660 春分の日 [sage] 2010/03/22(月) 14:24:30 ID:9eS9qQocO
「暇だねういー…」
「そうだねー…」
3月22日の月曜日、前日の振替でお休みになった昼下がり。
テレビから流れるワイドショーの音がむなしく響く中で、私とお姉ちゃんは肩を寄せ合いながらぼんやりとソファーに座っていた。
とっくに洗い物や洗濯は終わらせてしまったし、これから予定という予定もない。
とにかく、暇なんだ。お休みは嬉しいんだけど、こういう予定のない日は本当に困ってしまう。
…まぁ、お姉ちゃんと一緒に過ごせるだけで私は幸せなんだけど。
「くー…」
「お姉ちゃん寝ちゃだめだよ、ついさっき起きたばかりでしょ?」
「ふぁ…それじゃどうしたらいいのさー?暇すぎて死んじゃうよ」
「うーん…ゲーム、とか?」
「もう飽きちゃったよ」
「おやつ食べるとか!」
「さっきご飯食べたもん、お腹空いてないよ」
「じゃあ…うーん…」
「うーん…」
「「……」」
二人して腕を組んで今後の過ごし方を考える私とお姉ちゃん。
こうして何もしない、って選択肢もなくはないんだけど、どうせなら何か有意義なことをしたいんだよね。でも浮かばない…
まるおかさーん、なんて能天気な声がテレビから聞こえてきて、私はハッとする。
そういえば、今日って…
661 春分の日 [sage] 2010/03/22(月) 14:25:40 ID:9eS9qQocO
「ねえお姉ちゃん、お散歩に行かない?」
「お散歩?」
「夕飯の買い物もあるし、そのついでに!天気もいいし気持ちいいよー」
「お散歩かぁ…うん、いいね!行こう行こう!」
「うん♪」
今日は振替休日。前日が何の祝日だったのかというと、春分の日。
まぁ暦の上では春になったってこと。あったかいお日さまの下、のんびり散歩するのはとっても楽しいと思う。
そう、私たちがまだ小さかった、あの頃みたいに――
「おねえちゃんまってよ、そんなにはしったらあぶないよ!」
「だいじょぶだいじょぶ!ほら、こっちこっち!」
「はぁ、ふぅ…わぁー…はらっぱだぁ」
「えへへー、すごいでしょ!ここでまえにザリガニとったんだよー♪あれ、でもいまはいないやー…」
「まださむいからじゃないかなぁ?あ、でもおはながさいてる!」
「ほんとだー…あ!うふふー…うい、ちょっとまってて?」
「?」
―――――
「おまたせー♪うい、ちょっとめーつぶってて?」
「なあに?」
「よいしょ…はい!」
「わぁ…はなかざり?」
「ようちえんでおそわったんだー♪あんまりうまくできなかったけど、あげる!」
「きれい…おねえちゃん、ありがとっ!」
「えへへ~♪」
662 春分の日 [sage] 2010/03/22(月) 14:26:42 ID:9eS9qQocO
――その日お姉ちゃんは、両手に抱えきれないほどの花を摘んで帰ってお母さんに叱られた…
そういえば、お姉ちゃんが作ってくれた花飾りはだいぶ長い間とっといたんだよね。
しおれちゃって捨てなきゃいけない時は大泣きしたっけ…
「んー♪あったかくて気持ちいいー♪」
「ねえ、お姉ちゃん?」
「んー?」
「小さい頃よく行った空き地に行ってみない?」
「え?そんなとこあったっけ?」
「ほら、ザリガニとってた…」
「あぁあそこか!そだね、行ってみよー!」
…お姉ちゃんは、もうあの花飾りのことなんて忘れちゃったかな。
10年以上も前のことだし、当然といえば当然…なのかな。
「わー、久しぶりにきたなぁー」
「うん…ねえお姉ちゃん、覚えてる?ここ教えてくれたのはお姉ちゃんなんだよ」
「え、そうだっけー?」
「うん…それでお姉ちゃん、私に…」
「あれー、ザリガニいないなぁ…久しぶりに見たかったのになー」
お姉ちゃんはジーッと川を覗きこんでいる。やっぱり、忘れちゃったよね…
ふと辺りを見渡すと、小さな頃はなかった廃材や廃タイヤが積み重なっていた。
どんなものでも、こうやって変わっていってしまうのかな。風景もお姉ちゃんも、私も…
663 春分の日 [sage] 2010/03/22(月) 14:27:39 ID:9eS9qQocO
「うーいっ♪」
「きゃ?」
不意に後ろから、お姉ちゃんに何かを頭の上に乗せられた。
そっとそれを手に取ると、目の前に飛び込んできたのは――
「花飾りだよー♪ずっと前、憂に作ってあげたよね」
「お姉ちゃん…覚えてたの?」
「うーん、あんまり上手くできなかったけどね…不思議と作り方は覚えてたんだー♪」
「お姉ちゃん…」
…変わって、ないな。やっぱりお姉ちゃんは変わってないや。見た目は変わっても、こういうところは変わらない。
時間が経ったこの空き地にも、昔と同じ花が咲いてるみたいに。
「あ、憂、肩にバッタ!」
「えぇっ!?」
「あはは、冗談だよ~♪」
「もう、お姉ちゃん!」
「ごめんごめん!…なんかいいねー、こういうとこくるの。やっぱり来てよかったよ」
「うん…ねえお姉ちゃん、花飾りの作り方教えてくれる?お姉ちゃんにも作ってあげる」
「ホント?えっとね、まず茎をこうして…」
お姉ちゃん、今日はホントにありがとう。
私ずっと忘れないからね。花飾りの作り方も、お姉ちゃんと過ごしたこの時間も。
おわり
最終更新:2010年03月22日 19:33