Usually……
【真宮 陽介】

Usually……

投稿者名;カノン

※ 真宮さんの日常の一こま――と言う設定で描かせていただいた作品です


いつもの日常。
いつもの風景。
いつもの時間。
いつもどおりの時が流れ行く。
軽い香りのお香を燻らせながら、瞑想に耽るように背筋を伸ばして軽く目を閉じる。
規則正しい、静かな呼吸に合わせる者はない。
この場所には、たった一人きり。

ここに店を構えてから、時折訪れるようになった人がいる。
一応、ここは占いの店だから、あれこれを占って欲しいと依頼はしてくるが、その実、彼女は、そのことを本当に知りたいわけではないようだった。
ただ、この店に遊びに来ている――強いて言うならば、そんな感じ。
自分の店に来る客ながら、なにが楽しくてやってくるのか、疑問に思っていた。
客である限り、何もしない彼女を無碍に帰すわけにもいかない。
そんなジレンマを抱え始めた、ある日。
ぱったりと、彼女は店に来なくなった。

(なにか、あったのだろうか?)

不思議なもので、あれだけ疎ましいと感じていた存在が、その姿を見せなくなっただけで、今度は不安に駆られるようになる。

(人の心は、矛盾で出来ているものだな……)

などと、他人が聞けば「らしくない」科白(せりふ)さえ口をつきそうになる。

別に、彼女はこの店に日参していたわけではないし、そもそも時折、それこそ気が向いたら来る――と言うような感じでしかなかった。
客と客の間のほんの少しの時間が空けば、くるくると良く変わる表情をしながら、束の間のお喋りに興じていた彼女。
まだあどけなさも残る顔立ちに、「店の客」以外の感情は持ち合わせていないはずだった。


そう言えば……。
あれは、何日前の事だったろうか?
いつものような彼女からの一方的なお喋りの中で、彼女がふっと暗い表情を見せた。
しかし、それは一瞬の事。
次の刹那には、綺麗さっぱり、あどけないままの彼女でしかなかった。
あの時は、なにか“違和感”みたいなのを感じたのを、記憶の隅に覚えている。
首を傾げるつもりだったが、彼女の微笑みに、それは掻き消えて……。

そう、らしくもなく、そのままそのことを忘れていたのだった。

「……なぜ、だ?」

瞑想を途中で中断し、思い切り息を吐き出した。
気にならない――と言えば嘘になる。
しかし、彼女は一切の手がかりを残してはいなかった。
この店には、それこそ“秘密のお客様”も訪れるために、ある占い以外のものは、本名や住所などの連絡先は一切明かすことなく進められる。
そんな制度に埋もれ、彼女の事は、そのほとんどを知らないままでいた。

不安と言うほどでもないが、何か気にかかる。
そんな焦れたような感情が胸を占めはじめ、気にはなるのだがどうしようもないでいた。


ある日――彼女と良く似た、しかし明らかに彼女ではない存在が、店を訪れた。
嫌な予感がした。
こういうときの嫌な予感は、皮肉にも良く当たる。
当たって欲しくないような時になおの事……。
こちらの姿を認めると、深々と一礼をし、瞳を少し潤ませながら彼女に似たその人は、躊躇いつつも口を開いた。
彼女の事と、自分がこの店に来たその理由を――。



日本人形よりも真っ黒な、干鴉玉色の髪と大きな瞳を持った、愛らしい顔立ちの彼女。
名前を寒月茅菜と言うらしい。
この店に程近いところに家があるとのこと。
あの女性は彼女の母親で、寒月真美と名乗った。
彼女は、重い病気にかかっていて、もう長いこと入退院を繰り返していたのだと。
けれど、散歩の途中で見つけてふらりと立ち寄ったこの店に、言い知れぬ安心感を抱き、それ以来、たまの外出の時に必ず立ち寄っていたのだという。
しかし病状が悪化し、外出許可が下りなくなって、彼女は母親にそのことを伝えて欲しいと訴えたのだ。
いつもは我が侭も言わず、素直ないい子を演じていた彼女が見せた、我が侭。
初めてのことに驚きつつも、母親は快諾した。
余命幾許もないと、医者から宣告されたばかりだったからだ。
もちろん、そんなこと彼女は知らない。
だから、彼女は母親にこう言付けを頼んだ。
「元気になったら、また、お伺いします。今度は、私の明るい未来を占ってね」と。

事の顛末を伝えた母親は、家の住所と彼女のことを書いてある手紙をともに真宮に手渡し、店を去っていった。
その後姿は、もう諦めの影が重く圧し掛かっているようだった。


店の扉から見上げる空はどんよりとしていて、妙に不安を掻き立てられるようだった。
今にも降り出しそうな曇り空に、彼女の顔が重なる。
病気なら、自分がどうのこうのできる範疇ではない。
せめて、元気付けられることで病状が改善するというのなら、それこそ何でもするのだが。
しかし、自分は医者ではなく、また、そんな腕のいい医者を知らないでいた。

切なさが胸を占めたとき、一羽の真っ白な鳥が雲を切り裂くように飛びだった。
まるで、何かを伝えるかのように……。


end.

※ こちらの寒月 茅菜(かんづき ちな)、真美(まみ)母娘はオリジナルキャラです。
  かつての真宮さんのお店によく来ていた女の子と言う設定で描かせていただきました。
  この後の彼女はいったいどうなったのか……。
  後日譚は実は決めてません。なので、私のこの話はここで一応END.です。
  このキャラはご自由にお使いいただいて結構です。

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最終更新:2010年02月01日 10:02