―優しいぬくもりは、まるでマシュマロです。
ふわふわでふんわりしてて、ほわっと私を包み込んでくれるんです。
36度のほんわりした暖かさは、まるで陽だまりの中みたいです。
その中に、ぎゅっと顔を埋めて、思い切り息を吸い込むんです。
甘い匂いで胸をいっぱいにしちゃうんです。
―それは、私をとろりと溶かしちゃうんです。
触れるものはそれしかなくて、触れられるのもそれしかなくて。
全てを溶かして、体中に満遍なく溶け込んで、私の一つ一つが作り直されちゃうんです。
それに全てを委ねて、平衡感覚なんてどこかに放り投げちゃって。
私の体はどこまでも落ちて、どこまでも登っていくんです。
―つまりはそれは、幸せと言うことなんです。
本当は、もっとそれは貴重であるべきだと思うのです。
一生懸命頑張って、それでもって沢山の幸運に恵まれて初めてめぐり合えるもののはずなのです。
それなのに、先輩はそれをあっさりと、はいって本当になんでもないことのように私に差し出してくれるから。
―仕方ないんです。こうなっちゃうのは、もうどうしようもないんです。
ぎゅうっと私を抱きしめる腕。優しく、ときには激しくすり寄せられるほっぺ。
さわさわと頭を撫でる手は、ときどき悪戯っぽく私の髪を弄んだりして。
まだ頬と額までしか教えてくれない、柔らかな唇。
制服越しに押し当てられるのは、見た目よりもそして私よりもちょっぴり上なふくよかさ。
ぽふんってクッションの上に倒れこんで初めて絡められる、しっとりと吸い付くような心地よさ。
鼓膜を甘く優しくくすぐるようにとんとん叩く、優しい声。
そして、先輩が今この瞬間私を抱きしめてくれているということ。
―そのどれを取っても、私の満点を取っちゃうんです。
きゅっと抱きしめ返すと、嬉しそうにふふって笑って。
首元に頭をこすり付けると、くすぐったそうにふふって笑って。
むすっと困った顔を作って見せても、お見通しだよってふふって笑ってくれます。
私がどんなところにいても、どんなものを背負い込んでいても、どんな思いを抱いていたとしても。
あっさりと私というものを、私以上に私に教えてくれるんです。
「ここだよ」って。
「ここにいていいんだよ」って。
その続きは先輩は言ってくれないですけど。
「ここにいて欲しい」って言ってくれれば。
私はいつまでもそこで丸くなっているのに。
―先輩、知ってますか?
くるりと転がれば、攻守反転なんです。
いつも上にいる先輩は、私の体の下。
きっと、きょとんとした瞳で私を見上げてくるんです。
それを逃げられないようにきゅっと抑え込んで―
―あ、いいかも。
猫だって反撃しちゃうんですよ。
ぺろぺろと舐めまくって、肉球でぷにーっと抑え込んで。
いっぱいいっぱい甘い鳴き声を、耳元で聞かせてやるんです。
この想いの趣くまま、いっぱいいっぱい楽しんでやるんです。
先輩が降参だよって言っても、許してなんてあげないんです。
―でもまだ、もうちょっとだけ待ってあげます。
だって、私は猫ですから。
先輩の猫にさせられちゃったんですから。
こんなにも私を、好きにさせてしまったんですから。
―だから、先輩は責任を取らないと駄目です。
もっと可愛がってくれなきゃやです。もっともっと甘えさせてくれなきゃやです。
私のことをもっともっと、ずうっと好きでいてくれなきゃやです。
優しく抱きしめて、優しくキスをして、その言葉を言ってくれる日を夢に見てるんです。
―早くしてくださいね?じゃないと―
―ホントに襲っちゃいますよ?
最終更新:2009年11月14日 02:41