夏の午後

居間にいる私を呼ぶ誰かの声が聞こえた


『こっちだよ』


誘われるままに靴を履き外へ出る


『そっちじゃないよ、こっちこっち』


家を出て左に曲がろうとしたら正しい道を教えてくれた


『まんなかをまっすぐ』


何度目かの道案内でなんとなく行き先がわかった


『どうろをわたったらごーるだよ』


そこは子どもの頃から遊んでいた公園

いつもなら子どもが沢山遊んでいるんだろうけど

流石に今期最高気温を樹立しただけあって人影は全くない

公園の入り口に立ち中を見る

演芸大会で使った広場の真ん中に何かが置いてあった


『はやく!こっちこっち!!』


どうやら声の主は私とアレを引き合わせたいらしい

私は少しだけいつもよりゆっくりと歩きそれに近づく


『とうちゃーく!!』


そこに置いてあったのは水を張っていないピンク色のビニールプール

大きさは幼児一人が入ったら一杯になっちゃう程度しかない


―キミが私を呼んだのかな?


心の中で話しかける

でも聞こえるのは蝉の声だけ


『このこはおしゃべりできないの!だからぼくがてつだってあげたの!』


少し経ってから聞こえた声は確かに目の前からじゃない

もっと違う別の所から


―手伝った……じゃぁやっぱりこの子が私を呼んだの?


視線を外すこと無くもう一人の誰かに問い掛ける


『うん!どうしてもあいたいからよんできてってたのまれたの!』


会いたいと言われても生憎私はこの子との面識など全く無い


―んーと、ボクはこの子の言いたいことがわかるんだよね?

『うん!!』

―そっか。……ねぇ、キミはどうして私を呼んだの?


しばしの沈黙

気のせいか蝉の声も少し大人しくなった気がする


『あのね!やくそくしたからなんだって!』

―やく……そく?

『うん!やくそくだっていってるよ!!えっと……いっしょにいたちっちゃい
こはどこ?だって』

―ちっちゃい……あぁ、憂……じゃない、妹なら今日は友達と出かけてるよ

『いもうとってかみのけくろいの?』

―ううん、私みたいな色だよ

『じゃぁいもうとじゃないっていってる!』

―妹じゃ……ない?


考え始めた私の耳に小さな音が届いた

振り向くとそこには生まれたばかりのつむじ風

楽しそうに枯れ葉を拾っては舞上げを繰り返している


―……ん?


舞上げる枯れ葉の中に不思議な物が一つ

近寄って見るとそれは海外の珍しいトランプのようだ


―トランプ……ビニールプール……どこかで……。あっ!


突然私の脳裏に過去の記憶が再生される



 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



それはとてもとても小さい頃の出来事

その日私は一人だけで公園に来ていた


雲一つ無い夏空

燦々と輝く太陽


広場で楽しげに踊るつむじ風

傍らに小さなビニールプール

それを見つめる黒髪の女の子


偶然に出会った私達

挨拶なんか必要無い

即座に打ち解け遊び始めた

すべてを忘れて遊び続けた



そして迎えた別れの時間

遠くの方から私を呼ぶ声


また会えるかなと問う私

また会いたいと答える皆


すると空から何かがふわり

音もなく地面に舞い降りた


見るとそこには四枚のトランプ

そしてどこからか声が聞こえた


『つぎにあうときのめじるし』



 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



そのあとの事はよく覚えていない

だけどあの時拾ったカードだけは常に携帯するようになっていた

あの時の皆に会える日を信じて


―ビニールプールちゃん、つむじ風くん、久しぶりだね


僅かに震えるビニールプール

つむじ風も私の周りを楽しげに回っている


―あ、そうだ。今日はここじゃなくて私の家で遊ぼうよ


私の呼びかけに困ったような雰囲気を見せる二人


―ビニールプールちゃんにお水を張ることも出来るからもっといっぱい遊べる
よ?


恐らくまだ来ていないあと一人が気になるのだろう


―あ、もう一人の子だったら心配しなくても大丈夫。私の家に案内してもらう
から。ね、たいようくん!!


空に浮かんだ大きな太陽に呼びかける


『そのこのかおわかる?』

―もちろん、毎日のように見てるからね

『そうなんだー。じゃぁいまのかおをおしえてー。あたまにうかべればいいよ
ー』

―はーい。……ってあれ?そういえばなんで私の今の顔がわかったの?

『つむじかぜくんがおしえてくれたのー』

―なるほど。じゃぁ改めて……


忘れることないあの子の顔を太陽にしっかりと伝える


『りょうかーい。じゃぁあんないしにいってくるー』


力強い声を聞いた私はつむじ風と一緒にビニールプールを持ち上げ自宅へと向
かう

あの子が来ることを祈りながら……


    ♪


夏の午後

居間にいる私を呼ぶ誰かの声が聞こえた


『こっちだよ』


誘われるままに靴を履き外へ出る


『かーどをわすれてない?』


家を出ようとした所で不意に問い掛けられた


―大丈夫、ちゃんと持ってるよ

『良かった―。あ、そこをみぎにまがってー』


安堵の声と共に道案内が始まった


『そっちじゃなくてこっちだよ』


何度目かの道案内でなんとなく行き先がわかった


『もうすぐごーるだよ』

―うん、あの家だよね。たいようくん、ありがとね

『そうだよー。どういたしましてー』


玄関前から楽しげな声が聞こえる

私はお財布からトランプを取り出すと一目散に駆け寄った

私を見つけたあの人の顔がほころぶ

水を張ってもらったビニールプールとつむじ風も楽しそうだ


「唯先輩!みんなも!!お待たせ!!!」



おしまい!!



  • 結局何だったんだ? -- (あずにゃんラブ) 2012-12-29 21:19:15
名前:
感想/コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年09月11日 06:05