767 ID:yIoRQx6o

こんな寝苦しい夜、主は稀に、私と同衾することを望むことがある。
この世に神なるものがいるかはどうか分からぬが、このときばかりはその神とやらに感謝したくなる。
この気温と、主の心を決めた神に。

主に粗相のないよう、先にシャワーは済ませておいた。
あのカエルのような草の匂いはしないが、その代わりに主が気に入りといっていた石鹸で体を洗った。
主はまだだろうか。そう思うと心臓が早鐘のように鳴る。

768 名前:VIPにかわりましてパー速からお送りします[sage] 投稿日:2007/07/01(日) 18:06:02.06 ID:yIoRQx6o
「お待たせー」
その言葉に私はドアを見た。主だ。寝巻き姿だ。
「いや、待っていない。私も今上がったところだ」
「さっきまで、俺風呂はいってたんだけど」
……失言だったか。まあいい。既にベットメイキングは済ませてある。
よっこいしょ、と主が横になり、
「こっちこいよ」
と、隣の枕を叩いてみせた。
嗚呼、主。私はその仕草だけで、呼吸が停止してしまいそうだ。
貴方は一挙一動で、私を殺そうとする。最強のポケモンが私なら、貴方はその最強をゆうに超えている。
だから主、貴方は貴方の存在を、誇っていい。
「……? どうした、ミュウツー」
などと考えていると、主の声が聞こえた。しまった、またどこか遠くへ行ってしまっていたらしい。
何でもありません、と言って、私は隣の枕に頭を預けた。


769 ID:yIoRQx6o

そこから先は、他人から見れば他愛もないだろう、しかし私から見れば重要な話が続く。
今日のバトルの事や、起こった出来事。明日の予定。その他もろもろの雑談。
否、雑談といっても、私にとっては重要な情報だ。
主のパートナーとして、主のことは何でも知っておきたい。
その目でどんな世界を見ているのか、何を感じているのか、どんな風に生きようとしているのか――
全てを、知りたい。

やがて、話は終わった。
「おやすみ、ミュウツー」
「おやすみ、主」
枕元の電気を消すと、辺りは急に静かになる。
聞こえるのは、布の擦れるかすかな音だけだ。
……まずい、眠れない。明日のことを考えれば眠るほうがいいのだが、主が近くにいると目が冴えてしょうがない。
普段から鋭敏な感覚がより研ぎ澄まされ、主の脈動の一つ一つまで全て聞こえてしまう。
横を見ると…………駄目だ見ないほうがよかった余計眠れない。
夜目が利くのはいいことだが、こんな主の寝顔を見て眠れなくなるなら視力など……いや、寧ろ見えたほうが……

770 ID:yIoRQx6o

「…………ねないの?」
不意に声が聞こえ、心臓が跳ねた。主だ。
「いや……寝る。眠る」
「そう? なんか、さっきから起きてるみたいな感じが」
貴方の寝顔が罪だ、主。そうとも言えず、私はなんでもない、と口を濁すしかなかった。
「……そうかあ。俺の気のせいか、それじゃ」
「そうだ主。だから早く眠るといい、明日に差し障る」
「ミュウツーは? 本当に眠れないんじゃないんだね?」
「平気だ」
本当は平気ではない。
「ん……それじゃ、おやすみ」
そう言って、主はまた静かになった。
……参った。この胸の音が聞こえなければよかったのだが……
しかし、主を心配させるわけにはいかぬ。
私は無理やり目を閉じ、意識レベルを落とそうとした。

――結論から言うと、私は一睡も出来なかった。
主の体温や呼吸音や心音や寝姿やその存在そのものが、私の感覚全てを鋭敏にするのだ。
自分の頬を張り、何とか眠気を散らす。
「おーい、どうしたんだよミュウツー? 置いて行くぞー?」
置いて行かないでくれ。そんなことされたらどうにかなってしまいそうだ。
最後にもう一度頬をはたいて、私は主に追いつくべく歩き出した。@wikiへ

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最終更新:2007年12月09日 22:46