忘れろってのか?それはできないな。俺はあの日常が、5人でいた日々が大好きで、どんなことをしてでも取り返したいんだ。消失世界でとっくに答えは出てる。
「古泉、何か記録媒体貸してくれ!必ず明日返すから!」
「何に使うのですか?用件を言わないことには」
「うるせえ、早く!!」
俺のあまりの剣幕に、一瞬引きつった笑顔になりながらも、古泉は俺にフラッシュメモリを手渡した。
「中のファイルを見ようとしてもムダですよ。開けた瞬間にパソコンを破壊するトラップを仕掛けてありますから」
そんなことは耳にも入れず、俺はハルヒの陣取るパソコン机に突進した。
「スマン、どいてくれ、ハルヒ!」
「な、何よキョン、全然頭冷えてないじゃない!」
俺は震える手でフォルダを探した。あの、俺だけの秘密の・・・あった、「mikuru」フォルダ。俺はすかさずフラッシュメモリにフォルダごとコピーし、ポケットに入れた。そして次は、クリップボードに貼ってある、朝比奈さんが写ってる写真を根こそぎひっぺがした。
「いいかげんにしなさい、キョン!!何のつもりよ!!」
羽交い絞めにしようとしたハルヒを、俺はふっとばす形になってしまった。
「・・・キョン?」
「デジカメのデータは残ってるんだから別にいいだろう。俺、今日もう帰るからな。もう頭が割れそうだ」
涙目になってうずくまるハルヒと、ただただ唖然としている古泉を背に、俺は走った。途中長門とすれ違ったが、礼を言う余裕ももはや今の俺にはなかった。が、長門は俺の襟首をつかんだ。当然、俺は慣性の法則の実験よろしくよろめきながら停止した。
「な、何だ長門?!」
「私は彼女を忘れない」
その言葉が、今の俺にはたまらず頼もしく感じた。コイツが覚えているということは、未来永劫忘れないということなのだろう。
「・・・ありがとな、長門」
ようやく襟首を開放してくれた。そして俺は再び家路を急いだ。こんなに急いだのは、ずっと見ていたドラマの再放送の最終回を録画し忘れたとき以来だ。ガチャッ!
「あ、おかえりキョンくん、早かったね!」
妹の声を聞き流し、俺は靴も脱ぎかけのまま自分の部屋へ直行した。そして、フラッシュメモリのmikuruフォルダをパソコンに即コピーし、朝比奈さんの画像を壁紙にした。さらに、他の何枚かをプリントアウトし、今貼ってあるポスターをはがした壁に貼り付けた。そして机には、クリップボードからはがしてきた写真を所狭しと並べ、画鋲で固定したり、写真入れに入れたりした。そして、中学一年の選択授業以来ずっと眠っていた習字道具と、もはや黄ばんでいる半紙を取り出し、「朝比奈みくるを忘れるな」などと殴り書きした。そしてそれが乾いた後、起きたときに見える天井の位置や、机の本棚に貼り付けた。そう、これらはすべて朝比奈さんを忘れないためだ。一気に部屋がストーカーみたいになってしまったが、これもすべて朝比奈さんのためだ。きっとわかってくれるはず。ガチャッ!
「もー、キョンくんどうした・・・」バタンッ!・・・どうやら妹はわかってくれなかったらしい。夕食時も、俺と最も離れた席に陣取り、就寝前にゲームをやりに来ることも、シャミセンとじゃれに来ることもなかった。何かもやもやした気持ちを抱えたまま、俺は眠りに落ちた。