1               *序章            1958.4.22~

記憶にある映像といえば、モノクローム、あるいはせぴあ色の昭和の風景。
父と母と私と祖母、祖父、叔父や叔母がひとつ屋根の下に暮らしていた。

玄関を開けると、ちりんちりんと音がした。あれはなんという名前のものだろう?最近はとんと見かけないが、要するに玄関の扉の開閉を家人が気づくように防犯のために扉の上部についていた。こう考えると、玄関の施錠は常にはしていなかったということになる。
田舎ならともかく、まわりには田んぼや畑といったものはなく、当時国道2号線が目の前に建設されるような生活環境であったが、まだ平和な時代だったんだろう。
おかっぱ頭で、素足に歩くと音のする木のつっかけが定番。向かいのミヤちゃんの家の前でござを敷いてままごとをする光景が思い浮かべるのは、後々見たアルバムの中のひなびた一枚の写真のせいだろうか。
父ちゃんは毎朝自転車で出勤する。母ちゃんも出勤。どちらも公務員で勤務先はすぐ近くだったし同居で祖母に私を任せられる環境もあって私が小学校に上がるまでは母はいわゆる職業婦人だった。それを寂しいとか思った記憶はまったく無いのは、やはり父の兄弟が同居で総勢9人の大家族だったせいなんだろうか。初孫ということで、祖母はもちろん叔父や叔母からちやほやされ、クリスマスや誕生日もらえるおもちゃやお菓子は独り占めできた。みんなが私中心に楽しそうに笑っていた。生まれておよそ7年間この環境に身をおいていたことになる。
そこで見たものや聞いたこと、感じたことが、なぜかすごく鮮明で、今なおそのときにタイムワープしてしまったかと思うほどリアルなのはなぜだろう。


最終更新:2007年08月27日 15:08