特別授業 吏族編(かくたさんの場合)
ここは、ヨンタ藩国分校。
今日はここで吏族による特別授業が行われる。
「はい、みなさん、今日は吏族の
かくたさんに来ていただきました。吏族のお仕事について教えていただきます。
それではかくたさん、お入りください。」
担任の言葉の後、ガラガラと音を立て開いた戸の向こうから現れたのは、スーツ姿の壮年紳士だった。
「こんにちは、皆さん。今日は私達『吏族』の仕事についてお話させていただきます。
…はい? 何か質問でしょうか?」
かくたはまだ何も話していないのですかと思いながら、手を上げていた一人の生徒をあてた。
「しつもんです。きょうはどうして『めぇど』じゃないんですか?」
かくたは一瞬、頬がピクッとなるのを感じたが、紳士属性がそれを隠して丁寧に答えた。
「私もいつもメード姿をしているわけではありません。
あれは、芝村裕子という作家の陰謀によりさせられているだけです。」
後半はかなり感情がこもっていた様だが、生徒達はあまりそこには興味がないようだった。
「ところで、椅子が2つ空いているようですが、どなたかお休みですか?」
その問いに手を上げた生徒を、名簿で確認する。
「…Y君ですか?どうぞ。」
「A君とR君はあとからきます。二人とも『かてーのじじょー』だそうです。」
「そうですか。では、先に授業を始めておきましょう。
まず、皆さんの中で吏族以外の『地戸』をご存知の方はいらっしゃいますか?」
「はい、『ぎぞく』と『もんぞく』と、あとはえぇっと…。」
「しってる!『たいぞく』だよ。」
手を上げるとほぼ同時に答え始める生徒達を見て、皆さん元気が大変よろしいですね、とか考えるかくた。
「はい、正解です。地戸には吏族・技族・文族・大族の4種類があります。
吏族以外の担当には今度改めて来ていただいて、説明していただきますので、
今日は私達吏族が、どんなことをしているのかを皆さんに知っていただきます。」
「吏族は普段はいたって平凡な事務作業をこなしております。(物語上)
一定期間で、各藩国の書類等に不備が無いか調べるのが主な仕事です。
ただ、一人で淡々とこなすのではなく、見落としが無いよう他の人に見直してもらったり、他の藩の人とチームを組む事もします。
ですので、他人に情報を伝える力がある方が有利な役かもしれません。
そして、戦闘の予定が出るといちばん忙しくなるのが我々吏族です。
戦闘関連の事務作業を一手に引き受けます。
今日はそのときに使う計算用のシートを持ってきておりますので、その使い方を少しお教えいたします。
さて、皆さんは、『エクセル』というものを使った事はありますか?」
Y君とM君は首をふるふると横に振っている。T君とGさんは少しだけとつぶやいている。
Sさんだけが手を上げ、簡単にならと言った。
「そうですか、では使い方からはじめましょう。まずこれをどうぞ。」
持ってきていた表を生徒達に配る。
「これは、実際に私達が使う計算表です。四角で囲まれたものをセルと呼びます。
セルの場所を示すのに、将棋板のように縦の数字と横のアルファベットを使います。
例えば、アルファベットのQと、数字の2が交わるセルを『Q2』と呼びます。
では、今Q2のセルにはなんと書かれているでしょう?」
M君とT君が同時に手を上げ、
「タイプです。」
と同時に答えた。
「正解です。ではセルについては大丈夫ですね。」
と、ここまで言ったと同時に教室の戸が開いた。
「すみません、おそくなりました。A(君)です。」
「まだ始めたばかりですから大丈夫ですよ。座ってください。A君はエクセルについて少しは分かりますか?」
「んー、ちょっとだけなら。」
「セルの呼び方などは?」
「それはだいじょうぶです。」
「では、話を続けて大丈夫ですね。ではみなさんC11というセルを押してみてください。」
一斉に表を押す生徒達。
「すると、表の上の方の空欄だった場所に『=SUM(C3:C10)』というものが浮かび上がってきます。
これは、『C3からC10までの数字を合計する』という計算式なんです。」
「いまは『1+0+(-1)』のけっかがでているってことですか?」
「Gさん、正解です。
ここで出た数字はアイドレスの『評価』というものです。ただ、この評価をそのまま使うわけではありません。
『リアルデータ』と呼ばれる数値に一度直す必要があります。
C11の一つ下、C12には『=1.5^C11』という計算式があります。
この式は『C11の数字の回数だけ1.5を掛け算する』という意味です。」
「はい、どうして1.5なんですか?」
「A君、確か君には以前説明したと思いますが。まあ、他の皆さんに見ていただけるよう、
この間の君とのやり取りをまとめたものがありますので、皆さんは後でこれを見ると分かると思います。
今は、とりあえず1.5の掛け算だと覚えておいてください。
ちなみに、評価0は1.5×0ではありません。
評価0のリアルデータは1になりますので、これも覚えておいてください。
あとは、-1など、0以下の数字だと、掛け算ではなく割り算になりますので注意してください。」
ここで、さらに邪魔が入る。
「Rです、遅れました。ごめんなさい。」
「どうぞ座ってください。ここまでの話はどなたかに聞いていただけますかな?」
「はい。」
「よい返事です。では、説明を続けましょう。
評価-1は割り算をすると先ほど言いました。1を1.5で割るといくつになるでしょう?」
「0.7です。正確には0.6666…です。」
「M君、その通りです。ひとまずそれを覚えておいてください。
次にC13のセルを見てください。
ここには『=ROUND(C12,1)』という計算式があります。
この意味は、『C12の数字を小数点第1位まで残してそれより下は四捨五入する』というものです。」
「これで0.666…が、0.7になるんですね。」
「はい、M君再び正解です。」
「せんとうで使うのは『ししゃごにゅー』したすうじなんですか?」
「ええ、Gさんの言うとおり、実際に使うのはこの四捨五入した後の数字になります。
30人の数値を出す場合、リアルデータの0.666…を足し算したりするわけなんですが、
実際には小数点第二位、つまり0.66で足し算して四捨五入します。
すると、一人当たりの誤差は多くても0.04で、100人集まってもせいぜい4しか誤差は出ません。」
「おおー、すごいですね。」
「A君、感心しているようですのでもうひとつ。
大規模戦闘の時のチェックは少し甘く見てもらえるようです。
このシステムは『象が踏んでも壊れない』と言われています。」
「すげー、ぞーさんふんでもこわれないのかあ…。」
「さて、ここまでが基本になります。
次に例えば、技を使って評価に変更が加えられるとどうなるか。
J8のセルに1を入れてみてください。」
「あ、4になった!」
「はい、J11のセルが4になります。これを『シフト演算』と呼びます。
ただ、技を使用すると燃料を消費しますので、忘れずに燃料に1を入れておきます。」
そこまで言ったところで、終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「おや、もうおしまいですか。では、今日はここまでにしておきます。
この続きは又別の機会に致しましょう。」
「きりーつ、きをつけー、れーい。」
M君の声が響き生徒達は一斉に動く。
「ありがとうございましたー。」
「はい、ありがとうございました。」
かくたは答礼をしてから、教室を後にした。
数分後…。
「にしても、すごいですね、この特殊メイク。」
「だろ? あのかくたでさえ俺に気付かなかったんだぜ。」
「ほんにようできてはりますな、なんか見てて気味が悪いくらいですわ。」
「でも、いいんですか、わたしまで参加して。それにかくたさんだますような事して。」
「大丈夫やろ。映画産業技術のすごさをアピールする宣伝兼ねた実験なんやし。」
「あ、でも、藩王は、先に戻った方がいいんじゃないですか? かくたさんが戻られる前に。」
「あー確かにな。じゃ、俺は先に戻る。後片付けたのんだ。」
「ラジャー。その前にメイク落としとかんと、かくたさんにばれまっせ、藩王。」
「おっと、そうだった、俺はメイク処理したら先に帰るから。」
「はい、お気をつけて。」
かくたは気付いていなかったが、この授業には数名のいたずら班がまじっていた。
(文責 雷羅 来)
最終更新:2007年03月30日 03:58