ペンキの缶にハケを突っ込んで、ぺたり。
大きな書き割りに描き込まれた背景に色を付けていく。細かな部分は、面倒なので塗りつぶしてしまう。
べたべたとぞんざいにハケを動かしている少年からはどうにもやる気というものが感じられない。
それもそうだろう。今日は休日。本来なら夏休みの間にすっかり夜型になった生活リズムのままに
昼間まで寝こけていられるはずなのだ。『いいとも』が終わった辺りでやっと(暑さで)目が覚めるはずなのだ。
なのに、わざわざ登校させられたあげくジャージに着替えて文化祭の準備である。
クソ面倒くさい。そりゃあ、さっさと終わらせて早く帰りたいというものだろう。
「ちょっとぉ、ジンくん。適当に塗らないでってば」
と、いうのに。
このクラスメイトは鉛筆を片手にぷんすか、と怒るのだった。
ジンくん、と呼ばれた少年、椎 甚兵衛(しい じんべえ)は恨みがましい半目で
甚兵衛を咎めたクラスメイトの少女を逆に睨み上げる。
「む、何やら非難の眼差し。なんなのよー。あたしはちゃんと描いてるじゃん」
……この少女が悪いのだ。サボる気マンマンだった甚兵衛の家に襲撃し、黙っておいたのに
文化祭の準備があるとバラされ、母親に叩き起こされて首根っこ掴まれて引き摺られるように連行された。
ご苦労様なことである。同じアパートにあるとはいえこいつの家は甚兵衛の家がある棟から
三つも離れているというのに。しかも駅とは逆方向に、だ。
付き合いはこいつが引っ越してきた中学一年の夏からだから昔からの知り合いというには
微妙だが、何故か甚兵衛の幼馴染み兼世話係を主張するのがこの少女である。
しかも。
「沖野」
甚兵衛はだるそうな態度を隠そうともせず、
クラスメイトたる沖野 千香(おきの ちか)に大きく溜め息をついてみせた。
そうして、ハケを持ったまま手を広げてみせる。その背後にはがらんとした教室。
机は端に片付けてしまっているので余計に広く感じる。
「他の連中はどうしたんだよ」
「………………………」
千香が目を逸らす。
教室に二人。無論、この大きな書き割りを初めからたった二人で仕上げろという話ではなかったはずだ。
他にもちゃんと裏方のメンバーがいて、グループ分けされた書き割り班の中の二人だったはず。
それなのに、集まってみたらこのザマである。これではやる気を出せという方がおかしい。
「携帯は」
「メールは送ったよ。今、返事待ち」
「……いつ送った?」
「一時間くらい前になるかなぁ?」
黒板の上に掛かっている時計を見ながら千香が言う。
甚兵衛は確信した。返事は来ない。
返事は来ないって言うか他の連中は来ない。
「うだー」
「うだーってなんないでよ。せっかく学校までは来たんだからさ、もうやっていっちゃおうよ」
「そりゃあうだーってなるだろ。帰ろうぜ。こんなん二人でやったって働き損だろ」
寝っ転がりながらストレッチをするかのように身を捩る。
……と、その拍子に千香のスカートの中が見えそうになった。そうして、はっとなる。
千香はまだ気付いていないようだが、甚兵衛は慌てて目を逸らして身を起こした。
「どしたの?」
だらけモードとは思えない機敏な動きに、千香が目を瞬かせた。
甚兵衛は少しだけ頬を赤く染めて、しかし直接には答えない。
「……お前もジャージに着替えろよ。俺、ペンキ使ってるんだから」
「うん?でも、先に下書き描いちゃうからいいよ。ジャージに着替えるのは、そのあとで」
「………………………」
甚兵衛は何かを言おうとして、何を言っていいかわからず、もにゅもにゅと口を動かすに留まった。
ちらり、と下書きを再開する千香の、スカートの裾に目をやる。
甚兵衛も今まで気付かなかったし、千香に至ってはまだ気付いていないようだが。
………もしかしてずっと『そう』だったのか。家を出て、教室に来るまでずっと?子供じゃあるまいし。
スカートからイワシがはみ出てる。
鮮度が良さそうなのがまだ事態を軽くしているが、しかしこの歳にもなってスカートからイワシが
はみ出しているってどうなんだろう。お巡りさんに見つかったら、ヘタをすれば痴女扱いされて
署までご同行お願いします、だ。っていうかイワシって。マグロまでは流石に行かずとも、
普通サンマくらいのお洒落はしているもんじゃないのか?
甚兵衛には最近の流行なんてわからないから勝手なイメージで考えていると、
千香が脚を動かしてスカートが捲くれ上がり、イワシの銀色の鱗が丸出しになった。
見ちゃだめだ。しかし目を逸らすどころではない。甚兵衛も思春期真っ盛りの男なのである。
気心の知れたクラスメイトの異性と二人っきり、こんなシチュエーションで意識しないわけは―――。
………二人っきり。
甚兵衛はどきりとした。
教室には甚兵衛と千香の二人だけ。
隣近所の教室にも誰もいないのか、物音は聞こえない。遠くから運動部が部活動している掛け声らしいものが
響いているだけだ。それがかえって、この空間が他といかに隔離されているのかを表していた。
「………………………」
それが、今さらながらどんなにとんでもない状況なのかを思い知った。千香の様子を伺ってみる。
靴下まで脱いでしまって、すっかり晒されている脚。ふくらはぎ。太もも。
スカートの裾から覗いているイワシ。虚空を見つめるその瞳と目があう。水槽に放り込めば、そのまま
泳いでいきそうな活き活きとしたイワシだ。零細スーパーでパックされているようなそれとは鮮度が違う。
自然、ごくり、と喉が鳴った。
華奢ながら女の子らしい柔らかなラインを描く胸元。薄い夏服にうっすらと透けて見える青い下着。
イワシといい、ブラといい、どこまで無防備なんだこの娘は。
と、甚兵衛は視線を上げていって、千香の顔が赤くなっていることに気付いた。
集中して下書きの鉛筆を動かしているようでいて、その実大して作業は進んでいるようにも見えない。
首筋にまでしっとりと汗をかいて―――その表情は固く、緊張しているのがありありと見て取れた。
「沖野」
声を掛けてみると、千香はびくっ、と肩を大きく震わせた。
「……な、何カナ?」
「お前、わざと見せてない?イワシ」
「……………………………………」
千香の顔が耳まで赤く染まる。その反応で十二分。
甚兵衛は心の中で溜め息をついた。なんだろう、ドキドキしていた自分がバカみたいに思える。
からかうんなら、もっと上手くやれっていうんだ。
「………なんのつもりか知らないけど。俺も一応、男だから。勘違いするだろ。やめた方がいいぞ、そういうの」
ぺたぺたとペンキを塗る作業を再開する。
鼓動が速い。何言ってるんだ俺、という後悔とそういえば何で沖野のヤツは、という疑問が
ないまぜになってぐるぐる回っていた。そして、それを考えないようにハケを動かすことに没頭する。
教室に、二人。
遠くから運動部の掛け声が聞こえる。
「……わざと見せてるよ」
千香が何か言った。
「え」
「イワシ。わざと見せてるって言ったよ」
千香は顔を伏せたまま、続けた。
表情は見えないけど、なにやら怒っているような気がする。
「……なんでだよ」
「わかってるくせにさ」
「からかってるのか」
「……それ、本気で言ってる?」
千香は鉛筆を置くと、四つん這いのままずいっと甚兵衛に迫ってきた。
拗ねたような、怒っているような表情のまま。そのただならぬ迫力に、甚兵衛は思わず身を引いた。
「………………………」
「………………………」
そして、しばらく見つめあう。と、いうより、一方が睨みつけ、一方は目を逸らせないでいる。
無論前者は千香で後者は甚兵衛だ。夏の終わり。あまり暑くもない教室だが
自然と汗がこめかみを伝うのがわかった。喉が、渇く。
「あたし、ジンくんのこと、好きなんだけど」
そうして、千香はそう言った。
「―――――――――………」
さぁ、と開け放たれたままの窓から涼しげな風が入り込み、カーテンをふわりと泳がせる。
甚兵衛は、―――なんと答えていいかわからない。いや、それ以前に、
千香の言葉が脳みそに届くまでにえらい時間がかかっていた。目を瞬かせる。
「……種明かしするとね。昨日、みんなにメールして来ないでいいよって言ったんだ。あたしとジンくんだけで
仕事、するからって。だからみんな来ないの。みんな、あたしがジンくんのこと好きだって知ってるから。
イワシを見せて誘惑しろってアドバイス貰ったから、恥ずかしかったけどちゃんと新鮮なイワシも
選んできたし―――。……それくらい、あたしはジンくんのことが好きなんだよ」
言っている意味は、わかる。
お気に入りの魚を使って異性の気を引くというのはその手の小説や漫画では別に珍しくはない展開だ。
現代社会の乱れた性というお題目で何度かニュースにもなっているのもちらりと横目では見ていたりする。
しかし、それをまさか自分が、しかも千香からされるとは―――そこが信じられず、甚兵衛は何も言えずにいた。
固まってしまった甚兵衛を不服と見たか、千香はぐい、と顔を近づけ、甚兵衛の唇に自分のそれを合わせた。
ちゅ、という軽い音と、柔らかな感触がした。
キスされたのだ。
「なッ……!?」
そのショックで硬直が解け、一気にズザザザザと後ずさる。
と、同時に脳みその硬直も解けたのか、甚兵衛はわたわたと手を振り回して
「ま、待て待て待て待て!沖野落ち着け!い、いいいいきなりそんなこと言われてもだな!心の準備ってものが!」
「―――ジンくんは、あたしのこと、嫌い?」
「きっ、嫌いでは………ない。その」
そう、嫌いではない。どちらかといえば好きな方だ。ただ、そんなことを考えたことはなかったから。
甚兵衛は早鐘のように鳴る心臓をなだめ、深呼吸をして、
「だったら、もっと好きになってもらえるように―――がんばる」
「ゴぶっ!?」
圧し掛かってくる千香の柔らかな感触にむせ込んだ。
詰みだ。後ろには机が並んでいて、もう下がれない。いや、相手は女の子なのだから押しのけようとすれば
いくらでもそうできるが………すがりついてくるような重みとほのかに香るイワシの匂いが
甚兵衛からすっかり抵抗する気力を奪ってしまっている。もし立ち上がっていたとしても、
腰から力が抜けてへなへなとへたり込んでいただろう。それほどに千香の身体は柔らかく、
信じられないほどに女の子のそれだった。知り合った当時からすれば色々と育っているのは知っていたが
こんなに柔らかいということは知らなかった。こんなにいい匂いがするということは知らなかった。
こんなに熱く、どくどくと脈打っているものだということは知らなかった。
「―――お、きの……」
「千香、って呼んでくれたら……嬉しいな」
千香は切なそうに目を細めると、ちゅ、とまたキスをした。
技術など何もない、ただ重ねるだけの、したいからするだけのキス。
鳥がついばむようなそれを何度も繰り返しながら、千香は甚兵衛の手を取って自分の胸に押し付けた。
びくり、と甚兵衛は大きく震える。初めて触る女の子の乳房は服の上から
手を置いただけでも十分にその感触が伝わるほどに柔らかかった。
耳元で千香が大きく息をつく。その熱量に甚兵衛の理性が溶かされ、脳みそが沸騰する。
―――据え膳喰わぬは武士の恥、っていうよな―――。
「沖野……いや、千香」
甚兵衛は千香の制服の中に手を入れると、直接胸を触れた。ブラだろう、制服とは別の感触もしたが
それも強引に押し上げてしまう。きめ細やかな肌が直に手のひらに伝わり、改めてその心地よさにくらくらする。
柔らかな中に硬い突起がアクセントとなって存在を主張している。乳首だ。親指の腹でこりこりと愛撫してやると、
千香は恥ずかしそうに身を捩り、鳴いた。
その声を良しと取った甚兵衛は千香の制服と下着を捲り上げ、
現れたしみひとつない真っ白な双丘に舌を這わせる。
「ジン……くんっ、は、恥ずかしいよぅ……」
「千香が誘ってきたんだろ」
千香の抗議も聞く耳を持たない。そうだ。だって、千香が悪いのだから。
甚兵衛は舌で千香の乳首を転がしながら、千香のショーツの中に手を伸ばす。
「あっ、ジンくん!だ、だめだよぅ!」
何を今さら。
千香は弱々しい力で甚兵衛の手を抑えようとしたがそれは抵抗の意味にならず、あっさりと侵入を許してしまう。
千香のショーツは、はたして、まだ触ってもいないのにぐっしょりと濡れているのだった。
甚兵衛は千香の胸から唇を離すと、意地悪く笑ってみせる。
「千香、なんだかすげぇ濡れてるみたいだけど?」
「……そ、それは……違うもん。イワシだもん」
何言ってるんだ、この娘は。
「イワシなのか」
甚兵衛はひょいと千香の身体を持ち上げると、向きを返して自分の足の間に座らせた。
向かい合う体勢だった位置関係が変わり、甚兵衛が千香を抱える形になる。
そしてそれは、甚兵衛が千香を一方的にやっつけるスタンスに違いなかった。
「あ、ジンくんそれ……!」
「気にするなよ。イワシなんだろ?」
甚兵衛はそう言い、スカートの中からイワシを取り上げると千香の濡れそぼった部分にぴたり、と貼り付けた。
「ひっ!?」
そして縦筋に合わせて擦り上げる。重さが変わるほどにぐっしょりと濡れたショーツは
イワシの刺激をダイレクトにその部分に伝えてしまう。
特に取っ掛かりとなるエラやヒレはそれまでに類するもののない感覚で、
千香の快楽を一気に押し上げる。
「ジンくっ……!それ、や、ぁあっ!!」
「大丈夫、大丈夫。イワシなんだから」
「い、意味わかんないよぉ……っ!?」
千香の弱々しい抗議も聞こえないふり。意味がわからないというなら、
甚兵衛だってイワシで愛撫するなんてまったく意味がわからない行為だと言うだろう。
ただ、誰も他にいないとはいえ普段学友とだべったり居眠りしたりしている教室で。
ずっと友達だと思っていた少女に告白され、キスされて、あげくの果てにはこんなあられもない姿を
晒されている今のこの状況が、脳みそのどこかにある物事を判断する部分をすっかり焼き切らせているだけの話。
甚兵衛はイワシを縦から横に持ち換えると、その口をくちゅくちゅと千香の秘部に押し当てた。
「ひぁああっ!?そこ、ダメぇ!」
それはさながら海を泳ぎまわり、餌を食む記憶が甦ったかのように。
甚兵衛の手で操られたイワシは千香の最も敏感な突起をついばみ、その度に泉からとぷとぷと愛液が溢れていく。
「ひぁっ、ひぁっ、ひぁあ、あ」
千香の声が一際高く、切ないものになる。その変化に甚兵衛はイワシを動かしながら、
「千香、もしかしてイキそうなのか?」
「そんなっ、ことっ!聞いちゃ、やだ……ぁ!」
真っ赤な顔で首を振る千香。図星らしい。
甚兵衛は、ずっと『友達』でいた女の子が自分の前であられもない姿を晒しているばかりか、
自分の手で果てようとしているその現実にすっかりヒートアップしてしまっている。
千香の声が、千香の淫音が。イワシを動かす甚兵衛の手つきをさらに大胆に、加速させるのだ。
横ならば口淫、縦ならば手淫。千香は甚兵衛が操るイワシに翻弄され、高められていく。
そしてイワシの口が完全に千香の秘部に埋もれ、そしてさらにぐりっ、と捻り込たとき。
「ジ、ン……く、ぁ、ぁ、ああ、ひぁ、ひぁぁ、ひ、ぁぁぁぁあああああああああっっっ!!!?」
千香の快楽の防壁はとうとう砕け、脚をピン、と伸ばして絶頂に達したのだった。
「―――――――――ぁ、」
おとがいを反らせてふるふると震え、
「―――は、ぁ……はぁ、はぁ、はぁ……………はぁ――――――」
くたり、とまるで糸が切れたかのように力尽きて甚兵衛の腕の中に沈み込んだ。
それで、思考回路が麻痺していた甚兵衛も我に返ってはっとなる。
「や、やりすぎちまった……か?千香。おい、千香」
腕の中でくったりしている千香は熱に浮かされているようで、
だから千香が薄目を開けて潤んだ瞳でこちらを見つめ返してきたとき、甚兵衛はほっと息をついた。
「ああ、よかった。悪い、少し調子に―――ん!?」
しかし、謝罪の言葉は途中で遮られる。千香が首を伸ばして、自らの口で甚兵衛の唇を塞いだのだ。
キスである。しかし先程の触れるだけのそれではない。千香の舌が甚兵衛の口内に侵入し、
うねうねと蠢いて唾液を絡め取っていく。
上手いか下手かで言えば、お世辞にもそれは達者な類には入らないだろう。
だが本能のままに、味覚でさえ相手を感じるのだと言わんばかりに貪られては技術も何もない。
「……ん、んむ、ちゅ、づ、るるっ………ちゅ、ぅっ………」
「ふ、ん……ンん……う、ン……ちゅ、ちゅぷ、ぢゅぅぅ……っ」
千香の唾液を流し込まれ、また千香に唾液を啜られて、甚兵衛の醒めかかった頭が再び沸騰する。
千香は唇を離し、大きく息をつくと、唇の端から垂れる涎もそのままにぐい、と甚兵衛を押し倒した。
「………ジンくん、すごく、おっきくなってる」
甘えるように甚兵衛の頬をぺろぺろと舐めながら、空いた手で甚兵衛の膨らんだ股間をさわり、と触る。
そりゃあそうだ。千香のむせ返るような雌の色香に当てられて、
甚兵衛のペニスはもうはちきれんばかりになっている。
ある意味、ジャージでよかった。これで着替えずにスラックスのままだったなら、
甚兵衛は内側から膨れ上がる痛みに悶絶していただろうから。
「千香。身体、大丈夫だったら……その、俺」
―――千香の中に、入りたい。
「……うん」
そう言うと千香は目を細めてこっくりと頷いた。
千香も、それを望んでいたというように。
ジャージとトランクスを一緒に下ろす。
抑圧から完全に解放された甚兵衛の怒張はぎん、と硬く硬くそそり立っていた。
そのあまりの猛々しさに、千香も怯んだかこくり、と喉を鳴らす。しかし千香は何も言わず、
クッション代わりの制服の上に座り込んだ甚兵衛に向かい合い、その上に跨った。
「……千香」
千香が少しだけ怖気づいたのは甚兵衛にもわかる。
だが、それでも千香は甚兵衛を受け入れようとしてくれていた。
なら、男がここで無粋なことを言うもんじゃない。そんな男前なことを
甚兵衛が考えていたわけではないが―――それを思考に浮かべずとも悟ったのか。
甚兵衛は千香の名を呼び、触れるだけのキスをした。
「ジンくん……」
唇が離されると、千香は勇気を分けてもらうかのように今度は自分からキスをし、
そしてゆっくりと腰を下ろしていった。
つ。
一度絶頂に達するほどに充分に濡らしたとはいえ、
初めてオトコを受け入れることになる千香のそこは小さく、狭い。
『入り口』への角度は、それでいい。亀頭は既に膣口にあてがわれている。
そのまま腰を下ろしていけば、男女の身体の構造上『入る』はず。
千香はそう信じて腰を沈めていく。
………けれど、それは甚兵衛の体感からすれば気がどうにかしてしまうほどにゆっくりと、
緩慢でぎこちない動きに他ならないものだった。
貫きたい。
千香の、女の子の柔肌を思うさま蹂躙したい。
腰骨から脊髄を伝って脳みその奥に響く、その欲求を。
甚兵衛は奥歯を噛み締めて堪えている。
そも、挿入という一大行為を千香に任せようと思ったのは、自分では理性が振り切れて
乱暴にしてしまうからである。さっきのイワシの二の舞いになるのは駄目だ。
ここはなんとしても自分を抑えきって―――少なくとも、千香の膣内に全部収まって、
彼女が落ち着くまでは―――我慢しなければならない。
しかし、この調子では焦らされすぎて気が変になりそうだ。
甚兵衛はぎゅっと目を閉じて、背を反らし……その拍子に、何かに触れた。
「………?」
甚兵衛は頑張っている千香から少しだけ目を逸らし、それを認めて。
「………あ」
落ちていたそれを、手に取った。
「千香」
やっと亀頭の半分ほどを膣口に埋め込んだ千香に、声を掛ける。
千香の額にはそれだけで汗が浮かび、まるで全力疾走の後のように息を荒くしていた。
千香は初めてだ。いや、甚兵衛もそうだが、緊張で身体が硬くなっているのである。
だからこそ、甚兵衛は千香の目の前に手にしたそれを突き出した。
「チカサン、ふぁいと」
「………………………」
――――――イワシである。
千香の汁塗れで放置させられていたそれを拾い、ぱくぱくと器用に口を開閉させて腹話術。
といっても裏声なだけでとても腹話術と呼べるものではなかったが。
千香は突然の甚兵衛の奇行に今行っている行為も緊張も何もかも白紙になり、
(やばい、スベったか?)
「……他人事だなぁ、ジンくん。あたし、しんどいんだよ?結構さ」
一転して、むっすーと唇を尖らせた。
その顔を見て、その声を聞いて。甚兵衛はほっとする。
拗ねているようだけど、そうじゃない。緊張を僅かでもほぐすことはできたようだ。
「馬鹿、そんなちまちましてるからだ。一気に行け、一気に」
「簡単に言っちゃってさぁ。いいよねー男のヒトは。痛くもないし苦しくもないんだからさ」
「うん。正直今この状態でスッゲー気持ちよかったり。お前、何?名器?」
「………う。恥ずかし。でもまだまだ、あたしの実力はこんなもんじゃないんだからね」
「そうか。がんばれ」
「がんばる」
最後に、千香は甚兵衛にキスをして。
「………ありがと」
そう、笑ってみせた。
「――――――っ、く、ぅぅぅうううっっ!!」
そして、ぐいっ、と一気に腰を沈める。
「お、おい!」
焦ったのは甚兵衛の方だ。確かに冗談で一気にいけとは言ったものの、
それはあくまでも冗談であり、千香のペースでいいと思っていたから。
しかし千香のお尻は完全に甚兵衛のお腹にくっついてしまっている。
本当に一気に甚兵衛の男性器を膣内に収めたのだ。
「………ぅ、くっ!?」
甚兵衛は慌てて丹田に力を込めた。千香の膣がぎゅう、と甚兵衛のペニスを締め上げてくる。
千香の中は千切れるほどに狭く、火傷しそうに熱く、気が変になりそうに気持ちが良かった。
まだ入っただけなのに、精液の塊が棹を駆け上ってくる。不意打ちに近いさっきの暴挙で
射精を堪えることができたのはほとんど奇跡といえるかも知れない。
それほどに、千香の膣内は快楽の坩堝であった。
「え、へへ……じんクン。アタシダッテ、結構ヤルデショウ?」
さっきのお返しか、千香が変な声色でニッと笑ってみせる。
結合部には破瓜の血が滲み、雫となってつぅっ、と落ちていった。
痛くないわけがない。苦しくないわけがない。でも、千香は笑っている。
瞳に涙を浮かべて、ジンくんとひとつになれて嬉しい、と囁いた。
そんな千香が不意に、愛しくてたまらなくなり、
自分でも気付かないうちに甚兵衛は千香をぎゅう、と抱きしめていた。
「ジンくん……動いて、いいよ」
甚兵衛の首に腕を回し、身体をぴったりとひとつにして千香はそう続けた。
「え、でも」
「いいから。……ね?」
甚兵衛はしばらく黙っていたが、
「………わかった。できるだけ、優しくするからな」
繋がったまま千香を抱え、割れやすいシャボン玉を扱うようにそっと敷いていた制服の上に寝かせた。
ころん、と仰向けになった千香は空いた手を胸の前に置いて、
それがまるで従順な子犬にでもなったように感じる。
あまりの可愛さに思わずモフモフしたい気分に駆られるが
―――痛みを堪えている千香のためにも、あまり余計なことはしていられない。
「ひぁぁあ……」
ぬるる、と。千香の膣内からペニスを引き抜いていく。
感触らしいものはなかったが、確かに処女膜を貫いた証に、その血管の浮き上がった強張りには
鮮血がこびりついていた。それを見て、生々しい肉襞がもたらす快楽に
理性の綱が早くも千切れかけていた甚兵衛は、乱暴にしそうになる己の獣心を押さえつける。
もどかしいほどにゆっくりとサオをカリまで引き抜いて、また肉壷に収めていく。
狭い膣内を掻き分けて進むペニスに千とも万ともつかない襞が絡みつく。
(き、気持ちいい……!)
じぐじぐと身体を焦がすように広がっていく『思い切り動きたい』という欲求を噛み砕き、飲み干し、
甚兵衛は優しい前後運動を続けた。
「ひ、ぁ―――ぁあ、ひぁ、ぁああ……」
………どのくらいそうしていただろうか。
甚兵衛の体感では気の遠くなるようだったが、もしかしたらストロークは
ほんの十にも満たなかったのかも知れない。甚兵衛の下にいる千香の声が、
苦しみ、痛みを耐えるだけのものではない、もっと湿度の高いものになっていった。
「ひぁ―――ひぃ、ぁぁ、ああ……ン、ぁあ―――」
そういえば、結合部もさっきよりぬめりが増し、動きやすくなっているように思う。
加えて抜き差しのリズムに合わせて吐かれる、熱い吐息。
「千香、どうだ?調子は」
「うん……大丈夫、みたい……ン、ぁあ―――いいよ。ジンくん……」
それをセックスに慣れてきたとみなし、甚兵衛は少しずつ動きを大胆にしていく。
もともと振り切れていた限界だ。加速していくのは当然のことで、
緩慢だった動きのツケを払うかというように腰を引き、抜けてしまうかという寸前でまた侵入する。
大きく波に揺られるようになりながら、千香は圧迫されるお腹の奥から切ない声をあげた。
「ぁひぁぁああ、ああ、ひぁあ―――ぁ、あ、あ、あ、あああぁぁぁ―――」
しかしもうそこに苦痛の色はない。それに、甚兵衛の方にも千香を気遣う余裕はなかった。
腰を打ちつける。愛液の飛沫が飛ぶ。千香の脚が宙を彷徨い、背中に回した手で甚兵衛の背に爪を立てる。
痛い、しかしそんなことはどうでもいい。熱い塊がこみ上げる。射精が近いのだ。
ペニスが真っ赤にはれ上がっているのがわかる。もう、堪えられない。
「ジンくんっ!ひぁああっ!ジン、く、ぅああっ!あっ!あっ!!」
「千香、千香―――千香……!」
「あたし、だめ、ひ、ぁ!ひぁぁぁああああああああああっっ!!!!」
千香の膣内を抉らんばかりに突き立てた怒張はついにいっとう深いところで爆発し、大量のスペルマをぶちまけた。
同じく千香の肉壁もぎゅうっ、と収縮して甚兵衛から全てを搾り取る。
子宮を満たすような長い射精の間、二人はまったくひとつになって抱きしめあい、
「――――――はぁ、はぁ……はぁっ、は……」
「――――――ひぁ、ひぁ、ひぁぁ……」
やがて、くたくたと倒れこんで荒い息をついた。
☨☨☨
……気が付くと高かった日は傾き、遠くに響いていた運動部の掛け声も消えてしまっていた。
日が落ちるのが随分早いように思えるのは、やはりもう『夏の終わり』ではなく
『秋の始まり』に季節は移っているからだろう。いつまでも薄着では風邪を引いてしまうのだ。
「で、全然進んでないよな。作業」
甚兵衛は溜め息をついた。
目の前には中途半端に色を塗られた書き割り。背景の下書きの方はもう粗方終わっているようだが、
甚兵衛が行っていた着色は端っから低かった本人のモチベーションの問題もありまだまだかかりそうだ。
と言っても、今日はもうだるくてそれこそやる気なんて起きない。
「今日は帰るか、なぁ千香」
「……うぅ、なんか挟まってるっぽい」
涙目でぷるぷる震えている、千香にしたってもう作業はできそうにないし。
ああ、調子が悪そうと言えば。
「千香、思いっきり爪立てただろ。背中、血ぃ出てるんだけど」
痛みに顔をしかめていると、千香はむすー、と剥れて甚兵衛を睨み返した。
「そっちこそ。思いっきり動いたでしょ?」
「……そりゃあ、お前。むしろ評価して欲しいくらいだぞ」
本当はもっと早くから動きたかったのだ。それを我慢したのは千香を気遣ってのことである。
とは言え、甚兵衛の方に肉体的な負担はないわけだから、これでトントンということになるのか……な?
「それよか、どうすんだ。コレ」
甚兵衛が書き割りを軽く蹴る。千香が引き受けてしまったというからには、
二人で片付けなければ……いけないんだろう、なぁ。
「うん。―――また休みに二人で学校に来なくちゃね」
何か含みのある千香の台詞に、思わずどきりとする。
今までしていたことのとんでもなさを思い出し、顔を赤くして千香に目をやる―――が、
既に千香はひらりとスカートを翻して背を向けていた。
小悪魔のように笑っているのか、それとも甚兵衛と同じく頬を染めているのか。
踊るような背中からは、残念ながらそれは読み取れない。
だが。
「……千香」
「ん?なに」
背を向けたまま、返事が返ってくる。
甚兵衛は溜め息をついて、言った。
「スカートからイワシがはみ出てる」
アンダースカート・サーディン~新ジャンル「スカートからイワシがはみ出てる」妖艶伝~ 完
最終更新:2009年01月24日 02:55