505 名前: 774RR [sage] 投稿日: 2007/12/25(火) 17:41:40 ID:xwJmxRGq
オフ車に乗っているオレは、実は今年の春まで林道はおろか、砂利道さえ恐くて走れない小さい男だった。
5月の暖かい日、いつものように漫然と舗装路を走っていたわけだが、
ある林道の入り口を偶然目にして、どうしてもその林道を走ってみたい、チャレンジしてみたいという気がわいてきた。
初めての林道走行、とても恐かった。
大きな石がゴロゴロしていてハンドルはとられるし、日陰の泥水で車体も人も汚れるし、
正直、もう絶対来ない!と心に堅く誓ったものだ。
それでも、引き返すことだけはしなかった。
今後、林道なんか走ることはないだろうし、人生のうちたった一度かぎりの苦行なのだから、なんとしても走り抜こうと頑張った。
滑ったり転んだり、全身ガチガチになりながら走っていると、少し開けたところに出た。
休みもなしに走っていたことに気づき、そこでようやく休憩を取ることにした。
エンジンを止めてヘルメットを脱ぐと、ギスギスしていた自分の気持ちが、すーっと和らぐのを感じた。
なんと気持ちいいのか、この山々の緑。聞いたこともない鳥のさえずり、葉ずれの音。
しばらくぼーっと浸っていると、あの小動物の小さな声が聞こえてきた。声を頼りに歩いてみると…。
猫だ。定番の段ボール箱に、3匹の子猫が入っている。
段ボール箱そばに、なんとか抜け出したのか1匹の子猫。
近づくと、ミャーミャーとうるさく鳴いている。生後一ヶ月くらいか。
和らいでいたオレの心も一転、なんとも胸くその悪い、やり場のない怒りで満たされてしまった。
さてどうしたものか、オレは自問自答した。
4匹の子猫を、独身アパート(ペット不可)で飼い続けることはできるのか?
大家や他の住民にバレてしまっても、すぐに引っ越すことはできないし…。
そもそも、どうやって連れて帰るんだ?
オレは泣く泣く、その場を離れることにした。
せめて、猫どもがなんとか自分の力で生きていけますように、
車でとおりかかるオレよりも親切な人に拾われますように、と願いながら。
その場を発って少し走ると、すぐに舗装された道路に出た。
オレはホントにムカついた。
捨てたヤツは、故意に、舗装路から奥まったところに猫どもを放置したのだ。
せめて舗装路のどこかであれば、人目につく可能性も大きいだろう。
あえてあの場所に捨てたのは、いわゆる未必の故意だ。
子猫どもが死ぬとわかっていながら、あの場所を選択したのだなと思うと、腹の中心が重くなる最悪の気分になった。
自宅アパートに帰りつくまで、どこをどう走ったか、覚えていない。
風呂に入る頃になると、小雨が降り出してきた。
あーもう最悪だ。
そこで、酒だ。大量のビールと5合ほどの日本酒、申し訳程度のつまみで、なんとかその晩は寝た。
翌朝、オレはツーリングに使っているシートバッグにバスタオルを2枚詰め、あの林道に向かって走った。
昨日の帰り道、林道出口を覚えていなかったので、また入り口からやり直しだ。
もう二度と走らないと誓った林道を、オレは気合いで走った。体は昨日の走りで痛かったが、心なしか、乗れている気がする。
事実、転けることはなかった。
子猫が捨てられていた場所に着いた。
ところが、段ボール箱はあるものの、子猫の姿が見あたらない。鳴き声も聞こえない。
良かった、ホントに親切な人がいて連れて帰ってくれたんだ、と安堵した。
ずぶ濡れの段ボール箱を眺めて、本気でどこかの誰かに感謝した。
ところが…。
その濡れて崩れそうな段ボール箱の中、オレの目の死角になったところに、小さな子猫が1匹蹲っていた。
息はしている、触ると声にならない鳴き声を出すが、目はつぶったままだ。
他の子猫たちは拾われたのに、この死にそうなヤツだけは残されたのか?
あるいは、比較的元気だった他の兄弟たちは、段ボール箱を脱出して自力で生きていく道を進んだのだろうか?
オレは20分くらい、姿の見えない兄弟猫たちを探したてあきらめた。
残された子猫の、濡れて冷たくなった小さい体をハンドタオルで拭いて、
シートバッグの中、バスタオルでくるむように包んでアパートへ連れ帰った。
猫を飼うのは初めて、それも子猫からだ。
獣医に診せると
「生後一ヶ月くらいだな、栄養失調で下痢が止まらないね。キミが飼うの? 長くは生きないよ、安楽死を勧めるけどな~」
なんて言われた。
酷い言いようだったので、「オレが飼います。元気にしてみせます!」とタンカ切って、その動物病院を飛び出した。
でも心配だったから、他の動物病院を3件回った。口調に違いはあれ、同じようなことを言われた。
オレはがむしゃらだった。貧乏だったから図書館へ行って、子猫の飼い方とかいろいろ読みあさった。
2・3時間おきくらいに栄養を与えないと行けないので、仕事を1週間休んだ。
ゴートミルクを奮発し、高い猫缶を混ぜたりしながら、とにかく飲ませて食わせた。吐いても食わせる、そんな勢いで。
するとどうだ、1日1日と、子猫が元気になっていったじゃないか。
目が開いて、かすれ声だった鳴き声もうるさくなり、腹もまん丸となってきた。
毛づやも綺麗なオレンジに染まっている。画に描いたような子猫だ。
嬉しかった、可愛かった! 行方不明の兄弟たちの分もオマエは大きくなれよ、なんてね。
6月なったばかりのある日、子猫がまったくエサを食べなくなってしまった。
オレのベッドの片隅で、体を丸く小さくしてずーっと寝ている。
心配になったオレは獣医の元へ。
すると
「生後すぐの頃、必要な栄養が十分得られなかったための欠陥でしょう」
とのこと。
点滴を打ってもらって家へ帰ると、少し元気になったようで、
ニャーと鳴きながらオレのあとをついてくる…
いや、ついてこようとしている。
歩こうとしているのにうまくいかないようで、足下がふらつき右へ左へと倒れそうになりながら、それでもなんとか立っている。
その夜、そいつはずっとオレのそばを離れなかった。
風呂に入っているときも、トイレの便座のフタの上で丸くなっている。
ビールを取りに冷蔵庫へ行くときも、転びながらついてくる。寝るときも、オレの枕の上を占領していた。
朝、目が覚めても、子猫の状況は変わってなかった。
あわてて再度、病院へ。最初に診てもらった病院だ。口の悪い先生だったが、切々としかし丁寧に説得された。
安楽死をさせることは罪ではないよということも。
それでもあきらめきれないオレに「…ダメもとでも入院して様子をみるか?」と、獣医は根負けしたかのように言った。
その一言でオレは決心した。この冷たい狭いオリにいれることを入院というのか?と。
寂しがり屋のこの子猫を、そんなところにおいて行けるのか、と。
そんなオレを察してか、獣医はさらに言った
「この子は十分頑張ったよ、キミもな」
まぁ、そんなこんなで、子猫はいなくなってしまいました。
林道は…。ハマっていまも走ってます。
猫嫌いの人すみません。
長文ごめん。
最終更新:2008年02月06日 18:05