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 「活動前に 屋上に来てください 朝比奈みくる」

 

 こうなるともはや慣れっこだが、また朝比奈さん(大)からの呼び出しらしい。最初の頃は少し色めきたったもんだが、今となっては義務感以外の何も沸いてこない。さあ、今日はいつに時間遡行ですか?誰を守るんですか・・・

 

 そんなことを考えているうち時計の針は3時40分を指していた。相変わらず授業の内容は右から左だ。なんだか歯医者がある日の小学校を思い出す。母親に手を引かれるかのごとく、俺は屋上へ向かった。

 

 15分ほど早く来てしまった。そこには、すらっとした腹黒美女がいらっしゃ・・・るはずだったのだが、いたのは大人っぽい悪魔さんではなく、ベビーフェイスのエンジェル、朝比奈さん(小)だった。・・ということは、今回は時間遡行はなしか。しかし、乗り物酔いを味わうことがなくなっただけで、トラックに轢かれかけたり誘拐事件に巻き込まれたりと厄介な状況であることには変わりない。はあ・・・。

 

 「ごめんなさいキョン君。こんなところに」

 「いえ、いいんです。部室にはまだ誰も来てないでしょうし。用事は何です?ハカセくんがまた何か」

 「いえ、もう、キョン君の助けを求めるようなことはありません、というよりは、あたし自身がこの時空平面で何かをすることももうありません」

 

 ・・・・事態がよく飲みこめん。慣れたつもりだったが、まだこのSF特有の唐突な展開にはついて行けていないようだ。

 

 「あの、朝比奈さん、それって・・・」

 「・・・・詳しいことは禁則事項ですけど、あたしのこの時空平面での任 務は、すべて終了したとの連絡が入りました」

 

 このひとことでやっと理解できた。俺を呼び出した理由も全部。

 

 「それって、未来へ帰っちまうってことですか?」

 「はい、それもできるだけ速やかに、この時空平面に爪あとを残さないうちにと。そして期限は今日の4時。」

 

 俺は携帯に目をやった。3時55分。つまり、朝比奈さんはあと5分でこの時間軸から存在しなくなるってことか。って納得してる場合じゃない。

 

 「そんな大事なこと、なんで今頃・・・ハルヒたちにはどう説明すれば」   

 「悩んだんですけど、つらくなるだけだからやめたの。でも、キョン君、あなたには・・・」

 「お、俺になにかできることがあるんですか?」

 「・・・あなたにはまた逢える。それを伝えたくて。だから、その時まで、ちょっとまってて」

 

 そのときっていつですか?そう聞こうとした次の瞬間、彼女は俺の視界から、そしてこの時間軸から消えうせた。

 

 頭はあまり働いていない。正直、今自分がどうやって立っているのかも不思議なくらいに脳が働いてない。しかし、これだけははっきりしている・・・。

 

 もう、朝比奈さんはいない。あの甘く香るお茶は飲めない。頬が冷たかった。それが涙とわかるまで結構時間がかかった。クソ、ハルヒになんて言やいいんだ。そして、俺自身言えなかった一言があるというのに。

 

 身近な人との突然の別れを経験した俺は、30分ほどその場を動くことはできなかったが、ようやく涙も乾き、俺に残された仲間、ハルヒたちの待つ部室へ足を運ぶ力が出てきた。そうして部室のドアをノック・・・・する必要はもうないよな。ガチャッ。

 

 仁王立ちのハルヒ。「遅刻とはいい度胸ね。どういう理由か説明してもらおうじゃないの。」

 「ああ、実は、その、朝比奈さんが」

 「みくるちゃん?ウソはやめなさい、キョン!彼女、この間カナダへ転校したばかりじゃないの!」

 「おい、何言ってんだハルヒ、昨日も一緒だったじゃないか?!なあ、古泉、お前も何か言ってやれよ。このホラ吹き女に」

 「僕たちからすれば、あなたのほうがほら吹きなのですがね。彼女が転校したのは紛れもない事実ですから」

 

 何なんだ。団の一大事を教えてやろうとしたのにほら吹き呼ばわりかよ。どうなってんだ。しかし、このパターンは見覚えがある。そして、こういう状況をことごとく打破してくれた俺のもう一人の女神は・・。

 

 「長門、ちょっと一緒に来てくれ」コクッ。さすが長門。信じてたぜ。

 「あ、コラキョン、有希に乱暴するつもり?」

 「頭冷やしてくるだけだ。すぐ戻ってくる!」

 

 長門の手を引き、俺はもう一度屋上へ、まだ朝比奈さんの香りが残っているかもしれない場所へ来た。

 

 「なあ長門、お前は事情を知っているよな?」

 「今日午後4時、朝比奈みくるの消失を確認」

 「ああ、助かった。もう何がなんだかわからなくてさ。どうして朝比奈さんが転校したってことになってるんだ?」

 「既成事実。最初は転校ということにしておき、徐々にその存在をなかったことにしていく。未来人たちがいつも使う手段」

 「ってことは、しばらくすると、みんな朝比奈さんのことなんか忘れちまうってことなのか?」

 「正解」「・・・俺もか」「正解」

 

 俺は部室へ急いだ。ノックもせずドアを開けた。

 

 つづく

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最終更新:2020年05月17日 18:39