高校三年。七月。
俺は夏が一番好きだ。
入道雲、セミの声、茹だるような暑さ。
うざったいようで気持ちがいい。
まもなく梅雨が明ける。
期末テストは終わっても、これから受験勉強は本番だ。
国公立大学文系、いまだに俺の第一志望だが、果たして入れるだろうかね…。
俺はドアを開ける。ちょうつがいが壊れそうなほど何度も開けたドアを。
部室にいるのは一人。古泉一樹。
「いたのか」
「えぇ、やはりここは落ち着きますから」
あれから半年以上か。ハルヒの力の消失。
古泉はもう機関の一員ではない。ただの一男子高校生だ。
長門有希は…。いや、ここでは思い出すのはよそう。
ともかくあいつはもういない。
朝比奈みくるさんは短大に進学した。
未来に帰る話はどうなったんだろう?
てっきりハルヒのパワーロストと共に未来へお帰りになるとばかり思って
心構えをしていたのだが…。
「涼宮さんは今日は来ないのですか?」
「あぁ」
俺は短く答えた。あれ以来、ハルヒはずいぶんと普通になった。
たぶん今頃は家で受験勉強でもしているんじゃないだろうか。
「こうしてここで話す機会も減りましたからね」
古泉は淡々と言った。そうだな。
ずいぶんと色々なことがあった。
一生分にも匹敵するような、大切な思い出さ。
外は雨降りだった。梅雨前線がしなくてもいい最後の一頑張りをしているらしい。
俺たちはチェスをしていたが、古泉は今でも弱かった。
ある種の才能なんだろうか?
運の要素がかなりのウェイトを占めるゲームでも俺の方が勝ち越すしな。
「次の市内探索はいつでしょうね」
「さぁな…ずいぶんとご無沙汰だもんな」
長門がいなくなってから一度やったくらいだ。
SOS団がなくなったわけじゃない。部活に割く時間が減っているだけだ。
同級生の多くは部活動を引退しだしているし、
それに倣うならば俺たちもこの部室を引き払うべきなのだろう。
名目上は未だに文芸部で、俺たちはそこに名義を連ねていたが、
新入生は二年連続でいないから、来年はいよいよ危ないかもな。
部室に来たのも一週間ぶりだった。
偶然古泉がいたのだが、こんなことも今や滅多にない。
だが全宇宙探しても、俺が最も心休まる場所はここだ。
それは古泉もハルヒも同じ。
朝比奈さんの緑茶は出てこないけどな…。
終業の鐘。
「ひさびさに楽しかったぜ。たまにはいいな」
「えぇ、息抜きは大事ですからね。これから予備校ですか?」
「あぁ、お前は調子どうだ?」
「まずまずでしょうかね」
「頑張れよ」
「あなたも」
はっきり言ってしまうが、俺達には友情があった。あぁ、認めてやるよ。
古泉の目を見りゃ分かる。
長門を助けたあの時、こいつもしっかり変わってたってことを俺は痛感した。
ハルヒ。お前の近くにいるとな、みんながいい方向に変化するんだよ。
俺は麓からチャリで帰路とは別の道を辿る。
―が、こぎ出す直前に携帯のバイブレータが振動した。
朝比奈みくる。
久しぶりの電話だ。嬉しいね。
俺は顔の筋肉を若干に弛緩させて、通話ボタンを押した。
「もしもし?キョンくん?」
「朝比奈さん、お久しぶりです」
「えへへ、キョンくん元気だった?」
もちろんですよ。仮にどん底まで沈んでいたとしても、
今この瞬間に元気メーターはマックスです。
「うふ。あの、ちょっと用があって電話したの」
「何でしょうか?」
朝比奈さんの用事。何だろうか。
非日常的なことから離れて久しい俺は、何だか心が弾む思いだ。
「日曜日の朝10時にあの集合場所に来れる?」
「えぇ、もちろんですよ。どんな予定があろうと行きます」
「よかった。それじゃぁその時に会いましょう。
今ちょっと長く話せないから…ごめんね」
俺は挨拶を言って電話を切った。
ほわわんとするこの感覚も久々だと新鮮に感じるね。
ハルヒには悪いが、未来人とランデブーだ。
待ち遠しくてしょうがない三日間だったが
予備校の宿題やらハルヒの相手やら古泉との会話やら