556 名前: 774RR [sage] 投稿日: 2007/12/27(木) 15:13:45 ID:cxtrLDtt
ながいけど、いいかな。
18歳の夏の出来事。
俺が生まれる前に親父が死んじまって、我が家は母子家庭だった。
あんまり金もなかったので夏休みに遊ぶためにバイトに明け暮れていた。
みんなが浮き足立つ中、必死でバイトに明け暮れる俺。
バンドだのなんだの好き勝手やって、車の事故で母親と俺を置き去りにした親父をちょっと恨んだりもしてた。
夏休みを迎える直前、
母親がいきなり茶色い封筒を渡してきた。中身を見るとなんと大金10万円が入ってた。
「Y、あんたこれでバイクの免許取ってきなさい」
訳がわからなかったが、母親を怒らせると弁当がカットされる。
夏休みまでまだ半月以上あり昼飯代も惜しかったので、別段興味もないままバイクの免許をとりに行った。
正直、10万円にクラっときたって言うのもあった。
夏休みがはじまって少したったころにはバイクの免許も無事取れて、バイトのおかげもありそこそこ遊ぶ資金も貯まっていた。
これでちょっと気になるFと海とか行っちゃったりして、俺もとうとう脱・童貞?なんて考えていたのに、
またも母親が、
「山梨の鈴木さんとこに行ってきなさい、バイトで稼いだお金、あるでしょ」
といわれた。
Fとの砂浜での追いかけっこは保留になった。
なぜならこの時期に母親を怒らせると、晩御飯がカットされるからだ。
鈍行で揺られること3時間以上。親父の昔のバンド仲間の鈴木さんの家に着いた。
鈴木さんはすげえ髭がもじゃもじゃしてるのに、頭は五分刈りでやたらでかい。
鈴木さんの家にはTちゃんという俺より一個下の娘さんがいて、鈴木さんとは似ても似つかないくらい可愛かった。
高校に上がるまではよく、鈴木さんを含め親父のバンド仲間と一緒にキャンプなんかしてたけど、
しばらく会わない間にちょっと大人っぽくなっててドキドキした。
その日は夜も遅かったので、焼き肉をくって寝た。
Tちゃんとお風呂で鉢合わせしそうになって、またドキドキした。なんか胸もおっきくなってた。
次の日の朝、早く鈴木さんにたたきおこされて、いきなりメットとゴーグルを渡された。
着替えて朝飯を食って歯磨きをするとガレージに連れて行かれた。
「Y、今日からお前のバイクだ」
といわれた。
ホンダのCS90だった。クローバーのキーホルダーがついた鍵を投げ渡された。
正直、何がなんだか分からなくって、鈴木さんはにやにやしてるし、Tちゃんのふとももはまっしろだし、
いきなりバイクの鍵渡されるし。
「お前の親父が乗ってたバイクだ、車はオシャカになっちまったが、 遺言でバイクは俺が面倒をみていた」
手紙とトランク。
交通事故にあった親父が、病院で束の間に意識を取り戻したとき、鈴木さんに用意してもらい託したそうだ。
内容はこうだった。
もし自分が死んでしまった時は、息子の俺が18歳になったらバイクの免許を取らせるように。
そして預けてあるトランクをCS90に乗って母親に届けるように。
親父の肉筆だった。
今まで写真でしか見たことがなく、無責任で嫌いだった親父が少し近くに感じられたものの、
なんでこんな面倒くせーことを押し付けるんだろうと嫌な気持ちになった。
俺がちょっと感傷的になっていると、いきなりTちゃんがけたたましく笑った。
「じゃあ、練習な。」と声をかけられるといきなり鈴木さんがCS90に跨っていた。
まるで、ボリショイサーカスの熊みたいだった。俺も笑いが止まらなかったが、 鈴木さんがすげえ怖い顔でにらむので、
メットをかぶって後に乗った。
「はぇえ!」初めてのバイクに興奮した俺はつい叫んでしまった。
「だろ!そんなおそくねーんだよ、原付なめんな!」鈴木さんがなんか ガキっぽいことを叫んでいた。
ボリショイサーカスの末、でかい空き地に到着。
なぜか既にTちゃんがその場にいた。しかもモンキーに乗って。
「T!ミニスカートでのんなっていってんだろ!」と鈴木さんがすげえ怒った。
「ふだんはちゃんとジーパンはいてるじゃん!」そんな二人のやり取りをよそに、
俺はTちゃんの太ももに目が釘付けだった。そして、鼻血が出た。
気がつくと木陰でTちゃんに膝枕をされていた。
「いま、お父さんポカリ買いに行ってるから」とTちゃんが微笑んだ。
バイト疲れと旅疲れ、そして熱射病で鼻血を吹いてぶっ倒れたらしい。
なんかかっこわりー、と起き上がると鼻がフガフガした。ティッシュが無造作に鼻につっこんであった。
くしゃみが出てティッシュが飛んだ。鼻血は止まっていた。
またTちゃんが笑った。ほんと、かっこわりい。
「熱射病で鼻血だして倒れる人なんてはじめてみた、死んじゃうかと思った」
本当のことは言えなかった。鈴木さんが戻ってきて、ポカリを飲んでから練習がはじまった。
ロータリー4速に慣れるころにはお昼になっていた。
一旦、鈴木さんの家に戻り奥さんの作ってくれたオムライスを食べた。
ちょっと昼寝してから宿題やって、バイクの説明と親父の昔話を聞かされた。
夜になって夕飯を食べ終わると、鈴木さんが、
「ちょっとこのあたりをY君と走って来い」とTちゃんに言った。
二人で夜の街を走る。Tちゃんは良い所があるんだよといって、国道を走って川を渡って少し山を登った。
そこはちょっとした公園みたいになっていて、夜景が綺麗だった。
二人で他愛も無い話をして、帰る途中でお祭りによってかき氷を食べた。
神社で交通安全のお守りをくれた。
上着を脱いで襟のだらんとしたTシャツをパタパタするTちゃんの無防備な胸元に目がくぎ付けになったが、
なんでもないふりをした。髪をほどいたTちゃんは ブリリアントグリーンの川瀬智子に似ていた。
ふたりでベンチに座って他愛も無い世間話と父親についての話をした。
俺はただただ親父が嫌いで、何で嫌いなのかも分からないくらい嫌いで、Tちゃんには鈴木さんってお父さんがいて、
Tちゃんは お父さんつまり鈴木さんのことがちゃんと好きで、ちゃんとピースがそろってて、
うまくいってる家族って言うのがとても羨ましかった。
あくる朝早く、帰路につくため、トランクと荷物をシートにくくりつけてると、
鈴木さんが夏用のメッシュグローブとサングラスを餞別にくれた。
Tちゃんはまだ眠っているからと出てこなかった。お守りを書類入れにつっこんで出発した。
少し後ろを振り返るとTちゃんが窓辺にいるのが見えた。
早朝の空いた国道を走りながら親父のことを考えてみた。
よくわからなかった。どんな人なのかも見たこと無かったから。
昼まで休まず走って、鈴木さんおすすめのカレーが食べられる、湖の近くにある喫茶店に入った。
カレーを頼んで昼飯にして、食後にコーヒーを頼んだ。おっさんが機嫌よくコーヒーをいれながら話し掛けてきた。
「どっからきたの?いいバイクのってんなー」
軽く世間話をして、喫茶店を出る前に俺のすんでる町まで後どのくらいかを聞いてみた。
「順当に行けば3,4時間でつくよ、気をつけな」といって
自家製だというのコーヒー飴をくれた。
喫茶店を出てしばらく湖沿いを走っていると、突然バイクがもーんという音を出して止まってしまった。
なんとなく気持ちが良かったのでバイクを寄せて湖を眺めてみた。
湖を通りぬけてくる風のおかげで、夏なのにそれほど暑さを感じなかった。
ポケット地図を確認してからエンジンをかけようとするとやっぱりかからない。
何回かキックすると一瞬かかるがすぐにエンスト。
参ってしまった俺は、鈴木さんから教わっていたとおりに車載工具出してみた。
何の知識もなかったのでとりあえず出すだけ出した。車載工具を入れてある袋に、古びた封筒と二枚の便箋がはいっていた。
Yへ
エンジンかかんなくなったか。ザマーミロ。
バイクってのはたまに拗ねるんだよ、おまえの母さんと一緒だ。
喫茶店でカレーくったか?うまかっただろ。ちょうど今ごろ気持ちよくって
湖で一休みか。コーヒー飴をとりあえずなめてみろ。
落ち着いたらまあリザーブコックを回して車体ゆすってみな。
鈴木はケチだからガソリンがそろそろなくなるころだ。
安心しろ。つぎのスタンドまでは持つさ。
おれはおまえが今まで走ってきた道をよく走ったんだ、カレー食って
コーヒー飴舐めてな、もちろん、おまえが今乗ってるバイクで。
安心していい。俺は、おまえと走っているぜ、いつでも。
追伸;おまえのことを愛してる。でも一番は母さんだ。
Sより
2枚目には男としてやっちゃいけないことの一覧表が書いてあった。
親父の手紙の通り、コーヒー飴を舐めてコックをリザーブ位置にして車体をゆすると、エンジンがかかった。
ガス欠に気づかないなんて我ながら馬鹿らしくなって笑いながら出発した。
笑っているのに走ってるうちに涙がでてきた、どんどんでてきて止まらなかった。
親父が嫌いなんじゃなかった。
ただ、親父がいないって言うだけで友達から疎外感があったり、陰口を叩かれた知ることが嫌だった。
それがいつのまにか親父を嫌いだという感情にすりかわっていた。
親父が死に瀕していたとき、俺はまだ目も開いてないガキンチョで、親父の顔だって覚えちゃいなかった。
でも親父はちゃんと俺の顔を見ていてくれたんだという確信がいつのまにか生まれていた。
涙は止まっていた。親父は存在しないが、存在したっていうことをやっと受け入れられたような気持ちだった。
親父がすぐそば平走しているような気がした。スタンドまでは余裕だった。
帰って母親にトランクを渡した。開けると2本のテープと母親宛の手紙、それから腕時計が入っていた。
母親とテープを聞いた。
1と2と書いてあったので1から聞いた。
1には親父から俺へのメッセージが詰まっていた。ここじゃかけないようなこっぱずかしいやつだ。
でも、ここまで親父のバイクで帰ってきた俺の心にはちゃんと響いた。
親父は俺のことを息子だと思っていてくれて、ちゃんと考えていてくれた。
俺が男として生きる方法をバイクと通して教えてくれた。
ゴールにはメッセージまで用意して。
2には当時親父がやっていたバンドの音源と、ザ・ジャムのイートゥンライフル、
ローリングストーンズのアンジィのカバーが入っていた。
それを聞きながら母親は手紙をよんでちょっと涙目になっていた。
晩御飯は大好物のチーズハンバーグとフライドポテトだった。
夏休みが終わった。Fとは海にいったけどあんまり盛り上がらなかった。
結局その夏は童貞のままだった。Fの太ももにはちょっとどきどきしたけど、そんなでもなかった。
それよりなんか、バイクにのりたかったんだ。
俺はちょっと変わった、前みたいに冷めたやつじゃなくなったし、バイクも楽しくなった。
その後、俺と同じこっちの大学に進学するすることになったTちゃんが、
我が家に下宿してるうちに付き合い始めて大学出てから婚約した。
鈴木さんが、おれがYのおやじになるよ!とあつっくるしくせまってきたが笑いながら遠慮した。
だって俺の親父はあいつしかいないんだ。
だから今でも休みの日にはTを後ろに乗っけて親父の歌を口ずさみながら風を切る。
親父とおんなじように。
いじょうです。泣けた話って言うか
俺が泣いた話でした。
文章へたですいません。
でも読んでくれた人がいたら、ありがとう。
とーちゃんおれ、げんきだよー。
らいねんこどもうまれるよー。
最終更新:2008年02月06日 17:31