「藩王の宣言」 冬の京に敵が出た。 この報を聞いたとき、藩王はまず思い浮かべた顔があった。 この国から冬の京の友のため脱藩した藩士の顔を。 そして、次なる報が藩王に届いた。 彼が敵と戦い、戦死したと。 藩王はただ一言、死に顔は安らかだったか?と報をもたらした者に尋ね、 それは不明であると知り、そうか、と答えるのみであった。 更なる報が藩王に届いた。 その敵が冬の京へ本格的に侵攻を開始したと。 それを聞くと、国民を城の前の広場に集まるようにと藩王は触れを出した。 国民はまた何か祭りでもやるのかとワイワイと集まってくる。 広場が国民で埋まると、藩王は今まで国民が見たことがない王としての顔で民の前に立った。 あれ?あれ藩王さま? あんな顔見たことない。 別人じゃないのか? などと口々に騒ぎ立てる国民達。 そしてそんな中、マイクのボリュームを上げる音が広場に響きわたる。 キィィィンという耳障りな高音で不意に国民が静まり返った。 そんな中、藩王は静かに話し始める。 「国民の皆さん、隣国の冬の京が戦場になるようです。 「あそこには我が国の民であった者がいました。 「ですが、彼は敵と勇敢に戦い、散りました。 「彼はこの国のために尽力してくれた御仁です。 「彼がいなければ、今のこの国はありませんでした。 「国民の皆さん。これは隣国の危機、という以前にこの国の恩人の仇が今そこにいるということなのです。 「国民の皆さん、われわれはわんこです。 「わんこは恩を忘れません。 「建国に尽力してくれた彼の為にもここは積極的に介入すべきだと考えます。 「当国はご存知の通り弱小国です。なにが出来るかわかりません。 「ですが、ここで動かねばわんこの名折れです。 「国民の皆さん、藩王はここに友誼に基づく臨戦態勢を宣言し、来るべき仇敵打倒を目指します」 はじめポカ~ンとしていた国民もその言葉の意味が染み通るとやろうぜ、やるか、と早速行動を開始した。 藩王の宣言は国民に触れ渡り、国が戦いに動き出した。 各国が冒険に出る中、人材不足の国家事情のため派遣することなく溜め込んでいた燃料をかき集め、 これまた人手がいないためにあまっていた一時支度金から資金を調達しその時を待つ。 実際に動員令が発動され、確実に財政を圧迫する量の供出を帝國宰相府から求められても、 用意していた量では足りないと判ると、 新たに建国する際に持っていた手持ちの資産やこちらに来てから稼いだ資産もポ~ンと出し その決裁は何事もないかのように次々に下っていき、30分かかることなく全ての作業が終了したという。 実際に供出令が出た際の藩王の言葉は以下の通り。 「まあ、また稼げばいいや。でもしばらくは倹約だなあ。メシの量が減りそうだ」 堪えてるんだかないんだかいまいち判らないが、その顔は晴れやかだったそうである。 そして、今はただ行動の時を静かに待つだけ・・・・・・。 (文:よんた)