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鋼人相打つ


 生きることを諦める気はない。
 ここから生きて帰るためにも、戦う覚悟はできている。

 それでも、きっとそれだけでは駄目だ。
 ただ襲ってきた敵を、戦って倒すだけでは駄目なのだ。
 ルイズ・フランソワーズもそうだった。あの両備もまたそうだった。
 彼女達は皆、何らかの願いを携えて、この戦いの場に集った。
 そうした者達と戦うということは、願いを叶えたいという意志と、戦いねじ伏せるということなのだ。

 だからこそ、このままではいられない。
 何も知ろうともしないまま、黙っているわけにはいかない。
 彼女も願いがあると言った。それは聖杯でなければ、叶えられないとまで言い切った。
 それを知らぬふりをしたまま、無情に踏みにじることなど、自分には到底できるはずもない。

 戦う覚悟はできている。
 次に決めるのは、背負う覚悟だ。

 なればこそ、今取るべき行動は――

◆

 格下が格上の周囲を回る――ある者が語った戦いの常道だ。
 力と力がぶつかり合うなら、力の弱い者の方が、付け入る隙を探そうとするからだ。
 そして今まさにスバル・ナカジマは、その理屈をその身で実践していた。

(夕べの奴もすごかったけど……)

 モーター音を轟かせる。
 不整地をガリガリと削りながら、ローラーブレードを走らせる。
 黄金のサーヴァントは確かに手強かった。
 あれだけ激烈なパワーの持ち主には、そうそう巡り合うことはないだろうと、一瞬前まではそう思っていた。
 しかし違う。あれは違う。
 今まさに周囲を回って、隙を探している相手は、もっと根本的に違う相手だ。

『――グレートタイフーンッ!!』

 拡声器越しの雄叫びが上がった。
 轟――と唸って襲いかかるのは、恐るべき破壊力を宿した竜巻だ。
 読んで字のごとく龍のような、巨大で苛烈な風の叫びが、スバルめがけて襲いかかる。

「っ!」

 跳躍。飛び退って回避。
 されど規模が桁違いだ。一度跳んだだけでは避けられない。
 家屋を伝う。更に伝う。
 襲いかかるテンペストは、たっぷり建物三軒分を経て、ようやく鼻先を掠めるに至った。
 瞬間、猛烈な余波が体を煽り、スバルを勢いよく吹き飛ばす。
 地を離れればウィングロードは出せない。『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』 のエンジンを噴かせ、空中で強引に軌道修正。
 勢いを殺し宙に浮いて、スバルは改めて敵を見た。
 眼下で金色の瞳を光らす、黒鉄の巨人の姿を見据えた。

『どうしたどうした! もう終わりかァ!』

 スーパーロボット、『偉大な勇者(グレートマジンガー)』。
 コックピットで息を巻く、あのライダーのサーヴァントはそう言ったか。
 その口から巨大な竜巻を吹き出し、大地に悠然とそそり立つのは、AIが算出した身長が、25メートルにも及ぶ大巨人だ。
 いくら何でもめちゃくちゃだと、何度目とも知れない感想を、スバルは胸中で繰り返した。
 天を貫くほどの巨体からは、地を砕くほどの技が繰り出され、世界樹を大いに揺さぶっている。
 直接接触を避けている以上、夕べの敵とは比較しようもないが、あれとは明らかに別問題の存在だと、それだけは認識できている。
 レギュレーションギリギリ最上限というよりは、凶器持ち込みで失格だとか、そういう類の反則ではないのか。
 サーヴァント同士の戦いに、ああいうスーパーロボットを持ち込むというのは。

『追いかけっこが望みなら付き合ってやるぜ! アトミックパンチ!!』

 鋼鉄の巨腕が持ち上げられる。
 漆黒の鉄拳が突き出される。
 瞬間、火を噴き発射されたのは、腕そのものを弾頭として、放つ必殺のロケットパンチだ。
 それも10倍上のサイズ差があっては、当たりでもすればひとたまりもない。

「このっ!」

 道路に着地すると同時に、『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』をフルアクセル。
 ジグザグに通りを進みながら、迫り来るアトミックパンチを巻かんとする。
 しかし駄目だ。逃れられない。
 敵も間抜けではないのだ。自在に飛び回る鉄拳は、敵に狙いを定めれば最後、当たるまで追い続けるホーミングミサイルだ。
 建物を次々と薙ぎ倒し、立派なお屋敷を貫通し、なおも拳は勢いを増して、スバルへと襲いかかってくる。

(これ以上被害を拡げるわけには!)

 同時にスバルを襲ったのは、焦りだ。
 ここに生きている人間のほとんどは、命を持たないデータに過ぎない。
 しかし今まで壊された家屋に、記憶を失ったままでいる、生身の人間がいたとしたら。
 そう考えると、これ以上逃げ回り続けて、いたずらに被害を拡げるわけにはいかない。
 非合理的な判断だが、そのお人好しと甘さこそが、スバル・ナカジマという人間なのだ。

「はっ!」

 地を叩く。光を放つ。
 ウィングロードを展開し、上方に向かって駆け上がる。
 速く、早く。敵のロケットパンチが反応し、こちらに方向を転換するより。
 舵を取って空を駆け、唸りを上げるアトミックパンチと、すれ違う軌道へとロードを生成。
 一瞬の直感に身を任せ、鉄拳に飛び降り跨ると、左手を勢いよく振りかざした。

「ソード・ブレイク!」

 やるべきことは先程と同じだ。
 南無三と胸中で唱えながら、パンチに超振動をぶつける。
 先ほどとはサイズも強度も違うが、試すなら同じ要領でいけるはずだ。
 あとはこの宝具の神秘性に、このスキルが通じうるかどうか。

『チッ、やりやがったな!』

 結果は見事成功だ。
 舌打ちと忌々しげな声が聞こえた。
 迸る衝撃は鋼を伝い、光沢を放つ装甲板に、無惨な亀裂を走らせていく。
 たまらずアトミックパンチは、急速に方向転換して本体へ戻った。
 あまりの勢いに乗りかかったスバルが、振り落とされてしまったほどだ。
 宝具を傷つけるともなると、容易ではあるまいとは思っていたが、ともあれ奴のロボットには、通用することは明らかになった。
 ならばこの隙は逃さない。奴が態勢を立て直す前に、一気に決着をつけてやる。

「うぉおおおっ!」

 アトミックパンチが引っ込む前に、エンジンを全開で噴かせて突撃。
 逃げる時とは対照的に、一直線に疾駆する。

『ネーブルミサイル!!』

 それでも、敵も引き下がらない。
 腹部のハッチを開くや否や、襲い来るのはミサイルの雨だ。
 炎の尾を引く弾頭が、次々と腹から発射され、スバル・ナカジマの行く手を阻む。

「リボルバーシュートッ!」

 なるべくなら回避せず済ませたい。されどこれだけのサイズ差だ。シールドで受け止め続けるのはしんどい。
 すぐさまカートリッジをロードし、魔力弾にて撃墜を図る。
 一発、二発、五発、十発。
 青く輝く弾丸が、続々とリボルバーナックルから放たれ、上空に真っ赤な花火を咲かせる。

《キャスターさん、聞こえますかッ!?》

 その時だ。
 不意にスバルの脳内に、マスターの念話が飛び込んできたのは。

《聞こえるよ。どうしたの、響?》

 リボルバーシュートの手は緩めず、意識だけを念話に向けて、スバルは返事の言葉を送る。

《できればでいいんですが、そのままロボットの相手を、お任せしてもいいですか?》
《? どうして?》
《……風ちゃんとの話が、まだついてません。私はもう一度、あの子と話をしてみます》

 一瞬、眉がぴくりと動いた。
 反応が遅れ、取り逃がしたミサイルを、やむなく跳躍して回避した。
 爆風が容赦なく巻き起こり、足元からスバルへ襲いかかる。
 ばたばたとバリアジャケットを煽られながらも、次なるカートリッジをロードし、残る標的に照準を定める。

《あの子の言った願い事を、私はまだ知りません。
 それが私達の戦いの理由に、本当になってしまうものなのか……それを知らなきゃ、知らない顔で、戦うことなんてできません》
《それが本当に、響の道と、交わらないものだったとしても?》

 恐らく響の胸にあるのは、脱落したルイズとなのはのことだ。
 彼女らの願いは、響のそれとは、奇跡的にかち合わなかった。
 だからこそ争いを回避し、同盟を結ぶことができたのだ。
 ひょっとしたら、犬吠埼風相手にも、同じように力になれるかもしれない。

《構いません。戦い以外に道がなくても……それでも私は、きちんと相手と向き合いたい》

 たとえそれが、本当に、響にもスバルにも救えないものでも。
 恐らくは自分達と同じように、戦いをよしとしないであろう彼女が、それだけの覚悟を固めたというなら、それを真正面から受け止めたい。
 それが響の願いであり、スバルへのわがままの理由だった。

《……しょうがないな。でも、長くはもたないかもよ?》

 非合理なのは分かっている。
 それでも、同じ甘ちゃん同士、否定することなどできようか。
 爆発四散するミサイルの炎に、スバルは我が身を突っ込ませる。
 灼熱の煙を引き裂いて、再び地面へと向かう。

《平気ですッ! 最短で最速で真っ直ぐに――》
《――一直線で間に合わせます、だよね?》
《……はいッ!》

 最後に聞こえてきた響の念話は、少し弾んでいるように聞こえた。
 それでいい。天真爛漫とした彼女には、ハの字の眉毛は似合わない。
 彼女が笑顔で戦えるなら、己の決断を誇れるのなら、それこそが自らの存在の意義だ。
 着地しグレートを目指しながら、スバル・ナカジマはそう思った。
 風にマスターを攻撃する意思はない。グレートマジンガーの攻撃も、彼女のいる方向には向けられていない。
 それでも、困難な道なのは確かだ。
 だとしても、進むと彼女は決めたのだ。

「どぉりゃあああッ!」

 なればこそ、その決意に応えずして、何が英霊スバル・ナカジマか。
 再び飛び上がり、左手をかざす。
 遂に猛攻を突破し、目前にまで迫ったスバルが、ソードブレイカーを解き放つ。
 周波数は解析済みだ。叩きこめば容赦なく、あの装甲をぶち割ることができる。
 裂帛の気合を込めた一撃が、遂にグレートマジンガーへと、突き出されたその瞬間。

「……えっ?」

 何も、起こらなかった。
 叩きつけられた左腕は、しかしその黒い装甲を、僅かに揺さぶっただけだった。
 これは何だ。効いていないのか。どうしてこんなことが起こる。
 一度通用した攻撃が、二度目は通じなかったなどということは、生前にも起こらなかったはずだ。

『俺のグレートは特注品でな! 超合金ニューZの装甲は、素粒子レベルで姿を変えて、グレートマジンガーの武器となる!』
「なっ!?」
『つまり性質を変えちまえば、音波や振動波の攻撃にも、対処可能って寸法よ!』

 瞬間、驚愕するスバルを鉄拳が襲った。
 丸太をも凌駕するサイズの腕が、鋼鉄の質量で殴りかかったのだ。
 生身なら嘔吐していただろう。脳髄すら揺さぶる衝撃に、容赦なくスバルは吹き飛ばされる。

(傷が、ない……!?)

 そして意識が薄れる直前、一瞬に視界をよぎったものを、スバルは決して見逃さなかった。
 家屋の壁に叩きつけられ、目を覚ましたスバルが思い出したのは、亀裂の消え去った装甲板だ。
 今の一撃に対策を打たれ、ソードブレイカーの効力を、極限まで殺されたことは認めよう。
 しかしそれ以前に負わせた傷まで、回復しているというのはどういう理屈だ。

『そして空中元素固定装置! こいつが実現した回復機構は、このくらいのダメージなら、本体に戻った瞬間に修復可能!
 グレートマジンガーを倒してぇのなら、一撃で吹っ飛ばすくらいの気概でかかってきな!』

 慢心ではない。これは威圧だ。
 突きつけられたその答えは、絶望的な現実だった。
 要するに、こうか。
 グレートマジンガーは、一度浴びせられた超振動に対し、即座に対策を講じてくる。
 その上その都度チューニングを行い、異なる振動をぶつけたとしても、ダメージはすぐさま回復されてしまう。
 超合金ニューZだけならまだいい。攻撃側と防御側で、位相を書き換え合うチューニング合戦に持ち込むだけだ。
 しかしそこに超再生と、絶大なパワーが加われば、もはやその差は生半可なものでは、埋めがたいものになってくる。

(可能性があるとするなら、マスターにかかる魔力負荷か……)

 もちろん、これほどの絶大な威力を誇る宝具だ。
 犬吠埼風が超人だったとしても、この力を維持するだけでも、相当な負担がかかるだろう。
 だからこそ、ライダーは最初からグレートを出さず、ブレーンコンドルで挑んできたのだ。

(……でも、ちょっとまずいかも)

 かといって、魔力切れを悠長に待てるほど、こちらが持ちこたえられるかどうか。
 町を守り、響を守り、あれだけの鉄巨人の猛威の前に、耐え抜くことができるのか。
 大見得を切ってみたはいいが、請け負ったこの仕事は少しばかり、キャパシティオーバーだったかもしれない。
 空へと聳える黒鉄の勇姿を、土埃を払い見上げながら、スバルは苦々しげに笑った。

◆

 駆ける。走る。前へと進む。
 瓦礫の山を飛び越えながら、風の飛び去った方角を目指す。
 スバルは了承してくれたが、彼我の実力差を読み取れないほど、立花響も間抜けではない。
 わがままを通しているからには、彼女が力尽きる前に、速やかにカタをつけなければ。

「――風ちゃんッ!」

 そして、遂に響は見つけた。
 灰色のコンクリートジャングルの中で、一輪だけ咲いたオキザリスを。
 太陽のごとき彩りを放つ、犬吠埼風の黄装束を。

「っ! 響、さん……」
「よかった、見つかった……」
「……何をしに来たんですか。敵だって、あたし言いましたよね」

 警戒し、大剣を突き出しながら、風は響に尋ねてくる。
 シンフォギアを使うつもりはない。敵意を真っ向から向けながらも、立花響は未だ無手だ。
 使えないという理由もあるが、マスターを殺す気はないという彼女の言葉に、嘘偽りがないのなら、その剣はただのポーズのはずだ。
 そうなのだと、響は信じたかった。

「ちゃんと、聞いてなかったからさ。聖杯がなくちゃ叶わない、風ちゃんの叶えたい願いを」

 だからこそ、立花響はストレートに、用件を犬吠埼風へとぶつけた。

「そのためだけに、こんな……?」
「大事だと思ったんだ。助け合って解決するためにも……それが本当に叶わなくって、戦わなくちゃいけなくなったとしても」

 思い返すのは、夕べの戦いだ。
 憎しみのオッドアイで睨みつけてきた、あの両備という少女の姿だ。
 彼女の復讐という動機に対して、どのようなリアクションを取ればいいのか、響にはどうしても分からなかった。
 それでも、もしもそれを聞くことがなければ、どんな言葉をかければいいかと、考えることすらもできなかっただろう。
 それは恐らく、彼女に対して、とても失礼なことだと思った。
 どれほど両備が――犬吠埼風が、余計なお世話だと拒絶したとしても。
 願いを懸けてぶつかり合うなら、いずれ踏みにじるかもしれない願いを、背負っていかなければならないのだ。

「……これです。聖杯で叶えたい、あたしの願いは」

 一拍の間を置いて、風が言う。
 剣を握っていない方の手が、左目を覆う眼帯をめくった。
 瞳自体は健在だ。しかし、恐らく見えていない。
 視力を伴っているのなら、機能しているはずの目を、わざわざ隠すはずもない。

「あたし達は、神樹の勇者……こことは違う別の世界で、町の人達を守るために、怪物と戦ってきました」

 犬吠埼風は静かに語る。立花響とは似て非なる、護国の戦いの記憶を。
 大規模なバイオハザードの発生により、外界から隔絶された四国――それが風達の故郷だった。
 しかし、脅威はそれだけではなかった。外なる世界からは、バーテックスなる怪物が、神の結界を壊さんと、次々と襲いかかってきたのだ。
 それと戦うために、風と仲間達は、神樹の力を授けられ、勇者となって戦ってきた。
 強大な力の代償として、己が体の機能の一部を、供物と変えて捧げながら。

「あたしだけならまだよかった。片目が見えないくらいなら、どうってことはありません。それなりに苦労はしたとしても、面白おかしく生きてはいけます」

 されど、違う。事の本質はそこにはない。
 問題は自分以外の仲間達に、降りかかった悲劇の方だ。
 ある者は不自由な体から、片耳の聴覚まで奪われた。
 ある者は味覚を喪失し、食べる楽しみを失ってしまった。
 そしてある者に至っては、歌手を夢見ていたというのに、声を出すことが叶わなくなった。

「全部、あたしの責任です……あたしが巻き込んだばっかりに、みんなは自由を、喜びを……夢と生き甲斐までなくしてしまった」
「風、ちゃん……」
「だからあたしは聖杯が欲しい! 神様に持っていかれたものも、同じ神話の力なら、取り戻せるかもしれないから!」

 それが勇者部部長として、皆に居場所と喜びを与え、同時に大切なものを奪った、犬吠埼風の責任だから。
 たとえ皆が許してくれても、取り戻せる可能性があるのなら、手を伸ばさなければならないのだ。
 そうでなければ、胸を張って、皆のもとへと帰れるものか。

「これがあたしの願いです。響さん……貴方にはあたしのこの願いを、受け止める覚悟がありますか?」

 光と湛えた右の瞳と、光を失った左目と。
 決意を込めた風の視線が、真正面から響を射抜く。

「私は……」

 動揺し、響は言葉に窮した。
 両備のそれとも大きく異なる、健全で、かつ切実な願いだ。
 それも自分の体と共に、聖杯に治癒を願ってやるとは、到底言い出せない覚悟の重さだ。
 甘かった。予想外の返答に、声を詰まらせた。
 この中学生の幼い体に、途方もない業を背負った少女に、響は何と答えればいい。
 自らに、改めて問い直した。
 背負う覚悟は胸にあるか。
 この願いを踏みにじってでも、己を貫ける覚悟はあるか。

◆

『ニューZの真髄を食らいな!』

 大気を引き裂く音がする。
 びきびきと音を響かせながら、グレートマジンガーが変質していく。
 人体を模していたはずの右腕は、大きな槍の穂先へと変わった。
 螺旋を描くそのフォルムは、諸共に纏っている空気すらも、切り裂いている錯覚すら覚えた。

『ドリルプレッシャーッ!!』

 巨大な衝角が炎を放つ。
 どんっ――と鼓膜を揺さぶりながら、猛烈な勢いで回転しながら、それはスバルへと襲いかかる。
 あれは槍などではなかった。弓より放たれる鏃だ。
 文字通りの巨大なドリルと化した、グレートマジンガーの右腕が迫る。

「くっ……!」

 あれはさすがにどうしようもない。
 あんなものを向けられては、バリアで受け止めることもできない。
 疲弊した体に鞭を打ち、飛び上がり回避することを選んだ。
 既に限界が近かった。動いて戦うことならできても、攻撃に対処し続けるのが無理だ。
 そして一度でもしくじったなら、まともに直撃を受けたのならば、その瞬間スバルは絶命する。
 即死にまでは至らずとも、致命傷にはなるはずだ。二撃目を回避する余裕を失い、どの道死を迎えることになるのだ。

(もう、ここまでかな……!)

 ここが矛の納めどころか。
 今すぐ響に念話を飛ばし、撤退を指示するべきタイミングか。
 だが、退くことを決めたとしてどうする。背中を向けた自分たちを、やすやすと見逃してくれるだろうか。
 吼えるドリルプレッシャーが、眼下を突き抜け家屋を貫く。
 深々と石畳をえぐりながら、爆音を立てる一撃を尻目に、スバルはひたすらに退路を探った。

『何だ、アイツらはっ!?』

 その時だ。
 瞬間、ライダーの声色が変わった。
 はっとしてスバルが振り返ると、そこに姿を現したのは、見覚えのない2つの影だ。
 片や氷のように透き通る、巨大な装甲を纏った男。
 片やF1カーのような、タイヤとマフラーを身に着けた男。
 それらが倒壊した屋敷の方から、同時に姿を現して、こちらに向かって突っ込んでくる。
 いいや、着地したスバルをスルーし、彼方のグレートマジンガーへと、一直線に突き進んでいく。

(今しかない!)

 何だか知らないが、これは好機だ。
 あれがグレートを引きつけてくれるなら、その隙に離脱するしかない。
 スバルの行動は素早かった。すぐさまウィングロードを展開し、響のいる方向へと走った。

《響! 悪いけどもう時間切れ! 撤収するよ!》
「スバルさんッ!?」

 マスターへ送った念話の返事は、肉声によって届けられた。
 つまりはまさに目鼻の先だ。剣をその手に携えた風と、丸腰のままの響とを、レンジに捉えた状態だ。
 手出しはしない。そこは死守する。
 しかしマスターの安全だけは、確実に確保させてもらう。

「わぷッ!?」

 ヴァリエール邸を脱した時のように、響を強引に小脇に抱えた。
 そのままロードの方向を、反転させて走り去った。

「響さん! くっ……!」

 背後からはうめきが聞こえる。やはりグレートの維持のために、相当な魔力を浪費したらしい。
 追いかける余力がないのなら、ここは互いの安全のためにも、遠慮無くトンズラさせてもらう。

(ここは、感謝した方がいいのかな……)

 そしてグレートマジンガーと対峙する、見知らぬ人影を背後に見ながら、スバルはそう思考した。
 彼女も、そしてライダーも知らない。
 フロストマンとターボマンという、あれらが与えられた名前を。
 あれらが未知のサーヴァントによって、作られ命を与えられた、生きた宝具であることを。
 そして彼らは彼我の事情も、まるきり理解せぬままに、マスターの拠点を守るという命を、ただ実行しているに過ぎないということも。

◆

(少しばかり、飛ばしすぎたな!)

 気付けば感じ取れる風の気配が、かなり弱々しくなっている。
 どうやらキャスターとの戦いで、相当に魔力を搾り取ったらしい。
 情けない。こんなザマがプロの仕事か。
 己をきつく戒めながら、ライダーのサーヴァント――剣鉄也は、迫り来る敵の姿を見やった。

「フン!」
「フガァッ!」

 炎のリングを飛ばしてくる相手と、氷の塊をぶつけてくる相手。
 どちらもグレートマジンガーを、揺るがすには至らない敵だが、このまま放っておくのも鬱陶しい。
 風の余力を考えるなら、下手に時間はかけられない。邪魔者は一撃で消し飛ばすべきだ。

「目障りだ、失せなっ! サンダーフィィィルドッ!!」

 叫びを上げたその瞬間、上空の空模様が一変した。
 グレートマジンガーの力は、時に天候すらも操り、己が最大の武器を呼び寄せる。
 ライダーの宝具の最強武装は、天より注ぐ雷を、自らの力と変えたものだ。
 轟――という音を置き去りにして、光と雷電がグレートを撃つ。
 必殺パワー、サンダーブレーク。本来は直射すべきそれを、自身の機体へと纏わせ、無敵の矛と盾を両立する術だ。

「グォォッ!」
「フンガァアア……ッ!」

 そして至近距離の敵に対してなら、グレートを伝う雷のヴェールは、それだけで範囲攻撃となり得る。
 相応に出力は絞ったが、それでも最強武装の転用だ。
 名も知らない2体のアンドロイド――フロストマンとターボマンは、断末魔の悲鳴だけを残して、あっという間に消滅した。

「チッ!」

 もはやキャスターの姿は見えない。探したところで追うつもりもない。
 ブレーンコンドルを切り離し、グレートを表舞台から引っ込める。
 さながら蜃気楼のように、巨人が影も形もなく、ユグドラシルから姿を消した。
 そしてそれを確かめもせぬまま、鉄也はブレーンコンドルを、猛スピードで風へと向けた。

「マスター、無事か!」

 着陸など待てないと言わんばかりに、鉄也は操縦席から飛び降りる。
 直後に、着陸シーケンスに移ったブレーンコンドルが、背後で道路へと降り立つ。
 そのバーニア音をバックにしながら、鉄也は風へと駆け寄って、その安全を確かめた。

「平気よ、ライダー……ちょっと動くのは、億劫だけど」

 大きな剣を杖にしながら、風が鉄也を迎え入れる。
 そしてグレートマジンガーが、そこにないことを確かめると、変身を解除し装束を戻した。
 家から出る時に着ていた、学生服姿へと戻ると、支えを失った体は、軽くふらつき前のめりになる。
 命には別状はないようだが、これほど疲弊した状態となると、徒歩での撤収は難しいだろう。

「ブレーンコンドルで、適当なところまで飛んでく。乗れるか?」

 戦闘中かなりの数の住民が、逃げていく様を見ているが、兵隊や高位の魔術師が、ここに現れないとも限らない。
 風が無言で頷くのを確かめると、背中を軽く押しながら、足早にブレーンコンドルへと向かった。
 魔力切れに気を配り、速攻で仕留めると決めておきながら、全くなんという有様だ。
 それなりに追い込んだつもりだが、こちらも追い込まれてしまった。これではまるで痛み分けだ。

「ズルいこと、言っちゃった」

 操縦席に乗り込みながら、ぽつりと、風が呟いた。
 意識を向けていなければ、聞き逃していたかもしれない、弱い声音だ。

「あのマスターにか」
「試すような……っていうか、脅すようなこと言っちゃってさ。ヤな奴よね、あたし」

 笑ってはいる。
 つとめて軽い口ぶりでいる。
 それでも疲労の残る顔に、色濃く浮かび上がっているのは、強い自己嫌悪の念だ。
 この顔を、忘れまいと思った。
 剣鉄也はあくまで戦士だ。カウンセラーでない以上、人の心の機微にはどうしても疎い。
 それでも、自分がしっかりとしていれば、こんな顔をさせる間もなく、敵を倒すことができた――それは間違いないことだ。

(二度と)

 二度とこんなヘマは犯さない。
 次はこんな失策は犯さず、確実に仕事を遂行してみせる。
 次の命を仮定する時点で、戦闘者として二流ではあるが、それでも今の剣鉄也は、そう思わずにはいられなかった。



【G-4/特級住宅街・ブラッドレイ邸近く/一日目 午前(放送直前)】

【立花響@戦姫絶唱シンフォギアG】
[状態]魔力残量6割、戸惑い
[令呪]残り二画
[装備]ガングニール(肉体と同化)
[道具]学校カバン
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:ガングニールの過剰融合を抑える方法を探す
1.スバルと共に自宅へ戻る
2.風に対して……?
3.両備の復讐を止めたい
4.出会ったマスターと戦闘になってしまった時は、まずは理由を聞く。いざとなれば戦う覚悟はある
5.スバルの教えを無駄にしない。自分を粗末には扱わない
[備考]
※E-4にある、高校生用の学生寮で暮らしています
※高町なのはを殺害した犯人(=忌夢および呀)の、外見特徴を把握しました
※シンフォギアを纏わない限り、ガングニール過剰融合の症状は進行しないと思われます。
 なのはとスバルの見立てでは、変身できるのは残り2回(予想)です。
 特に絶唱を使ったため、この回数は減少している可能性もあります。

【キャスター(スバル・ナカジマ)@魔法戦記リリカルなのはForce】
[状態]全身ダメージ(大)
[装備]『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』、包帯
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、響を元の世界へ帰す
1.響を連れて自宅へ戻る
2.金色のサーヴァント(=ハービンジャー)、グレートマジンガー(=剣鉄也)を警戒
3.戦闘時にはマスターは前線に出さず、自分が戦う
[備考]
※4つの塔を覆う、結界の存在を知りました
※予選敗退後に街に取り残された人物が現れ、目の前で戦いに巻き込まれた際、何らかの動きがあるかもしれません
※高町なのはを殺害した犯人(=忌夢および呀)の、外見特徴を把握しました
※グレートマジンガーの持つ武装と、魔神パワー「再生」「変態」の存在を把握しました


【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]魔力残量2割、衰弱、自己嫌悪
[令呪]残り三画
[装備]ブレーンコンドル(搭乗中)
[道具]スマートフォン、財布
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.鉄也と共に自宅へ戻る
2.響を突き放した自分への自己嫌悪
3.人と戦うことには若干の迷い。なるべくなら、サーヴァントのみを狙いたい
4.魔力消費を抑えるため、『偉大な勇者(グレートマジンガー)』発動時は、戦闘は鉄也に一任する
5.鉄也の切り札を使うためにも、令呪は温存しておく
[備考]
※D-3にある一軒家に暮らしています
※『魔術礼装を持った通り魔(=鯨木かさね)』『姿の見えない戦闘音(=高町なのは)』の噂を聞きました
※『姿の見えない戦闘音』の正体が、特級住宅街に居を構えていると考えています。既に脱落していることには気付いていません

【ライダー(剣鉄也)@真マジンガーZERO VS 暗黒大将軍】
[状態]健康、屈辱
[装備]ブレーンコンドル(操縦中)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァントという仕事を果たす
1.風と共に自宅へ戻る
2.風の魔力を必要以上に浪費した、自分の不甲斐なさに苛立ち
3.グレートマジンカイザー顕現のためにも、令呪は温存させる
[備考]
※『魔術礼装を持った通り魔(=鯨木かさね)』『姿の見えない戦闘音(=高町なのは)』の噂を聞きました
※『姿の見えない戦闘音』の正体が、特級住宅街に居を構えていると考えています。既に脱落していることには気付いていません

【『DWN(ドクター・ワイリー・ナンバーズ)』 】
【DWN.056 ターボマン@ロックマン7 大破】
【DWN.062 フロストマン@ロックマン8 大破】


[全体の備考]
※特級住宅街全域に、甚大な被害が発生しました。
 無数の家屋、およびG-4のブラッドレイ邸の一部が破壊されています。
※剣鉄也が宝具『偉大な勇者(グレートマジンガー)』で戦闘を行いました。
 尋常じゃないほどに悪目立ちしたため、「特級住宅街の巨大ロボット」の噂が、急速に広まりつつあります。



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最終更新:2016年07月27日 21:47