238 名前: 774RR [sage] 投稿日: 2008/04/07(月) 16:28:42 ID:pdhLDYJk
小学校一年生から友人だったS。
Sが高校2年で取った中型免許。
夜中に当ても無く2ケツでフラフラと走りに行った。
高校を出て、それぞれ大学に進学し、自分は中型の免許を取り、Sは大型二輪を取った。
ちょっとした連休になるとすぐに二人で走りに行った。メンテナンス工具もお互いが持っていない工具を選んで買った。
200円差の工具で何故か殴り合いの喧嘩までした。

大学3年の夏、突然あった電話。Sの親からだった。
その年、Sと北海道に3週間行く予定だったのでその件かと思っていた。Sの親と話し、電話を切ってバイクに跨がりSの家に向かった。
Sの家に着いた途端、友人に殴られた。

「テメー!!Sは事故って死んだんだぞ!!」

Sの親と自宅で話してから殴られるまで正直、自分は何も憶えていない。
気が付いたら昔からの友人に馬乗りで殴られていた。
当然の事だ。

Sの親に会った。
「お願いだから今後バイクには乗らないでくれ。でないとSには会わせない」
と言われた。
通夜の帰り道、自分のバイクを押して帰った。
二日後、俺はバイクを手放すべく、良く通っていたバイク屋に持って行った。
バイク屋のおっちゃんからSの車両を預かっていると聞かされたが見せてはくれなかった。

その日の深夜、懐中電灯を持ってバイク屋の修理倉庫の窓から覗き込んだ。
Sのバイク。相変わらずクローム部分が光っている。今にもSが来てエンジンをかけるような感覚というか、
想像というか、そんな物に自分は捕われていた。とにかく近くで見たかった。
鍵の閉め忘れ窓を探し、中に入り込んだ俺はSのバイクに近づいた。
月明かりでタンクが輝いた。綺麗な曲面の輝きではなく、歪んだ輝きを放っていた。
クランプまわりに設置していたメーター類は何かに押し潰れたように歪み、割れていた。
ようやくSが死んだのだと悟った。真っ暗な倉庫の中で俺はひっそりと泣いた。
Sのバイクにもたれ掛かかり、Sの死を受け入れようともがいていた。

翌日、バイク屋に向かい、おっちゃんに夜入り込んだ事、そこで見たSのバイクの事を話した。
何も言わず倉庫を開け、Sのバイクを見せてくれた。
その夏、おっちゃんに頼み込んでSのバイクを必死に直した。おっちゃんも時々手伝ってくれた。
夏の終わり、Sのバイクは綺麗に修理出来た。エンジンは擦り傷だらけだが問題無い。
だが、歪んだタンクだけは修理出来なかった。タンクに触れられなかった。
そのままシートを被せ、その夏が終わり、秋が始まろうとしていた。

あれから13年。すっかり過去の思いでとなり、日々の生活をしていた。
一切バイクには乗らず、当時の事を知ってる嫁はバイクの話題さえ出さない。
そんな中、バイク屋のおっちゃんから連絡があった。店じまいをするから遊びに来いと。
自分にとっては13年振りのバイク屋。当時よりすっかり頭が白くなったが元気なおっちゃんがいた。
当時の事を色々と話したが、13年前に自分が修理したSのバイクの事にはお互い触れなかった。
帰り際、一通り挨拶を済ませ、車に乗り込む時におっちゃんが見てもらいたい物が有ると言った。

倉庫に通され、埃まみれの見覚えが有るシート。当時、自分が掛けたシートだ。
自分でも薄々気付いていた。おっちゃんがSのバイクを今でも保管している事を。
処分しないでいつか自分が取りにくると思っていてくれていたようだ。
Sに線香を上げ、Sの親に話を通し、Sのバイクを引き取る事にした。Sの親は修理をしていた事を知っていた。
今は教習所で大型の免許を取得している最中だ。来月には取得できるだろう。
バイクはおっちゃんがたまにエンジンを掛けてくれていたおかげで、どうにかこうにか走れる。
免許取得までにメンテをして復活させてやるつもりだ。

S、お前が死んでからもうすぐ14年だ。
お前はあのまま時間が止まってしまったが、俺はそろそろいいおっさんだ。
おまえのバイク、おっちゃんが取っておいてくれたんだ。
今度、おまえのバイクで墓参りにいくからもう少し待っていてくれ。
バイクは一ヶ月くらいなら置いていいと坊さんから許可もらったから駐車場に停めておくよ。
全部当時のままだけど、キャブセッティングが上手くないからって怒るなよ。
おまえが取れ取れとうるさかった大型免許も、もう少しで免許取れるからそれまで待っていてくれ。

じゃあなS。

初めてアクセスした2ch。
皆様のお陰でメンテのやり方を教えてもらい、どうにかこうにか走り出せそうです。
Sにもこの事を伝えようと思います。
お礼の意味も込めて書き込みさせて頂きました。
本当に有り難うございました。

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最終更新:2009年01月18日 17:55