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放課後は雨が降っていた。

266  軽音部員♪  [sage]  2010/07/06(火) 00:32:41 ID:TloqlSO6O [1/8]

放課後は雨が降っていた。傘はなかった。迂闊だった。
私は家に帰ることが出来なくて、雨が止んでくれることを願っていた。
運動部が体育館で懸命に叫ぶ声が響いてくる。

雨は嫌い。洗濯物が乾いてくれないし、なにより……お姉ちゃんの大事なギターを、いやギー太を濡らしてしまうから。
今頃、お姉ちゃんは音楽室でみなさんと過ごしているのだろう。
…お姉ちゃんが幸せだと、私も幸せ。
雨はいっこうにやみそうにない。…どうしよう。

することがない私はクラスに戻った。今日の課題を学校で済ませちゃおうかな?
家でする手間省けちゃうし、その分家事とか出来ちゃうし。

クラスにはまだ残っている人がいて、でもあまり会話をしたことがなくて。
ちょっぴり寂しいこの気持ち。お姉ちゃんだったら、きっと知らない人ともすぐ会話できちゃうんだろうな。
私は…できないかな、そんなこと。

「平沢さん」

…なんと。話しかけられた。

「…?」

私が振り向くと、そこにはクラスで数回ほど話したことがある人がいた。

「…お姉さん、平沢先輩に…これ、わ、渡してもらえる?」

差し出されたのは手紙だった。



267  軽音部員♪  [sage]  2010/07/06(火) 00:40:40 ID:TloqlSO6O [2/8]

「…これは?」
「…い、いいから…わ、渡して…お願い。お礼するからっ」

頬を真っ赤に染めたその人を見て、私は悟った。
…ラブレターなんだ…。

「…うん、確かに受け取ったよ。渡しておくね…」
「ありがとう、平沢さん…」

その人は私に握手をして、それからしばらく私と会話をして去っていった。

お姉ちゃんに、ずっと憧れていたこと。
お姉ちゃんに、次第に恋していたこと。
お姉ちゃんに、近づきたかったこと。

手紙を書いて、でも渡す機会がないまま暫く時が過ぎて、今日こそ渡そうとしていたらしいけど。
私がたまたま来て、安易な道に走っちゃったみたい。

…お姉ちゃん、もてるんだ。

なぜか焦りを感じて。
なぜか…先を超された、そんな感覚があって。

「……勉強しよ…」

私はシャーペンを走らせて気を紛らわす。窓の外は雨がやみつつあった。



268  軽音部員♪  [sage]  2010/07/06(火) 00:51:15 ID:TloqlSO6O [3/8]

英単語を覚えるのは得意じゃなかった。でも、覚えないと始まらないから仕方ない。イヤイヤでも、そうでなくても。
綴りも発音も勿論意味も、それはまだまだ知らないことばかりで、知らない方がましなんじゃないかな…だなんて考えちゃったり。

「…やんだ…」

雨上がり雲流れ、私は今のうちに帰ることにした。ちゃんと、手紙を持って。
手にした瞬間、さっき感じていた焦りがまた蘇る。

…やだ、こんな感覚。なに焦ってるの、私ってば!

心の中で叫んでみたけど、焦燥感は消えない。


帰路のこと。

「あー、ういーっ」
「お姉ちゃん…」

ばったりお姉ちゃんに会った。

「うい遅いんだね、今日は」
「うん……」
「…?元気ないよ、どうしたの?」
「う、ううん。そんなことないよ」

嘘。私は元気ないよ、お姉ちゃん。
お姉ちゃんのその、無垢で、可愛い笑顔が…もしかして、誰かにしか向けられないときがくると思えば。

手紙はなかったことにしたかった。勝手に「受け取れないって」とか言って本人に返しちゃいたいくらいだった。
なんでこんなに…ひどい考えが浮かんじゃうんだろ。

…私、最低だ…。でも…でも。



269  軽音部員♪  [sage]  2010/07/06(火) 01:01:26 ID:TloqlSO6O [4/8]

「…お姉ちゃん。今日ね…」
「んー?」
「…これ…お姉ちゃんに、だって」

結局、私はお姉ちゃんにそれを渡した。はっきり言って、渡したくなかった。でも…渡した。頑張ったんだよ、これでも。

薄々感づいていた。自分がなぜこんなに焦っているのか…。

もしかしたら、お姉ちゃん…お付き合いしちゃうんじゃないのかな…。

もしかしたら、お姉ちゃん…とられちゃうのかな…。

薄々感づいていた。なんでそんな風に思っちゃうのか。

薄々ながら、感づいていたんだ…自分の気持ち。


「なにこれ?」
「…ラブレターだよ、きっと」
「え…っ?」

驚いたお姉ちゃんの瞳。震えてる私の手。

「わ…私に…?」
「うん…」
「…み、澪ちゃんへの間違いじゃないの?」
「そんなことないよ…ほら、平沢先輩へって書いてあるよ」

だんだん…お姉ちゃんの頬が染まっていった。

「えへへ…て、照れちゃうよー、もー」

ようやく、お姉ちゃんは手紙を手に取った。

私の手には喪失感だけが残っていた。



270  軽音部員♪  [sage]  2010/07/06(火) 01:11:17 ID:TloqlSO6O [5/8]

「……へ、返事はどうするの…?」

意を決して聞いた。声、震えちゃった。

「んー…どうしよっか?」
「どうしよっかって…お姉ちゃんへのお手紙なんだよ?」
「ういはどうしてほしい?」

私はお姉ちゃんが何を言っているのか理解できなかった。

「お、お姉ちゃん…真面目に考えなきゃだめだよ。告白なんだよ…?」
「真面目に考えてるよー、私は…だからういに聞いてるの。ね、どうしてほしい?」

…なんで私にゆだねるの?どうして…わからない。

「……ういが、決めて…。ねっ」

……私は気付く。

…お姉ちゃん、それは…私への告白?

いや、まさか…まさかね。


「……こ…こと……」
「…ぶきつむぎ」
「ち、違うから…からかわないでよ、お姉ちゃん」
「えへへ、ごめんごめん…つい」

お姉ちゃんはからかいつつも、でも私の目をじっと見ていた。

「……断って……」

そう、私は意を決して言った。



271  軽音部員♪  [sage]  2010/07/06(火) 01:24:55 ID:TloqlSO6O [6/8]

「りょーかいっ」

暫くして…お姉ちゃんはそう言った。

「…ほ、ホントに断っちゃうの?」
「うん。私にはもう……っと、なんでもないよ」

ちょっぴり焦って、お姉ちゃんは前を向いてこちらに顔を向けないで歩き出す。

私は慌ててついていく。

「気持ちは嬉しいけど…ねっ?」

……そっか。

「……うんっ」

そうだね。

多くの言葉は必要なかった。ただ、軽い相槌で十分だった。

私の心から焦りは消えていて。
今なら英単語の意味、いくらでも知れそうな、そんな心地。
雨雲もすっかり消えていた。



翌日のこと。お姉ちゃんは、手紙を本人に返していた。私はつい…失礼だとわかりつつ、こっそり見に行ってしまって。

「…ごめんね。でも、すごく嬉しかったよ」
「……はい……」

手紙を私に渡してと頼んだ彼女の目からは、今にも雨が降りそう。
胸が痛む。でも、それも仕方ないんだ。

「…平沢先輩には、好きな人とかいるんですか?」
「…ぇ?」

…え?
その問いかけには…私まで、ドキッとした。



272  軽音部員♪  [sage]  2010/07/06(火) 01:37:43 ID:TloqlSO6O [7/8]

ちなみに私は影から見ているから、お姉ちゃんや差出人には私を見えていない。

…ドキドキ、ドキドキ…。

心音が速まる。

…お姉ちゃん、答えるの…?


「…うん、いるよ。だーいすきな人」
「……教えてくれませんか…?」
「……ごめんね。それは…内緒なの」
「……そうですか…わかりました」


……言わないのかぁ…。

私は半分安心していて、もう半分がっかりしていて。なんでなんだろうね。



私がクラスに帰ると、梓ちゃんと純ちゃんがもう学校に来ていた。
あ、ちなみにさっきの、お姉ちゃんがお手紙を返したのは一限が始まる前のこと。

「やけにうれしそうだね、憂」
「え…本当に?」
「うん。ね、純」
「確かに。なになに、なんか良いことあった?」

…良いこと、か。


「…うーんと、英単語の意味がわかりそうでわからなかったけど、でもわかっちゃったからかな?」
「なーにそれ」
「あ、授業始まっちゃう」

私は自分の席に着く。手紙を差し出したあの子の目は、涙の跡があった。

可哀相。自分がこんなこと言う資格はないけど…でも、失恋は辛い。

でもね…ほら、窓の外はこんなに晴れてる。


fin.

最終更新:2010年07月06日 22:54
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