9 名前: 774RR [sage] 投稿日: 2008/03/27(木) 00:11:12 ID:hB7oDPPy
連れの兄貴の話。
学生からの連れ、Yに俺の4つ上の兄貴、Aがいた。
乗っているのがMT原付。いい年だったが免許は原付だけ。
愛車は惚れて即買いしたというRZ50だった。
携帯も持たず、休みになればフラリと消えて、特産品をお土産に帰ってくる。
起きていて家にいる時は飯か風呂か、車庫の隅で工具握ってる。
俺も何度かお土産をもらったり、RZに乗らせてもらったりした。
バイクを教えてくれたのはその人だった。
何度も各地の山や、名所へ連れて行ってもらった。
夜中にパンクして、助けてもらったこともあった。
原付しかないけどバイク好き、そんな人だった。
「夜中のバイパスってさ、高速みたいですげぇ綺麗なんだぜ」
「そういえば中免とか取らないんすか?」
「まぁ、金が貯まったら、取れればいいな」
そんなAがいきなり亡くなってしまった。
仕事場で倒れ、病院に運ばれ、半月も経たずに逝ってしまった。
短い入院中に病棟の窓から、俺に持ってこさせたRZを見るあの顔は、未だ忘れられない。
枕元には常にキーを置いて、今輪の際にも鍵を持っていたそうだ。
その時、俺にはそれが怖くすら思えた。もう十年近く前の話だ。
この前、Yと久しぶりに飲んだ。この時、俺は初めて真実を知った。
Yの家はAが学生の頃、親父さんの職場が潰れ、親父さんも倒れ、大変な時期だったらしい。
学校が終わるとAはバイトをし、家族の生活費を稼いだ。
Aは学生時代はバイトで金を貯めることが、出来なかったのだ。
高校卒業の手前で親父さんが退院、だがAは進学はしなかった。
「大学とか、そんなことが出来る状態じゃなかったんだよ」
座った目で、Yは話を続けた。
高校卒業後、Aはバイトしていた近所の工場に就職した。
毎日油まみれの作業服で、洗濯が大変だったそうだ。
そして、少しずつ金を貯め、あのRZを買った。
一方、親父さんは退院後、自営業を始めた。
仕事が軌道に乗り、Yの家は一気に裕福になった。
Yも車の免許を取り、親父さんに車を買ってもらった。
Aは、RZに乗り続けた。雨の日も風の日も、台風や雪でも。
「俺は全部親が買ってくれた・・・兄貴は、全部自分で買った」
Yは伏目がちにコップを空けた。
車の納車の日には、よかったな、よかったなと一緒に喜んでくれたという。
「兄貴な、最後の時はずっと鍵を握っとった。」
「親や俺が手を握って、反対の手はずっと鍵を握っとった。あれだけやった、兄貴には、RZしかなかった」
Aの葬式の日の事を思い出した。
庭にRZを押していき、バイク屋の人がエンジンをかける。
響く2stサウンド。だが、それに答える者はもういない。
全開、高鳴る高音・・・・やがて、回転と音が静まり、火が落とされる。
エンジンが切られたとき、自分が崩れ落ちた事を覚えている。
出棺の前、遺言でしてほしいことだったそうだ。
そして、メインキーは棺の中へ。
今頃、彼は向こうで走っているんだろうか。
RZを見ると、Aを思い出す。様々な思い出を。
最終更新:2009年01月17日 17:39