619 名前: 774RR 投稿日: 2008/05/09(金) 19:24:09 ID:dZ3F5F19
それは病院からの電話だった。
兄貴とその彼女がバイクでツーリング中にセンターラインを越えてきた対向車と接触、兄貴は病院に運ばれたが2時間後に息を引き取ったのだ。
彼女のバリオスも転倒したが幸い彼女は軽傷で助かった。
病院で泣きじゃくる彼女、兄貴を失った悲しみでその時は慰めの言葉すらうかばなかった。
1年後、彼女が家に挨拶にきた。
就職が決まりこの町を出るといういう事だった。兄貴の思い出話で和やかに時は過ぎた。
彼女が帰るとき、もうこれでこの人とも会えないのかなと思うと悲しかった。
そう、俺はこの人を好きになっていたのだ。
それから3年の時が流れ、俺はサラリーマンになっていた。
新しい出会いがあるわけでなく、ただぼーっと過ごして来た俺にある日転機が訪れた。
仕事の帰り道、赤いバリオスに乗った女性ライダーを見かけたのだ。
クシタニの赤ジャンパーに黒い革パン、まさにそれは俺が知っている彼女だった。
アクセル全開!俺は原チャリだったが夢中で追いかけた。
赤信号でならび、おもいきって声をかけた
『あのう、もしかして…さん』
ところが信号が青にかわると同時に彼女は猛スピードで走り去っていった。
人違いだったか、いやフルフェイス越しに見える瞳はまさしく彼女に違いなかった。
そして俺は彼女の実家へと向かっていた。
確かにそこに赤いバリオスはあった。やっぱり彼女だ!
そう確信した時だった、急に玄関の明かりがともり彼女が出てきて、
こう言い放った
『つけてきたんですか?警察よびますよ!』
ガーン!!俺はストーカーに勘違いされているようだ。
やっぱ3年もたつと人間て忘れてしまうんだろうか、俺は吃りながら◯○の弟ですと自分の事を話し始めた。
ひと通り話し終えて彼女を見るとさっきの怒った顔から笑みがこぼれている。
俺は今でも彼女が兄貴のことを想うあまりに記憶が混濁してるのかなあとか勝手に思いながら彼女をみた。
すると突然、彼女が
『ごめんなさい、姉と勘違いされたんですね、亡くなったお兄さんのこと、そして弟さんの事もよく姉から聞かされておりました』
と、バリオスは彼女が就職する際に姉から装備一式譲りうけたものだったのだ。
よくよく顔をみるとそっくりではあるがやはり違う、忘れていたのは俺の方だったのだ。
彼女とうちとけてきたところで、
「お姉さんはお元気ですか」
と聞いてみると、
ちょっと困惑したような感じであったが結婚が決まったとの事だった。
俺はショックではあったが無事立ち直ったんだなと心から喜んだ。
そして家に帰り車庫に眠る兄貴のCBを眺めて、ぼーっと過ごしていたらなんか涙があふれて止まらなくなってしまった。
なぜか俺は翌日、大型免許を取得すべく教習所に向かっていた。
無意味に過ごして来た3年間に終止符を打ちたかったのかもしれない。
無事免許を取得して車検を通した。
家でCBのメンテをしていると、あの赤いバリオスに乗って彼女の妹が俺の家にやって来た。
姉の結婚式の招待状を持ってきたとの事だった。
あの時のストーカー勘違いの事とかバイクの事とか
2度目の対面とは思えないぐらいに俺たちは打ち解けていた。
そして結婚式、俺は心から彼女を祝福した。
出会いは人を変える。
今は半年前とは別の人生を歩んでいるように充実している。
兄貴も一緒に走ったあのバリオスと今度は俺が一緒に走っている
兄貴のCBとともに。
最終更新:2009年01月20日 23:37