ラジオの中の君に~君は君でしかないのだから~
【角坂翔】×【斑鳩公平】
ラジオの中の君に~君は君でしかないのだから~
※ こちらは、当方のオリジナルキャラ“麻央”さんに起こった事件を元にした作品となっています
“麻央”さんは、角坂君の小説に良く出てきます――探してみてね
少々マネージャーさんが違った感じに描かれてしまいました……ごめんなさい
作中の「ラジオ番組」および「マネージャーネットワーク」などはフィクションです
『……お聞きいただきましてありがとうございます。
こちらは『Sunset On Night Time』……』
「あれ? もうそんな時間なんだ?」
移動中のカーラジオから流れてくる声に、思わず呟くように言った。
ある意味、時計代わりに聞いているような、いつもそばにあるような――そんな、番組。
「少し急いだ方が良さそうですね。
もたもたしてると、渋滞にかかってしまいそうだ」
「裏道、知ってるんでしょ?
だったら、心配要らないじゃない」
「とは言っても、ギリギリに現場入り――と言うのだけは避けたいですからね」
そんなこと言いながらハンドルを切り、路地裏にも似た場所へと車を進める。
カーナビよりも正確と言えるかもしれない、裏道事情を知り尽くしている彼のこと。
そうたやすく渋滞なんかには引っかかる事は、ないだろうと思うけれど。
「……それでは、次のリクエストです。Mailですね。ありがとうございます。えっと……」
「あれ?」
思わず、声を上げていた。
「どうしました?」
「いや……“麻央”の声が止ま……」
「そうですか? 気付きませんでした」
番組は、既に次のリクエスト曲に変わっていた。
一瞬だったけど、彼女の声は確かに止まっていた。
少し怯えたような感じが、彼女の声から伝わってくる。
何か、あったんだろうか?
ふっと、あの日のことを思い出していた。
あの時の、凛とした姿の彼女を。
真っ直ぐな、意志の強そうなあの瞳を……。
彼女が“麻央”だってわかってから、何度もこの時間の彼女のラジオを聞いていた。
時にはBGMのように流すだけのこともあれば、ふとした空き時間に耳を傾けたり。
それでも、あの頃の彼女がそのままいるようにDJの姿勢は変わらなかった。
あれから幾年月かが経っている。
その間に、彼女はゲスト出演した映画の中の演技を認められ、ちょこちょこキャスター役などで様々な映画やTVに出るようになったという話を耳にした。
新しい仲間が生まれたな――その話を聞いたとき思ったもので、なんとなく嬉しかった。
ライバルと見做すよりも、どうも、同士のような気がしたから……。
なぜかは、解らないけれど。
役者の仕事が増えれば、帯番組のラジオはそうそうこなせなくなってくる。
なのに、彼女は何とか頑張って両立させていた。
当初よりは、さすがに出番が減ったという感はあるけれども。
以前から見ればアシスタントとか、もう一人のパーソナリティを使用していたりとか、以前はずっと生放送だったのが、時折収録が入ってたりとか。
この番組が“麻央”だけの番組ではなくなってきてはいたけれど、それでも、スケジュール的なことを考えれば、かなりの妥協路線だろうと思う。
けれど、これ以上映画やTVの仕事が忙しくなれば、ラジオ番組さえ降板せざるを得なくなる可能性は高い……。
そう言えば、噂で、そのことでトラブルを抱えそうになりそうだって聞いた事があったな……。
今まで、ラジオを通してそんな素振りはほとんどなかったけれど。
隠し通してきたのか、それとも。
トラブルの元となったヤツが、何か仕出かしてきたのか……。
なんとなく、気になった。
「人のこともいいですけれど……」
「え? 何か言った?」
心配そうな瞳をバックミラーから投げかけながら、彼は苦笑していた。
何かやらかしそうだって思ったのかもしれない。
けどね……よっぽどのことがなきゃ、そんな暴挙は犯さないよ。
そう。大切な人とか、そう言う人が巻き込まれているというのなら、別だけど……。
生憎と、“麻央”はそんな人じゃあない。
そこまでの人――と言うべきか……。
肩をすくめて、視線を車窓の外に投げかける。
夕陽が沈んでいく……。
真っ赤に燃えるような夕陽が。
「聞いた聞いた?」
「あぁ、小包爆弾の事?」
「そうそう。そんなの送ってくるの、いるんだねぇ。いまだに」
「まぁ、今だからこそ、やりたがっているのかもしれないけれどねぇ。
なんにしても、けが人がないだけ良かったんじゃない?」
「でも、やっぱり犯人って……」
「噂だけどね~。
でも、本当なんじゃない? よくは知らないけど」
「だけどぉ、逆恨みもいいところじゃないのよ。やってられないわね、まったく」
「本当本当~。人気がありすぎるのも、あんまり良くないわね」
「今までみたいに大人しくラジオだけやってればいいって――そう言いたいんじゃないの?」
「遠い存在になるのが堪えられないって? ばっかみたい」
数日後のことだった。
休憩時間、撮影現場からちょっと離れたところで休んでいると、どこからともなく、そんな会話が聞こえてきた。
小包爆弾? ラジオ? それって……。
物陰にいたせいで、彼女達からは気付かれてはいなかったけれど。
何か、気になる会話に、続きを聞こうかと立ち上がりかけたところに、休憩の終わりを告げるアラームのバイブが作動した。
タイミングの悪い……。
小さな舌打ちをしながら、現場へと戻った。
「小包爆弾って……」
会話の拍子に、そんな言葉が飛び出した。
マネージャーがぎょっとした表情でこちらを見ていた。
やっぱり……本当の事だったんだね。
「ど、どこからそんな話を……」
隠そうとしてはいるけれど、動揺が見えてるよ。
くすりと笑みを漏らして、肩をすくめた。
「ん~? ちょっとね。小耳に挟んだんだけど。
昨日の事らしいじゃない? どこであったの? それ」
しばしの沈黙。
やがて諦めたような表情になって、おうぎょうにため息をついた彼は、これ見よがしに頭を抱えた。
「教えますけれど。
首、突っ込まないでくださいよ。
スケジュールも押してるんですから……」
語尾が弱々しく聞こえるのは、気のせいさ。
にっこり微笑んで、頷いた。
「で? いつ、どこで? 誰宛だったの? それ」
「えっとですね……。昨日、TV局の番組宛に届いたそうです。
宛先は……“麻央”さんでしたね」
「“麻央”って、あの“麻央”? 本当に?」
「この期に及んで嘘はつきませんよ。
それとも、嘘をつくことによって、あなたにメリットがあるとでも?」
「あ、あぁ、いや。ごめん。ちょっと、ね……」
少し考えていると、ふぅとため息をついて小声で告げてきた。
「“麻央”さんには、ラジオをきちんとしろと言うような脅迫めいたメールが届いていたそうです。
まぁ、どうやら、ラジオの“麻央”さんの熱狂的なファンの仕業じゃないかと言うのが、大方の見解です」
「大方のって……」
「まぁ、今は脅し程度――なんじゃないかってね。
どうやら、これ見よがしな小包だったらしいですし……」
そう言いながら、携帯のMailを確認している。
あるメールを読んで、少し顔が青褪めたような気がした。
「また、厄介なことを……」
「どうしたの?」
「あ、いえ。なんでも……」
「なんでもないって顔色じゃあなかったよ? さっきのは」
「隠しては――おけませんでしたね……」
苦笑しながらそう言った。
「目の前にいるからね。隠そうとする方がムリだったね。で?」
「どうやら、その“麻央”が襲われたようです。幸い怪我はないようですが」
「なんだって? どこで?」
「例のTV局での収録前だったらしく、そこに現れた彼女にナイフで切りかかってきたんだとか」
「ナイフ……」
「同一犯――でしょうかね?」
「さぁね。でも、そんなMail、どこから?」
「危険な事があると、仲のいいマネージャー同士こういう風に連絡を取り合うんですよ。
自分の担当しているタレントとかに危害が加わらないようにするのも、仕事ですからね。
今は、こんな風に携帯とかで連絡取り合えますから、伝わるのも速いものですよ。
以前なら、せいぜい電話で呼び出してもらうことしか出来ませんでしたからね」
「マネージャー・ネットワークと言ったところか」
「ま、そんなものです。すべて網羅しているわけではありませんけれどね」
「そっか。でも、凄いものだね」
「正確な情報を仕入れるのも、また、マネージャーの仕事でもありますから」
「それにしても……」
「は?」
「あ、いや。なんでもないよ」
「そう、ですか」
自分の思い通りに行かないからって、人を傷付けるなんて……。
許せないな……。
今の状態なら報復の対象にはならないけれど。
もしも“麻央”に何かあってからじゃあ、遅い気もする。
いったい、どういうヤツなんだろう?
犯人は、捕まるんだろうか?
そんなことを思いながら、飲みかけのお茶の残りを一気飲みした。
もう温くなりかけだったから、熱いなんて事はなかったけど。
そんな噂も薄れかけた頃。
メイクに斑鳩さんが担当してくれる事になった。
そう言えば、“麻央”が襲われたときの担当メイクって斑鳩さんだったって話、小耳にはさんだっけ。
「ねぇ、斑鳩さん」
「なんです? 突然に」
「斑鳩さんって、“麻央”って知ってる?」
「“麻央”? あの、“麻央”さんのことですか?」
「そう。ラジオ局のアナウンサーの“麻央”ね」
「まぁ、知っているといえば、知ってますが……」
「この前、TV局で襲われたって事件は?」
瞬間、斑鳩さんが息をのんだ。
鏡に映った彼の眼光が、一瞬鋭くなったのを見た。
きっと、知ってる。
彼は、きっと……。
「襲われた事件ですか? さぁ?」
「斑鳩さんが担当メイクさんだったって話、聞いたんだけど?」
ふっと、彼が笑う。
「もしも、そうだとしても。私はあなたにそれを教えるほどに噂好きではありませんよ」
「ふーん。やっぱ、知ってるんだね」
「あなたって人は……」
「なんかさ、きな臭いんだよ。この前から“麻央”の周囲が……」
斑鳩さんの纏う雰囲気と言うか――空気が変わった気がした。
「だから?」
「え?」
「だからどうしたいんですか? あなたが“麻央”さんを支えてあげるとでも?」
「あ、いや……」
「単なる好奇心でしたら、首を突っ込むのは止めた方がいいですよ。
火傷するのが、落ちです」
「火傷って……」
戸惑いながら問いかけると、ふふと笑う声がした。
それが斑鳩さんからの声だって気付くのに、しばらくかかった。
「あまり関わらない方がいい――と言うことですよ。
角坂君は優しいから……でも、その優しさが命取りにならないようにってね」
「命取り? そんなヤバい状況なんですか?」
「たとえ話ですよ。まぁ、あまりいい状況ではなさそうですけれどね。
ここ数日の展開から言って……」
少し遠い目をしながら、斑鳩さんが言う。
この人はこの人なりにこの事件のことを気にかけてるんだな――なんとなく、そう思った。
やっぱり、当事者として事件を目撃しているんだろう。
だからゆえの、こちらに対する制止――あるいは、威嚇。
引っ掻き回すなと言うことか、それとも……。
なんとも判断に困るところだけれど。
穏やか過ぎてと言うべきか、なんとも、判断に困ることがある。
強いて言うならば、「見抜けない」とでも。
それにしても「火傷」かぁ……。
確かに“麻央”は自分にとっての大切な人とは言えない。
ラジオで耳にしているだけの、一視聴者でしかないわけだから。
向こうがこちらを知っていても、それは俳優としての角坂翔。
素顔をお互い知らない状況で、やはり「火傷」は勘弁してもらいたいところだけど。
なんだろう。
今までとは何かか違う気がする。
別に、報復に関連しているわけでもないし、知り合いでもないのに……。
でも――できることがあるならしたい――そう言うのが近いかもしれない。
驕りだろうか?
自分の中の自分が問いかけてくる。
『ソレヲシテ、何ニナル?』
何になるって……。
『何ヲ望ンデイル?』
望んでいる?
いや、そんなことはないはずだ。
これが解決したからといって、得るものはない――はず。
『ジャア、何ノ為ニ、ソレヲシヨウトスル?』
……。解らない……。
何故だろう?
それは、暗に問いかけていた自問自答。
ただ、それだけがはっきりとしない。
だから――だろうか?
こんな気持ちになるのは……。
『今日もお付き合いありがとうございます――』
ふっと、彼女の声が聞こえた気がした。
そう……きっと、彼女が“麻央”であり続けるように――それを望んでいるんだ。
歪んだ愛情みたいなもので、彼女を縛りつけようとする――それが許せなかったのだと。
“麻央”は“麻央”。
例え演じるフィールドが違っても、彼女は彼女であり続ける――“麻央”は、そんな人だ。
それも解らないで、自分だけのものにしようとする。
犯人の歪んだ愛情めいたものが、許せなかったのだと。
今、やっと気付いた気がした。
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最終更新:2009年08月18日 23:44