設定

平沢家
唯 
梓(旧姓:中野)
長女 柚(唯似
次女 愛(梓似
子ども2人は双子


もうすぐ年末というこの季節。
日本ではこの時期になると用意するものがある。

「唯、今年の年賀状、どうする?」
「へ? 年賀状?」
サンタ帽を用意していた唯が抜けた声で答える。
まだクリスマスまで1週間以上あるというのに、パーティ用の小物を出し始めている。
「そうだよ。クリスマスまでには出さないといけないんだから」
「あっ、そっか……。テレビでも言っていたね」
よほどクリスマスのことで頭がいっぱいだったんだろうな。
ちょっと微笑ましく思って、口が緩んだ。
「で、どうするの? 私が作ってもいいんだけど……」
唯は少し考えると、ぴこーんと効果音が鳴る勢いで手を叩く。
「そうだ!」
「何?」
「家族写真にしよう!」


~家族写真!~


「今までみんなで写真って撮ったことないと思うんだよね」
「確かに2人が産まれてからは撮ったことはないかも」
「いい機会だし、みんなに経過報告も兼ねて撮ろうよ!」
目をキラキラさせて唯が力説する。
「……そうだね。じゃあ、明日休みだしみんなで撮ろうか」
「よ~し、どんな格好しようかな~?」
サンタ服を持ちながらそんなことを言われると、ちょっと嫌な予感がする。
……もう2児の親だからコスプレはしないと思うけどね。
「柚、愛、明日はみんなで年賀状の写真撮るからね」
「わかった~!」
「ねんがじょうのしゃしんかぁ。りおちゃんにもおくるの?」
「送るよ? だから、かわいい格好しようね~」
唯が2人を抱いて何を着るのか相談を始める。
「あ、梓。新しく年賀状を送る人っている?」
「えっと、幼稚園の友達が5人追加ね」
「ほ~い。じゃあ2人で何着るか考えておいてね」
「「うん!」」
唯はそこを離れてパソコンをつけた。
「久しぶりに立ち上げるなぁ、住所録」
唯はそこにある数々の知人の名前に懐かしさに似た感情を抱きつつ、新規作成を始める。
「えっと、住所は……」
唯が年賀状をつくってくれている間に、私はご飯をつくりますか。

「はぁ~、とりあえず表側の印刷は終わったよ~」
唯がくて~っとテーブルに突っ伏す。
「お疲れ様。ご飯出来ているから食べよう?」
「わ~い! 今日は何かなぁ?」
「今日はかぼちゃのシチューだよ」
「おぉ! この時期のかぼちゃはおいしんだよね~」
全員が食卓に着いたのを確認して、手のひらを合わせる。
「「「「いただきます!」」」」
こういう料理だと子どもでも野菜を食べてくれるから助かるんだよね。
「梓お母さんのシチューおいしい!」
「うん。わたしもだいすきき!」
「ありがとう」
2人で暮らし始めた頃はどっちも料理が得意じゃなくて、失敗作を食べる日々が続いていた。
でも、その甲斐あってか2人が産まれてからはどっちも料理はそつなくできる様になった。
このかぼちゃのシチューもその努力の結晶の一つだ。
「この味、昔を思い出すね」
「そうだね。唯ったらあの時はかぼちゃを丸ごと鍋に入れて煮ようとしてたなぁ」
「そ、それは、あの時は何も知らなかったから……」
「まぁ、私も人のこと言えないけどね」
私もこれを作れるようになるまでかなり失敗を重ねたからね。
「そんなことないよ。今では私より料理上手だもん」
「……だって、食べてくれる人に”おいしい”って言ってほしいもん」
「そっか……。いつもありがとうね」
そう言いながら唯は嬉しそうにシチューを口に運ぶのだった。


翌日。
「さて、どこで写真を撮る?」
唯がデジカメと三脚を取り出しながら聞く。
「う~ん、公園とかいいんじゃないかな」
「公園か……。行ってみようか!」
柚と愛を着替えさせて、公園へ向かう。
「今日は暖かいね」
「そうだね。風もほとんど吹いていないし、日差しもあるからね」
寒がりの唯と柚もコートとか来ていないくらいだから、12月にしては暖かいほうだ。
「柚~、そんなに走ったら危ないよ~?」
「唯お母さん、こうえんまできょうそうしよう?」
「おぉ! 負けないぞ~?」
「あいだってまけないもん!」
「じゃあいちについて? よーい、どん!」
3人とも公園へ走って行ってしまった。
「はぁ……、3人とも何しているんだか」
唯なんかデジカメ一式を持ったまま走っているし。
ギー太を持って走ったりしているから鍛えられているのかもしれないけど、さすがに疲れるよ?
おっと、そんなことを考えているうちにどんどん遠くへ行ってしまう。
「待ってよ、みんな!」
私も3人を追って走る。

「ついたー!」
「ゆず、はやーい」
「ふふふ、かけっこはとくいだもんね」
柚と愛は頬を赤くしながら白い吐息を弾ませていた。
「はぁ……、はぁ……」
「唯、大丈夫?」
「はぁ……、うん、はぁ……」
「……デジカメ持って、いきなり走るからだよ」
「はぁ……、そうだね、はぁ……」
息があがっている唯をベンチに座らせる。
「はぁ~、こんなに走ったの久しぶりだなぁ……」
「走ることってあんまりないからね」
柚と愛は疲れている様子もなく、遊具に一目散に駆けより遊び始めている。
「2人とも、もう少ししたら写真撮るからね~」
「「わかった~」」
唯もあがっていた息が整ってきて、軽く深呼吸をするとデジカメを取り出した。
「ここも撮っておく?」
「うん。2人の元気なところを残しておきたいんだ」
電源を入れると、ブランコをしている2人を撮り始める。

───こんな未来が来るなんて思っていなかったな……。
私はファインダーをのぞく唯の横顔を見つめながら思っていた。
唯先輩と結婚して、家庭を持つなんて誰が想像できるだろうか。
柚と愛が遊んでいるのを見つめて、本当に私は唯先輩と一緒になったのだと改めて実感していた。
だって、あまりにも幸せすぎて、現実味がないんだもん。
カシャッ
気が遠くなっていると、耳元でシャッター音が鳴る。
「なっ……」
「ふふふ、梓のいい顔が撮れた」
ふと見ると、レンズがこっちに向いていた。
「もう、不意打ちだよ」
「梓の顔も、残しておきたいからね」
そんなことを言って唯はまたレンズを向ける。
「はい、笑って~?」
「もう、あんまり撮りすぎないでよ?」
私は唯に向かって微笑んだ。
「……」
「……」
数秒の沈黙。シャッター音がしてこない。
「……どうしたの?」
「……」
「ん? 唯?」
唯がデジカメを構えたまま固まっている。
「……はっ! あ、ごめんごめん!」
意識が戻った唯が慌ててデジカメを下ろす。
「どうしたの?」
「えっ? いや、その、梓の顔が……」
「私の顔が何?」
「……可愛かったから、動揺しちゃって」
唯が照れ気味に弁明した。
「……まったく、もうっ!」
私まで恥ずかしくなってきちゃうじゃない。
「お、照れ顔~!」
「こ、こんなところ撮らないでよ!」
「ふふふ、撮らないって。しっかりと心に焼き付けたからね」
「……ばか」
本当に唯のこういう所はいつまで経っても変わらないなぁ。
……そういうところも好きなんだけどね。

「さて、そろそろ写真撮影を始めようか!」
「うん。柚~、愛~、そろそろ写真撮るよ~」
「「は~い!」」
唯が三脚を立てて、デジカメを設置していく。そんな時、柚が私の袖を引っ張る。
「梓お母さん、おんぶ~」
「えっ? おんぶ?」
遊び過ぎて足が疲れたのだろうか。両手を広げておんぶをねだる。
「わかった。はい」
「わ~い、おんぶおんぶ~!」
こうやって持ち上げると、柚もだいぶ大きくなったんだとよくわかる。産まれたときなんてあんなにちっちゃかったのに……。
「よし、タイマーセットしたよ~」
デジカメの操作を終えた唯が駆けて来る。
「はい、みんなレンズを見て笑って~?」
「ちょっと、柚、背中で暴れないで……」
「梓お母さんのほっぺ、ぷにぷに~!」
「ほら、レンズを見て!」
カシャッ!
「「あ……」」
姿勢を直せず、めちゃくちゃな構図でシャッター音が鳴った。
デジカメを確認すると、案の定ちゃんとした写真ではなかった。
「……あ~ぁ、これはちょっと使えないかもね」
「ゆずがあばれるからだよ?」
「だっておんぶたのしいんだもん!」
これは撮り直しだなぁ。
「……私はこれでもいいと思うな」
「えっ?」
唯がデジカメを見つめながら言った。
「柚も、愛も、梓も、私も、自分らしく、私達らしく撮れていると思うんだ」
「私達らしく……か」
「柚は元気っぱいで、愛はちょっとおしとやかで、梓は2人のことを大切に思っていて、私は相変わらずのほほんとしていて……」
デジカメに映っている私達の姿を眺めて、ちょっとおかしくなった。
「……そうだね。これが平沢家なんだよね」
「これでいいの?」
「そうだよ。愛のいいところと柚のいいところがちゃんとわかるからね」
唯が愛の頭を撫でながらにっこりと笑った。
───自分らしく、私達らしく、ね。
「そうなんだ~。じゃあ、りおちゃんにもわかる?」
「うん! 璃央ちゃんにも、璃央ちゃんのお母さんにもわかるよ」
「えへへ、うれしいな」
少し照れ気味の愛がはにかんだ。
「……ねぇ、しゃしんとらないの?」
背中で柚が不安げな顔で尋ねる。
「うん。みんなかわいく撮れてたって」
「ほんと?」
「柚の元気なところがよく撮れているよ」
「わああぁ……。そうなんだ!」
無理にちゃんとしなくてもいい。唯の言うとおりいつもの私達でいればいいんだよね。
「写真も撮ったし、もうちょっと遊ぼうか!」
「「お~!」」
さっきの疲れはどこへやら。唯も元気を取り戻して柚と愛と3人で駆けて行ってしまった。
「……本当、唯らしいよ」
唯はいつも人のことを思いやってくれていて、温かくしてくれる。心が綺麗な人なんだよね。
そういう所に惹かれて、私は唯と結婚したんだろうな。
───私ね、唯と結婚して、こんな家族に恵まれて本当に幸せだよ。

そして、元旦───

「ゆずちゃんとあいちゃんからねんがじょうがきたー!」
「おぅ、どれどれ?」
「律、私にも見せてくれよ」
「……これはまた、唯達らしい家族写真だな」
「そうだな。今度はこれに対抗して律のおでこになにか書くか」
「ちょっと、それは勘弁願いたいなぁ……」

「お姉ちゃん、幸せそうだね」
「うん。唯もこういう大人な顔になってきたのね」
「和ちゃんもそういう顔しているよ?」
「そう? ありがと」

「お父さん、梓から年賀状が来ているよ」
「ほう? これはまたいい家族写真じゃないか。柚も愛もこんなに大きくなって……」
「梓も、お母さんとしてちゃんとやっているみたいですね」
「唯ちゃんと一緒に幸せそうに写って……。梓はいい人を見つけたもんだな」
「そうですね」



お父さん、お母さんへ。
私達はこんな感じで元気にやっています。正月にはみんなでそっちに寄らせてもらいます。
梓より。


END


  • 唯梓に律澪に和憂ですか…なんて自分のピンポイントを衝くカップリングなんでしょう…大好物です♪ -- (通りすがりの百合スキー) 2011-02-17 00:36:50
  • 百合百合だね♪今日も平沢家は平和です。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-10 07:47:51
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最終更新:2011年02月16日 03:19