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 十六夜月の誘い…
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【醍醐小太郎】ss

十六夜月の誘い…

投稿者名;カノン

 こちらのお話はあくまでもAnotherStory。
 フィクションなので、本気にしないでくださいませ m(__)m
 ヒロさん、初登場のお話です。

注)醍醐小太郎君のイメージを壊したくない方は、読まないほうが良いかもしれません。

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「醍醐ちゃーん!」
またか……。
うんざりする思いで、恨めしげに少しだけ空を仰ぎ、ひとつため息をついて振り返る。
はるか遠くから走ってくる人影。
しかし、その足は速く、あっという間にこちらへとやってくる。

「なんですか? あんな大声で呼びつけるなんて。恥ずかしいじゃないですか」
盛大なるため息とともに、開口一番そう言った。
「あぁら。なにもテレることはないじゃない? あなたの本名なんだから」
相手は悪びれることなく、からからと笑いながらそう告げてくる。
「だけど……「醍醐ちゃん」は止めて欲しいです」
精一杯の抵抗として、目を逸らし横を向いた。
「まあぁ。でも、そう言って拗ねるあなたの顔は、また可愛いのよねー」
「なっ!? ……ヒロさん。もしかして、遊んでるんですか?」
「まああぁっ! 遊んでるだなんてっ! アタシ、そんな風に見える?」
大袈裟な驚きに、人の目が集中する。
こんなところで目立ってどうするつもりだろう。
「いや……あの……」
「お人形遊びはとっくに卒業してるわよっ」
「……そうじゃなくて……」
ここで脱力したからと言って、誰が責められようか。
「もう、つべこべ言ってないで、来るのよ。醍醐ちゃん」
そう言って、有無を言わさぬ力で腕を掴んでくる。
多少の対格差はあれど、こうも易々と腕をとられるなんて……。
この人の素早い動きには、いつも感心させられる。
「だから、ちゃん付けは止めてくださいよ……」
もう一度だけ、懇願してみるが……。
「ごめんなさいねー。アタシのクセだから。気に入ったコには、すぐ「ちゃん」って呼びたくなっちゃうのぉ。許してん」
「ははは……」
これは、直す気などまったくなさそうだ……やはり、もういい加減、諦めるしかないのだろうか?
小さくついたため息を、“彼”は知らないだろう。


「醍醐ちゃん」
確かに本名は醍醐だが……こう呼ぶのは、この人しかいない。
誰も――そう、友達でさえも。
特に大人になってからは、誰も「ちゃん」で呼ぶようなことはなかった。
通称ヒロさん。
この人の本名は知らない。
こんな言葉を喋っているが、実は男。
いわゆる「おネェ」ってヤツ。
ぱっと見、喋らなかったら、結構ゴツい奴って思うかもしれない。
なのに、これ。
このギャップが、なんとも……。

この人と知り合ったのは、いつだったろう?
そう、まだ、ホストとして働き出す前だったはずだ。
だから、他の名前は、まだ持ってなかった。
でも、働き出して持った源氏名をいくら教えても、ヒロさんは頑として「醍醐ちゃん」を貫く。
多少の事は大目に見るが……、さっきみたいに大声で言うのだけはやめて欲しい。
結構注目の的になるのだから。
源氏名で注目されるのなら、まだいい。
けれど……本名では、やっぱり恥ずかしさが先にたってしまう。
まぁ、足掻くな――と言われれば、それまでなのだが。
そんな心境を、この人は解ってくれないんだろうな……。



「あなたって、綺麗な眼をしてるわねー」
突然、そんな風に声をかけられた。
新手のナンパ?
一瞬、そう思ったけど。
なんか、声が……。
声のした方に、思わず振り向いた先にいたのは……。
「あぁら、ごめんなさい。見ず知らずの人にこんなこと言って。アタシはヒロ。あぁ、別にナンパってワケじゃないから、安心してん」
女にしては野太い声。
少し女っぽい格好をして入るものの、その体格と言い、風貌と言い……どう見ても、女じゃあない。
予期せぬ人の到来に、一瞬頭が真っ白になった。
これは……俗に言う「おネェ」なのか。
以前に比べたら、多少は市民権を得たとも言える「おネェ」だが、実際そんな人に会った事はなかったから、いったいどんなものだろうって思っていたのは確かで。
まさか、こんな街中で会うなんて思ってもみなかったけれど。
「ここいいかしら?」
返事を待つことなく、そう言って向かい側の席に陣取った。
「ん~。顔立ちも素敵。結構モテるでしょう? あなた」
「……初対面の人に言われる覚えはありませんが」
「まあぁ。つれない言い方するのねぇ。大丈夫よ、アタシはゲイじゃないから、あなたを襲おうなんて思ってもいないわ」
真昼間からするような会話じゃない……そう思ったけど、幸いと言うか、周りに聞き耳を立てているような人はいなかった。
このまま無視しようかと思ったけれど、なにか際限なく喋りそうだったから、ため息をひとつついて相手を睨むように見た。
「すみませんが。あなたのお相手をするほどヒマじゃあありませんので。そう言うことは、他の人とやってください」
少し凄みを利かせて、低い声で言う。
しかし、相手は怯むどころか……。
「ふふ。一般的良識もあると。ますます気に入ったわー」
にこにこしながら言うではないか。
こういう人には、なにを言っても無駄なのかもしれない。
なら、自分の用事をさっさと済ませて退散するのが一番いい。
まだ残っていた食事を食べ終わらせて、席を立った。
「あらぁ、もう帰っちゃうのぉ? 淋しいわぁ……」
そんな声にも無視をして、レジを済ませ店を出た。
これでもう会うこともないだろう――そう思っていたのだが。


「こんばんは。また会えたわねー」
その声に反射的に振り返ると、にこにこ顔のその人がいた。
「こんなに会えるなんて、偶然とは言いがたいわねー。もう、これは会うべくして会う運命なんだわー」
一人自分の世界に浸るその人を残し、さっさとその場を立ち去っていた。
「あぁん。待ってよー」
背後でそんな声がしたけれど、無視をし続けていた。

あの出会った日から、どこかの店に出かけるたびに、その人に会うことが多くなった。
……まさか、行動パターンを調べているわけじゃあなかろうな?
ふと、そんな思いがよぎる。
偶然にしては、出会うのが多すぎる気がする。
今のご時世、探偵でも雇えばだいたいの事は調べが付いてしまうだろう。
そう思うと……。
なにか、気味が悪い……。



出会った日から1週間。
ことあるごとにいろんな店とかで出会うことに、いい加減うんざりしていた。
だから思い切って、あの出会った店で、また昼食を取ってみる事にした。
これは……ある意味賭けだった。
付きまとわれるのは、これっきりにして欲しかったから。

ところが。
こなかったのだ。
珍しいことに、この日は1度も現れなかった。
ほっとしながらも、なにか拍子抜けをした。
せっかく、一言言ってやろうと思ってたのに。
肩透かしを食らった気分だった。
けど――なんで、こんなことを思わなきゃいけないんだ?
 うんざりしていたんだ。
 こないことは、嬉しいことなんじゃないのか?
このまま、ずっと現れないと言う保証はないけど。
このまま、現れなきゃいい――そう思ってた、けど……。
なんだろう?
この、もやもやしたような気分は。
「まったく……。なんで、こんな気分にならなきゃいけないんだ?」
そう吐き捨てるように呟く――けど……。
なぜか、言えば言うほど虚しくなる。
理不尽だ――根拠も何もなくそう思う。
あの人は、自分の楽しみのために追いかけてきただけなのだろう。
勝手に自分のことを追い掛け回して。
興味がなくなったから、もう……。
そう思ったとき、これじゃ、まるで思い人に対しての感情じゃないか――と。

冗談じゃない。
そんな趣味は持ち合わせてはいない。
至ってノーマルな嗜好、のはずだ……。
 あんな、男なのか女なのか解らないような人に、興味を持つだなんて……。
 有り得ない。
 絶対に。
でも、なら、なぜ、こんな虚無感を感じるのだろう?
それが、解らなかった。
自分自身の心が……掴めない。
拒絶しているはずなのに、求めているような。
いつの間にか、求めていたのだろうか。
そんなはずは……ない……。
そう思おうとした。
そう思いたかったのかもしれない。



あれから、1週間ほどの時間が経っていた。
その間、周辺は平穏無事な日々を過ごしていた。
なにしろ、あのまとわり付いていたヒロさんがいないのだから。
付きまとわれなくて、せいせいしている。
肩の荷が下りたようだ――と。

その間に、仕事が変わった。
オーナーに見出された――と言うべきなのだろうか。
「オーバーロード」と言うホストクラブに、ホストとして仕事をする事になった。
まぁ、別に仕事が変わったことをヒロさんに言う必要もないだろうと思っていた。
言うも何も、あの人の本名も、どこに住んでいるのかも、電話番号でさえ知らないのだから、連絡のつけようがないのだけれど。




都会のビルの隙間から見える空は、なにか切り取ったもののように見える。
空と言うより、どこかのドームの中にいるような――そんなSFチックな気にさえなってしまう。
夜中でも明るい街では、星の輝きなんて見えるはずもなく。
唯一解るのは月の明かり。
それでも、忙しさの中では、それを愛でるヒマさえないのだけれど。

「ふーん。今日は満月かぁ……」
お客を見送るために外に出、見上げた空に浮かんだビルの谷間に輝くまんまるな大きい月になんとなく懐かしさを覚えた。
お客が去ったあと、しばらくその月を眺めていた。

「醍醐ちゃん」
突然、背後から声がする。
その声に、ぎょっとして振り返った。
「ひ、ヒロさん!?」
なぜここに?と言う言外の問いかけに、にっこりと微笑んだ。
「ごめんなさいねぇ。アタシ、風邪ひいちゃってぇ。
 醍醐ちゃんにうつすと悪いからぁ、ずっと外出控えてたのよぉ」
もう完治したんだけどね――と言って、ウィンクをした。
「でも……なぜ、ここに?」
知らせていないはずなのに……。
「うふふ。醍醐ちゃんのことなら、なーんでもお見通しよ――って言うのは嘘でぇ。
 実は、友達に聞いたのよ。醍醐ちゃんが「オーバーロード」のホストしてるって事ぉ」
いったいどんな情報網なんだ!?
少し空恐ろしいものを覚えつつ、笑顔をつくろった。
ただし、引きつっていただろう事は否めない。
「それで、今日は何の御用で?」
「何言ってんのぉ。醍醐ちゃんの晴れの姿を拝もうって事できたんじゃない。これでもアタシはお客よ、お・きゃ・く♪」
「は、はぁ……。それはどうも……」
なにか複雑な思いを抱えたまま、ヒロさんに促されて店へと戻った。

女のようだけど女じゃなく、男なんだけど男とは言いきれない……。
こういう人は、ホストクラブにきても良いのだろうか?
まぁ、お客であるというのだから、いいのか……。
千客万来――来るもの拒まず、か?
諦めにも似たため息をひとつ付いたあと、いつもの美堂貴史としての顔を纏っていく。



「そーそー。来月は中秋の名月よねぇ。
 ねぇ、みーんなで童心に返って、お月見でもしない?」
そんなことを突然言い始める。
相変わらず、突拍子も無い事を思いつく人だ。
すると、
「いいですねー、それ。「オーバーロード お月見大会」と銘打って、大宴会と行きますか?」
そんなことを、オーナーまで言い出す始末。
……このふたりはノリが同じなのか?
そして、賛同する連中大勢。
ま、いわゆる、何かにかこつけて飲んで騒ぎたいってだけだよな。
少しだけ気が重いまま、1ヶ月が過ぎていった。


まだ、夕方でも少しだけ暑さの残るこの季節。
この日は、「オーバーロード」の面々も、浴衣姿になっていた。
提案は、もちろんヒロさんだ。
って、あの人は、いったいどっちの浴衣でくる気なんだ!?
想像も付かないまま、仕度などで時間が流れていった。

「おっ待たせ~♪」
なにやら大きな荷物を抱えて、ヒロさんは女物の浴衣を着ていた。
あの体格によく合うのかあるものだと、少し感心してた。
「お月見といえば、月見団子よねぇ~。
 みんなが食べられる分と思って作ったら、凄い量になっちゃったわ」
と、からからと笑い出す。
手ずから作ったという月見団子に、みんながどよめく。
市販ものに負けず劣らずといった美しさ。
形も大きさも揃えて……それは一種の芸術作品とさえ言えそうだった。
結構、手先が器用らしい。

そんな芸術的作品でさえ、食欲の前では何の役にも立たないというか……。
男たちの食欲は、それさえも凌駕してしまうというか……。
まぁ、あっという間に、それらは平らげられてしまっていたのだった。
「男の子たちの食欲って言うのは、見ていて気持ち良いわねー」
にこにこと笑いながら、ヒロさんはみんなを見ていた。


そんなこんなで、お月見大会と称した大宴会は進んでいく。
それとは知らずにやってきたお客さんも、最初は戸惑いつつも、結局は楽しんでいった。
やはり、季節の行事と言うのは、都会にいるとつい忘れてしまうもので、それをやると言うのは良いことなのかもしれない。
そう言う意味では、きっかけを作ってくれたヒロさんには、感謝しなければいけないだろう。



「ねぇ、醍醐ちゃん」
突然ヒロさんが、声をかけてくる。
「なんですか?」
「明日って、ヒマ?」
「は? なんです。突然に……」
実を言うと、明日は休みだった。
そんなときに、そう問われてドキッとしたのは言うまでもない。
まさか、例の情報網とやらで知っていたわけじゃあなかろうな?
なんて事を、ちらりと思ったりして。
そんな気持ちを知ってか知らずか、ヒロさんはこう言った。
「知ってる? 昔の人は、十五夜にお月見できなかったら、次の日に十六夜月を。それでも出来なかったら十七夜月でお月見が出来るようにってやってたんですってよ」
「へぇ」
「今晩は、既に無理でしょ? だから、明日一緒にお月見しない?」
「え?」
「十六夜月のお月見――どう?」
目の前にあったススキを揺らして、笑う。
諦めた様に肩を竦めた。
「多分、断っても許さないんでしょうねぇ」
「そーよ。解ってるじゃない。醍醐ちゃんも」
ウィンクをした後、笑うヒロさん。
いつの間にか、そのペースに巻き込まれる自分を感じながら、それでも悪くないと思う自分がいることに気付いた。
こんな人がそばにいることに、いつの間にか慣れてしまった自分がいる。
多分、ヒロさんといると、退屈と言う言葉を知らずにすむかもしれない。
そんな風に、少しだけ変わった自分を受け入れている自分を感じた。



End.

※小太郎君のイメージ壊してしまったような気もしますが(^-^;
 壊れちゃったら、ごめんなさいですっ!
 このお話は、あくまでもフィクションです。

[登場人物]
●ヒロさん;
 本名、年齢、住所など、パーソナルなことは一切不明。
 街中であった醍醐さんを気に入って「醍醐ちゃん」と呼ぶ。
 中肉中背ってとこですが、醍醐君よりは少し大きく、ちょっとゴツいかな?
 文中にもありますが、「おネェ」であり、実際は男の方です。
 ・手先が器用で、様々な事をそつなくこなせる。
 ・結構友達も多く、この街に関しての(裏?)情報網は凄いものがある。
 ・気に入った人には「ちゃん」付けで呼ぶクセがある。

★まぁ、もしもお気に召しましたら、ご自由にお使いくださいませ(絡みにくいかもしれませんが(^^;)



※こちらの小説は、投稿ノベル受賞作品です
 投稿すると、こんな感じになります  

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最終更新:2009年08月26日 00:14