Star~夢の輝き~
【角坂翔】ss
『Star~夢の輝き~』
空に向かって、手を伸ばしている人がいた。
何をしているんだろう?
ただ、純粋に疑問に思った。
何かを取ろうとしているようでもあり、何かに触ろうとしているでもあるような……。
後姿だったから、誰かはわからなかった。
すぐには。
「なに、やってるの?」
好奇心が勝ったというか……。
つい、話し掛けてしまった。
けれども、その声が聞こえないのか、頓着しないのか。
振り返ろうともしない。
答えを返そうともしない……。
しばらくして諦めたように肩を竦め、その場を立ち去ろうと踵を返した時。
「星が、取れないの」
呟くように声が聞こえた。
「星が?」
何を言ってるのだろう?
それが、その時、思ったこと。
星なんて取れるわけはない――距離から言っても、質量から言っても……。
などと、ついリアルなことを思ってしまった。
そう思って、ふと、今の声、聞いたことがあるな――と思った。
「夢を掴むための星……」
「夢を掴むための?」
ますますワケが解らない。
「面白いこと、言うんだね」
「あら。星はStarよ。だから、私は星を掴むの」
そう言って、くるりと顔だけこちらを振り向いた。
「あなたも掴んでいるんでしょ? 角坂翔さん」
「あ……」
口を開けたまま、数秒ほど固まってしまっていた。
彼女が体全体をこちらに向けた時、ようやく自分の時計がまわり始めたような気がした。
「“麻央”さん……」
その言葉に、彼女はくすりと笑う。
「お久し振り。覚えててくれてたのね。嬉しいわ」
ラジオから流れてくる声と同じなのに、どことなく雰囲気が違う。
きびきびしている感じがラジオからするのは、やはり仕事だからなのだろう。
今は、どことなく不思議ちゃんと言えそうな感じで。
ちょっぴりぽや~っとした感じだ。
意外な一面を見たような気がしていた。
「なぜ、ここに?」
「ちょっと、お仕事に――ね」
「仕事?」
「そう……。本当は――」
言いかけて口をつぐんだ彼女は、空を振り仰いだ。
そして、空を見上げたまま、唐突にこう切り出した。
「角坂さんの“夢”って、ナニ?」
「え? そりゃあ……」
俳優として成功する事――それが一番の夢だった。
そのはずなのに、その一言が出なかった。
言葉に詰まった事に、何を思ったのだろう。
くすりと笑みを漏らして、こちらに向き直る瞳は、とても優しいものだった。
「もしかすると、もっとやりたいこと、あるのかもしれないわね……。そんな瞳してる」
「……」
「私は、ずっとラジオをやっていければいいって思ってた。
みんなに、この声で癒せるのなら、それが天職なんだろうって」
小さなため息をついたように感じたけれど、目の錯覚だったろうか。
「でも……。私なんて、女優でいる資格、ないと思うのに……。
兼業なんて、器用な真似できないし……」
哀しそうに伏せられる瞳。
今にも泣き出すかと思った。
「どういうこと?」
「今度、スクリーン・デビューしないかって……。
例え端役でも、そう言うのに出るなら、それは女優ってことでしょう?」
「そんなに硬く考える事は……」
「やるからにはね。徹底したい性分なの、私。
でも、それで本来の仕事が疎かになりはしないかって……それが、心配で……」
どことなく苦しそうな彼女の声に、思わず言ってしまった。
「じゃあ、断れば?」
その言葉に、軽く驚いたように眼を見開き、こちらをじっと見つめて。
数秒ほど、そのままでいたような気もしたけど。
それは、ほんの少しの間の出来事だったのかもしれない。
しばらくして、何か納得したように頷いて。
「そう……か。断ればいいのか……。気付かなかったわ」
ふふっと笑った目元が、緩んでいく。
「折角お声をかけてくださるのだから、無碍にするわけにも行かないって――そう、思ってたけど。
そうね、思い切って断っちゃおう。
ありがとう、角坂さん。おかげで吹っ切れたわ」
爽やかに笑いながら、彼女はぺこりと頭を下げた。
「別にお礼を言われる事は……」
「ううん。おかけでもやもやが吹っ切れた。
私は、私の道を進む――それが、きっとみんなのため」
ふと、彼女の新たなる道を閉ざしてしまったのではないかと言う危惧が生まれた。
自分自身の放った言葉で、未来の大女優への道を、むざむざドブに捨てるような事をしてしまったのではないか――と。
でも、嬉しそうな彼女を見て……今は、それでもいいと思った。
苦しそうな表情を続けているよりも、彼女は、そう、陽だまりの中で微笑んでいる姿が似合っている。
そう思えるようなコだったから。
輝くような原石である彼女を、放っておく会社はそうない――そう実感したのは、この後すぐのことだったけれど。
癒しの声に、スクリーンに立てば醸し出される存在感――何年かにひとりの逸材かもしれなかった彼女。
そんな人を放っておけるほど、スカウトの目は狂ってはいない。
例え、普段の彼女からは想像できないものであっても。
かえってそれが、魅力のひとつにさえなってしまう。
この世界とは、そう言うものだ。
けれど、それだけで成功するとは限らないほどに、この世界は厳しいものだけれど。
才能があることはもちろん、引き寄せる強さを持つ運、日々の努力、スタッフに恵まれる事、応援してくれるファンの熱意……それらが絡み合って、大きな流れとなる。
どれかひとつだけ特出し、話題性だけでスターになれたとしても、それはそのうち堕ちて行きかねない……。
断ると息巻いていた彼女は、結局のところ、一度きりと言う約束で、スクリーン・デビューを果たした。
役柄としては、本当に端役の、単にニュースを伝えるだけの女性キャスターの役。
しかし、世の中、なにが転じてしまうかわからない……。
そうして、彼女は最初に危惧していた通り、女優への道に乗せられて歩かされてしまっていた。
抗いきれない運命が、彼女を欲していたのだろうか。
詳しいことは解らない。
それとも、最初から抗えないものだったのか……。
彼女の抵抗は、もしかすると、単なる我が侭としか通らなかったのかもしれない……。
今でも、思い出す――別れ際に彼女が言った言葉。
『あなたは、ずっと前で輝く、大きな星になってね。
ううん。あなたならなれる――絶対に』
まるで謳うように、朗々とした声が響いていた。
彼女であって、彼女ではないような、そんな錯覚さえ覚えながら。
それは予言だったのか、予感だったのか…………。
※私のNovel'sでは良く出てくる角坂翔さん絡みのサブキャラ“麻央”さんの登場です。
彼女は、元々地方ローカルラジオのキャスターで、後に女優デビューすることになるのですが……。
この時点では、まだ出演確定はしていなかったと言う事になります。
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最終更新:2009年07月11日 17:29