貴方の傍で

少女が少年と出会ったのは少女がまだ十にも満たない、本当に幼い少女のときでした。

「ローラ、紹介しよう。私の新しい剣であり盾となる―――君だ」
「お初にお目にかかります―――と申します、お見知りおきを」

少女の父親に肩を叩かれている、大柄な男性。黒い髪に黒い瞳……元々のこの国の民族のものではありません。
きっと、他国からの移民でしょう。

『剣となり盾となる』

ようするに彼は父親の新しい護衛騎士なのでした。
どういった経緯があったのか知りませんが、移民とはいえ異人を懐刀に置くような者など少女の父親以外にいないでしょう。
特に父親の立場から考えれば、それは最早ありえないといってもいい話でした。

まったく、それが器の大きさからくるのか、危機感の欠落からくるのか。
まぁ、少女はこの時の父親にはいくら感謝してもし足りないくらいに感じているのですが。

そう、少女はその時、護衛騎士―――ではなく、その隣にいた少年にすでに目を奪われていたのでした。

「ああ、こいつは俺のせがれです。ローラ様より三つ年上になりますか。
ゆくゆくはローラ様の直属護衛騎士になれるよう鍛え上げるつもりですので、まぁ覚えておいてやってください」

いえ、目だけではありません。
すでに少女はこの時―――

「ヒガシ ヒロト、です。よろしくお願いします」

―――少年に心までも奪われていたのです。

少女の懇願もあり、少年は暇を見つけては少女の相手をするようになりました。……いえ、これは適切ではありません。
少女のほうが、暇さえあれば――暇なんてなくとも、少年に会いに行くようになったのです。

少年は広い広いお城の裏庭で、いつも独り剣を振るっていました。
もちろん、いくら護衛騎士の息子といえど気軽に入れるような場所ではありません。
しかし、少年がお城の外の森で剣の稽古をしていると、少女は城壁を越えてまで少年に会いに行ってしまいます。
困った大臣たちは、少女が礼儀作法やお花や舞踊のレッスンからいなくなっても少女がどこにいるのかすぐにわかるように、
少年を目の届くところへ招いたのでした。
少女はいつも少年の隣で剣の稽古をにこにこしながら見守っているのですから、
もう見張りの兵士を動員してまで四方を探し回る必要はありません。
こうして、時々見回りに来る兵士が少女を引き摺っていくまで、少女にとっては至福の時間が過ぎてゆくのでした。


さて一方、少女の心を知ってか知らずか―――きっと知らず、少年は毎日毎日、ただ一心に剣を振るっていました。
頭のいい人はそれを『馬鹿の一つ覚えのように』とせせら笑うかもしれません。
しかし少年の心には剣しか映っておらず、また剣にも、少年の心以外に映すものはありませんでした。
少女はそれがとても切なくて、でも、それでもいいと思っていました。

「俺は、器用じゃないから。一度に色々できればいいんだろうけど、せめて、ひとつ心に決めたことだけはできるようになりたいんだ」

こうやって二人でいるとき、少女は少年の一番近くにいられるのですから。


恋する乙女が相手と懇意になりたいとき、その彼女が起こす行動は今も昔も変わらないものです。
たとえ時空を隔てた異世界の話であっても、それはおそらく同じことでしょう。
早い話、少女は少年が好きなものを良く知り、それを通じて親しくなりたいと思ったのでした。

―――剣しか知らない少年に振り向いてもらうためには、自分も剣になればいい―――

それは少女の人生で三本の指に入るくらい画期的なアイデアでした。
もともと身体を動かすことが好きだった少女は、稽古用の木刀を兵士宿舎からくすねてきて少年と共に剣を振るようになりました。
するとどうでしょう、少年から話しかけられる回数が以前より格段に増えたのです。

「身体はもっとまっすぐに」
「振りぬくようなイメージで」
「身体が流されてる」
「っていうか、なんでそんな動きにくそうな恰好なんだよ」
「剣を振る以前に走りこみから始めたほうがいいんじゃないか?俺も付き合うから」

それだけではありません。
筋肉痛になり、血肉刺ができ、烈火のごとく怒られましたが、
少年も怒られると思った少女はめげずに反論し、脅しすかしごねて泣き出し、終いには国家転覆さえちらつかせて、
とうとうこっそりではなく堂々と少年に会いにいけるようになりました。
もちろん、他のレッスンをきちんと真面目にすることが条件ですから、時間は限られています―――『剣術のレッスン』の時間は。
全てのレッスンが終わって、少女の自由時間になると少女はいつも走って少年に会いに行きます。
そして二人で日が落ちて前が見えなくなるまで剣を振るい、夜になってからは少年に字や教養の稽古をつけるのです。

少女は変わりました。
お城暮らしで、いつも退屈そうにしていた少女は少年という想い人兼師匠兼弟子を得て、以前より何倍も明るく健康に、さらには明晰にさえなっていきました。
少年に教養を教えなければならないのですから、昼間の数々のレッスンもないがしろにするわけにはいきません。
結果として、少女は誰の前に見せても恥ずかしくないほどに優秀な姫君になっていきました。
異民族の少年と仲良くすることに対し、始めはあまりいい顔をしなかった大臣や少女の家庭教師たちも、これでは文句を言うわけにはいきません。
少年は少女にとって、少女は彼らの国にとって、なくてはならない存在だったからです。
もっとも少年の頭の中はやはり剣のことでいっぱいで、少女ほど百芸に長ける者にはならなかったようですが―――

運命が少年の元を訪れるとき、このとき習った字や計算方法や様々な知識、礼儀作法が剣にも勝る財産になるのですが、

それはまた別のお話。

さて、お互いがお互いを高めあう、とてもいい関係に思えていた少女と少年ですが、それを見守る大人たちはひとつ困ったことになったと頭を抱えました。
少女ももう小さな子供ではありません。
いずれ国の顔となる立場の人間として、優秀な男性と添い遂げるという自覚を持ってほしいのです。
この場合、優秀であるということはその本人の能力にはあまり関係が無いというのが不思議な話ですが。
いつまでも少年にべったりではよからぬことになりかねません。少年の方はもう青年と呼んでも差し支えない年頃になっていたのですから。
相変わらず少年の目には剣しか映っていないようでしたが、少女が少年に送る視線に段々色が含まれてきているのは誰の目にも確かでした。
そして、昔から少女の最も得意とすることは、自分のわがままに正当性を見出してそれを押し通すということにあるのです。
しかも、はた迷惑なようで、実は後々考えてみれば良いほうに転がっているのですから手のつけようがありません。
このままでは少年と駆け落ちでもしかねない。
そう考えた大臣たちはとうとう、少年をお城から追い出してしまうことに決めました。
………が、勿論そう簡単には行きそうもありません。
少年だけなら―――剣しか頭にない彼のことですから―――「出て行け」といわれればさっさと荷物をまとめ始めるでしょう。
ですが背後に少女がいるとなれば話は別です。
荷物をまとめている少年の荷物を再び箪笥に戻して妨害し、
少年を追い出そうとする大敵の部屋のドアを蹴破って少年と共に編み出したという必殺剣で鮮血の結末になりかねません。
考えに考えた結果、彼らは少年を“選定”することに決定しました。

“選定”

それは特別優秀な者を、世界を救うといわれている『勇者』として認定し、世界各地で自由に行動することが許される一種の免罪符を与えることなのです。
もっとも、それは表向きの話。
実際には『お前など、どこへでも行ってしまえ』という勘当に近いものでした。
なにせ世界中を自由に行き来できるということは、つまりどの国にも属さないということ。
何をしてもいいということは、つまりもう面倒は見ないということ。
適当な試練を与えてやれば生きて帰ってくる保障すらありません。
世界を救うといって、いったい何を救えばいいのか。広い世界の中ではそれすら定かではないのです。
ところが、『勇者』に選定されること自体は至上の誉れであるのは確かなのですから、誰も文句を言うことはできません。
たとえ破天荒で頭の切れる少女であっても、『勇者』に選ばれたものを前にしては祝福とともに送り出すしかないでしょう。
事実、門出の日、少女はぼろぼろと泣きながらも『勇者』となった少年の邪魔をすることはありませんでした。

いえ、実は少年が『勇者』になるかも知れないという情報をどこからか聞きつけ
(勿論、少年が勇者に選定されようとしていることは絶対に洩らしてはならない超重要機密情報になっていました)、
選定に必要な書類を焼き払おうとしたり、
選定の儀式ができなくなるよう魔法陣を破壊しようとしたり、
その前に既成事実を作ってしまおうと少年の寝室に忍び込もうとしたりと、散々妨害工作を働いていたのですが。

他の誰でもない、少年その人がやる気になっていたのです。
長年剣のことで頭がいっぱいだった少年の目の前には今や世界が広がっていました。
こうなった少年にはいかなる理屈も道理も通用しないことは少女が誰よりも知っていました。―――なにせ、ずっと傍で見つめてきたのですから。

「―――待ってください!」
「ん?ああ、どうした?」
「ひとつ………約束、してください」
「―――わかった。何を?」
「必ず…!もう一度……会うと」

『勇者』に与えられた試練は『魔王退治』。
強大な魔力を持ち、一夜にして大国を焦土に変えるといわれる怪物を倒すなどと、最早人間の業ではありえません。
今だかつて誰も成し遂げたことはない、それどころか姿すら誰も見ること叶わずに終わるという不可能じみた試練でした。
どんな約束を交わそうとも、二人が再び巡り合うことはないのです。

「ああ。約束しよう。俺が世界を救えたら、また会いにくるよ」
「必ずですよ!約束しましたよ―――!!」

最後に少年は少女の手を握って、背を向けました。
少女は少年と交わした握手の感覚を永遠のものとするように、その手を胸の前で抱きしめ、少年の後姿をいつまでもいつまでも、見続けていました。


さて―――数年後、長年に渡って世界を震撼させ続けてきた魔王が、まさか本当に勇者の剣によって倒されるなど―――
―――この時、勇者の背中を見送る誰もが、想像もしなかったことでした。

「あ、あぁ……っ!」
押し殺したような嬌声が室内に響いていた。
真夜中の個室、およそ少女には似つかわしくない小さな部屋。明かりは夜空を円く切り取ったような月の輝きのみ。
壁に映し出された影が、ベッドの上で行われている営みを描いている。

「……んっ………あっ………」

少女の秘部を柔らかく優しく、あたたかな指先がなぞっていた。
自分以外の誰も触れたことのない秘裂に沿って、何度も、何度も、優しい指先が往復する。

『―――しばらく会わないうちに、ずいぶんいやらしい娘になっちゃったんだな』

ああ、狂おしいほど愛しい彼。
そんなことはない。少年を想うからこそ、ずっとずっと大好きだった少年のぬくもりを忘れないからこそ、少女の身体はこんなにも切なくなっているのだから。

『俺もだよ。ずっとこうしたかったんだ』

それならもっと早くにこうしてくれればよかったのに―――いや、もうそんなことはどうでもいい。
少年を想い、いつかのように誰より近くに感じる今この瞬間が全て。

「あっ………は……あンっ…くぅ………ぅぅ……あっ…はふぅ……」
『いいぞ。もっと、もっと俺の指を感じて欲しい』
「はい、もっと……あぁ………触って、たくさん………してくださいぃ…………!」

少年のために大切にしてきた秘所はもう蜜で十分に潤い、クチュクチュと官能的な音を奏でていた。
少年の温かさをたたえた手が、少女の身体を愛し続けている。
この数年で見違えるほどに大きく成長した胸は少年の手を柔らかく包み込むことだろう。
胸の大きな女性は愛撫に反応しにくいなんて言う者がいるそうだが、それは所詮平たい胸の遠吠えにすぎない。
何故って、少女の持つ重力に反してツンと張ったバストは少年に触られることを想像するだけでこんなにも先端を尖らせているのだから。

「ああっ、好き、すき、だいすきぃ…………!!」
『俺も、愛しているよ………』
「嬉しい、わたひ、嬉しいです……っ!………ひぁああっ!!」

優しい指先が少女の恥ずかしい突起に触れた途端、少女の身体に電気が走った。
それは思わず身体をぴんと伸ばしてしまうほどで、同時に少女の蜜が秘裂の隙間からぴぴっ、とほとばしる。

「やぁ、そこは………」
『だめかい?』
「ぅう……いじわる………」

もっとも敏感な部分を攻められてしまってはもう少女にはどうしようもない。
少年のぬくもりになす術なく―――抵抗しようなんて、これっぽっちも思わないのだが―――少女は絶頂へと押し上げられていく。
少女の身体に篭る熔けてしまいそうなほどに熱い疼き、臨界に向けてなおも増していく衝動。
それは目も開けられないほどの突風の中にいるようで、すべてが飲み込まれて翻弄されていくような―――

「ふぁああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」

ひく、ひくんと何度か小刻みに痙攣する。
それは、とても幸せなひと時だった。

―――本当に、あのひとに触ってもらえたら、わたしはどうなってしまうのでしょう?

少女は自慰のけだるい余韻に漂いながら、愛液に濡れた自分の手を見つめてぼんやりとそんなことを考えていた。

「―――ん?」

下の階から何やら物音がする。悲鳴と、何かが壊れるような音。
せっかくの寄り添いに水を差すとは、無粋な輩も居た物である。

ドガン!!
部屋の扉を蹴破って、オークの略奪者は思わず舌なめずりをした。
部屋には女が一人だけ。寝台の前にスッと立ち、こちらを真っ直ぐに見つめている。
女といってもまだ若い。少女といってもいいほどだ。
女であれば連れ去って慰みものにするのが彼のモットーである。あとでリーダーにどやされるかもしれないが、まぁその時はその時だ。
……いやいや、これはむしろリーダーに横取りされないかを心配するべきだろう。
この女、相当の美人だ。
これは一度や二度犯したくらいで売っぱらうのはもったいない、どうにかして専用の奴隷に……と、待て。
彼はふと、少女に怯えが全くないことに気がついた。
妙だ。
ニンゲンなら誰しも、この土色の斑が染み付いた醜い姿を見た途端に悲鳴をあげて逃げ出すか、錯乱してその柔っこい貧弱な腕力で戦いを挑んでくるというのに。
気に食わねぇな。
オークは忌々しそうに頬を歪めると、そのまま笑い顔を作った。
だったら、泣き叫ばせてやるよ。
相手はニンゲンの女だ。俺様のモノをブチ込んでやりゃ、いい声で鳴くに違いない。
そう決めたオークは少女の肩を乱暴にひっ掴もうとし、

―――その腕がないことに気がついた。

二の腕からすっぱりと断ち切られていて、ぶすぶすと煙があがっていた。

―――あれ?

目を瞬かせるオークの目の前に、雷撃の一閃が迫っていた。

彼はオークの略奪者たちのリーダーであった。
今回襲撃すると決めたのは街道沿いにある小さな宿屋である。
その宿屋は数年前までは繁盛していたが、近くに大きな旅館ができてからは客がそちらに流れ、
ついには雇っていた傭兵を解雇したことを彼は知っていた。
それでいて、人気の旅館に泊まれなかった客がこちらにちらほら流れてきているのだ。
中には噂の旅館を聞きつけて路銀をはたいて旅してきた富豪もいる。
傭兵もいない宿屋に泊まるなんて、襲ってくれと言っているようなものだ。
ちょろいな。
男は殺せ。若い女だけは生かしておいて、あとで犯して新しい肉玩具にすればいい。
仲間にそう伝え、彼は合図を送った。

―――そして、惨劇が始まったのである。

はじめ、彼はいったい何が起きているのか理解できなかった。
目の前で仲間が次々と倒されていく。
腕を飛ばされ、首をはねられ、胸を貫かれ頭をかち割られ。
床に転がる死体から血は一滴も流れ出さない。
傷口からはぶすぶすと煙があがり、焼け爛れているが彼にはそんなことを気に掛けている余裕はない。
密かに傭兵でも潜ませていたのか?違う。
では客の中に、屈強な戦士が紛れ込んでいたのか?―――そう、なのだ…が。
剣を振るい、襲い掛かる同胞を袈裟斬りに叩き斬っているのは男ではなく、どう見てもか弱そうな小娘だったのだ。
くるくると舞うように剣を振るうその姿はさながら舞踏会の花。しかしてそれは竜巻であり、取り囲もうにも空中を奔る稲妻がそれを許さない。

―――魔法剣。
魔道と剣術両方に精通した者だけが編み出せる絶技である。

彼らの石斧や槍はかすりもしない。弓を放とうにも、瞬時に接近されてしまって逆に仲間を射抜いてしまう始末。
こいつ、魔族との戦いに慣れている―――?
そこまで考えたとき、彼は思わず叫び声をあげた。
風の噂に聞いたことがある。
砂塵の巨蟲ギガントワームを両断し、食人妖樹ドリリアルドを斬り倒し、
火炎龍イグニスドランの首を落とし、略奪平原でオーガー千体をたった一人で皆殺しにした人間の存在を。


『勇者』。


魔獣退治のスペシャリストであり、魔王にも匹敵する戦闘力を持つといわれているそれは、
彼ら魔族にとって出会ってはならない『死』そのものなのである。
逃げなければ命はない。
そう判断した彼は再び叫び声を上げた。
撤退の指令。
しかし、それを実行できる同胞が、どれだけ残っているのか。
背を向けて走り出した彼は知らない。
もはや、逃走などという手段を取れる者がこの場にはただの一人も存在しないことを。
その首筋に、雷刃がすでに迫っていたことを。

「―――これで、全て片付きましたね」

群の頭らしい最後のオークの首をはねると、少女はひゅんひゅんと剣を振り回した。切り裂かれた辺りの空気が帯電し、稲妻を描く。

「う、ぉおおおおおおおおっ!!」

オークに襲われていた客たちが喝采する。
怪我の大小はあれど、致命傷を負ったものや死者はいないようだ。

「お見事ですな、姫」

今までどこに隠れていたのか、音もなく老人が姿を現した。
いや、彼は彼で戦っていたのだろう、両手に血に濡れたナイフが握られている。
姫と呼ばれた少女はため息をついた。

「姫、と呼ぶのはやめなさいと言ったはずです。私はあの方を探し当てるまで姫君であることを捨てた。
 ここにいるのはただの一人のローラなのですから」

そう、この若き女騎士こそが少年に恋したかつての少女。
城でただ待ち続ける日々に終止符を打ち、必死に止めようとする人間を雷刃剣で振り切って、
過去まるで前例のない『勇者捜索』に乗り出した破天荒の代名詞、ローラ姫その人なのである。

「承知、しております。しかしこの爺にとってたとえどうあろうと姫は姫。
……ですがその姫が望まれるのであれば、せめてローラ様とお呼びするのをお許しください」
「……では、そのように」

まだぴくぴくと動いているオークに止めの落雷を突き立てると、少女はどこか彼方を見上げてニヤリと頬を吊り上げた。

―――今、ローラが参りますわ。ヒロト様―――




「―――で?そのお姫様とやらに会いに行かんのか、貴様は」
「……ああ。俺はまだ世界を救っていない。ローラに会いに行くのはそれからだ」
「ふん、ローラ。ローラ、とな。ふん」
「何だよ、お前から聞いてきたんだろう。おい、魔王」
「リュー、だ」
「は?」
「リュリルライア・ストラート・クノ・ザエラティア・
 ティー・クラセウス・ド・アルエレメート・ダース・リリ・ルシエル………
 …なんとか、かんとか……トエルゥル・ネオジャンル。我の名だ」
「長いな。しかも何だ、間のナントカってのは」
「うるさい。長すぎて我もよう覚えておらんのだ。とにかく、これから我のことはリューと呼べ。いいな、ヒロト」
「……ま、いいけど」
「ふん」
「おい、何をそんなに怒ってんだよ。……ええと、リュー」
「………今、貴様の傍にいるのは我だからな」
「なんだって?」
「……ふん!なんでもないわ、たわけ!!」


                貴方の傍で~新ジャンル『騎士娘』妖艶伝~ 完

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最終更新:2007年09月15日 15:37
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