番長G応援SS




ヘブンズダストメモリィ


シュウォ!

透き通った油に乳白色の液体の飛沫が投入される。

「クク…なるほど。天かすで油の温度を測るというわけかい?大した職人技だ、恐れ入る」

笑みを浮かべる東(トン)カッツォ!
中国とイタリアのハーフである揚げ物狂(フライ・ハイ)の目がギラリと輝く。
言葉だけはいかにも感服したかのように見せているが、その言葉には侮蔑の色が滲み出ている。

アゲルの菜箸が虚空で9の字を描くたびに小麦を溶いた液体が油の中で踊り跳ねる。

「職人技などといえば聞こえがいいが所詮は体系化すらされていない個人の直観の産物…そんなものでトべる(フライ)ものかよ。カスはしょせんカスさ」

カッツォが湧きたつ油に抜き手を打ち込む。

「神よ!我に真実を示せ!」

古代呪術政治において罪の在処を神に問う儀式として煮え立った油に手を突きいれるというクガタチの儀式が行われていた。
カッツォが行ったのはまさにその技法であり温度は肌で感じる事で間違いをなくすという実にシンプルかつ高等な技術であった。

「クク…175℃!適温だ!」

カッツォが食材に衣をつけて油に投入する。
勝利の笑みを浮かべるカッツォ!

「お前は、他人を信じる心を持たねえんだな」

アゲルが静かに目を見開く。

「馬鹿め、信じられるのは当然己だけよ!我が腕、我が肌!」
「ああ、お前には聞こえないのさ。天の声が」
「なんだと?」
「これは記憶さ」

油の中で踊る天かす(ヘブンズダスト)が小さな泡に覆われ軽い音を響かせた。

「お前は手を揚げて食うのか?違うだろう?ならば最適な温度は天(ヘブン)に聞くのが一番さ。お前は触覚だけを頼った。だが俺は」

アゲルが衣をつけた海老を油に投入する。

「揚げる音、聴覚!衣の色、視覚!油の香り、嗅覚!そして当然伝わる温度を触覚で感じている!天かすの記憶(ヘブンズダストメモリィ)が俺の力さ!」

シュウォ!

海老の天ぷらが油の中で踊る。

勝負の行方は誰の目にも明らかだった



ミゴ西ギェリのプロローグSS


大きな湖のほとりに、一人の若者が立っていた。
若者の名は西ギェリ。
ニューブリテンの未来を憂う、志高き者である。
彼は両の手を広げ、湖に向かって呼び掛ける。
「ダカタウアの主よ。大いなるミゴーよ。我が前に姿を顕し、混迷たるニューブリテンに導きを与えたまえ――」

すると湖面より、巨大な怪物が現れた。
竜、と呼ぶにはいささか趣が異なる。
その怪物は、ワニのような頭部と、海獣のごときヒレを持ち、その背にはタテガミがあった。
名は『ミゴー』。古代種モササウルス族の末裔である。
「ミゴゴゴゴ……我を喚び出すとは、命が惜しく無いと見える。気に入った! 我が権能を汝に授けてやろう……受け取るが良い!」

ミゴーの姿が霧の如く揺らぎ、魔力の奔流と化して西ギェリに流れ込む。
そして光に包まれながら、一人と一頭は融合した。
頭部を覆う、ワニめいたフード。
全身を覆う、光輝く刃の甲鱗。
ニューブリテンの王を選定する者、竜種の魔導師ミゴ西ギェリの誕生である。

ギェリは、自らの鱗の一枚に手を掛けて引き抜こうとした。
「ミ……ミゴォオオオ!」
むちゃくちゃ痛かったが、なんとか抜けた。
引き抜いた鱗は、ギェリの手の中で剣の象に変貌していた。

「レアデル……ボヌス……!」
剣にはMSゴシック体で“LEADER BONUS”と刻まれている。
この剣を持っていると、ギェリは自分こそが選ばれし王ニューアーサーであるとの自覚が湧いてくると同時に、攻撃+3されてるような気がしてきた。

ミゴーと融合して新王ニューアーサーとなったギェリは、意気揚々と町に戻った。
鱗を引き抜いた箇所が痛むので、足取りは少し重たかったが心は軽かった。

「みんな! やったミゴ! 我こそが新たなる王ミゴ!」
輝けるレアデルボヌスを高く掲げ、ギェリは高らかに宣言した。

しかし、物言いが入った。
「ちょっと待って、俺にもその剣を抜けないか試させてくれ」
「ミ、ミゴ? ミゴォオオオォオオオ!?」
抜けた。

「じゃあ私も」「ミゴォオオオオオ!?」
「僕も」「ミゴォオオォオオオ!?」
「俺も俺も」「ミゴォオオオオオォオオオ!?」

瞬く間に何十人もの群衆が群がり、ギェリの身体中から鱗を剥ぎ取った。
そして、何十人ものニューアーサーが誕生し、ニューブリテンに覇を競うことになるのだが、それはまた別のお話。

鱗を剥ぎ取られたギェリは、全身の激痛でしばらくは這うことすらできなかった。
そして思った。もうこんな島は嫌だ、と。

(……そうだ。日本に行くミゴ)
ミゴ西ギェリは思い出した。
かつて、遠い国からやって来て、ミゴーのことを熱心に調査していた人々のことを。
きっと日本なら、全身から鱗を剥ぎ取るような酷い目に遇うことはないだろう。
ミゴ西ギェリは、傷が癒えるとすぐに日本へ向かって太平洋を泳ぎ始めた。


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最終更新:2019年05月29日 09:24