クトゥルフ神話の脅威に勇敢に立ち向かっている探索者は、その精神を危険にさらしていることになる。
しかし、たとえ狂気に陥った探索者でも、一筋の光を見いだすことはできるのだ。
この章の中にある情報やコンセプトの多くは、1995年に出版した"Taint of Madness"(未訳)に最初に紹介されたものである。
同書にはこの章に関係あるような上号が詳細に紹介されており、その中には広範囲な歴史的拝啓、法律面での検討、
精神病院に関する議論、施設に収容する場合の問題点、歴史上の精神病院などについての記述が含まれている。
"クトゥルフ神話TRPG"のプレイヤーキャラクターは普通、正気の人間としてスタートする。
しかしプレイが進んでいくにつれ、この世のものではない異常な恐怖の知識や存在と出会い、その恐ろしい意味を知るようになる。
そのような経験は、正常な世界の中で待っていた信念を揺さぶり、打ち砕いてしまう。
このゲームにおける正気度のルールは、H.Pラヴクラフトの作品に登場する主人公たちの振る舞いをモデルにしている。
彼らは一度ならず気絶や狂気に陥る。能力値のSANは、探索者の精神的なトラウマに対する適応性とキャラクターは、
衝撃的な経験を合理化したり、恐ろしい記憶を抑制するのが容易だ。
SAN値が低いキャラクターは精神力が弱く、感情的な混乱に影響されやすい。
それほど以上とは言えないものでも、恐ろしいものを見たり経験したりすれば感情障害の原因になる。
それはクトゥルフ神話のゲームの中心となるものである。
気力が萎えそうになる恐ろしいプレイの状況の中で、キーパーはプレイヤーキャラクターたちの精神弾力性と情緒の安定性を試す。
そのやり方は彼らに<正気度>ロールをさせるということだ。D100で現在の正気度ポイント以下を出せば、
ロールに成功したということである。<正気度>ロールに失敗したキャラクターは正気度ポイントを失う。
成功したキャラクターはポイントを失わないか、あるいはほんのわずかなポイントを失うだけで済む。
どのくらい失うかは、86ページのコラムに示す例を見てほしい。あまりにも短い間にあまりにも多くの正気度ポイントを失った場合は、
狂気を誘発して、一時的狂気か不定の狂気に陥る。
この2つの狂気については、この章のあとで説明する。
キャラクターが狂気に陥ってもゲームの中で活動を続けていくためには、その狂気がロールプレイ可能なものでなければならない。
時間が重要である場合にはキーパーは"一時的狂気の表"でロールしてもいいが、
その狂気を引き起こした状況に適した一時的狂気を選ばなければならないのはもちろんのことである。
そしてプレイヤーおよび探索者と協力して、その狂気に特徴を与えなければならない。
狂気のキャラクターは2,3ラウンド後に正気に戻るかもしれないし、回復に何か月もかかるかもしれない。
正気度ポイントがゼロにまで落ちた場合には、そのキャラクターには長期入院が必要になり、
おそらくプレイにもどってくることはないかもしれない。
キャラクターは正気度ポイントを取り戻すことができるし、POW値が上昇すれば最大正気度ポイントが上昇するということもある。
<クトゥルフ神話>技能が上昇した場合には、それと同じ数値だけ最大正気度ポイントは減少する。
◆クトゥルフ神話が引き起こす狂気
戦争、虐待、そのほかの強烈な経験をすると、情緒に傷を残す。
ラヴクラフトは恐怖、未知のもの、そして人道の無視といったことに関して抱いた考えを強調するため、
われわれに新しい恐怖の形を示した。彼が言うには、時空についてわれわれが不変の法則だと思っているものは、
実は局所的にしか通用しないものであり、部分的にしか真実ではないのである。
われわれの理解の及ばないところに、より大きな現実に支配されている無限の世界があるのだ。
そこには小さなものであれ巨大なものであれ異界の勢力や種族が存在している。
明らかに敵意を持っているものもあり、われわれの世界に侵入してきているものもある。
真の宇宙は不合理な出来事、不浄な怒り、終わることのないあがき、冷酷な無秩序の宇宙であると、
クトゥルフ神話の作家たちは言う。そのようなすき間を通してわれわれは、すべてのものの中心にある、
暗く血塗られた真実を垣間見ることができる。そういう圧倒的な宇宙ヴィジョンは、ゲームの中ではめったに現れるものではなく、
現れるのはクライマックスのときである。
正気度ポイントが失われるのは、次のようないくつかの特定の場合である。
1)知識は危険なものである。<クトゥルフ神話>技能は、真の宇宙についての知識を表している。
そういう知識による自己変容の危険性は、どんな精神療法や休息を持っても取り除くことができない。
<クトゥルフ神話>技能が上昇すればするほど、最大正気度ポイントが下がり、現在の正気度ポイントを制限する。
その結果<正気度>ロールに失敗することが多くなり、現在の正気度が下がることになる。
2)クトゥルフ神話の魔術は真の宇宙での物理学である。
クトゥルフ神話の呪文をかけるとき、キャラクターは想像を絶するものを可視化させ、
その精神はこの世ならぬ思考過程をたどらなければならない。
それは精神を傷つける。呪文をかけた者はそのような心的外傷を進んで引き受けたのだろうが、
やはりショックであることに変わりはない。
3)クトゥルフ神話の秘儀書は<クトゥルフ神話>技能を上昇させ、クトゥルフ神話の呪文を教えてくれる。
クトゥルフ神話の秘儀書を読んで理解すると、今まで真実だと思っていたことすべてが、影のようなものになってしまう。
もっと大きく、もっと恐ろしい現実の圧倒的なパワーに魂をわしづかみにされてしまうのだ。
その経験から逃げ出そうと試みるにしろ、もっと知りたいと渇望するにしろ、今まで信じていたものに重きを置かなくなり、自信を失ってしまう。
そしてクトゥルフ神話の真実に心を奪われていくのである。
4)ほとんどすべてのクトゥルフ神話のクリーチャーと超自然の存在は、遭遇した探索者の正気度ポイントを喪失させる。
異界の生き物というものは本質的に不快感や反発心を抱かせるものである。
ぬるぬるして悪臭を放つ異界の生き物をラヴクラフトは卑猥とか冒涜的という言葉で表現している。
こういう本能的な反応はどんな人間にも必ずあるものだ。正気度ポイントを失ったからといって、それでこの反感が消えるものではない。
5)クトゥルフ神話以外のショックによっても正気度ポイントを失うことがある。
例えば予期せぬ死や暴力的な死を目撃したり、人間の手足切断の場面に直面したり、
裏切り、社会的地位の喪失、失恋などを経験したりした場合である。
そのほかにもキーパーは探索者が挑戦する材料をいろいろ工夫できるだろう。
われわれの世界によくある超自然現象をひっくるめて入れてしまうことができる。
例えば悪依、ゾンビ、吸血鬼、狼男、呪いなどである。
◆SANの使用
SAN、および正気度ポイントを記録するのに探索者は探索シートの3つの欄を使う。
1)能力値としてのSAN。これはそのキャラクターの[POW×5]である、この数字が変わることはほとんどない。
2)最大正気度ポイント。これは99から現在の<クトゥルフ神話>ポイントを引いた値である。
最大正気度ポイントは、能力値SANよりも高くなることもあり、SANと同じ値になることもあり、
SANよりも低くなることもある。
3)現在の正気度ポイント。これは常に現状を把握しておくことが重要な値である。
これは常に現状を把握しておくことが重要である。これに関しては次に詳しく説明する。
現在正気度ポイントの値はひんぱんに変わる。
探索者が精神の平衡を失うような状況に遭遇したとき、
キーパーは<正気度>ロールをさせるだろう。
プレイヤーは自分のキャラクター1人1人のためにD100を
正気度の喪失の例
正気度の喪失* 神経に触る恐ろしい状況
0/1D2 めった切りにされた動物の死骸を見て驚く
0/1D3 人間の死体を見て驚く
0/1D3 人体の一部を発見して驚く
0/1D4 川に血が流れているのを見る
0/1D4+1 めった切りにされた人間の死体を見て驚く
0/1D6 目を覚ましてみたら、棺桶の中に閉じ込められている
0/1D6 友人の非業の死を目撃
0/1D6 食屍鬼を見る
0/1D6+1 死んだはずの者に出会う
0/1D10 ひどい拷問を受ける
0/1D10 死体が墓場から立ち上がるのを見る
2/2D10+1 切り取られた巨大な頭が空から落ちてくるのを見る
1D10/1D100 大いなるクトゥルフを見る
※ロールが成功した場合の喪失/ロールが失敗した場合の喪失値
(~P88)
狂気とクトゥルフ神話
探索者がクトゥルフ神話による侵害的外傷を引き寄せるたびに、
クトゥルフ神話の知識を学んだことになり、そのことは、<クトゥルフ神話>技能に反映される。
まず、クトゥルフ神話に関連した狂気に最初に陥ったとき、<クトゥルフ神話>技能に5ポイントが加算される。
次の経験からは、クトゥルフ神話によって狂気が陥るたびに<クトゥルフ神話>技能に1ポイントずつ加算されていく。
ただしクトゥルフ神話技能以外のことが原因で狂気に陥った場合には、<クトゥルフ神話>値は上昇しない。
例:ハーベイ・ウォルターズはクラウニンシールド荘で何かの写本を見つけた。
写本を読んで理解した後の彼の<クトゥルフ神話>技能は3%だが、正気度ポイントは何も失わない。
その後屋敷の外に出たハーベイは、頭の上を夜鬼が飛んでいるのを目撃した。
ありえないようなものを目の当たりにしてハーベイはひるみ、狂気に陥ってしまった。
彼はこれまで<クトゥルフ神話>に関連した狂気に陥った経験がなかったので、彼のプレイヤーはハーベイの<クトゥルフ神話>の技能に5%加算しなければならない。
ハーベイの<クトゥルフ神話>は8%となった。
これでハーベイの最大正気度ポイントは「91」に落ちた。すなわち[99-8(<クトゥルフ神話>値)]である。
ロールする。 ロールの結果が探索者の現在正気度ポイント以下であれば、
ロールに成功したということである。
ルールブックやシナリオには、正気度喪失として2つの数字あるいはロールがスラッシュ(/の印)によって分けられて示されている。
例えば[1/1D4+1]というような具合である。最初の数字はロールが成功した場合に失う正気度ポイントの値で、
2番目の数はロールが失敗した場合に失う正気度ポイントである。
したがって、<正気度>ロールに成功すれば正気度ポイントを失わないか、あるいは失っても最小限度のポイントを失うだけで済む。
ロールに失敗した場合には、探索者は必ず正気度ポイントを何ポイントかは、呪文や魔導書や遭遇する存在によっても違ってくる。
一度に失う正気度ポイントが多量だった場合には、後述するように探索者は狂気に陥る。
探索者の現在正気度ポイントがゼロに落ちた場合には、その探索者は永久的狂気に陥ってしまい、普通はもうプレイすることが不可能になる。
◆恐ろしさに慣れる
クトゥルフ神話の同じ本に恒常的に接したり、何度も同じクリーチャーに絶え間なくさらされていた場合、
ある時点からはもうそれ以上の影響を受けなくなる。
例えば、探索者があるクトゥルフ魔導書を読んで理解し、そのために正気度ポイントが喪失し、必要な<クトゥルフ神話>ポイントが上がったとしたら、
その後は何度もその本を参考にしたとしても、それ以上のペナルティは受けなくてもいい。
同様に、ある特定のモンスターを何度も見たために失った正気度ポイントの合計が、その種類のモンスターを見て失う可能性のある正気度ポイントの最大値まで達したら、
ある程度の期間を過ぎるまではもうそれ以上のポイントを失うことはない。
"ある程度の期間"とはゲーム内での1日か、1週間か、それとも1つの冒険が続いている間なのか、それはキーパーが決める。
例えば、ある程度の期間内に探索者が深きもの(正気度喪失:0/1D6)を100匹も見たとしても、
正気度ポイントを6ポイント以上は失うべきではない。とは言うものの、異界の恐ろしい生き物に完全に慣れてしまうということはない。
呪文はそれぞれ区別されているし、ほとんどの呪文は邪悪な意図を持ってかけられる。
どの呪文も、通常の世界では不可能な効果を表す。恐ろしい効果を再現させ、異界的な発想をしなければならないということは、
必ず正気度ポイントの喪失をもたらすことである。たとえ同じ呪文を日に20回かけたとしても決して平気にはなれず、
正気度ポイントの喪失はまぬがれない。呪文をかけることは暗黒のパワーとの取引であり、代価は支払わなければならないのだ。
"クトゥルフ神話が引き起こす狂気"の5番目に述べた、通常の生活の中での心的外傷も、ある程度の期間内なら慣れてしまうことができる。
しかしその「適切な間隔」というのもそのうちに過ぎてしまい、われわれは同じような出来事からまた新たに恐怖を経験するのである。
◆現在正気度ポイントの上昇
キーパーによっては、安易な成長はラヴクラフトの暗黒のヴィジョンにそぐわないものだと感じて、
それを許さない者もいるかもしれない。しかし、楽しげにそれを促進するキーパーもいる。
その方がプレイヤーも楽しめるし、彼らの探索者はどんな多くの正気度ポイントを持っていようと、狂気に陥るときには陥るのだからと言う(現在正気度ポイントは最大正気度ポイントよりも上になることはないが、初期のSAN値よりも上まで上昇することはありえる)。
下記に現在正気度ポイントを上昇させる方法を示す。
キーパーから報酬をもらう:冒険が成功裏に終わったとき、普通キーパーは探索者に報酬として現在の正気度ポイントをあげるためのロールを許可する。
キーパーからの報酬のロールは、すべての参加者に同じに与えられるが、プレイヤーが自分の探索者のために個別にロールするのである。
報酬は探索者の一行が冒した危険の度合いにだいたい比例するものであるべきである。
しかしながら、探索者たちが卑劣だったり、野蛮だったり、残忍だった場合には、報酬は与えられない。
また、キーパーは特別に優れたロールプレイングに対して報酬を与えるべきであり、
全員が関係するわけではない場合には、こっそりと与えるのがいいかもしれない。
POWを上げる:探索者のPOW値をあげる手順については"魔術"の章で説明する。めったに起こることではないが、
もしPOWが上昇することがあれば、能力値SANも上昇する。SANは[POW×5]だからである。
上昇の際には、最大正気度ポイントに照らし合わせて見ることを忘れてはならない。
技能を90%に上げる:
探索者がある1つの技能に90%
以上の能力を獲得した場合、その技能をマスターしたということである。
その探索者は現在の正気度ポイントに2D6ポイントを加算することができる。技能をマスターするために必要だった厳しい規律と自負心を表しているのである。
<クトゥルフ神話>の技能だけは、誰もマスターすることはできない。
超自然の存在を打ち負かす:自然界の動物や人間の中に恐ろしいものはいるが、ゾッとするというほどでもないのが普通だ。
クマと取っ組み合いをして勝ったとしても、新しく正気度ポイントを得ることはない。
しかし、深きものを捕らえたというなら話は別である。探索者が生霊やビヤーキーのような異様な異界の生き物を打ち負かしたり、
追い払ったり、あるいは殺すなどすれば、探索者の自信は強まるだろう。
ゲームではそれを正気度ポイントの上昇という形で表すのである。モンスターを"打ち負かす"とはどういうことを言うのか、
それはどうしてもあいまいなものになる。そのモンスターの目的は何だったのか?
探索者の意図的に打ち負かす方向に努力してきたのか? モンスターを打ち負かしたことに対する報酬はそのモンスターが多数いた場合には、
その種のモンスターと遭遇した場合に失う可能性のある正気度ポイントの最大値を報酬として与える。
例えば、シャンタク鳥1体に遭遇して失う正気度は1D6ポイントなので、シャンタク鳥の群れを打ち負かしたことによる報酬は6ポイントということになる。
精神療法を受ける:治療を行なう者は<精神分析>の技能を持っていなければならない。
集中的に精神分析を行なえば、患者の正気度ポイントを取り戻すことができる。
取り戻すことのできる現在の正気度ポイントは、
現代の精神障害
ここで概略が示されている各項目についての詳細は、
"参考"セクションの"精神障害"の項を参照されたい。
ケイオシアム"Taint of Madness"(未訳)にも狂気とその治療法について、
歴史的な立場から書かれた情報が数多く載っている。
ここに示されている概略は要約された不完全なものにすぎない。
特に子供の精神障害について触れていない。
この概略の中で使われている精神科関連の用語の多くは最近出来た言葉で、
昔の言葉のような色合いや味わいに欠けている。
1930年代以前には、精神障害のことは個人別に注意深く記述され、
記録としては単に「不安症」とか「精神病」とされているだけで、
それぞれの障害を区別しなかった。
1)統合失調およびその他の精神病性障害 138ページ
統合失調症
短期精神病障害
感応性妄想障害
2)気分障害 140ページ
うつ症
そう症
双極性障害(そううつ症)
3)薬物関連の障害 140ページ
4)不安障害 141ページ
全般性不安障害
広場恐怖症
強迫性障害
外傷後ストレス障害
単一の恐怖症およびマニア
5)身体表現性障害 142ページ
身体化障害
転換性障害
心気症
身体醜形障害
6)解離性障害 142ページ
解離性健忘
解離性遁走
解離性同一性障害
7)性心理障害
8)摂食障害
9)睡眠障害
10)衝動抑制障害 143ページ
間欠性爆発性障害
窃盗癖
放火癖
病的賭博
11)人格障害 143ページ
12)そのほかの精神障害 143ページ
(90ページ)
一時的狂気
◆短期の一時的狂気
([1D10+4]戦闘ラウンド)
1D10 結果
1 気絶あるいは金切り声の発作。
2 パニック状態で逃げ出す。
3 肉体的になヒステリーあるいは感情の噴出(大笑い、大泣きなど)。
4 早口でぶつぶついう、意味不明の会話あるいは多弁症(一貫した会話の奔流)
5 探索者をその場に釘づけにしてしまうかもしれないような程度の恐怖症。
6 殺人癖あるいは自殺癖。
7 幻覚あるいは妄想。
8 反響動作あるいは反響言語(探索者は周りの者の動作あるいは発言を反復する)
9 奇妙なもの、異様なものを食べたがる(泥、粘着物、人肉など)。
10 昏迷(胎児のような姿勢をとる、物事を忘れる)
あるいは緊張症(我慢することはできるが意志も興味もない:強制的に単純な行動をとらせることはできるが、自発的に行動することはできない)。
◆長期の一時的狂気
([1D10×10]時間)
1D10 結果
1 健忘症(親しい者のことを最初に忘れる:言語や肉体的な技能は働くが、知的な技能は働かない)
あるいは昏迷/緊張症(短期の表を参照)。
2 激しい恐怖症(逃げ出すことはできるが、恐怖の対象はどこへ行っても見える)。
3 幻覚。
4 奇妙な性的嗜好(露出性、過剰性欲、奇形愛好など)。
5 フェティッシュ(探索者はある物、ある種類の)
6 制御不能のチック、震え、あるいは会話や文章で人と交流することができなくなる。
7 心因性視覚障害、心因性難聴、単数あるいは複数の四肢の機能障害。
8 短時間の心因反応(支離滅裂、妄想、常軌を逸した振る舞い、幻覚など)。
9 一時的偏執症。
10 強迫観念に取りつかれた行動(手を洗い続ける、祈る、特定のリズムで歩く、割れ目をまたがない、銃を絶え間なくチェックしつづけるなど)。
[POW×5]の値、あるいは最大正気度ポイントの上限(99%-<クトゥルフ神話>)のうち、どちらか低い方の値までである。
一か月に1度、精神分析をほどこす者は<精神分析>のロールを行なう。治療がどれくらい進んだかを見るためである。
ロールが成功した場合には、患者は1D3ポイントの正気度ポイントを獲得する。
ロールが失敗した場合には、何も獲得しない。ロール結果が「96~00」だった場合には、
患者は1D6ポイントの正気度ポイントを失い、その精神分析者から治療を受けることはそれで終わりになる。
治療に何らかの問題が起きたのであり、その精神分析者との関係は壊れてしまったのである。
ゲームでは、<精神分析>は狂気からの回復スピードを速めはしないが、
探索者の正気度ポイントを大きくすることで探索者を強くすることはできる。
活躍する日のため蓄えを大きくするのである。狂気からの「回復」は、正気度ポイントによるのではないのだ。
ゲームの世界での精神分析は実際の世界のものとは違っている。
実際の世界では、精神分析は統合失調症や精神病性障害、双極性障害(そううつ病)や重いうつ症などの症状に対して効果があるものではない。
ゲームでは、<精神分析>は精神に対する<応急手当>であると言える。
実際の世界では<精神分析>のような会話療法は時間がかかり、確実さに乏しい治療法である。
いずれにしろ、永久的狂気には会話療法である<精神分析>は向かない。
患者の精神は混乱し切っているので、論理的に話をすることなどできないのである。
精神科治療法の投与:1890年代と1920年代にも投薬による治療は行われ、
それなりに結果を得られた場合もあった。しかし、投薬が本当に広く行なわれ、心的外傷に対してかなりの効果をあげるようになったのは、現代になってからである。
患者が精神科治療薬の投薬を受けるだけの経済的余裕があり、その薬を飲むことができる状態であれば、
その患者のプレイヤーはその精神的苦痛からくる症状をロールプレイする必要はない。
薬が手に入らない場合は、プレイヤーは薬が切れたことを表すロールプレイを始めなければならない。
精神科治療薬の投薬を受けても、そのあと正気度喪失が起こらないということにはならない。
いくつかの違った症状に対する薬が必要だろう。薬が重複すれば、キーパーが選ぶ強い副作用が出るかもしれないからだ。
薬物療法を成功裏に受けている1か月につき、1D3ポイントが現在の正気度ポイントに加算される。
キーパーは1890年代と1920年代には"精神科治療薬"と前項の"精神療法"を一緒に行なわせないようにしなければならない。
薬は強い副作用を伴うし、依存症になってしまうものもあるからだ。
キャラクターは薬の摂取をやめたがるかもしれないし、投薬による明らかな副作用から解放されたいと望むかもしれない。
また、自分は治ったと主張したり、あるいは最初からそんな病気な(誤字?´ω`)存在しなかったのだと主張するかもしれない。
しかし実際には、再び狂気に陥ろうとしているにほかならない。
狂気
ゲーム探索者が発狂するのは、クトゥルフ神話に関連した衝撃的な経験をし、それを理解したためである。
狂気の状態がどのくらいの期間続くかということは、正気度ポイントの喪失の値あるいは喪失の割合によって違う。
狂気の状態には一時的狂気、不定の狂気、永久的狂気の3種類がある。
◆一時的狂気
探索者が1回の<正気度>ロールで5ポイント以上の正気度ポイントを失った場合には、かなりのショックを受けたはずなので、
キーパーはその探索者の正気度をテストしてみなければならない。
そこでプレイヤーに<アイデア>ロールが失敗した場合には、探索者は記憶を抑制して、目撃したり経験したことをはっきり覚えていないということになる。
自己の精神を守るための防衛本能が働いたのである。
あいにく<アイデア>ロールが成功した場合には、探索者は目撃したり経験したことの意味を完全に理解したということになり、一時的狂気に陥る。
一時的狂気の効果は即時に現れる。一時的に狂気に陥っている期間については、左のページの"一時的狂気表"を参照のこと。
狂気が起こった場合、キーパーとプレイヤーは一緒に適切な正気の形を選ばなければならない。
あるいは同意の上で"一時的狂気表"のどちらかを使い、無作為に決定する。一時的狂気の症状の多くは、一目瞭然で説明の必要はないだろう。
キーパーは探索者の最近の精神的緊張の度合いから、狂気の期間を適切と思われる期間にしてもよい。
一時的狂気が終わったのち、その経験の名残として軽い恐怖症がのこるかもしれない。
しかしそのような名残の多くは、軽い外傷後ストレス障害にすぎないだろう。
141ページの"不安障害"の項を参照のこと。
◆不定の狂気
探索者が1時間内に現在の正気度ポイントの5分の1(端数切り上げ)以上を失った場合、
その探索者は無期限の狂気である"不定の狂気"に陥る。不定の狂気に陥ったキャラクターはしばらくの間プレイから外れていなければならないだろう。
不定の狂気が続く期間は平均して1D6か月である。
キャラクターが不定の狂気に陥ったら、"一時的狂気表"をロールし、詳しい症状を決める。
どちらの表を使うかはキーパーの判断に任される。
ロールの結果が状況にふさわしくない場合、キーパーはセッションの終わりまで、あるい次のセッションの開始まで判断を保留してもよい。
差し当たっては、キャラクターは強い予感のようなものにとりつかれる。
不定の狂気を引き起こす精神障害は、突然起こるものではない。
狂気のキャラクターのプレイヤーは、ある特定の狂気が選ばれる理由を説明できるに違いない。
不定の狂気には、連続的な症状を呈するものもある(例えば、健忘症、うつ症、強迫観念など)。
またある特定の時点でしか現れない一時的な症状もある(多重人格性障害もしくは解離性同一障害、転換性障害、間欠性爆発性人格など)。
どちらの場合も、面白いロールプレイをするいい機会を提供してくれるだろう。
例えば、生命の危険を伴うような出来事を経験したあとでは、創造や夢やフラッシュバックや連想によって、
その心的外傷をしつこく繰り返して追体験するようになる。
そして大きな不安の症候が際立ってくる。解離症候も現れる。その中には次のようなものが含まれる。
(1)無感覚、孤立、感情の反応の欠如;(2)認識力の減少、放心;(3)世界が舞台のように見える、あるいは世界が2次元のように感じられる;
(4)自分が現実の人間ではないように感じる;(5)健忘症
狂人の洞察力:選択ルール
キーパーの選択ルールとして、狂気に落ちたばかりの者は、
狂気の原因となった状況や存在に対する洞察力(見抜く力)を持つことにしてもいい。
プレイヤーがD100をロールし、キャラクターの[INT×5]より大きい値を出せば、
狂人の洞察力を発揮したことになる。どんなことを洞察したかは、キーパーがただちに提示しなければならない。
◆永久的狂気
正気度ポイントがゼロに達した探索者は、永久的な狂気に陥る。
"永久的"とは、1年の場合もあり、一生涯の場合もある。現実のある統計では、精神療養所に入っている期間は平均して4年と数か月である。
ゲームでは、永久的狂気の期間は完全にキーパーにまかされている。
不定の狂気と永久的狂気の違いは、治療にあたった精神病医の予後診断とその予後診断を裁判官が確認したものだけで、
あとはその予後診断を裁判官が確認したものだけで、あとは何の違いもない。
現実の世界では、狂気はすべて不定の狂気である。なぜなら現実世界では"クトゥルフ神話にTRPG"のキーパーほど正確に未来を予測できる者などいないからである。
ラヴクラフトの作品には、主人公が狂気から一生涯回復することはないと暗示されているストーリーが1つならずある。
キーパーは狂気の終点をどういうものにすればゲームが満足いくものになるかをよく考える必要がある。
時には地元の療養所からひっそりと退院して出てくる患者がいるかもしれない。
痩せて、不自然なほど青白く、魂を打ち砕くような経験のせいで以前とは変わり果てて見分けがつかなくなっているような人物が、
恥ずかしそうな様子で行えばアーカムの下町の方へ歩いていくかもしれない。
そして周囲に鋭い目を向け、周りの闇の深さを推し量ろうとするかもしれない。
しかし、プレイヤーはそういう特別の扱いを当然の権利として期待するべきではない。
狂気をプレイする
"クトゥルフ神話TRPG"のルールにおいて、狂気はクトゥルフ神話を妥協の余地のないものにしている。
クトゥルフ神話を前にしたとき、それを自由意志で選び取る正気の人物はほとんどいない。
クトゥルフ神話は本質的に忌まわしく嫌悪すべきものだからである。
正気度ポイントと<クトゥルフ神話>ポイントとの関係は、クトゥルフ神話のパワーを強調している。
クトゥルフ神話に近づいたり関係したりすれば、クトゥルフ神話に精神を崩壊させられ、人生を台なしにされてしまうということである。
正気度のルールは、われわれがいかに壊れやすくいかにはかないものであるかを示してくれている。
われわれが強いと思っていたものが妄想であり虚偽だということになり、
時には狂気こそ真実のために必要な状態なのだということになる。
狂気とバランスをとるために、ゲームをプレイするときには、ユーモアと笑いが絶対に必要なものになる。
よい雰囲気がゲームの暗い部分においても協調と結束をもたらすのである。
◆境界線での対処のしかた
探索者にたった1ポイントでも正気度ポイントが残っていれば、プレイヤーはしっかり探索者をコントロールできる。
ほとんどの狂気の探索者を、プレイヤーがどんな美学をもって表現するかということは、ロールプレイの神髄である。
探索者が弱まっていくならば、弱まってきたという微候を明らかに表現しなければならない。
したがって、狂気に近い探索者をプレイすることは、プレイヤーのコントロールが弱まるのではなく、
むしろ積極的なロールプレイが必要になるのである。
そのような探索者は自分の精神状態について語るべきである。
そうでなければほかの者たちは状況がわからないし、当然払うべき心遣いと同情をもって接することもできない。
「私の探索者の正気度ポイントは低いぞ」などと言ってしまうのは、そこから何も生まれない。
探索者の不安や恐怖を生き生きと描写し、それがゲームにどんな影響を与えるかを語れるプレイヤーは、称賛に値するだろう。
探索者の正気度ポイントが10以下になったら、明らかに深刻な状況になったことが自分でもわかるはずれある。
実際の生活でそういう状況になったら、たいていの人間は活動をやめてサナトリウムにでも入ろうとするだろう。
探索者も同じであるべきだ。
◆狂気の質
探索者の狂気はクトゥルフ神話の力の特性を示している。
すなわち探索者の振る舞いは制限されたものになるが、それでもロールプレイが表情豊かで面白いものになるということである。
不定の狂気に陥ってる探索者も、必ずしもサナトリウムに閉じこもっているばかりと限らない。キーパーとの間でもっと面白いものにしてもいいという話合いがつけば、そうすればいい。
深刻なことをするのでもいいし、ちょっとしたエキセントリックでひねくれたことでもいいし、バカげたことでもいい、
要はゲームの趣旨を損なわなければいい。
ほんのちょっとした例を挙げよう。仮に探索者が四六時中帽子を2つかぶると言い張ったとする。
そうしなければ自分の頭が無防備になってしまうと言うのだ。
ご婦人に向かって帽子を上げてあいさつをしたちょうどそのときに空が落ちてきたらどうするのかと言う。
2つの帽子は目に見えるものなので、キーパーのキャラクターはそれを見て何か言ったり批判したりする。
彼を弁護するため、探索者全員が帽子を2つかぶるようになる。どのレストランへ行っても、そんなみっともない格好の彼らを入れてはくれない。
2つ帽子の狂気の男はゲームから離れることはない。
ゲームは彼を受け入れるほどに幅を広げたのだ。
プレイヤーは自分の探索者が持つ狂気のさまざまな要素を、あまりにもたくさん演じようとするかもしれない。
しかし、それがゲームの邪魔になるようであれば、プレイヤーに対して公平を欠くことになるだろう。
このゲームでは、現実的な狂気の種類を多数示しているので、まずその情報に参考にしてスタートしてみるのがいいだろう。
ただし、情報がゲームの方向をコントロールするようでは困る。
特定の障害の再現に時間を費やすべきではない。
プレイヤーが探索者の狂気を演じるのに任せよう。時間がたてば狂気も変わるものだ。
狂気の治療
一時的狂気はすぐに終わるので、大掛かりな治療計画のようなものはまったく必要ない。
一方、永久的狂気の治療ということはほとんど意味がない。
一時的狂気の場合はすぐに治るので、気をつけなければならないのは、同じようなショックをさらに受けないようにすることだけだ。
永久的狂気とは、どんなに優れた施設に入って治療しても治らない狂気のことをいうからだ。
永久的狂気の境界線や期間はすべてキーパーが決めることであるため、治療という概念からはずれる。
不定の狂気の場合だけ、介入や治療が問題になるのである。
1D6か月ののち、さらなる心的外傷の危険もなくキーパーも承諾しているのであれば、
できる程度に精神のバランスを取り戻す。ここまで来るまでに受けてきたケアの種類は3つに分けられる。
その中から選択するためには、キーパーとプレイヤーはキャラクターの資産、友人や親戚、
そしてそのキャラクターが過去に分別のある暮らし方をしていたかどうかを考慮しなければならない。
◆自宅療養
考える限りの最良のケアは、家庭あるいはそれは似た暖かい雰囲気の場所で、思いやりのあるていねいな看護を受け、
ほかに患者がいるわけではないので邪魔もされないという環境にいることである。
<精神分析>か精神科治療薬の投薬が受けられた場合は、そのどちらかを受けている1か月ごとにD100ロールを行なう。
結果が「01~95」なら成功で、<精神分析>か精神科治療薬(どちらか受けた方、ただし両方ではない)によって1D3の正気度ポイントが加算される。
結果が「96~00」の場合は、精神分析者がヘマをやったか、キャラクターは1D6の正気度ポイントを失い、
その次の月まで病状に何の好転も見られない。
◆施設のケア
その次にいいケアは精神病の診療所で入院加療してもらうことである。過程で療養するよりも療養所の方がいいという考えもある。
療養所は比較的費用もかからず、ときには州からの補助で無料で治療を受けられるかもしれないからだ。
しかし、このゲームの時代である1890年代も1920年代も現代も、これらの施設の質は一様ではなく、
中にはかえって害になるかもしれないような施設もある。実験的・先進的な治療を施すクリエイティブな施設もあれば、
ひどいやり方で患者を監禁するだけの施設もある。
最近のアメリカでは、ほとんどの施設が満員か、犯罪的な狂気の患者しか受け入れないようになっている。
どの時代においても、他人が心のこもった効果的な手当てをしてくれるというのはまれなことなのである。
行動観察、徒手療法、精神科治療薬の投薬、水療法がよく行われる。
今日の電気療法も同じである。精神分析はやっていない。中には精神病向けの有効な療法どころか、患者を傷つけるようなことをする施設もある。
患者はただ怒りを覚え損害を受けるだけで、退院したあとはもう通院はしたがらないだろう。
D100をロールしよう。結果が「01~95」なら成功で、精神病投薬がうまくいったことで正気度ポイントに1D3ポイントを加算する。
結果が「96~00」の場合は、薬を飲むことを拒否したということで、キャラクターは1D6ポイントの正気度を失い、その次の月まで病状に何の好転も見られない。
◆放浪者とホームレス
探索者は放浪する路上生活になる。生き残るために必死の生活である。
放浪していた者はその間正気度ポイントを獲得することではないが、ホームレスのグループに入ることができ、
その中で1人でも友人が出来れば別である。友人を作るためには、D100をロールして[現在正気度ポイント+POW]以下の値を出す。
友人が出来た場合、毎月1ポイントずつ正気度ポイントが加わる。
1か月に1回、生き残りのためのD100をロールしなければならない。
結果が「01~95」であればそのキャラクターは生き残る。
結果が「96~00」だった場合は、病気や悪い条件や殺人事件の犠牲者となって死んでしまう。
最終更新:2021年03月23日 16:50