、逆手に構えて両手をクロスさせた。
今宵のポイは金魚に飢えている――――――。
るんたったーるんたったー。
そんな擬音が聞こえてくる程、ヒートはご機嫌だった。
あのあと、水槽から金魚が消えうせるまで3分はかからなかった。
どうも俺はあの金魚たちを高く評価しすぎていたらしい。俺の目も曇ったものだ。
ギャラリーはスタンディングオベーションだったが屋台の親父は半泣きだったので獲った金魚は全て水槽に戻し、
適当に小さいのを選んでヒートに持たせた。金魚一匹であれほど機嫌よくなれるなんてヒートくらいなものだろう。
やはりヒートはヒートらしい。しかし、そのヒートらしさを俺は気に入っている。
「フランクフルトUMEEEEEEEEEEEEEE!!」
テンションが上がりきっているヒート。どうでもいいが食ってる間に叫ぶな。
咀嚼途中のなんやかんやが飛んで迷惑になるだろう。
そういえば、女の子がアイスなど何か棒状のモノを食べているとその光景を
妙にエロティックに感じることがあるが、ヒートに限って言えばその法則はまったく当てはまらない。
想像してみて欲しい。可愛い女の子がその可愛らしい唇を開けてフランクフルトを咥え、
ぷつりと噛み切って舌の上でねっとりと転がしながら溢れてくる唾液と絡めるように咀嚼。
垂れてきたひと房の髪の毛をかきあげ、唇についたケチャップを小さく出した舌で舐め取る。
この一連の動作が口淫を連想させ、何やら男性のいけない妄想に火をつけるのだ。
ちなみに、ケチャップは舐め取っても唇の端にまだ少し残ってしまっているのが定石である。
そのことで妖艶さの中にも幼さ、あどけなさ、すなわち転じて『隙』を作ることができ、
男の庇護欲を煽ることが可能となる。
がつがつもぐもぐむしゃむしゃゴクン!!
……まぁそこまでやれとは言わないが、しかしヒートの食事はエロティックというかワイルドのそれだ。
食欲は湧いても性欲は湧かない。
「男、男!フランクフルトもう一本買って!もう一本!」
「ダメ。一度のお祭りにつき同じメニューは一回まで。これが鉄則だ」
そしてフランクフルトの棒はちゃんと屋台の隣に設置されてあるゴミ箱に捨てましょう。これ常識。
「男ぉぉぉぉ……」
「そんな顔すんな。まだゆっくりできるんだ。そんなに飛ばしてたら持たなくなっちゃうぞ?」
ぐしぐしと頭を撫でてやると、ヒートはフランクフルト屋の屋台を未練がましく横目で見た後、こくんと頷いた。
うんうん。聞き分けのいいヒートはいいヒートだ。
「そ、そうかっ!?うん、わたしはいいヒートだ!」
にぱっと笑う。覗く八重歯が眩しい。嬉しそうないつものヒートなんだけど、浴衣姿で髪も後ろで上げて、
屋台の提灯に照らされたその笑顔はいつもとは違って見えた。
不覚にもドキリとして、俺は思わずぷいと顔を逸らした。
「男、どうした?」
ヒートの方はいたってナチュラルなのでキョトンとしている。
くそぅ、ヒートめ。こんな攻撃は卑怯である。素直ヒートはいつでもどこでも直情一直線、
裏表のないメビウスの輪のようなコイツだからこそできる笑顔だった。
「おーとーこー、どーしたー?」
ぐいぐいと俺の袖を引っ張る。伸びる。伸びるからやめなさい。
それから、
「ケチャップ、ついてるぞ」
「え、どこにだ?」
反射的に頬を触るヒートの肩をそっと掴んで抱き寄せる。
目を丸くしているヒートに顔を近づけて、―――ひと舐め。
「………ここ」
唇を離す。これで復讐は済んだ。この俺サマを不覚にもときめかせた罰である。
しかし……往来の真ん中でこんなことを仕出かすなんて、お祭りというシチュエーションが俺の判断能力を
大幅に奪っているようだ。テンションのままに生きるなんてヒートのやること。気をつけないといけないな。
なんて考えているのは、もちろん俺も恥ずかしいからである。
ヒートは目を真ん丸く見開いて、頬を押さえたままかーっ、と茹蛸のように真っ赤になり、
「――――――ン」
その唇を、そのまま俺の唇と重ねてきた。
「………………………………………」
完全に硬直する俺。ヒートはニカッとはにかむとイタズラ娘のように舌を出した。
「カウンターだ!」
それカウンター違う。どえらいコークスクリューを貰ってしまった。
一撃KO。ヒート、恐ろしい子!
俺はとりあえず、そのままヒートをぎゅう、と抱きしめることにした。
「………はぇ?お、男……?」
俺の腕の中で、ヒートがふるふると震える。ヒートの身体は熱い。普通より平均体温が高いのだ。
なるほど、こんな年中カッカしてたら動き回りたくもなるよなぁ―――と、熱いのは俺の方かな。まぁいいや。
「ヒート。ちょっと来い」
「え、あ?男?どこへ」
「……人目につかないところ」
つないだその手が一瞬だけびくっ、と震え、そして柔らかく握り返していた感触を俺は感じていた。
――――――りりり、りりり、りりり……。
――――――ちゅ、ちゅく、ぷは、ちゅくっ。
どこかで虫の声が聞こえる。しかしそれよりも、心臓の音やお互いがお互いの唾液を啜りあう音の方が
何倍も大きく聞こえてくる。
神社の裏手。敷地からも外れているであろう林の中で、俺とヒートは口付けを交わしていた。
少し離れただけで祭りの喧騒は遥かに遠くなる。賑わいがこんなにもひとところに凝縮されているのが
驚くべきことだろう。それが、俺たちにとっては都合がいい。
初めは重ねるだけの幼いキス。それが首筋まで濡らすような激しいものになるまで時間はかからなかった。
舌でヒートの唇を舐めると、ヒートもそれに応えて舌を出してくる。お互いの舌を絡め、
分泌される濃厚な唾液を掬いとる。口の中で俺とヒートの粘液が混ざり合う。その事実にぞくぞくとした快感を
覚える。舌を積極的に動かしてヒートの口内を愛撫する。口蓋、柔らかな頬の裏、歯の一本一本を
確かめるように蠢かせ、味蕾のひとつひとつを使ってヒートを味わう。
さっき食べていたフランクフルトの風味が生々しい。
ヒートの呼吸が荒くなっていくのがわかる。
「―――ぷは」
唇を離してやると、ヒートが大きく息をついた。長いキスで苦しかったのか。しかしその目は切なそうに細められ、
頬は上気して口元から雫が垂れているのも構わない。ヒートはキスに弱い。触れるだけのキスでも
すぐに大人しくなってしまうし、こういう求め合うようなキスをすれば―――すぐに、高ぶってしまうのだ。
「………男ぉ」
「ヒート。綺麗だ」
耳元で囁き、そのまま甘噛みする。ひぅ、と喉の奥から吐息とも嬌声ともつかない声を漏らすヒートの背中に
手を回し、もう片手は胸元にやって、浴衣の上から優しく触る。どっ、どっ、どっ、とヒートの激しい鼓動が
掌に感じるようだった。ヒートの身体は細い。と、いうより引き締まっているといった方が正しいか。
無駄な肉の一切ない、そのくせ女性的な柔らかさを持っているから驚きだ。その肢体はきめ細やかで、
しみひとつないまっさらなもの。俺たちはもう何度も肌を重ねている間柄なのだけど、
ヒートの裸を見るたびにくらくらしてしまう。きっと、慣れることはないんだろうなと思う。
「男、男ぉ……。キス、してぇ………」
「ああ―――ん、ふ、ちゅ……」
外であることも考えて、流石に剥くような真似はできないが―――俺はキスをしながら
浴衣の裾から手を入れると、むにゅむにゅと捏ねてヒートの胸の感触を楽しんだ。
サイズ自体は、ヒートのそれはそんなに大きくはない。俺の手ですっぽりと包み込めるくらいだ。
しかし信じられないのはその柔らかさである。本当、女の子の身体って不思議なものだ。
温かくて、柔らかくて、まったくなんてものをぶらさげているんだ。お前はっ!
「あ、やぁ……男ぉ、男ぉ……」
うにうにと胸をいじめてやると、ヒートは唇を離して潤んだ瞳で俺を見上げた。
その声の意味するところはわかっている。ヒートは、さすが素直ヒートというべきか、快楽にとても素直だ。
感じやすい、ともいう。なんせ初めてした時から―――と、この話は別にいいか。
「わた、わたしぃ……」
「わかってる」
俺は既に細かく震えているヒートの太ももをゆっくりとなぞり上げるように、その部分に触れた。
「あっ」
ヒートがぴくん、と反応する。そこは、まだ愛撫をしていなのにも関わらず―――ちゅく、と
水音を立てるほどになっていた。ショーツがぐっしょりと、汗とそれ以外の液体によって濡れている。
さらになぞり上げるとヒートはきゃう、と高い嬌声をあげた。これ以上弄ると達してしまう、か。
湿り気は十二分。俺のほうもそうそう、我慢強い方じゃあないし。
「ヒート。―――するぞ」
「うん……うんっ……!」
こくこくと頷くヒートを確認して、俺はジーンズの中で痛いほどに硬くなっていたペニスを引っ張り出した。
あまりにガッチガチになっていたので少し苦労する。途中ファスナーの金具が当たって痛かったりもしたが、
なんとかスムーズと言えるペースで怒張を開放してやれる。高く聳え立つ俺の素直ヒートを見て、
ヒートはほぅ、と熱を帯びた溜め息をついた。
「木に手、ついて―――後ろ、向いて」
俺の指示に従って、ヒートが言うとおりにする。指示が箇条書き調になってしまうのは
俺も余り余裕がないからだ。
入りたい。
ヒートの中に。
柔肉を掻き分け、淫汁を撒き散らし。
腰を何度も何度も、叩きつけて。
悲鳴をあげるヒートの乳房を貪り吸い付く。
それはきっと、獲物の喉に喰らいつく肉食獣のような性欲だ。
自分の中でもとびきり凶暴な欲望を、
「男―――きて、くれ……」
ヒートは、受け止めてくれる。
弾け飛びそうなほどに腫れ上がったペニスをヒートのその部分に押し当て、腰を進めていく。
くにゅうぅ、とトロトロに蜜の溢れるヒートのそこは、蕩けそうなほどに柔らかく俺を受け入れていく。
「くぅ、ン……ンん……」
押し殺したようなヒートの声。ヒートの膣内は熱く、ざわざわと蠢いて挿れただけで腰が抜けそうになる。
ヒートの細い腰に手を添え、ゆっくりと引き抜いていく。ヒートの膣が受け入れた俺の怒張を逃がすまいと
ひだを総動員して収縮する。ねっとりとした愛液でペニスが濡れているのがわかる。
半分ほど出して、俺はまた腰を進め、ヒートの蜜壷に肉棒を差し込んだ。
初めはゆっくりと。段々と、その速度を速めて。
「~~ッ!ぅ、あ、~~……ッ!!」
ぱぢゅん、ぱちゅん、とヒートのお尻に腰を打ちつけるたび、肉と肉がぶつかりあうだけではない淫音が響く。
ヒートの汁が飛び散っているのだ。そのリズムに合わせて、ヒートの声が―――聞こえない。
「ヒート、声、我慢してる?」
動きながら聞いてみる。ヒートは肩越しに真っ赤な顔を向け、返事もできないのかコクコクと頷いた。
まぁ、そうする気持ちもわからなくもない。人気がない林の中とはいえ絶海の無人島にいるわけじゃなし、
大きな声を出せば何事かと警備の人間がやってくるかも知れない。
――――――だが。
普段喧しいヒートが声を出すのを我慢するというのもおかしな話。俺は茹で上がった頭でニヤリと笑い、
ふりふりと揺れるヒートのお尻に掛かっていた浴衣をさらに捲り上げ、
可愛らしい『後ろ』につぷり、と指を差し込んだ。
「~~~~~~ぁッッ!?」
びくん、と大きくヒートが仰け反り、ぎゅぅっ、と膣内が締め上げられる。
おお、ヒートは『コッチ』でも反応できるらしい。いやいや、ヤってみるものである。
「おとっ、男っ、な―――なに、をっ」
聞く耳持たず。差し込んだ指をぐりぐりと動かしてみる。
「~~~~ッ!~~……!!ひ、~~っ!!」
ぱんぱん、と腰を打ちつけながら同時にお尻を愛撫するのはなかなかに難しいが、
腰の動きに合わせて指を出し入れするコツを掴んでみたり。ヒートはがくがくと痙攣している。
頭に火花が散っている状態だ。声を堪える余裕もない。が、既に満足に声を出せる状態でもないのか。
「あっ、あっ、はぁっ、男っ、も―――、できな―――」
きゅう、と唇を噛み締めようとするヒートの口に指を差し込んで邪魔をする。
ヒートが泣き顔を向ける。俺はもちろんとびっきりの悪意を笑顔に込めて、ぐい、と『両方』の力を込めた。
「ん、んん、ん、」
そしてぱっとタイミングよく口内に入れていた指を外してやり、
同時にヒートの一番奥でどくん、と勢い良くスペルマを放出する。
「あ、あぁぁ、あぁぁぁぁぁ――――――――――――ッッッ!!!!」
口を塞ぐものもなく、緩みきった唇を噛み締めることもできず。
ヒートは大きく背筋を反らし、ついに絶頂と共に高く、はしたない声をあげた。
~~~~る、ひゅるるる……
どーん……
「酷いぞ男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ぶわぁっ、と目に一杯の涙を溜めながら吼えるヒート。しばらく絶頂の余韻でくったりしていたが、
もう大丈夫らしい。うんうん、ヒートは元気だなぁ。
ヒートは乱れた浴衣を器用に直しながら、うがー、と牙を剥いた。
「元気だなぁ、じゃないッ!こんな、こんな……外でッ!お尻にッ!
声も堪えさせてくれないなんて……なんてっ!!」
「いや、だってなんかヒートが声堪えようとしてるのってムカつくんだもん」
「ムカつくとか言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ほら。それそれ。それがないとヒートっぽくない」
俺はあっはっはと陽気に笑ってたっぷりとヒートに睨みつけられたあと、
「―――まぁ、本当はお前を苛めると可愛いからなんだけどな」
と、本音を言ってやった。ヒートがう、と固まる。
可愛いと言われるのは嬉しいけど、でも苛められるのはあんまり嬉しくない。
そんな顔だ。本当、ヒートは素直である。
「うー……」
悔しそうにしているヒートの頭をぽむぽむと撫でて、
「しかし、花火、始まっちまったなぁ。これから移動しても場所なんかないぞ、きっと」
頭を掻く。情事のあとで人ごみに紛れるような気は流石にしない。さっきまで屋台で食事をしたり
ゲームをしたりしていた人たちもみんな集まっているのだ。会場はごったがえしていることだろう。
………ま、いいか。ここで。
「ここ?しかし、男」
ああ、ヒートの言いたいこともまぁわかる。林の中だ。お世辞にも眺めがいいとは言えないだろう。
でもなぁ、ヒート。そんなことはどうでもいいんだ。
「折角二人っきりなんだ。俺は、ヒートと一緒にいられれば、それで」
どーん、とヒートの赤面が花火に照らされる。俺の方はどうだろうか。
やっぱり、赤く照らされているのかな?いるんだろうなぁ。
「お、おと、男……」
ヒートがぷるぷる震えている。この感じ。マジで飛び掛ってくる五秒前。
また花火があがる。くわっ、と両手をあげようとするヒートのタイミングを外すように、俺は叫んだ。
「たーまやーーー!!」
ほら、ヒート。ヒートも一緒に。
「え、あ?」
「たーまやー!」
「た、たーまやー!」
ひゅるるる……どーん、ぱらぱら……。
夜空に乱れ咲く大輪の花。
「男ー!好きだぁぁぁぁぁぁ!!」
それはあたかも、素直でヒートなコイツのようで。
「俺はそれほどでもー!」
「酷いぞ男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
がっくんがっくんと揺さぶられながら、俺は楽しくて大声で笑った。
ヒート。大好きだ。
オマツリヒート~「新ジャンル達がお祭りに来たようです」妖艶伝~ 完
最終更新:2009年01月24日 02:45