秘めてた思い
年中突拍子もないことを考え、ほとんど全てのイベントで周りの人間を巻き込んで振り回し続けるあいつがSOS団を立ち上げてからもうすでに3年目だ。
そろそろ俺たちも進路を本気で考えなければならない時期になってきた訳で、去年の同じ時期なら適当にあしらっていたであろう期末考査のために柄にもなく俺は勉強してない割に成績優秀なハルヒや、卒業後もこの時間平面に留まり、それなりの大学に進学した朝比奈さんに勉強を見てもらいながら過ごしていた。
そんな時期の昼休み、俺はいつもどおりに国木田と谷口と弁当を食っていた。そのときの話だ。
「…そんでその女がよぉ」
谷口のナンパ失敗談をいつもどおり適当に聞き流しているとき国木田がいつものようにやんわりと受け答えしていた。
「谷口もそのナンパへのエネルギーをもうちょっと受験勉強に注いだら?」
…もっともだ。
「別にいいじゃねぇか、ナンパやゲーセン以外の時間は勉強に当ててんだから」
「確かにこの前の中間考査は頑張ってたけど、そんなんじゃそのうち痛い目見るよ」
そうなのだ、忌々しいことに2年の学年末まで俺と一緒に赤点ラインギリギリを低空飛行していた谷口は前回の中間考査であろうことか学年順位のちょうど真ん中あたりにまで成績が上がっていたのだ。
くそぉ~、思い出しただけでも忌々しい。
「にしたってキョンはいいよな~、毎日麗しの涼宮に勉強見てもらってんだから」
「麗しのってなんだ、羨ましいんだったら代わってやってもいいんだぞ」
朝比奈さんならともかくハルヒ大先生のご指導はとんでもなく厳しいからな。
「遠慮しとく、涼宮なんてこっちから願い下げだ、今も大して変わらんが中学の時だって俺が何か聞くたんびに小動物なら焼き殺せそうな眼力で睨んできたんだぜ」
……そう言えば最近また谷口が中学のときのハルヒの話をチラホラ出すようになったな。
「そりゃ今は少しまともになったさ、でも常軌を異しているのには変わりない。……それにキョンから横取りしちゃまずいだろ」
なんだそりゃ。
それじゃまるでハルヒが俺の所有物みたいな言い方じゃねぇか、ハルヒの名誉のために言っとくが、そんなことは断じてない。ハルヒだって俺のことを団員その1としか思ってないさ。
「ま、そういうことにしといてやるよ……さてと、俺トイレいってくるわ」
そういいながら席を立つ谷口を見送りながら。
「なんなんだよ、まったく……」
「ちょっとぐらい察してあげなよ、谷口はああ見えてキョンのことが羨ましいんだよ」
「羨ましい?何のことだ?」
国木田が言ったことに疑問を抱き弁当の残りに手を付けようとした箸を止める。
「谷口は涼宮さんとキョンが仲良くしているのが羨ましいのさ」
そんなことないだろ、第一谷口は日ごろからハルヒのこと変人呼ばわりしてんじゃねぇか。
「そうでもねーと思うぞ」
後ろからニヤニヤしながら話しかけてきたのはクラスメートの後藤だった。
「後藤、そりゃどういうことだ?」
「ほら、オレも東中だったじゃん」
そうだっけ?
「んでさ、実はあいつ東中で一番最初に涼宮に交際申し込んだ相手なんだぜ」
そうだったのか。まあ、ハルヒは元々美人だからな。変な事件起こす前ならあの谷口のことだ、交際申し込んでてもおかしくはない。
「ちょうど今ぐらいの時期だったかな。で、OKの5分後に振られちまってさ。それでもその後も機会があれば涼宮に話しかけてたんだ。だから涼宮と仲いいお前に少し妬いてんのさ」
なるほどね。やっぱりOKした5分後に破局ってのは谷口自身だったのか。だからハルヒと仲良くしてる俺が羨ましいと。
無論、こいつらの考えすぎかもしれんが。
「ちょっと待て。お前らの考えすぎじゃないのか、第一、ハルヒに未練があるんならナンパなんかしないだろ」
「そういえば、谷口がプレイボーイ気取るようになったのも涼宮に振られた後だった気がす……「おい後藤、キョンとなに喋ってんだ?」
間が悪いときに帰ってきやがったな。
「別に、何も、ただの世間話だ」
そう言って後藤は意味ありげな視線を俺に送った後、自分の席に戻っていった。
「ホントか?キョン」
「本当だよ、お前も疑り深いな」
「ま、それなら別にいいんだけどよ」
谷口がそう言ったちょうどその時昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っていた。
やべ!まだ弁当残ってる。
午後の授業は何の変哲もなく、眠りそうになったらハルヒに背中を突かれて過ごす。そんな感じで授業を消化していたのだが。昼休みの話が引っかかって、もし今ハルヒに背中を突かれてるのがクラスの前のほうでぼんやりとノートを取ってる谷口だったらどんな感じなのだろうと、一瞬想像してそれを全否定してる俺がいるのに気が付いた。
なんだってんだ、まったく。
結局、いつまで考えても埒が明かなさそうなので、6限目が終わる頃には考えることを放棄した。このとき、数時間後に俺にとっての一大事件が起こるのは知る由もなかったと言っておこう。
俺はHRが終了したので、掃除当番のハルヒを置いて、さっさと部室へと足を運んだ。
朝比奈さんは大学の講義が終わってから来ているので、今はノックせずとも着替えに遭遇してしまうことはないのだが、こう律儀にノックしている紳士的な俺を誰か褒めて欲しいね。
「どうぞ」
中からやに爽やかな声の入室許可を聞きつつ俺はドアを開けた。
部室にはいつもの爽やかスマイルを貼り付けた古泉しかいなかった。
「めずらしいな、お前だけなのか?」
「ええ、もしかしたら長門さんは掃除当番かもしれませんね、そういうあなたは涼宮さんと御一緒ではないのですか?」
「ああ、あいつも掃除当番だ」
長門が本当に掃除当番かは疑り深いがとりあえず不問にしておこう。とにかくすることもないのでハルヒか朝比奈さんが来るまで古泉相手にチェスを興じながら俺は、昼休みの後藤の話を思い出していた。
「なにか悩み事ですか?」
表情に出ていたのか古泉がそう聞いてきた。
「別に悩み事と言うほどでもないさ」
「そうですか。しかし、一人で溜め込むより誰かに話したほうが案外すっきりするものですよ。よろしければ僕が相談に乗りましょうか?」
「いや、今回ばかりはお前に話したところでもどうしようもないさ」
と言いつつチェックメイトをかけてやる。
「お手上げです」
ある意味ではハルヒ絡みだが今回はさすがにハルヒと谷口の問題だろう。
……って、俺はなに真剣に考えてんだ。
そもそも国木田や後藤の冗談か思い過ごしかもしれないし。たとえ二人の話してたことが本当だったとしても、谷口がそんなに悩んでるようにも見えないし、もう一度交際を申し込むとも思えない。それに、ハルヒも昔ならともかく今のあいつならば仮に申し込まれたとしても谷口の心をいちいち傷つけるような真似はしないだろう。
と、考えるのに没頭してしまったのだが、SOS団専属のエンジェル、朝比奈さんがやってきて俺の思考も一時中断だ。
「こんにちは~」
「こんにちは、朝比奈さん」
俺はそう言いながら自分のパイプ椅子から立つ。
朝比奈さんは卒業したにも係わらず今でもその神々しいメイド姿を守り続けているのだ。
古泉と共に部室の外で朝比奈さんの着替えを待っているとハルヒが長門の手を引っ張りながらやってきた。
「そこで有希と会ったのよ、ところで二人は何で外にいるの?」
「中で朝比奈さんが着替えてるのさ」
「みくるちゃんが?なら久しぶりにみくるちゃんで遊びましょうかしら?」
とか言いつつ部室のドアをお構いなしに開け、部室にずかずかと入るハルヒ。
しかし朝比奈さんはちょうど着替えを完了させたところだった。
「あ、涼宮さん、長門さんこんにちは」
「な~んだ、もう着替え終わっちゃたの?」
とか言いながらいつもの団長席に座った。
長門もいつもの定位置に座りハードカバーを取り出したので、俺と古泉も元の席に戻った。俺はそろそろ勉強をスタートさせるべくチェスを片付けた。
その後はここ最近のいつも通りのSOS団部室だった。
朝比奈さんの煎れてくれる甘露を堪能しつつ、ふとハルヒを見やると珍しくネットサーフィンをせずに窓の外を眺めていた。後姿からは表情をうかがえないが、夕日に照らされた窓の外の光景と相俟ってどことな神秘的な雰囲気をかもし出していた。
ハルヒがいきなり振り返ったため、ハルヒを見てた俺の視線とハルヒの視線がぶつかる。
「なに見てんのよ?」
「いや、別に」
パタン。
ここで俺たちの下校の合図が聞こえた、ラッキーだぜ、余計な言い訳考えずにすんだ。思わず見惚れてたなんて言えるはずないもんな。
グッジョブ、長門。
朝比奈さんが着替えるのでそのほかの人間は先に下校しようということになったのだが。
「ハルヒ、帰んないのか?」
ハルヒはまだ団長席に座っていたのだ。
「うん、ちょっと用事があるからあたしは残るわ」
「そっか、じゃ、先に行ってるぞ」
「うん」
ハルヒと朝比奈さんが追いつけるように比較的スローペースで歩いていたため着替え終わった朝比奈さんは校門近くで追いついた。
ハルヒが追いつくことはなかったのでいつものペースで俺たちは歩き出す。
ちょうど坂の中腹にまで下りてきたときに俺はあることを思い出した。
ノートを部室に置いてきたのだ。
「わるい、部室にノート置いてきちまった、俺は戻るから先に帰っちゃってくれ」
「わかりました」
そう言ってもと来た道を折り返す。
俺は後になってこのタイミングで思い出したことを後悔することになった。
~ハルヒサイド~
「それにしても遅いわね~」
いつまで待たせる気なのかしら。
キョンたちも帰っちゃたし、後5分待って誰も来なかったらあたしも帰ろうかしら。そう思いながら手に持った紙を見やる。そこにはこう書いてあった。
『あなたにお話したいことがあります。もし聞いてくださるのでしたら部活が終わった後部室で待っていてください。もしその気がなければ帰っていただいても構いません。そのときはこの手紙のことは忘れてください』
今朝下駄箱に入っていたこの手紙、この字はどこかで見たことある気がするけど思い出せない。
何か不思議な出来事の相談なら喜んで承るけど。もし、中学のときみたいなつまんない男の告白だとしたら、即刻断って帰ろ。第一、今はSOS団があるのに恋愛事なんて邪魔になるだけよ。それに、好きでもない相手に告白されても困るだけよね。
……って、あたしはまだ恋愛感情を持って異性を見たことがないんだった。精神病の一種なんて言ってるけど人を好きになるってどんなことなんだろう。
……コンコン。
「どうぞ」
さて誰が来るのか……。
それはあたしが予想してた状況とはまったくかけ離れた人物が入ってきた。
「よ、涼宮」
軽い挨拶をしながら入ってきたのは谷口だった。あの丁寧な文面はアホの谷口とはイメージがかけ離れすぎててまったくの想定外だったわ。
「谷口、あんただったの?」
「そ、意外だったろ」
そういってニヤリと笑う谷口、こいつがこんな表情してても様にならないわね、古泉君並の美形ならまだしもアホの谷口じゃ、余計アホな感じが際立つわ。そういえば、東中で一番最初に告白してきたのもこいつだったわね。面と向かって言ってきた数少ない一人だったわ。5分後には振ってやったけどね。
「で、何の用?つまんない事だったら容赦しないわよ?」
団長席に座ったまま谷口を睨む。
「そうだな、俺なんかの話を長時間聞いてくれるとも思えんし、単刀直入に聞いてみるか」
そう言いながら団長席の前、長机の端に腰掛けた。失礼ね、少しは礼儀をわきまえなさいよ。
「……なあ涼宮、お前キョンのこと、どう思ってる?」
「へ?」
我ながら変な声でちゃったわね。
いや、そんなことはどうでもいいわ、今谷口はなんて言ったの?
「ちょっと待ちなさいよ、何でそんなことあんたに教えなくちゃいけないわけ」
「いいから答えろよ」
谷口の癖に命令形なのがむかつくわね。
それにしても、あたしはキョンのことどう思ってんだろ?考えたこともなかったわ。
あいつはSOS団団員その1で雑用係、有希やみくるちゃんばっか見てて鼻の下伸ばしてる。でも、いつも文句言いながらあたしの我侭に最後まで付き合ってくれるやつ。心の中では感謝してるけど。でも、そんなこと本人には言えない。
「何であんたがそんなこと聞くの?」
あたしは質問を質問で返してくるやつが嫌いだけど遂そう聞いてしまうのはしょうがないわよね。
「そんなこと……」
そう言いながら俯く谷口、目元は見えないけど何か迷ってるようにも見える。
「……らに決まってんだろ……」
「え?」
かなり小さかった声なのであたしは聞き返してしまった。
「そんなこと、お前が好きだからに決まってんだろ!!」
顔を上げ突然大声を出す谷口の表情は5年間あたしの見たことのない表情でそう言った。一瞬思考が止まってしまう。
「ばっかじゃないの?あたしはあんたのことを一度振ってるのよ?いまさらそんなこと言われたって……「わかってるよ」
谷口のいつになく真剣な表情が直視できなくて顔を背けたあたしの言葉を谷口が遮る。
「そんなことはわかってる。俺は一度お前に振られた身だ。リトライするのにも遅すぎるってのもわかってる。でも、お前のことが好きなんだ。この気持ちだけは変わらねぇ。中一のときからずっとお前のこと見てた。この気持ちだけは誰にも負ける気はしない、だから……」
この時谷口があたしのすぐ後ろにいることにようやく気がついたわ。振り返ったあたしの視線と谷口の視線がぶつかり、その瞬間にまったく抵抗できなくなってしまった。
谷口の目を閉じた顔が目の前にあった……。
~キョンサイド~
通学路の坂を折り返した俺は、まっすぐ部室棟に向かった、鍵が閉まってる可能性もあったが、ここに来るまでハルヒに会わなかったことからまだ部室にいるだろ。ノックせずに入ってもハルヒが着替えてることもないだろうし、俺は軽い気持ちで部室のドアを開けた。
目の前の光景を俺は疑うことしか出来なかった。
この時ハルヒ以外の神様を恨んだね。
もう少し遅いタイミングか速いタイミングで俺が来ていたらこんな光景を俺は見ないで済んだだろう。でも、それは結局のところ全責任は俺にあるわけだがそれでも俺はその全てを神様に転化したくなるのも無理はないと思う。
だってそうだろ?何の気なしに部室のドアを開けたら団長席のところでハルヒと谷口がキスしてるんだぜ?
誰だって現実逃避したくなる。
谷口は左手をハルヒの腰に回し、顎に手を添えて目を瞑りながらハルヒに口づけている。ハルヒは目を見開いているが驚きと恐怖があるのかまったく動いてなかった。
「なにを……」
俺はそう言うしか出来なかったがハルヒは俺の声で正気に戻ったようだ。
谷口の胸の辺りを両手で押しのけそのまま……。
パァン。
乾いた音が響いた。
ハルヒが谷口の横面を張ったのだ。
「なにすんのよ!!」
「さっきも言っただろうが!俺はお前のことが……「谷口ぃ!!」
自分でも今俺はなにをしたのか理解するのに数秒かかった。
激昂した俺は狭い部室を全速力で走りその勢いにさらに全体重を乗せ谷口を殴り飛ばしたのだ。
谷口はそのまま掃除ロッカーに背中をぶつけ、へたり込んだ。
その先は聞きたくなかった、一瞬谷口とハルヒが心の通じ合ったキスをしたのかと思ったが、今のハルヒの態度からそれはないと感じ取った俺は谷口が言葉を言い切る前に殴ったのだ。
「お前、その先を本気で言うつもりか?」
ハルヒを庇うように自分の後ろに立たせながら言った。どうしてここまで俺が怒ってるのか俺自身わからないが。なにがなんでもこの大馬鹿野郎が許す気にはなれなかった。
「お前がその気なら、もっとハルヒを大事にしようって気持ちがないのかよ」
「うるせぇよ……」
さっきのパンチで切れたのか唇を手の甲で拭いながら谷口が立ち上がり、俺の前に立ちながら言った。
次の瞬間自分の体が宙を浮いていることがわかった。
そのまま自分が普段座っているパイプ椅子をふっ飛ばしながら倒れた。自分の右頬に鈍い痛みがあることからようやく俺は谷口に殴り飛ばされたことがわかった。
マジかよ……、俺が全体重乗っけて俺は谷口のこと殴ったてのに、こいつは勢いを付けずに左手の腕力だけでこんなとこまで俺を殴り飛ばしやがった。
「てめぇになにがわかるってんだ……」
俺のほうに歩きながら言った。
「俺はずっと涼宮のこと見てきた。笑顔にしてやりたくて頑張った。なのに、お前はいつも簡単に涼宮のこと笑わせて、俺が5分しか立ってらんなかった涼宮の隣をお前は独り占めしてやがった!」
そう言いながら俺の襟首を掴み持ち上げる谷口。
身長は大して変わらないので足が付かなくなるってことはないが、それでも俺の体は踵が浮いてしまうくらいまでに持ち上げられた。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ。ハルヒは俺のものでもお前のものでもない。ハルヒはハルヒだ、お前にハルヒが誰と仲良くしてようがとやかく言う権利はねぇだろ」
そう言いながら谷口の目を真っ直ぐ見る。なんだか、こいつの目が人間ではなく野生動物のそれに見えちまったのは俺の気のせいだろうか。
「うるせぇ!俺はこいつのことが好きなんだ!恋人でもねぇのに余裕ぶっこきやがって!!そういう所がムカつくんだ!!」
そう言いながら谷口は右の拳を振り上げ、俺は思わず目をつぶる。
そのとき……。
「やめてぇ!!」
ハルヒの悲痛な叫びが響いた。
目を開くと谷口の拳は寸での所で止まっていた。
「もうやめてよ……谷口、あんたらしくないわよ。今まであんたの思いに気づいてあげられなかったあたしも……悪い。でも、だからってキョンをこれ以上傷つけないでよ」
ハルヒは今まで見たことのないような表情で必死に言葉を紡いだ。
…ギリィ…。
谷口は歯軋りが起こるくらい歯を食いしばっていた。
その顔は怒りと戸惑いがその他いくつもの要素が混じりあった複雑な顔をしていた。やがて。
「……すまん」
そう言って俺から手を離し谷口は部室を出て行った。
「キョン、大丈夫なの?」
ハルヒは谷口がいなくなってすぐに俺の元へ駆け寄った。
「ああ、大丈夫だ。なんとかな」
「そう、よかった」
ハルヒは安堵したようだがそれでも目に見えて困惑していた。
今にも泣きそうな表情だ。
「なにがあったのか教えてくれるか?」
そう言って俺の指定席であるパイプ椅子を立て直し、ハルヒに座らせる。
ハルヒは正直に全部話してくれた。
手紙のこと、待っていたら谷口が来たこと、谷口が聞いてきたこと、谷口がキスしてきたこと。
「あいつがキスしてきた時、閉じる前のあいつの目を見た瞬間、怖くて動けなくなった。まるで谷口じゃないみたいで、そしたら、あんたの声が聞こえて…」
「それであそこに至るわけか」
ハルヒは黙ってうなずいた後、言った。
「中学のとき、あいつが一番最初に告白してきたわ。最初は不思議が舞い込んできたのかと思ってOKした。でも少ししたらそうじゃないってことがわかって、普通の人間の相手をしてる暇はないって振っちゃったの」
昼休みに後藤が似たようなことを話してたな。しかし、ハルヒの話には続きがあった。昼に後藤が話してた通り、機会があればハルヒに話しかけてたらしかったが。しかし、ハルヒが話すには。
「……最初は鬱陶しいと思ってたわ。でも、あいつは他の男子が白い目で見るようになっても、あたしが一時期低レベルないじめにあってたときも、いつもと変わらない調子で話しかけてたきたわ。今になって考えればあいつはあたしのこと笑わせようとしてくれてたのかもしれない」
そう言って俯くハルヒをどうしてやればいいのかわからず、結局頭を撫でてやるしか出来なかった。今回の件を別にすれば、谷口は軽い性格だが根はかなりいいやつだ。例えダチがかなりひどいイジメにあっていたとして、あいつは自分に火の粉が降りかかるとしても態度を変えたりしないだろう。たぶん、国木田に聞いても俺と同意見だと思うね。
やがて、俺は考えながら自分でも言葉を選びながら俺は言った。
「お前は悪くない。かと言って谷口が悪いわけでもないだろ。あいつも、迷いに迷った末での行動だったんだろう。今あいつの気持ちが理解できるのなら、しっかり考えて、それから答えを出せばいい」
口ではこう言ったが俺はまだ今しがた谷口がしたことにはムカムカしていた。しかし、今はそうも言ってらんないな。
「もう大丈夫か?今日は送ってくぞ?」
そう尋ねた俺にハルヒは黙ってうなずいた。
ハルヒの話を聞いている間にもうすっかり当たりは暗くなっており。星が瞬き始めていた。
俺はすぐに自転車を回収しハルヒを後ろに乗せて帰った。一年の夏に後ろに乗せた事があるのに、今ドキドキしてるのはハルヒが腰に手を回してるせいか?
後ろで俺の腰に手を回しているのでどんな表情をしているかはわからないが、俺からハルヒに声を掛けることをしないでおいた、やがてハルヒが。
「ここでいいわ、ありがと、キョン」
「そうか、じゃあまた明日な」
「うん、バイバイ」
別れを告げても俺はハルヒの後姿を見送っていた。
谷口は何だってあんなことしたんだ。自分の気持ちを伝えるにしたって、いささか強引過ぎるだろう。
ハルヒの後姿が見えなくなるまで、俺はずっと考えていた。
「お帰りなさい」
「お前にお帰りと言われる筋合いはないぞ」
ハルヒを送った後、家に帰ると俺の家の前に古泉と長門が立っていたのだ。
大方、閉鎖空間が発生して原因でも聞きに来たのだろう。
「いえ、機関でも大方のことは把握しています。ですが、閉鎖空間が発生する兆しはありません」
「なら、何のようだ」
「あなたのご友人、谷口君のことについてです」
「あの馬鹿がどうした」
ハルヒに余計な刺激を与えたってんで、機関に暗殺でもされんのか?
「そんなことはしませんよ。それではかえって涼宮さんに悪影響を及ぼしかねません」
「ならなんだ?」
「このことに関しては長門さんに説明をお願いしましょう」
長門はおもむろに話し始めた。
「彼の体内、厳密に言えば脳内にウイルスプログラムが組み込まれていた」
「は?」
俺は長門の言ったことが一瞬理解できなかった。
「どういうことなんだ。谷口にいったいどんなウイルスが仕込まれてたって言うんだ」
「彼の脳内に仕込まれたプログラムは、彼の脳内の本来なら彼自身気づかないほど深くに存在した感情を暴走させていたと思われる」
「その感情ってのはなんだ?」
なんとなく、長門の次の言葉がわかる気がした。
「それは、涼宮ハルヒに対する恋愛感情」
「何だってそんなことを」
おかしなプログラムが仕込まれたのなら、谷口の異常な腕力もあの野生動物じみた目も納得がいく。が、しかし、全てを納得できるわけないだろ。
「おそらく、涼宮ハルヒを混乱させるため」
「ちょっと待て、谷口にウイルスが仕込まれたってのはわかった。でも何で谷口になんだ?第一、仕込んだのはどこのどいつなんだ?お前のところの急進派か?それとも天蓋領域か?」
「おそらく、別の情報生命体と思われる。彼にプログラムを仕組んだ理由は、感情までは偽装することが出来ず、また、SOS団内部の人間では我々が常に監視しているため、SOS団外部の人間でありながら涼宮ハルヒにある程度近しい人物の中で該当する感情を抱いている必要があり、それに該当するのは彼のみだったためと思われる」
「おそらく、彼に長門さんのようなインターフェースを接触させたのでしょう。ある程度美人の女性にしておけば、彼には近付き易かったでしょうから」
確かにな。谷口ならば逆ナンされたと思って喜びかねん。
「で、そのウイルスとやらはどうしたんだ」
「発見しだいすぐに取り除いた」
「そうか」
少しだけ安心した。いくらあんなことした後だからって悪友の安否は気になる。
「ところで、何で俺にこんなにすぐ教えたんだ?」
明日の昼休みにでも言いに来りゃいいのに。
「あなたのことですから、谷口君と仲違いになるのではないかと思いましてね」
なぜだ、谷口がハルヒにキスをしたことには激昂したが、あいつがハルヒのことを好きになろうと構わん。
「本当にそのようにお思いなのですか?」
「どういう意味だ?」
「あなたは前々から乙女心には鈍感な方だとは思いましたが、よもや御自分の……いえ、言うのはよしましょう。さすがにこれは、あなた自身の問題です」
古泉が言い切らなくても言わんとしている事はわかった。
いや、むしろもう自分で気が付いていた。古泉に無理やり諭されなくてもな。
たぶん、谷口がハルヒのことを好きかもしれないって聞いた時から谷口に対して沸いていた底知れぬ感情は、谷口に対抗心を燃やしていたんだ。
ただ、自分で認めようとしなかっただけなのだろう。
ここまでくれば言ってやるよ、くそったれが。
俺は、ハルヒのことが好きなんだ。
古泉と長門を見送った俺は、飯もろくに食わずにベットに潜り込んだ。
俺の気持ちに気づき、谷口の思いを知った今、俺はハルヒと谷口にどう接していいのかわからない。谷口だって中学のときから無意識にハルヒのことを見続けていたに違いない。それは普段の谷口の話しを聞く限り明らかだ。
俺だって譲る気にはなれないが、谷口との友情ってやつも壊したくはなかった。あんなふざけた野郎でも三年間の付き合いだからな。
「……どうしろってんだ」
~谷口サイド~
俺が目が覚めて真っ先に感じた事は『後悔』だ。
……くそ、俺は何であんなことしちまったんだ。
俺は涼宮に告白して、途中で自分でも何しようとしてんのかわかんなくって。そう思いながら唇に手を当てる。涼宮とキスしてからなんにも口にせずに寝たからな、温もりがあったわけではないが、感触は生々しく残っていた。
何であんなことしちまったんだろう、俺が涼宮にキスしたときあいつは震えてたじゃねえか。目を閉じてたからわかんねぇけど、きっと恐怖で目を見開いてたに違いねぇ。
その後キョンの声が聞こえて、涼宮に叩かれて、キョンに殴り飛ばされて、俺がキョンを殴り飛ばして、自分でも分けわかんないこと言って、キョンのこと殴ろうとしたらあいつの声が聞こえて、急に怖くなって逃げ出したんだった。
今日からあいつらにどんな面見せりゃいいんだ。
これほど登校したくないと思ったのは初めてだ。
俺が途方にくれてるとキョンの見慣れた後姿が見えたこのままのペースじゃキョンに追いついちまう。そう思った俺はペースを落とした。
あいつだって口では言ってるが涼宮のこと意識してるのは誰が見たって明らかだ。俺がヘタレで涼宮にぜんぜん振り向いてもらえなかった事をあいつに全部押し付けて八つ当たりしたんだ、いつもと同じ態度が取れるわけねぇ。
教室に着くとキョンと涼宮がなんか話してるな。
きっと俺のことを貶してんだろ、そう思うと怖くなってあいつらから目を逸らして自分の席に着く。幸い、俺の席はあいつらの席より前にあったのであいつらのこと見ることもない。
俺はいつまでこんなことを続けることになるんだろう。
俺は何にも考えたくなくって久しぶりに午前の授業は寝て過ごした。昼休みのチャイムが聞こえると国木田に今日は一人で食うと伝えて教室を出た。もともと弁当を食う気になんてなれそうにもない。かと言って何か用事があるわけでもないし、ゆっくり考えるのにはあそこが一番良いだろ。
そう思った俺は屋上に向かった。
~キョンサイド~
結局、なにも答えが出ぬまま浅い眠りに付き夜を過ごした。
通学路の上り坂がいつも以上に厳しく感じるぜ。
いつもなら『よ!キョーン』などと言って背中を叩くあいつがいるのだが。今日は出くわすことがなかった。
教室に入ると既にハルヒが席に着いており、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
「あ、キョン。おはよ」
「おう」
いつも通りの挨拶なのだが昨日のあれがあった以上、普段と変わりなく挨拶しづらいな。俺は自分の席に座りハルヒを見やるが何も言ってこなさそうだったので自分から切り出した。
「……昨日のあれはもう大丈夫なのか?」
そう言うとハルヒはこちらに黙って目を向ける。ストレートに聞きすぎたか?しばらくの沈黙の後にハルヒがポツリ、ポツリと話し始めた。
「……うん、もうぜんぜん平気。……平気なんだけどね……」
平気ならそこまで言葉に詰まることもなさそうなんだが。そう思ってたのだがやがてハルヒが自分から言った。
「……昨日のあれね、当たり障りの無いように断るわ。あいつの今までの行動は少し感謝しなくちゃいけないと思うし、あそこまで真剣な谷口を見たのも初めてだった。でも、同情なんかでOKされても谷口は喜ばないだろうし、長くは続かないと思うの。……お互いのためには絶対にならないから断るしかないよね……」
最後の一言には俺に聞いてるというよりも、むしろ自分に言っているように感じた。自分の決定には絶対の自信をもっているハルヒにしてはかなりの珍しいことだ。そりゃあ、あんなに真剣な思いを伝えられたら誰だって迷うだろう。
SOS団結成前のハルヒだったら迷うことなく断るだろうが、これでもハルヒは成長したって事かね。けど、不謹慎ながら当たり障りの無いように断ると言ったことに安堵した俺がいたのも事実だ。
やがてチャイムが鳴り、岡部が教室に入ってきたので会話は中断となった。俺は前方にいる谷口を見ていたのだが、しばらくは入学当初のハルヒみたく頬杖をついて窓の外を見ていたのだがやがて机に突っ伏して眠ってしまった。
あいつもあいつなりに昨日の事を気にしてるのだろうか、長門が言うには本来ならあいつ自身気付かないような感情を引っ張りだされてあんな行動をとったんだ、あいつもそんなつもりもなくて後悔してるのかもしれない。
俺は自分の考えに没頭してたので教師の言葉など右から左に状態だったのっだが、チャイムが鳴りクラスの連中が弁当を取り出してるのを見てようやく昼休みになっていたことに気が付いた。
俺も弁当を取り出し、いつものように国木田のところへ移動したのだが、谷口がいなかったのだ。
「谷口はどうした?」
「さっき、今日は一人で食うからって言ってどっか行っちゃったよ」
「……そうか」
「ねぇキョン、昨日何かあったの?二人ともなんか変だよ?」
はっきり言えば図星なのだが、さすがにホントのことは言えないので適当に誤魔化しておいた。
それにしても、谷口のやつはどこに行ったのだろう?
~谷口サイド~
…フゥー…。
なんかモヤモヤしてると直ぐこれだからダメだね、中学ん時からの悪い癖だ。
そんなことを思いながらまた少し肺の中に毒素を吸い込む。
タバコなんて最初はカッコつけで吸ってたけど今じゃなんか考え事をするとき、いっつも屋上で吸うようになっちまったな。
「やっぱりここにいたのね」
一人物思いに耽っているときに予想外なやつが来やがった、出来れば今日話すのは勘弁してほしかのにな。
「涼宮……、よくここがわかったな」
「なに言ってんの、あたしは休み時間は校舎を隅々まで歩くようにしてんのよ?一回もあんたのタバコ吸ってるとこ見なかったとでも思ってるの?」
そういえば、そうだったな。
「あたし基本的にタバコは嫌いだけど、そのタバコのにおいは嫌いじゃないわね」
「なんのようだ?俺のとこに来たからにはなんか言うことがあるんだろ?」
そう言うと涼宮は俺に向かってちょっと睨んできた。
「なによ、昨日あんなことしてなによその態度は」
そのネタ出されると何も言えねぇな、俺は。
「昨日のあれ、酷い言い方かもしれないけど忘れてくれ」
俺は自分から切り出した。
「俺も、今では何であんなことしちまったのかもわかんねぇんだ。かなり後悔してる。ホントにすまなかった、だから忘れてくれ。お前、いつだったか恋愛感情なんて精神病の一種だとか言ってたけど、半分くらい当たりかもな。昨日あんなことしたってのに、今じゃ信じられないほど気持ちが冷めてんだ」
涼宮は少し驚いたようだがやがてこう言った。
「そっか、もともとあたしも断るつもりだったから」
……そっか、さっきは気持ちが冷めたって言ったけどそれでもちょっと寂しいな。俺の表情に出ていたのか、涼宮が困ったように言った。
「なんて表情してんのよ、そうね、あんたが精神病にかかったって言うんだったら、あたしが治療してあげるわ」
「なに言ってんだ?」
「そうねぇ……、それじゃ一回だけデートしてあげるわ」
「はぁ!?」
我ながら素っ頓狂な声が出たね。
でも、そりゃ驚くだろ、心のどこかで高嶺の花だと思い続けてた涼宮がデートしてくれるってんだぜ。昨日あんなことしたってのに。
「なによ、行きたくないっての?」
「いや、そんなこともないが……」
「じゃあ決まりね。明日の土曜日9時に駅前に集合ね。来なかったら死刑だから」
そんなこと言いながら涼宮は降りていきやがった。
「お、おい!……死刑って。……ま、しょうがないよな」
こんな時はキョンの口癖が言いたくなるね。
俺は煙を吐きながら呟いた。
「やれやれ、だな」
~キョンサイド~
ハルヒは昼休みの終わる直前に帰ってきて開口一番にこう言った。
「次の不思議探索は日曜日にしましょ。明日は休みにするわ」
「どうしたんだ急に」
今朝もそう思ったが、いつもどおりの声を装うのにこんなに苦労したのは初めてかもな。
「べ、別に、なんでもないわよ」
こいつも隠し事が下手だな、明らかにキョドってんじゃねぇか。まあ、言うのがそんなに嫌なら無理して言う必要はねぇよ。
「なによその言い方、まあいいわ、そんなに知りたいんだったら教えてあげるわよ。谷口の精神病がかなり重症みたいだから土曜日にあたしが直してあげんのよ」
一瞬俺は、谷口のウイルスプログラムとやらがハルヒにばれたのかと思ったが、すぐにハルヒは恋愛感情を精神病の一種と言っていたのを思い出した。
「直してやるって、なにする気だ?」
「別に大したことしないわよ。土曜日に一回谷口に付き合ってあげるだけ」
「そうか」
恋愛感情を精神病として直すのに何をするんだと心配した俺は心の中で安堵した。声に出てないどろうな?と一瞬思った俺だがどうやらハルヒは気付いてないようで安心した。
とは言っても、ようはハルヒは今度の土曜に谷口とデートするってことだよな。長門が言うには、もうウイルスの影響はないと言っていたから、道中谷口がハルヒを襲うとは思えないが、谷口がなにかアクションを起こす可能性大だ。自分の気持ちがわかった以上ほっとけるわけもないよな。
こういう時に限って時間ってのは早く進んじまうもんなんだよな。俺の心配をよそにあっという間に翌日の土曜日だ。
妹がボディプレスかましに来なくても、俺はいつもより早く起きちまった。おそらくハルヒのことだ9時に駅前に集合ってのがいつものハルヒだ。もしかしたら違うかもしれんが、それでも俺はいてもたってもいられなくなり、すぐに、寝巻きを着替えると朝食もそこそこに家を飛び出した。
出る直前に妹が。
「あれぇ~?キョン君が起きてる~。めずらし~。今日は雨でも降るのかなぁ~。ねぇ、シャミー♪」
なんて言ってやがったが気にもしてられねぇ。
俺は駅前に急いだ。
チャリを適当なとこにとめた後、駅前のいつも俺たちが集合してる場所を窺うと40分前にも係わらずすでに谷口が待っていた、1年のときの第二回不思議探索で俺がハルヒを待ってた場所とまったく同じ場所で同じポーズで待ってやがった。
俺は谷口に気付かれないように駅前の方からは見えない――駅からはたぶんはルヒが来るからな――話が聞こえそうな位の位置まで移動した。幸い、谷口はケータイをいじっていたので気付かれることはなかった。
何やってんだろうな、俺。
しばらく待ってると15分前くらいにハルヒがやって来た。
谷口のとこまでやってくるとおもむろに口を開いた。
「早いのね」
「まあな、キョンに一番最後にきたら罰金って聞いたことがあったからな。でも、今回は俺のために時間割いてくれたんだ、今日は全部俺が奢るぜ」
「そう、あんたがそう言うならいいけど」
「それにしても、お前の私服姿かわいいな」
「何恥ずかしいこと言ってんのよ。馬鹿」
ハルヒの頬が赤いのはここから見てもわかるな。
そう言ったハルヒはスタスタと俺たちがいつも利用している喫茶店に向かって歩き出し、谷口はそれを小走りで追いかけて行った。
~谷口サイド~
ここって、いっつも涼宮たちが来てるっていう喫茶店だよな。
そう思いながら、俺は席に着く。
店員が注文とりに来たら涼宮のやつ容赦なく注文してやがる。
こんなことも俺は想定済みさ。昨日、高校生が持っていてギリギリ大丈夫なくらいの量で金を引き出しておいたからな。
……って言っても俺も涼宮みたく注文出来るほどは無いんだけどさ。
「谷口は今日の予定決めてるの?」
涼宮はサンドイッチを頬張りながら聞いてきた。こいつ、自分でデートって決めたくせに。まあ、これも予想はしてたんだけどさ。
「ああ、まあな。今日ここの近くで俺の好きなバンドのライブイベントがあるんだ。午前はそこに行かないか?んで、午後はお前の欲しいもんなんか買ってやるよ」
「ふ~ん、谷口にしてはそこそこの企画じゃない」
これは褒められてるって素直に喜ぶべきなのか?
……でも、涼宮のこんな笑顔見たら馬鹿にしてたとしても嬉しいね。
食事のほうもそこそこに俺たちは喫茶店を後にした。
一瞬、よく見慣れた後姿が見えた気がした。
「どうしたの?」
「ん?いや。別になんでもないぞ」
とは言っても、もうわかってた。よくある後姿だが、間違えるはずも無い。何やってんだろうなあいつ。別に涼宮を襲う気はもうねぇってのに。
……まあ、いっか。もしもの時はまたあいつに殴り飛ばしてもらおう。
「結構混んでるわね」
涼宮は驚いたような声を上げる。
俺も驚いたさ。少し狭いライブハウスにすし詰めって言うほどでもないが、かなりの観客だ。このバンドがそんなにメジャーだった記憶はないぞ。そう思いつつ、遂、隣の涼宮の手を握っちまった。
「……ああ……、ほら、はぐれちまうと大変だろ。だから……、ダメだったか?」
弱気になって聞いちまう。俺って本当にヘタレだなぁ。ナンパばっかりしてるのに。しかも、言い訳がガキみてぇだし。
「別に今日はいいわよ。そんな気にしないで」
そっか、安心した。
そんなこんなしてるうちにライブが始まった。小規模のライブイベントは予想以上のヒートアップ見せた。涼宮も結構楽しんでるみたいだし、ここを選んどいて正解だったぜ。
……って、いつのまにか俺が涼宮の顔色窺ってないか?まあいっか、涼宮が楽しんでるなら俺はそれでよかった。
ライブも終わり、ライブハウスから出ると初夏の風が吹いていた。生ぬるい風でも今の火照っちまった体にはちょうど良いや。
昼食はライブハウスの近くにあったちょっとオシャレなレストランだ。
……思ったんだが、涼宮って他人が奢るとなると本当に容赦しねぇんだな。キョンの気持ちがわかっちまうぜ。まったく。
「なんか言った?」
「いや、別に」
「そ、ならいいんだけど」
しかし、こんな涼宮の顔中学のときは想像も出来なかったんだが。俺はこのメチャクチャ輝いてるこの笑顔が見たくて、なんべんも機会を見つけて涼宮に話しかけてたんだよな。こんな笑顔見てると俺の顔までほころんじまう。
やっぱり、キョンのおかげなのかな。
昼食をすませた後はデパートに行った。
最初は涼宮が『あんただってそれなりのカッコすれば、それなりに見れるようになるんだから』と言われ、俺の服を見繕ってもらっていた。本当は涼宮になんか買ってやるつもりだったのに。
「なにやってんだ?」
試着してた服を元に戻し涼宮を探してると、アクセサリーショップの前でなんかをジッと見つめていた。それは、派手すぎず、地味すぎない綺麗な石の付いたネックレスだった。
「もしかして、それ欲しいのか?」
そう言うと涼宮はギクリと効果音が付きそうなほどのでかいリアクションしやがった。こいつ、絶対嘘は隠しとうせないタイプだな。
「別に、ただ見てただけよ」
「欲しいんだったら俺が買ってやるぞ」
「ご飯もライブも奢ってもらってるのにそこまでしてもらわなくってもいいわよ。それよりもあんたの服でしょ。ほら、行くわよ」
そう言って涼宮は俺の手を引っ張る。キョンっていっつもこんな感じだったのかな?
結局、これからの夏に合ってそうな柄のシャツを一着だけ買った。
「涼宮、ちょっと入り口のとこで待っててくれないか」
「別にいいけど。どうしたの?」
「ん、ちょっとな」
そう言った俺はもと来た道を折り返す。目的地はさっきのアクセサリーショップさ。あのネックレスを買ってプレゼント用に包んでもらい、ちょっと小走りで涼宮の待つ入り口へと向かった。
「遅かったじゃない。なにしてたの?」
「ああ、ちょっとな」
そう言ってさっき買ったネックレスを涼宮に差し出す。
「これって……」
「そう、さっきのネックレスさ。今日のお礼だ。もともとお前に何か買ってやるつもりで来たんだからな」
涼宮は一瞬驚いたようだが、やがて満面の笑みで。
「あんたがそう言うんだったら、ありがたく貰っとくわ」
おもわずクラッときたね。これを見れただけでも買ったかいがあるというもんさ。
「どうせだから付けてみてくれよ」
俺の些細な要望に答え、涼宮は早速ネックレスを付けた。うん、いいな。
「似合ってると思うぞ」
「そう?だったら大事にさせてもらうわ」
俺と付き合うわけでもないのに良いのか?と思っていたのだが口には出さないでおいた。
「もう日も傾いてきちゃったけど、これからどうする?」
そうだな。って言ってももう最後の場所は決まってんだけどな。
「ああ、こっちだ」
涼宮を連れて来たのはとある公園だ。って言ってもただの公園じゃない。俺たちの町は比較的海に近くて北高みたいに結構高い場所なら、海を臨むことが出来る。涼宮を連れてきた公園は北高ほど高さはないが、海により近くて海を一望することが出来る。
ちょうど夕暮れ時になってたおかげで、なんかロマンチックな景色だ。
「へぇ~。綺麗なとこじゃない。よくこんなとこ見つけたわね」
「まあな、俺もたまたま見つけたんだ。結構入り組んだ場所にあるから人もあんまし来ないし。いい場所なんだぜ」
「ふ~ん」
こっから涼宮のこと見ると海がバックになってかなり綺麗に見える。思わず見惚れちまったのはしょうがないよな。
「どうしたの?」
……やっぱり、俺は涼宮のこと好きなんだよなぁ。でも、このままじゃ俺もスッキリしねぇ。やっぱここでハッキリさせるべきか。涼宮との距離もあるし、あいつのとこまで声も届くだろ。
「……今日はありがとうな。本当に楽しかった。でも、最後に聞かせてくれないか?涼宮は……キョンのことどう思ってんだ?」
あきらかに涼宮は動揺してる。
「な、何で今そんなこと聞くのよ」
「たのむ、正直に答えてくれ」
そう言った俺の誠意が伝わったのか涼宮は切り出した。
「なんて言うんだろ。正直なところよくわかんないのよね。あたしに一番最初に出来たSOS団の仲間であって、それでもって、ほかのみんなとは違う何かを感じるによね。文句言いながらもあたしの我侭を最後まで聞いてくれて。うまく表現できないけど。そこに居て当然のように思えるんだけど一番遠くへ行って欲しくない……そんな感じがするのよね」
……やっぱりな。こいつはそういった経験がまったくないから、初めての感情に戸惑ってんだろ。そこに俺の気持ちが入り込む余地なんて本当にないんだよな。
「……なら、その気持ちの答えを教えてやるよ。だけど、教えてやるのは俺じゃないな」
涼宮は首を傾げてる。
やっぱこいつを一番笑顔に出来るのは、お前しかいないだろうな。
「おーい、そこらへんに居るんだろ?出てこいよ」
この初心な女に答えを教えてやってくれ。
~キョンサイド~
こんな公園があったなんてな。ここからじゃ表情まで見えないが。ハルヒの姿がかなり絵になってることをお伝えしよう。
それにしても、谷口は本当に楽しそうだったな。あそこまで幸せそうに笑ってるのははじめてみたぞ。ハルヒもなんかまんざらでもなさそうに見えたのは俺の見間違いだったのか。
ハルヒは当たり障りのないように断ったって言っていたが、このデートで気が変わったって言うんじゃないんだろうな。
すると、なにやら会話の中に俺の名前が聞こえた。
「……今日はありがとうな。本当に楽しかった。でも、最後に聞かせてくれないか?涼宮は……キョンのことどう思ってんだ?」
なんだ?なんでこんな場面で俺のこと聞くんだ?いくらアホの谷口でも空気読まなさすぎだろう。
ほれ見ろ。ハルヒだって戸惑ってんじゃねぇか。
「な、何で今そんなこと聞くのよ」
「たのむ、正直に答えてくれ」
後姿だけで表情まで見えないが。まじめに聞いてることは声だけでわかった。
それがハルヒに伝わったのか、やがて口を開いた。
「なんて言うんだろ。正直なところよくわかんないの。あたしに一番最初に出来たSOS団の仲間であって、それでもって、ほかのみんなとは違う何かを感じるによね。文句言いながらもあたしの我侭を最後まで聞いてくれて。うまく表現できないけど。そこに居て当然のように思えるんだけど一番遠くへ行って欲しくない……そんな感じがするのよね」
俺は自分の鼓動が加速していたのがわかった。今俺、顔赤いんだろうな。
そんなこと思ってると谷口が少し寂しそうな声で。
「……なら、その気持ちの答えを教えてやるよ。だけど、教えてやるのは俺じゃないな」
まさか、あの野郎……。
「おーい、そこらへんに居るんだろ?出てこいよ」
……まさかばれてたなんてな。逃げる暇も考える暇もなかった。しょうがない、行くしかないよな。
俺は隠れてた茂みから姿を現した。
「キョン!?」
ハルヒが見るからに驚愕してるのがわかる。そりゃそうだよな、たった今どう思ってんのか聞かれた相手がここに居るんだもんな。
「いつから気付いてたんだ?」
「喫茶店を出るときくらいだな」
それってほとんど最初からじゃねぇか。結局谷口には全部ばれてたってのか。
そんなこと考えてると、谷口が近寄ってきて俺に囁いた。
「あいつの気持ちもわかったことだし、お膳立ても出来てる。あとはお前しだいなんだから、ちゃんとやれよ。泣かしたらまた殴るからな」
俺が何か言う前に谷口はハルヒに向かって。
「わりぃ涼宮、ちょっととトイレ行ってくるわ」
そう言ってどっか行っちまいやがった。
俺とハルヒは気まずい沈黙の中取り残されてた。ここからでも漣の音が聞こえてくるんだな。
「……なんで、あんたがここに居るのよ」
「お前のことが心配で、この前みたいなことが起きないかと思って、付いてきてた」
「ばっかじゃないの?そんなことしなくたっていいのに」
そうだよな。ハルヒは俺の気持ちを知らない。だから俺が気になってたのもわからない。ハルヒは俺の気持ちを知ったらどうするんだろう。
やがてハルヒはおもむろに口を開いた。
「……さっきの話、聞いてた?」
「……ああ、まあな」
「谷口が、この気持ちを教えるのはあんただって言ってた。ねぇ、教えてよ。この気持ちの正体って一体何なの?」
谷口、いくらなんでも荷が重過ぎるだろ。こんな気まずい状況でどう言えばいいんだよ。
『あとはお前しだいなんだから、ちゃんとやれよ。泣かしたらまた殴るからな』
谷口の俺に言った言葉が脳内でリピートされる。そういうことなのか?お前は俺にハルヒにちゃんと自分の気持ち伝えろってことなのか?
勝手な解釈の仕方かもしれないが。俺の解釈が間違ってないと信じるしかないか。
「なあ、ハルヒ。俺の言葉を聞いて。そんでもってもう一度さっきのこと考えてみてくれ」
「え?」
「俺も最初はお前のことSOS団団長で、我侭なやつだと思ってた。でも、だんだんお前の持ち込んでくることが楽しくなってきて。でも、それはお前が居るからこそ楽しいと思えるようになってたんだ。もちろん、ほかのメンバーや谷口や国木田、鶴屋さんや俺の妹とかの準団員も含めて、みんな居るから楽しいのかもしれないけど、やっぱり、お前が中心に居たからこそそう思えるようになってたんだ。俺もお前が近くに居て当たり前だと思ってた。でも、一番遠くへ行ってほしくないのがお前なんだ」
そこで一呼吸おいて次の言葉を切り出す。
「俺はお前のことが好きだ。たぶん、この世界の誰にも負けない。そんくらいお前のことが大好きだ。この前、お前が谷口にキスされてたのを見てぶち切れたことでようやく気付かされた」
……ああ。かなり恥ずかしいこと言っちまったんだなぁ。
ハルヒは少しの間だけ驚きで目を見開いてたが、すぐに元の表情に戻り、やがて言った。
「……あたしも、やっとわかったわ。あたしもあんたのことが好き。大好き」
そう言うとハルヒは俺に抱きついてきた。
……もう、いいよな。
俺はハルヒの顎に手を添えて顔を上げさせハルヒにキスをした。目を閉じていたのでどんな表情をしてるのかはわからないが、きっとハルヒも目を閉じてることだろう。谷口のそれとは違って、心が通じ合ったキスだからな。
やがて、どちらともなく唇を離した。ハルヒの顔はこれでもかと言うほど夕日に負けず劣らず真っ赤だった。たぶん俺の顔もだな。
「いきなりすると思わなかった」
「ダメだったか?」
そう聞いた俺は次の答えがなんとなくわかる気がした。
「ダメじゃないけど。もっとこう雰囲気ってものがあるでしょ」
「そりゃまぁそうなんだが……「ハイハイ、ストーップ」
俺もハルヒも固まったまま顔だけ振り向いた。
「お前ら熱いのは一向に構わないけど、俺の存在まで忘れてんじゃねぇのか?」
そうだったすっかり頭の中から欠落していた。
谷口はかなりのニヤニヤ顔だ。
「キョン、涼宮のこと送ってってやれよ。涼宮、最後に夢見させてくれてありがとな。おかげで踏ん切りがついた。また学校で、そんじゃな、ごゆっくり、ご両人」
谷口はそのまま帰ろうとしたのだが。
「あ、そうそう、このことは人には話さないでおいてやるけど、たぶんあっという間に広まっちまうと思うぜ。なんせ、付き合ってないってのにかなりのバカップルに見えたからな」
最後の一言がなければカッコよかったにな。ほら見ろハルヒもなんか怒鳴ってんじゃねぇか。
「帰るか?」
ひとしきり悪口雑言吐いたハルヒに俺は問いかけた。
「そうね、もう帰りましょ」
そう言って俺の手を握る。もう暗くなってた空にはすでに星が瞬き始めてるが。一昨日ハルヒを送った時の星よりひたすら輝いて見えた。
~谷口サイド~
まさか、今日中にキスシーンを見ることになるなんてなぁ。
おかげで踏ん切りがついたけどよ。後ろから涼宮の声が聞こえるが無視してやった。
……これでよかったんだよな。よかったんだよ。だから、泣くんじゃねぇよ、俺。明日からまたナンパして新しい出会いでも見つけりゃいいじゃねえか。月曜から思う存分あいつらを冷やかしてやるよ。
だから、こんなときは涙拭って、あのお気に入りの歌を歌うのさ。
「……グスッ……。WAWAWA忘れ物~♪」
ほら見ろ。元気出てきたじゃねぇか。
「受かってるといいわね」
「そうだな」
俺たちつまり俺とハルヒは今、大学の合格発表の会場に来ている。俺の受験結果を見るためだ。ハルヒはと言うともうすでにこの大学に推薦で合格している。『どうせ、一緒になるんだから』とハルヒは三年当初入学を希望していた大学を数ランク落として、俺のギリギリは入れるくらいのレベル位まで落としたのだ。当然、成績優秀なハルヒのことなので、推薦で通ってしまうのは明白だったわけで。今は俺の付き添いとしてこの場にいる。
ハルヒとはあの一件以来正式なカップルとして付き合うこととなった。谷口の言ったとおり、何もせずとも噂があっという間に広まってしまい。今では学校一番のバカップルと言われている。まあ、言われて悪い気はしないが。
谷口はと言えば、あの日の次の月曜日からまたいつものような関係に戻っていた。ハルヒの態度も以前より少し柔らかいものになった気がする。余談だが、谷口がデートのときに買ったネックレスは今もハルヒの首にかかっている。ハルヒいわく、結婚しても大事にとっておくそうだ。いつもはアホとか言ってるがハルヒも谷口に俺に対するのとは違う特別な感情があるって事かね。
それに、どうこう言うつもりもないし、ネックレスもかなり似合っていたので外してもらう理由など皆無だし、そこまで俺は支配欲が強い人間ではない。
「ほらキョン。もう張り出されてるわよ」
ハルヒの言うとおりもうすでに結果発表は張り出されていた。
しばらく俺とハルヒは俺の受験番号がないか、沈黙のまま探してたのだが……。
「あったあった!あったわよキョン!」
ハルヒの指差す先には俺の受験番号がはっきりと書かれていた。
心の中で安堵してた俺をよそにハルヒはかなりのハイテンションぶりで。
「よかったじゃない。これで心置きなくお祝いが出来るってもんよ!!」
「おいおい、いきなり話を飛ばしすぎなんじゃないのか?」
「そんなことないわよ。祝い事なら早いほうが良いに決まってんじゃない」
俺が反論しようと口を開く前にほかの声に遮られた。
「よ、お二人さん。何やってんだこんなところで」
「「谷口!?」」
それはもう見事なまでに声がそろったと思うね。
「なんであんたがここにいるのよ」
ハルヒの谷口に対する態度は一学期の一件以来少し柔らかいものとなっていたのだが、さすがにハルヒも驚いたようだ。
「ん?言ってなかったか?俺もこの大学受けてたんだぜ」
そんなこと初耳だぞ。
「で?結果はどうだったんだ?」
「俺か?もちろん、合格だったぜ。キョンはどうだったんだ?もっとも今の話し聞く限りじゃ聞くまでもないだろうけどな」
それもそうか。……ってつまり俺もハルヒも少なくとも4年間また谷口と顔合わせんのか。やれやれ、腐れ縁だな。
「ところで涼宮。祝い事するんだったら俺と国木田も混ぜてくれよ。そういうのは人数多いほうが盛り上がるし、俺たちも二人だけじゃ寂しいなって思ってたんだ」
国木田は確かもっと上のランクの大学を受けていたはずだが、谷口の話しを聞く限りじゃ受かったらしい。
「そうね、あんたたちがそう言うんだったら参加させてあげてもいいわよ」
ちょっと待て、それっていつの間にか合格祝いがもう決定してる話の進め方じゃないか?
「そうと決まれば善は急げよ!早速みんなに召集かけなくっちゃ!」
そう言って校門に向かってハルヒは走り出した。
「やれやれ」
ハルヒとのやり取りは付き合う前とあまり変わらないが、いつもより一緒にいる時間もハルヒに振り回されることも多くなった。けどまあ、あいつの100Wの笑顔を今まで以上に見れるんだったら安いもんだけどな。
「ところでキョン、涼宮とはうまくいってんのか?」
ハルヒに聞こえないくらいの声で谷口が問いかけてきた。
無論、YESだ。ハルヒとうまくいってないんだったら一緒に合格発表なんか来ないだろうし。些細なケンカはたまにするけど、それでも大体仲直りしてるし。円満にやってると思うぞ。
「そっか、なら安心した。俺だってお前以外のやつに涼宮のこと認める気はないからな」
なんか、お父さんみたいなことを言い出したな。もっとも、ハルヒの家族にもご挨拶はしたけどな。今では両家族公認でお付き合いさせてもらってる。
「絶対離すんじゃねぇぞ。離したら即お前を殴りに行くからな」
「コラ~、キョンと谷口、早く来なさい」
そう言われ谷口と歩き出した。
無論そのつもりだった。手放す気もないし誰かに渡すつもりもない。ハルヒに追いついて手を握る。いつもより少し強く握りしめた。
誰にも言われなくったって、この手を絶対に離すもんかと、
そう心の中で誓いながら。
Fin