649 姉妹 [sage] 2010/03/19(金) 00:19:10 ID:bi/G7I2b0
そろそろ、外の景色が見えなくなってきた。
日が暮れかけた居間で、私たちは抱きしめあったまま座ってる。お互い何もしゃべらなくて、私が抱きしめた時のままずっと、憂は私の胸にもたれかかってる。でも眠ってはない。わずかに響く心音と呼吸のリズムが私の体を伝って響いてくる。
憂の側にいることが、こんなにうれしいなんて。
出来た妹だねって、よく言われる。
勉強も家事もギターも、なんでもそつなくこなしちゃう。あの和ちゃんだって、憂を褒めてくれる。誰よりも優しくて、気がついて、そこにいるだけでみんなを和ませて。ほんのささやかな気遣いができる自慢の妹。
でも、そんなやさしい憂は心が繊細。
人から言われた何気ない一言が気になって、思わず言っちゃった自分の言葉を気にしちゃって、もう、何も手がつかなくなっちゃうくらい考え込んじゃう事がある。そんな憂の代わりに私はご飯作って、ギター弾いて、おもしろい話をしてみるんだ。
がんばらなくてもいいんだよって。
でも、やっぱり憂はやさしいから、私に心配かけないようにさびしく笑って、自分の部屋に閉じこもっちゃうんだ。
日が完全に落ちてからどのくらい時間がたったんだろう? 私の後ろに時計があるから時間は分からない。空気が少しずつ冷えてきて私はほんの少しだけ憂を強く抱きしめる。
ぎゅーるるるるるぅ。
むぅ…我ながらなんとデリカシーのない音。憂の頭がゴソゴソ動いた。
憂「ごめんね、そろそろご飯…」
ぎゅう。
唯「だめっ。憂は私といっしょに休むの!」
梓「部活? 憂に?」
唯「きっと憂にもやりたい事あると思うんだ」
帰り道アイスを買って、河原に腰を下して何とか切り出せた。家の外で憂のことを一番知ってるのは、あずにゃんだと思ったから。
梓「でも何で急に?」
唯「憂ったら、私に遠慮して部活やらないのかなぁって。それに、私も部活を始めて色々楽しいし、友達増えたし。憂もどうかなって!」
しばらく黙ってアイスを食べてたあずにゃんが言った。
梓「本当ですか?」
思わず、アイスを落としそうになった。
唯「なにが?」
梓「憂の事話してるのに、全然うれしそうじゃないですもん」
650 姉妹 [sage] 2010/03/19(金) 00:23:34 ID:bi/G7I2b0
だって……私じゃダメなんだもん。
軽音部に入って、たくさんの人と付き合いながら気付いたんだ。りっちゃんとだけできること。澪ちゃんとだけ話せること。ムギちゃんとだけ笑えること。和ちゃんにだけ教えたいこと。その人の前だけで出来ること、話せること、相談できることあるんだなって。
今だって、憂の事はあずにゃんにだけ、話してる。
そしてそれは、憂にも同じ事だと思ったから。
憂の悩みは私には受け止めてあげられなくても……もしかしたら別の人ならできるかもしれないと思ったから。
梓「それはないですよ」
いつの間にか地面を見つめていた視線を上げる。
梓「憂にとって、唯先輩と一緒にいられる時間が一番大切だと思ってるはずですよ。だって、唯先輩のこと話してるときの憂、いっつも笑ってますもん」
その時やっと気付いたんだ。
憂に甘えっぱなしで、姉として、私は憂のことちゃんと守ってあげてなかった。
勉強も掃除も料理も出来ない頼りない私だけど、憂を守るんだ。守らなくちゃ。それだけは、誰にもゆずれない。絶対に。
家に帰ったら、カーペットに座り込んでたところを後ろから抱きしめて。びっくりして振り向く憂になんて声をかけてあげればいいかわからなくって、ただこうやって必死に抱きしめるとゆっくり、もたれかかってきてくれたんだ。
あれから何時間立ったんだろう。
息を吸い込んだら、冷気が体の中で広がっていくのが感じられるくらい冷え切った部屋。カーテンすら引いてない窓から見える範囲ではどの家の明かりも消えて、暗闇に包まれた静かな部屋で私たちはお互いのぬくもりを感じながらただ座ってる。
これでよかったのかな。
声が反響して自分の耳に入ってきて、無意識に声が出たことに気付いた。もぞもぞと憂の頭が動いて目だけがこちらを見つめる。
唯「ねぇ、憂。 私が……お姉ちゃんで、よかったの?」
憂の目がそっと細くなって、私の胸に頭をもたれかけた。
憂「お姉ちゃんが、お姉ちゃんでよかった。本当によかったよ」
憂の声を聴いた瞬間、体の真ん中でまるで吹き上がるように熱いものがこみ上げてきて、涙が止まらなくなった。憂もびっくりして顔を上げるけど、我慢できなくって声を出して抱きしめた。
唯「ういーっ、ういっ・・・!」
憂が私を抱きしめてくれた。暖かくて、優しくて、愛おしくて。私はぐーぅぎゅうるるるうるるぅ……oh。
思わず涙も止まって、二人で笑っちゃった。
憂「なんか作るね」
唯「うん!」
あー、もう。やっぱりどっちが姉だかわかんないよ。
最終更新:2010年03月20日 21:32