夢の狭間
【斑鳩公平】×【角坂翔】
夢の狭間
選ばれるとは思っていなかっただけに、驚いた作品です
フィールドのCrossが、このふたりには多そうなので、割と書きやすいかも――です
『はぁ……』
なにか重苦しいため息を耳にして、ふと何の気なしにそちらに目線を走らせた。
憂鬱そうに軽く瞳を伏せて、今しがた開いていた携帯をパタンと閉じたところだった。
「どうしたの?」
と問いかけてみようかと思ったけれど、あまりにも深刻そうなその顔に、気軽には聞けないことだなと思った。
そんな戸惑いもあったためか、向こうもこちらが見ていることに気が付いたらしく、顔を上げる。
瞬間、視線が絡み合う。
少しだけ、読み取れてしまった彼女の感情。
ばつが悪そうに、少しだけ顔を赤らめて、目をすっと逸らした。
まぁ、当然の反応だろうね。
これで平然としていられるのは、よっぽどの強心臓の持ち主だとも言えるかもしれないし。
よほど“演じる”ことに長けているか、もしくは、単なるポーカーフェイス――あるいは生来きっての鉄面皮と言うのもあるかもしれないけど。
まだ新人の域を出きらない彼女にとっては、それは少し難しいかもしれない。
ふと、周りの雑音が大きくなった気がした。
そう思ったけど、現実には違う。
今まで、周囲の音が気にならなかっただけの話。
ちらっとこちらを見た彼女に、にっこりと微笑み返した。
少し戸惑いを瞳に刷いて、それでも、彼女は微笑み返してくれた。
大丈夫、まだ、笑う余裕はある。
「そろそろ、出番だね。
緊張、してる?」
さりげなく携帯を隠すようにしている彼女に、そう言った。
それを察したのか、少し照れ笑いをしているようにも見えた。
「緊張しますよぉ。
私にとっては、大仕事ですもの」
「そうだね。
初ヒロインだものね。
プレッシャーかけるつもりはないけど、頑張って」
「それ、充分プレッシャーですぅ」
「あはは。大丈夫だよ。
今まで、たくさん練習してきたじゃない。
あの通りやれば、うまくいくよ」
「そう言われると……なんか、うまく行く気がしてきます」
うん、いい笑顔だ。
さっきまでの暗さが消えたみたいだ。
「じゃあ、取って置きのおまじない、してあげる」
「取って置きのおまじない?」
「そう。いい?
軽く目を閉じて――深呼吸してみよう」
指示通り、彼女は目を閉じて深呼吸をし始める。
「そう。そのまま、リラックスして……」
少し強張っていた表情が和らいでいく。
もう大丈夫かな?
「……」
彼女の耳元で、彼女にしか聞こえないある言葉を囁く。
「はい、もう目を開けていいよ。
どう? 気分は?」
少し呆気にとられたような表情で、幾度か目を瞬かせていた彼女は、やがて、満面の笑顔になる。
「なんか、凄く安心してきたと言うか、心が落ち着いてきました。
いったい、何をしたんですか?」
「別に、特別なことはしてないよ」
そう笑う僕に、少し疑いの目を向けて。
でも、それも一瞬のこと。
晴れやかな顔になったのが、傍目にも解る。
「そろそろ、リハ行きまーす。
スタンバイ、お願いしまーす」
スタッフが、彼女を呼びにきた。
「あ、はーい。今行きます」
そう言って、椅子から立ち上がって、彼女はくるりとこちらを向いた。
「いろいろ、お心遣いありがとうございました。
では、頑張ってきます」
少しお茶目に敬礼のような仕草をした後、彼女はぺこりと頭を下げた。
「いってらっしゃい」
笑いながらそう言うと、彼女も笑いながら踵を返して現場へと向かっていった。
「流石、斑鳩さん」
突然かけられた声に、驚きは隠せなかった。
「角坂君!?
君は、いつからそこに?」
「んー?
さぁ、いつでしょう?」
悪戯っ子のような瞳を輝かせて、角坂君は微笑んだ。
「見てたのかい?」
「えぇ。
良いもの、見させていただきましたよ。
あれは……自己暗示、ですか?」
「まぁ、それに近いものかな?
角坂君は、そういうのに興味あるの?」
「いえ、別に……。
ただ、見事だなって感心してたんですよ」
「見事……ね」
そんな呟きが耳に入らないのか、彼は、リハーサルをしている彼女を、目を細めて見入っていた。
「先程までの、彼女の憂鬱そうな表情も消えましたし。
これで、幸せそうな“彼女”の役もこなせるでしょう」
「あぁ、そうか……」
思い出したような呟きに、彼はにっこりと笑って歩みを進めた。
例えプライベートで何かあったとしても、今、彼女が演じるべき役柄は「幸せいっぱいの“彼女”」の役。
そして、その相手である“彼”は……。
まばゆいライトの中を、“彼女”は恋人を待っていた。
ややしばらくして、そっと後ろから近づいていく“彼”。
そう、それは、映画の中のワンシーン。
現(うつつ)は夢の時間の、狭間の出来事……。
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最終更新:2009年09月05日 21:44