黒八木さんはまるで男のような仕草で首を叩きながら言った。
「やめた。営業モード終わり。直で行きましょ」
言うなり胸元から煙草をとりだし、禁煙席の真中で火をつける。
「あ、心配しないで。煙は出ないから。すごいでしょ、これ。ウチの科学部の発明。
試作品失敬してきちゃった。そりゃそうよねー、頭が貧血になってくれりゃ
いいんだもん。タールやニコチンなんか邪魔なだけだし」
いや、でも、出てますって、おもいっきり。煙草の先から、副流煙とかいうやつ。
「なに? なんか文句あんの?」
プカーと俺に煙を吹きつける。いや確かに、煙は見えないが……
「まったく、まさか高校生役やらされるとは思わなかったわよ。ウチの組織、若い女
あまりいないからしょうがないけどさ。ブリッコって疲れるのよねー」
「『機関』の人がうちの学校に何の用で…」
「だから尻拭いよ、イツキの。あの子一応優等生で通ってるんでしょ。さすがに
女子更衣室のなか物色さすわけにはいかないじゃない? だからあたしがこんな
コスプレやってるわけ。ま、ちょっとは面白かったけどさ、へへへ」
「一体何を探してたんですか?」
「ハルヒちゃんの宝物」
「宝物?」
「知らないんだ、やっぱり。あーあ、もうホント、やってられないわ」
見えない煙をもう一度吐き、面倒そうに携帯灰皿に煙草を押しつけた。
「捨てたの?」
「は?」
「コーヒー牛乳だっけ? あの子に飲ませたあと、捨てたの? 捨ててないでしょ?
まったく、抜けてるんだから。あなたもイツキも。ハルヒちゃんはね、あれ持って来たの。
閉鎖空間の中から。下着の中に隠してね。」
「ハルヒが? 下着の……いや、なんのために」
「証拠が欲しかったんじゃないのー、あなたとあそこにいたっていう。そりゃそうでしょ。
何度も妙な世界を体験して、あれはみんな夢でした~なんて言われて、ハイそうですかと
思えるわけないじゃない。まったく、ベッドの上に放り出しゃなんでも夢オチにできると
思ってるんだから、やってらんないわよ。うちのじいさんたち、頭古いのよね。
ほーんとあーたしもリクルートしちゃおっかなー、CIAあたりに」