麒麟児


独りぼっちの闇の中で、椅子に座った男が笑っている。
彼はこの状況がどうしてもどうしても可笑しいらしく、腹を抱えて身を捩って狂ったかのような哄笑を上げ続けている。
喉が切り裂かれんばかりの金切り声のようなその笑い声は、どうしようもなく悲しげな鳴き声にも似ていた。

宮沢熹一はそんな夢を見た。

目を覚まし、周囲を見回す。
照明がやたらと明るい小部屋の中にいるようだった。

ちらつく視界に頭を振り、これまでの自分の行動を思い返す。
確か……ホワイト・ナイト・バトルの初戦に挑むためにリングに繋がる通路を歩いていた。
そこで謎の三人組に襲われて、つい油断したところをテーザー銃で撃たれて昏倒したはず……。

だが、この状況はどう見てもおかしい。
あの男たちが自分を試合に出させないつもりならこんなところに監禁する前にもっと痛めつけるだろうし、
この部屋に閉じ込めておくつもりなら手足などをキツくを縛るはずで、こんな自由な状態で床に転がしたりはしないだろう。

壁に手を沿え、厚さを計ってみる。簡単には破壊できないほどの強度と厚みだ。
自身の格闘家としての第六感が伝えている。どうやらかなり危険な状況に置かれているようだ。

立ち上がって、さらに状況把握を行おうとする。
眼の前には巨大なスクリーンが設置されているだけで、他には何もない。

いや、一つだけ妙なことがあった。

首輪である。
なぜか自身の首に鉄製の首輪が填められているのだ。
しかも、外そうと試みるが、鍵がかかっているのか外れない。

「おうっ! ワシがこんな状況に尻尾巻いてビビり散らかすとでも思っとんのかいっ!」

熹一は威勢よく声を張り上げたが、返答はなかった。
ふと部屋の隅に目を凝らす。そこには小さなデイパックがぽつんと所在なさげに置かれていた。

何が入っているのだろうか。恐る恐る手を伸ばす。
そして、それに触れようとした瞬間。

パッとスクリーンが明るくなった。

そこに映っていたのは、熹一にとって"ある意味"馴染みの深い人物だった。

B級映画に登場するゾンビマスクを被った筋骨隆々の謎の男。

「――――私はキャプテン・マッスル」

キャプテン・マッスルは朗々とした声で自己紹介を行う。

「キャプテン・マッスル! お前、なんでこんなとこにおるんやっ!」

熹一の問いかけにキャプテン・マッスルは微塵も応えない。
どうやら双方向通信ではなく、一方的に声を届ける仕様になっているようだ。

「この映像を見てる君は選ばれし者。5000万ドルを掴むチャンスを与えられた強き者。
 単刀直入に言おう。これから君たちでちょっと殺し合いをしてしてほしい」

キャプテン・マッスルは平然ととんでもないことを告げる。
そして、それはこの映像を見ている者が熹一ひとりではないということを暗に示していた。

「生き残った一人だけが5000万ドルと願いを何でも1つ叶えてもらった上で元の世界に帰ることができるぞ。
 詳しいことは部屋に置いてるタブレットから確認可能だ。さぁ腕に自信のある者は今すぐドアを開け。
 敵を殺しまくれっ。急げっ。乗り遅れるな。5000万ドルを掴むんだ。"バトルロワイアル・ラッシュ"だ」

"バトルロワイアル・ラッシュ"。
奇しくもその言葉はかつて自身の弟弟子である長岡龍星が、無理やり心臓を奪われかけた時の展開とそっくりであった。

「なっ、なんや! いきなり殺し合いて……何がしたんや!」

すると映像がキャプテン・マッスルから急に切り替わる。
そこには杖をついた老人が立っていた。

「カカカカ……コココココ……」

奇怪な笑い声を上げ、老人は黒服の男たちが運んできた椅子に鷹揚に腰掛けた。
姿は醜悪な老人そのものだったが、そこから醸し出される風格はひとりの王のようであった。

「本来なら……王たるワシがこんな凡愚共の前に姿を現すなど……ありえぬ……! そう、天地がひっくり返ってもありえぬことだが……!
 ワシは今、気分がいいっ……! 先ほど、キャプテン・マッスルから説明があった通り……ワシはこれより"ゲーム"を行う……!」

そう言い、老人は震える膝に鞭を打って立ち上がり、両手を広げた。
周囲の黒服たちがワーワーと歓声を上げる。

「ただまあ……殺し合えと言っても……凡愚共は簡単には動かぬっ……! ワシはそれを誰よりも分かっておる……!
 だからこのように凡愚共を動かす……起爆剤とするために……生贄を用意することにした……! ほれっ……!」

スクリーンの画面が切り替わる。
そこには団子っ鼻の中年男が熹一と同じような部屋に閉じ込められていた。
そして、首には同じように首輪が。

次の瞬間、首輪が起爆した。
パンッという音とともに、男の頭がスイカ割りのスイカのように爆ぜる。
脳漿が飛び散り、いくつかは画面にこびりついてナメクジの這ったような跡を残した。


【大槻太郎@カイジシリーズ 死亡】


うああああああああ(PC書き文字)

凄惨、という他ない状況であった。
これが録画やトリック映像ではないということだけは、幾人もの人体を破壊し、そして治してきた熹一にははっきりと理解することができた。

「コココ……! こうなりたくなければ……動けっ! ネズミのようにチョロチョロと這い回り、ゴキブリのように共食い合ってワシを楽しませるのだっ……!」

再び老人が立ち上がり手を広げる。
周囲の黒服たちがワーワーと歓声を上げた。

「どうも、一部の方を除いてお初にお目にかかります。カラス銀行の宇佐美銭丸と申します。
 先程は大変ショッキングな映像が流れましたが、皆様におきましては今置かれているこの状況がご理解いただけたかと思います」

筋骨隆々のマスクマン、よぼよぼの老人と来て、次に画面に映ったのは糊の効いたスーツを着こなし、薄っぺらい笑顔を顔に貼り付けた優男だった。

「兵藤会長に続いては私が、このゲームの詳しい説明を行わせていただきます」

宇佐美は滔々と"ゲーム"のルールを述べていく。
熹一たちはランダムにマップ上に配置されていること、アイテムがデイパックの中に入っていること、そして禁止エリアが存在することなどが告げられた。

「また、当ゲームの特色として、"ギャンブル・ルーム"が存在することを明言しておきましょう。これはいわば直接的な戦闘以外によって勝敗を決するための空間です。
 ルールは簡単。範囲内に規定人数が入ればゲームスタート。ギャンブルに負けたものは、『松・竹・梅』のレベルに応じたペナルティを受けてもらいます。
 力でも劣るものでも、強者を倒すチャンスです。ぜひ有効にご活用を……」

――パタン、と音がした。
見ると小部屋の一部が崩れ、外へ出られるようになっている。

「それでは、熱く、そして若き心を持たれた皆様。"ヤング・ロワイアル"の開始でございます」

呆然とする熹一を他所に、あくまでもにこやかに宇佐美はそう告げるのであった。


【ヤング・ロワイアル 開始】


5/5【テラフォーマーズ】
○小町小吉/○劉翊武/○アドルフ・ラインハルト/○ジョセフ・G・ニュートン/○テラフォーマー

8/8【ゴールデンカムイ】
○杉元佐一/○アシリパ/○白石由竹/○土方歳三/○鶴見篤四郎/○尾形百之助/○宇佐美時重/○ヒグマ

5/5【ジャンケットバンク】
○真経津晨/○御手洗暉/○獅子神敬一/○村雨礼二/○天堂弓彦

6/6【TOUGH外伝 龍を継ぐ男】
○宮沢熹一/○宮沢静虎/○宮沢鬼龍/○宮沢尊鷹/○長岡龍星/○悪魔王子

4/5【カイジシリーズ】
○伊藤開司/○利根川幸雄/●大槻太郎/○一条聖也/○村岡隆

4/4【LILI-MEN】
○ニト/○黒金ユウト/○ウキョウ/○春日リキヤ

6/6【喧嘩商売】
○佐藤十兵衛/○入江文学/○金田保/○梶原修人/○佐川睦夫/○石橋強

7/7【書き手枠】
○/○/○/○/○/○/○

残り 45/46


【主催者】
兵藤和尊@カイジシリーズ
キャプテン・マッスル@TOUGH外伝 龍を継ぐ男
宇佐美銭丸@ジャンケットバンク

前話 次話
START 投下順
START 時系列順

前話 登場人物 次話
START 宮沢熹一
START 兵藤和尊
START キャプテン・マッスル
START 宇佐美銭丸
最終更新:2024年03月22日 21:22