アットウィキロゴ
 Silent Night~聖なる夜のひとときに~
【醍醐 小太郎】

Silent Night~聖なる夜のひとときに~

投稿者名;カノン


「Merry Christmas!」
「メリー・クリスマ~ス♪」

あちらこちらで、シャンパンの蓋が飛び交い、炭酸特有の弾ける泡の音と少し甘い香りが充満した。
みんなの笑顔が弾け、誰かが鳴らしたクラッカーを引き金に、またもやあちらこちらでクラッカーの音が鳴り響く。
あまりにも一斉に鳴らすものだから、みんな、耳がキーンとなってしまった。
それでも、それに怒り出す人なんていやしない。

「ったく、いっぺんに鳴らすなって言っただろ~」
なんて文句言う人も、その顔は笑っている。
「悪りぃ悪りぃ。つい、な」
謝る方も、謝られる方も、いつもより数割増して笑顔だ。
この時間が笑顔を作っているといっても過言じゃあないだろう。

なにしろ、この日は特別。
しかもPartyなら、それに参加している人は、ほとんど笑顔になるだろう。
まぁ、よっぽどの事がなければ、仏頂面でいることもない。
絶対いないとは、言い切れはしないだろうけれども。
なにしろ、今日は笑顔が笑顔を呼ぶ日だから。



「やっぱり、クリスマと言えば、ターキーよねぇ」
「うっわぁ。これ、本物ですか?」
「もちろんよ♪ みんなに食べさせたくて、奮発したんだから」
「ありがとうございまーす」
「どーぞどーぞ。みんなで美味しく食べてもらえれば、ターキーも本望でしょうよ。それと、これ」

言いながら、ワゴン・テーブルに乗せてきたものをみんなの前へと押し出した。
それは、いくつものケーキ。
ショートからパウンドやブッシュ・ド・ノエル、ミニタイプのホール・ケーキや、出来上がるまで1ヶ月かかるという本格的なクリスマス・プティングまで、それはそれは様々な形と大きさと種類のケーキが、テーブル上にひしめく様にたくさんあった。

「ヒロさん、これ……」
「ターキーと並んで忘れちゃいけないのがケーキでしょ? あんまり甘くないものをと思って――」
「まさか……これ、全部、ヒロさんが?」
「ひとりでじゃあないけど、さすがに疲れたわ~」

どう見ても、街のケーキ屋さんで売っているような、形といい見た目といい、上出来なケーキ達だった。
ひとりではないと言ったが、この時期、こんなプロ並なケーキを作れる人で暇な人なんているんだろうか?
いや、ヒロさんみたいな、隠れた腕前を持っている人が、もしかしたら知り合いにいるのかもしれない。
ヒロさんの人脈なら、ありえそうだし……。
一度、会ってみたいものだと、そんな風に思ったりもして。

「凄い……」

何処からともなく、感嘆の声が漏れる。

「さあ、みなさんも。どれでも、好きなのを召し上がれ」
「じゃあ、いただきまーす」

それでなくても、テーブルの上にはクリスマス用のご馳走が並べられていた。
大きなテーブルに、割とたくさんの種類と数が並べられている。
用意されていたご馳走だけでも、結構な量だというのに……。


今日は、毎年恒例の『オーバーロード』のクリスマス・パーティ。
毎年、お客達たちも交えて、年に一度の大騒ぎをすることになっている。
いつもと今年がちょっと違うのは、それにヒロさんが加わった事だ。
輪をかけて、豪勢さが増してしまったと言える。
まぁ、お客さまにしてみれば、そう言うのは嬉しい誤算であるのだろうけれど。

ヒロさんからの差し入れのターキーの丸焼きは、大きなオードブルの皿に彩りもきれいに盛り付けられていた。
ターキーの丸焼きはあっという間もなく解体されて、銘々の皿へと運ばれていく。
次々と差し出されてくる皿は、取り分けている方も必死になるくらいのもので。

「おいおい。おまえ達、少しは加減てものを知れよ」
「ふふふ。いいじゃない。こんなときでないと、食べる事なんてほとんどないんだから」
「ですけどねぇ……」

思わず、彼らのその食欲に呆れてしまうのは、なにも、俺だけではないはずだ。
特に若手の連中は、その食欲を留まらせる事を知らないとでも言おうか……。
若いってだけの食欲じゃあないなと……。



「あの……美堂さん……」

その声に、後ろを振り返る。
少し大人しそうな女性が、何人かの女性と共に傍にきていた。

「はい? いかが致しましたか?」
「あの……これ……」

そう言って差し出されたのは、きれいに包装された、どう見てもクリスマス・プレゼントだった。
横でヒロさんが、彼女達に見えないようににやりと笑っていた。
ちょっと小鼻を掻いて、どう伝えていいものかと、少し戸惑っていた。

「すみません。今年からプレゼントは個人的には手渡しでは受け取れないようになりまして……」

いつの間にか、俺達の傍にオーナーがきていた。

「えっ!? そ、そうだったんですか? 知りませんでした……」
「あちらの方に受付のボックスを用意してありますので、そちらでお願いします」
「あ……はい。ごめんなさいっ」

そう言って、少し半泣きに近い顔になりながら、ぺこりと頭を下げた。

「すみません。あらかじめお伝えしなかったこちらが悪いので……。でも、ありがとうございます」

申し訳なさでいっぱいになりながら、勤めて笑顔で接した。
少しでも、泣きたくなる気持ちを紛らわせられたら……。

「い、いいえっ! よく調べなかったこちらも悪いのでっ! こちらこそ、いつも、ありがとうございますっ!」

顔を赤くしながら、彼女達はオーナーに言われたボックスの方へ駆けていった。
その様子を見ながら、思わずため息をついていた。


「どうしたの? 罪悪感?」

グラスを片手に、少し意味深な笑顔で語りかけてくるヒロさん。
様々な思いが交差して、それがため息となって漏れ出てしまった。

「まぁ、そりゃあ、ね」

言いながら、つい、先ほどの彼女達の方へ視線を移す。
ボックスの前で、みんなでなにやら談話をしているみたいだ。
何を話しているのかは、ここまでは聞こえないけれども。
少なくとも、悪い話ではなさそうだ。
なぜなら、彼女達はみな笑顔だったから。
その表情に、少しだけほっとした。
折角の楽しい夜、嫌な思い出だけは作っていって欲しくなかったから。

「女の子としては、お気に入りの人に手渡ししたかったんでしょうけれどね。規則は規則だし?」
「決まったことは仕方がない事ですからね。お客様にも、それは納得してもらわなければ……」

軽く目を伏せ、視線をみんなの方に戻した。
銘々の楽しそうな表情を見ていると、何故か少しだけほっとした気分になる。
でも、やっぱり、今日もタクヤは、先輩方に弄られてはいるようだが。
あいつの顔を見ると、微笑ってしまうのはなぜだろうな。
本人が聞いたら、きっと怒り出すだろうけれど。
まだ大人になりきっていない、無邪気さのせいだろうか。
それとも、あいつの……。

「有名になるって事は、ある意味辛いわよねー」

ヒロさんに声をかけられ、はっと我にかえる。

「え?」
「だって、普通のことができなくなるわけでしょ?」

少し怪訝そうに、小首を傾げるヒロさん。
きっと、さっきの子達のことを思っていたのだと思ったのかもしれない。

「……そう、か……」
「あら、もしかして醍醐ちゃんってば、自分が有名人である事に気が付いてなかったとか?」
「誰が有名人なんですか?」

揶揄するようなヒロさんの言い方に、ちょっとムッとなってしまう。
まだまだ、俺も青いな……。

「あなたよ、あ・な・た」
「そんな。有名人なんて……」
「よく言うわ~、ホストNo.1のコが」

そう言うと、からからと笑い出した。

「それは、この店の中だけの話ですよ」
「なぁに? 他では違うって言いたいの?」
「俺より、もっと凄い人がどこかにいるかもしれない……そんな人と勝負して追い抜いてみないことには、本当のNo.1じゃあない。
 この店のNo.1なんて言葉に浮かれてちゃいけないんですよ」
「さすが、醍醐ちゃんね」
「からかうんですか?」
「ううん。向上心旺盛だなって。頼もしいわ」

凄く嬉しそうに、ヒロさんは微笑んだ。

「アタシが見込んだだけあるわよ、醍醐ちゃん」

意味深な言葉を俺の耳元で囁いて、笑顔でヒロさんはみんなの輪の中へと入っていった。



お客さんを交えた賑やかなPartyは、閉店の時間まで続いた。
外では、このクリスマスに彩を添えるかのように、ちらちらと雪が降っていた。
道行き交う人は、コートの襟を立て足早に行き過ぎていく。
そんな外の寒さとは無縁なほどに、店内は暖かかった。
若者達の熱気と、みんなの心がそうさせていたのかもしれない。


そんな賑やかな会場を離れ、ひとり、スタッフ・ルームに続く廊下の壁に背を預け腕を組みながら目を閉じていた。
いつまでも、平和な時が続けばいい……。
すべての人に、小さな幸せが降り続ければ、“犯罪”なんて起こらないかも知れないのに……。
現実が賑やかに過ぎていけばいくほど、そう思わざるを得ない。
せめて、こいつらだけには、幸せな人生、送ってもらいたいものだ――と、願わずにはいられない。
それは……この聖なる夜だからこそ、思えることなのかもしれない……。



end.


※ “お鍋”の話の続きを飛ばして、クリスマス・シーンです(^^;
  なお、この中にある「プレゼントの受付」話はフィクションです
  実際には、そんな設定はない――はず……なので、ある意味AnotherStoryかな?


● この作品についての評価を投票受付中!
選択肢 投票
最高!!★★★ (0)
ブラボー!★★ (1)
拍手★ (0)

● この投稿作品へのコメントをお願いします
ニックネーム
ひとこと

すべてのコメントを見る
最終更新:2009年08月26日 00:25