The season of new green leaves,glitter of season.~新緑の季節に~
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The season of new green leaves,glitter of season.~新緑の季節に~
角坂さんがデビューして、そんなに年月が経っていない頃を想像して描いてみました
と言うか、昔にあった思い出話みたいなものになってしまいました
今より少し幼い感じの角坂さんを連想しつつ、読んでいただけたらなと^^
「も……もう、ちょい……」
必死に手を伸ばしているその先にあるのは、小鳥の巣だった。
小さな雛鳥の声が途切れ途切れに聞こえる。
無理な姿勢をしている彼の手には、まだ、羽根も生え揃っていない小さな雛鳥がいた。
なぜ、この雛鳥を手にしたまま、こんなことをしているのか。
それは、ほんの少し前の時間にさかのぼる。
新緑もまぶしいこの季節、ほんの少し出来た空き時間に、彼はこの周囲の散策を選んだ。
まだまだ、この辺りの地理には疎かったし、世間的にも顔をそれほど知られていない頃だったから、彼はそんな自由な時間の中に、自然と触れ合う事を選んだのだった。
雛鳥との出会いは、そんな時間の一時に訪れた。
彼がこの木の下を通りかかった時、小さな鳴き声が聞こえた気がした。
猫や犬の類ではない。
小鳥のような、そんな弱々しいさえずりにも似た声音。
足元辺りから聞こえてきたその声を頼りに、しばらく探してみた。
すると、あまりこの辺では見ない鳥の雛のようだった。
とは言え、すべての野鳥の種類まで知っているわけではなかったのだけれど。
彼がこの雛鳥を見つけたとき、幹と根の間辺りで震えていた。
「お前……どうしてこんなところに?」
きょろきょろと辺りを見回してふと上を見上げると、ちょっと高い枝の又に巣らしき物が見えた。
「もしかして、あそこから落ちたのか?」
雛鳥に話しかけても、当然答えは返ってこない。
周りに親鳥がいる気配もなさそうだった。
このままここに放置していて、親鳥が助けに来るなどと言う劇的な場面はお目にかかれないだろうと思った。
猫や犬などの獣の親ならまだしも、小鳥類には、自分の子供達を助けられる事はまずない。
人の匂いが付いた雛を食い殺してしまうと言う話も聞くが、いずれにしても、巣から落ちた雛をそのままにしていては、まず助からないだろうと言うのが彼の見方だった。
それに――この辺りは人通りがあると言っても、猫などがまったく通らないわけではない。
今の今まで、そう言うものたちに襲われなかったのが奇跡とも言えるかもしれなかった。
「届く、かなぁ?」
誰に聞かせるともなく、そう呟いて。
木登りは、得意な方ではない。
しかも、この木の幹は、足をかける場所などがほとんどない。
自分自身の身長と、伸ばせるだけの手の長さくらいまでしか届かないだろう。
果たして、それで、この雛鳥を無事巣に返すことは出来るのか。
自信はなかった。
それでも、返してあげられるものなら返してやりたいの一心で、彼は必死に手を伸ばしていたのだった。
「どう、したんですか?」
突然聞こえてきた女性の声に、はっとしたが、とっさには振り向けず。
危うくバランスを崩して、雛鳥を落としそうになった。
「あっ!」
悲鳴にも似た小さな声。
けれど、彼はひらりと体位を変えて無事に着地した。
「ご、ごめんなさい。突然声をかけたりして……」
とても慌てたような声音の女性は、とてもすまなそうな顔でぺこりと頭を下げた。
「大丈夫です。こいつも、なんとか落とさずにすんだし」
そう言って笑う彼の手には、まだあの雛鳥がいた。
「鳥の、雛……ですか?」
覗き込むようにして、彼女は彼の手の中にいるそれを凝視する。
「そう。どうやら、あそこから落ちたみたいなんですよね」
言いながら、顎をしゃくりながら上を見上げた。
それにつられるように彼女もまた、上を見上げる。
「あそこ、ですか? 結構高いですね」
「そうでしょ。だからなかなか届かなくて。生憎と、僕はこの木に登ることは出来そうもないし……」
自らの至らなさを悲しみに滲ませて、彼はひとつため息をついた。
少し思案顔をした彼女は、やがて何かを思いついたように、顔を明るくした。
「そうですわ。この先の撮影所から何かを借りてきましょう。すぐ返せば、問題ないでしょう?」
「撮影所から? あぁ、そうか。その手があった。忘れてたな……」
自分の手で少しでも早く返そうと思っていた彼は、その存在すらすっかり忘れていたようだった。
「あの、君。今、少し時間ありますか?」
彼は唐突にはじめてあったばかりの彼女に尋ねた。
「えっ?」
その言葉に驚きつつ、腕時計で確認を取る。
「多分、少しの間なら……。あまり長い事は無理ですが」
「良かった。その間、こいつを預かっててくれませんか? 突然で本当に悪いんですけど。僕が撮影所から何か借りてくるから、その間だけでも……。ダメ、かな?」
懸命なお願いに、彼女はくすりと笑いを漏らした。
「いいですよ。私が、その雛鳥さんをお預かりしてますわ」
にっこりと眼鏡の向こうで笑う彼女は、とても綺麗だった。
どこにでもいそうな、カジュアルでラフな格好をしているのにも拘らず、妙な存在感と言うものがあった。
瞬間、その笑顔に見惚れてしまったくらいだった。
「じ、じゃあ、こいつをお願いします。なるべく早く戻ってきますから」
言うが早いか、彼は駆け出して行った。
その姿が遠ざかる後ろで、彼女は微笑んでいた。
「角坂 翔……。彼が、今注目の俳優ね。
そんな彼に拾われるなんて、お前はついているのかもしれないわね」
冗談とも取れる笑顔で、彼女は雛鳥に向かってそう話しかけていた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
それほど待たなかったような気もするが、しばらくして、彼はあまり大きくない梯子のようなものを手に戻ってきた。
「待たせてごめんなさい。なかなか見つからなくて……。意外とわからないもんだね、撮影所のも」
苦笑しながら息を弾ませて、木の根元にそれを置く。
「あ、ありがとうございました。コレで、こいつも無事戻れると思います」
「いえいえ。私は別に何の役にもたってませんから……」
そう口篭りながら言うと、彼は大きく首を横に振った。
「そんなことないです。だって、僕一人だったら、きっとこんな事思いつかなかったし、そうなったらこいつも戻れないままだったし。
何より、あなたがこいつを守ってくれたから、無事返すことが出来るんですよ」
そう言って微笑みながら、彼は雛鳥を受け取った。
梯子を使ったことで、今までとは格段に高さが変わった。
目線より少し高いところに、その鳥の巣があった。
近くになれば、他の雛鳥のさえずりもまた聞こえてくる。
それでも、親鳥が餌を与える時のような、劈くような鳴き声はしない。
そっと、他の雛たちを驚かせないように、彼は落ちていた雛を戻した。
自分の手のひらから、雛の重さが消える。
少し淋しい気もしたけれど、これでいい。
その後の事は、こいつの運命しだいだ――そんな思いが胸をよぎって、少し切なくなった。
ふと、視線を感じて目をやれば、じっと見上げている彼女の瞳と視線が絡んだ。
にっこり笑って、ブイサインを送る。
そんな姿に、彼女はほっとしたように息を付いて、微笑んだ。
「良かったです。無事返せたみたいで」
「最後までありがとうございます。あ、そう言えば……」
梯子から、まるで羽根が生えているように身軽な動作ですとんと着地した彼は、彼女を見つめながら言った。
彼女は怪訝そうに小首を傾げていた。
「不躾ですみませんが……。僕、あなたのお名前、聞いてませんでしたよね。僕は……」
「角坂 翔さん――でしょ?」
「え? 知ってたんですか?」
「最初は知らなかったんですけど。後でそうかなって」
「そっか。バレてたのか……」
などと呟くように言って、照れくさそうに頭を掻いた。
彼女がくすりと笑って、眼鏡を外しながら手を差し出した。
それに応えるように、彼もまた手を出し握手した。
「私は、睦月 麻央。“麻央”と言った方が、わかりやすいかもしれないですわ」
「麻央さん? あれ、それって……」
握手の手を解いて、何か言いかけた彼の口を笑みで閉ざす。
「多分、あなたの知っている“麻央”だと思うわ。
楽しいひと時をありがとう、角坂 翔さん。じゃあ、またね」
そう言うと、彼女は小走りでその場を去っていった。
しばらく、その場で佇んでいた彼は、やがて訪れた親鳥が帰巣したときの雛鳥たちのけたたましいさえずりで我に返った……。
これが、彼女、睦月麻央との出会いだった。
※作中に登場の『睦月麻央』(むつき まお)は、元地方のラジオ・アナウンサーと言う設定です。
現在は、女優業をやっていますが、この頃はほとんど素顔などは知られていません。
ですが、関東一円で聞けるラジオ局なので、当然角坂さんも知っていると言うことに。そして、一部のリスナーには狂信的なファンさえいる、知る人ぞ知る存在と言う設定にしています。
オリジナルキャラですので、お気に召した方はご自由にご活用くださいませ。
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最終更新:2009年08月18日 23:33