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蒼き空の下で-前編-

投稿者名;カノン


ぽーん。
いつもなら、街の雑踏に紛れて耳に届かないはずの音。
遠くのほうで、ボールが弾む音が俺の耳を捉えていた。

自分でも解る。
感覚が鋭くなっている事に。
そう。だから、本来拾わないはずのそんな音さえも、今敏感に捉えられるのだろう。

(それにしても……。この音はどこから?)

辺りを見回しても、子供が遊んでいる姿なんて無い。
空を振り仰ぐと、どこまでも冴え渡る澄み切った蒼い空に、真っ白い雲がぽっかりと浮かんでいるだけだ。
そして、目を射るくらいに眩しい太陽の輝きが、じりじりと音を伴って降り注ぐ錯覚さえ起こしそうだった。

蜃気楼で揺らめく地平線が、この暑さを物語っている。
じっとしていても、この太陽の照り付けが、肌の水分さえも奪い取っていくかのように体を貫いていく。
無意識に木陰とかの影を探している自分に気が付いた。
きっとそれは、生命体としての本能だろう。
自らの身の危険を、きっと感じているのだと思う。
まぁ、日本に居たらそうそう味わえない感覚だろうなと思う。
真夏の暑さに匹敵するくらい――いや、もしかしたらそれ以上の暑さだろうが、空気が乾燥しているせいで、まとわり付くような鬱陶しさは無い。
不快指数は低目かもしれないが、如何せんこの暑さには辟易してしまう。
真面目に「焦げる」かもしれない。

まぁ、こんな状況下だ。
さっきのボールの弾む音なんて、気のせいだろう。
そう思うことにした。
それよりも、どこか日差しを遮れる場所に非難した方が良さそうだ。
とりあえず、近場の木陰へと身を潜めた。
空気の暑さは変わらないのに、太陽の日差しが遮られただけで、人心地付きそうになってほっとする。
人間の感覚なんて、おかしなものだ。
じわりじわりと滲み出る汗に、クーラーとしての役割を求めるのなら、この気温では無理がある。
焼け石に水と言ったものだが、少し扇いで、ちょっとだけ涼む。

さすがにこの日差しの下では、黒いカメラは熱くなってしまう。
無理も無いけどな。
溶けてた――なんて事はないだろうけど……。
などと、ごちるようにカメラを点検してみた。
埃のある場所なんていったつもりも無いのに、少しレンズの近くに砂埃みたいなのが付いていた。
そっとそれを落として、ファインダーを覗いてみる。
望遠の付いたそれの先には、目から見える景色のまだ先の方が見える。
ある種族なんて、肉眼で何キロか先が見えるらしいが、日本人である俺には出来ない芸当だし、そんな必要もない。
こいつがあれば、それに匹敵するくらいの遠くまで肉眼で見ているように捕らえることが可能なのだから。
カメラは嘘をつかない。
けれど、撮る者、その出来た写真を扱うものが“心”を入れてしまえば、それは善にも悪にもなりえるものになる。

「俺が撮りたいものは、“瞬間の真実”だけ――」

乾いた風が、そんな呟きさえ空の彼方に飛ばしていく。
たとえ、戦地の惨状を撮ったものも、写真はそこにあるがままの姿を曝け出すだけ。
それに「酷い」とか「かわいそう」とかの“心”を入れるのは、それを見る“人”。
俺が撮りたいのは“瞬間の真実”だけ。
被写体の“在るがままの姿”だけ。
一般的な人々や、写真集を買ってくれたり写真展などに見に来るお客さんが、各々の“心”を入れていくに過ぎない。

今日も、日本を遠く離れた空の下、“真実”を追い求めている。
焼き付けねばならぬ、惨状を収めるために……。

Next......

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最終更新:2009年08月03日 00:23