悲劇も喜劇もねぇよ。
あるのは、現実。ただそれだけだ。
/ * /
「難民・・・いえ、新国民受け入れ施設の工事進捗度は現在84%、簡易住宅、病院、配食所は完成。
風呂施設については温泉からパイプを引き入れました。完成は明朝を予定。交番の設置も完了。詳細はこちらになります。」書類を渡しながら、淡々と述べる
かくた。
「うん。新国民への迎えは?」書類に目を通しながら、言う藩王。。
「槙さん、来さん、ま、坂下さん、蒼麒さんを先発隊として向かわせております。そろそろ接触している頃かと。」
泊り込み3日目だが、2人ともいつも通りに役務を行っていた。仮眠室では作業を終えた
支那実が43時間ぶりの睡眠を取っている。
「藩王、そろそろ仮眠をとられては?」
「1分俺の処理が遅れれば、10人死ぬ。俺は後悔は嫌いなんだ。飯が美味く食えなくなるしな」
諦めたように、ため息をつくかくた。
「それでは、隣国との交渉案件を・・・」
彼らの仕事は未だ続く・・・
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一方その頃、よんた藩国へと続く街道。
「あいあい、おにーちゃんも、おじょーちゃんも、お爺ちゃんも、お爺ちゃんかもしれないお婆ちゃんも、ちゅーもく。ちゅーもーく!特にそこの可愛いお嬢さんは要注目!さて。ようこそよんた藩国へ!・・・うん。ノーレスポンス!ありがとう。ありがとう。さて、長旅お疲れ様でした。よんたは『ごはん万歳!』の国だからねぇ。すぐ先に臨時配食所を用意してるから、暖かいモノを食べて、もう少し頑張っていきましょう。」拡声器を使わずに応援団風に胸を張って声を張り上げる槙。
「おかーさん、どうしてあのお兄ちゃん赤い下着だけなの?」
「・・・・見ちゃいけません」
「気にしちゃあかんでー、お嬢ちゃん。それよりも、この手ぇを見てんか」来の手を覗き込む少女。
「何もないやろ?んで、3、2、1、ホィ!」手のひらいっぱいのキャンディが溢れ出る。
うわーと目を輝かせる少女。「みんなとわけてなー」と少女にキャンディを渡す。
「ところで、らいさんや」
「ん?どうしたん?」
「食料パック。第1種糧秣を用意してくれたー?」笑ったまま尋ねる槙。目だけが笑っていない。
「あぁ、あの生鮮素材の奴な。栄養価も味もクオリティ高いけど、その分値が張ったでー」
「んー、ありがとう。ありがとぅ。いやぁ、長持ちする食材は裏で資産化するからねぇ。闇市が出来たら困る。暫くは1種以外配らないように通達、お願いね~」
性格の差か。槙は基本的に暴徒を含む新国民、否、全てを信用していないようであった。それが、彼にとって幸か不幸かは今の時点では未だ分からない。
「はーい、注目してねー。皆さんの中に途中ではぐれちゃった人、いたら申告してくださいね。ウチの追跡者部隊とワンコ部隊が必ずレスキューしてきますからー」
チャキチャキ指揮する真砂姐さんの元、追跡者部隊・犬神部隊が組織され落伍者の探索/救難にあたっていた。
「荷物、けが人、歩けない子供や病人が居たら私に申告したまえ。運搬型ヤドカニオウを総動員してきた。」
ドクターこと、蒼麒は大量のヤドカニオウ部隊を引き連れ傷病者の運搬に当たっていた。
長旅に疲れた新国民に淡くではあるが、希望の光が灯り始めていた。
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一方その頃、新国民居留予定地。
工事用ヤドカニオウがバリバリと、工事を進めている。
「景色、いいところですねー」青空という名の新国民は、その名の冠する様な空を見上げながら言った。
「ここに、支店を出そうかと思うんですよー」やしほは、(ちっちゃい)身長を懸命に伸ばして
『平安堂・いちごう支店』と看板に書いていた。顔にペンキをつけたまま、んしょんしょと作業している。
「お茶はいいわよねぇ」青空
「お茶は最強です」やしほ
「潤いって大切だわ」青空
「潤ってなんぼですよね」やしほ
「お客さん、待ち遠しいですね」青空
「お客様は神様です」やしほ
居留区は平和だった。
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あとは、新国民到来を待つばかり。
鬼が出ても~蛇が出ても~美味しく歓迎~満腹シアワセ~
よんた藩国は歓迎ムードに包まれていた。
裏で暗躍する一部の人間を除いては。
FIN
最終更新:2008年06月18日 23:10