すすむみち

280  すすむみち  [sage]  2010/07/07(水) 00:51:52 ID:XJY2FwxcO [2/5]



―進路。
3年になって日増しにその言葉が重みを増していく。
でも、まだ自分の未来が見えてこない。
こんなとき、いつも頭に浮かぶのは妹の顔。

(憂はもう考えてるのかな)

そう思い、目の前の妹に何度目かの質問を投げかける。

「うい。ういは進路どうするつもりなの?」
「えっ…まだ…考えてないよ」

憂の顔に翳りが差す。
まただ。進路の話になると憂はよくこの顔をみせる。

(そんな顔しないでほしいのに)

妹の心を探るため、少しだけずるい手をつかう。

「うい。あーん」
「な、なに急に」
「ほら、あーん」
「あ、あーん」

頬を赤らめながらも甘える妹に見とれつつも、すぐに続ける。

「あ!たべたな~」
「代わりにわたしの質問に答えなさい!」
「え~ずるいよー」
「ふふん。いいからいいから。」
「わかったよ…なあに?」「うい。さっき何考えてた?」
「っ!」

憂はびっくりしたように固まって、うつむいて黙ってしまった。
私は憂の手を取って、声をかけた。



281  すすむみち  [sage]  2010/07/07(水) 00:53:29 ID:XJY2FwxcO [3/5]


「ういといっしょに進路を考えたいんだよ」
「お願い。わたしにも教えられないこと?」
「…」

泣きそうな目で私を見ていた憂が意を決したように口を開いた。

「…おっ、お姉ちゃんが卒業したら…」
「どこか…遠い場所に行っちゃうんじゃないかって」

そう言うと憂の目から涙が零れた。
そこまで考えてくれた嬉しさと、頼りない自分の不甲斐なさが胸の奥から湧いてくる。
私は肩を抱き、優しく頭を撫でた。

「うい。ありがとう」
「わたしね。ういといっしょに考えたいって言ったのは、ういといっしょにいたいからなんだよ」
「どこにも行かないよ。ずっとういといっしょ。」

憂の目からいっぱい涙が溢れた。
私は胸元に力いっぱい抱きしめた。
そっか。憂もだったんだ。



282  すすむみち  [sage]  2010/07/07(水) 00:54:10 ID:XJY2FwxcO [4/5]


「ういが一番大事なんだよ。大好きだから」
「…わたしも」

くぐもった声で言うから笑ってしまった。
それを憂に怒られ、すぐに背を向けられてしまった。
まったく。かわいい妹だな。

「うい。ごめんね。こっち向いて?」
「…だ、だめだよそんなこと言っ…」

無理やり肩をまわし、こちらを向かせる。

そして、おもむろに、キスをした。

目の前の憂は目をまん丸にして、真っ赤になっている。
真っ赤な目元もさらに私の思いを強くする。
私が強く抱きしめると、憂も腕をまわした。

ようやく私が口を離したあとも、憂は私を放さなかった。

「お姉ちゃん…ずっといっしょだよ?」
「…うん。ずっといっしょ」

時計の針の音がする。
卒業まであと少しだけ。
でももう私は大丈夫。

だって私が進んでいく路は、もう前を見失ったりしないから。

最終更新:2010年07月07日 22:01
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