52 軽音部員♪ [sage] 2010/08/30(月) 22:41:41 ID:vMsk43LgO [2/6]
蒸し暑い部屋のなか。
「……」
ごくりと息を飲む音がする。
「ひゃあっ!?」
ようやく憂がかじりついていたテレビから離れた。
「ふぅ……ふぅ……びっくりした……」
毎年恒例の、心霊現象を集めた番組。
憂ったら、怖がりのくせに毎回夢中になって見るんだ。
「大丈夫?」
「へ?あ、う、うん。別に怖くはないから……」
わたしはテレビより憂を見てる。
「……よし……」
冷や汗をたらして真剣な眼差しを向ける憂がかわいくてしかたないんだ。
四年くらい前だったかな。
テレビで紹介された心霊写真を見て、ぶるぶる震えていた憂に、
「苦手だったら見なくてもいいんだよ?」
なんて言ったら憂は、
「そ、そんなことないよ!見るもん!」
頑張ってやたら強気に答えた。
53 軽音部員♪ [sage] 2010/08/30(月) 22:43:22 ID:vMsk43LgO [3/6]
わたしが憂に聞く度に、憂は眉を曲げて強がるものだから、「それならわたし今度のやつも見るからね!」なんていつの間にか毎年の行事になっていた。
「……わぁっ!」
クッションを抱えながらさっきから何度も後ろにたおれる憂。
怖かったら見なくてもいいのにね。
でもわたしは知ってるんだ。
どうして憂がそこまでして見るのかを。
初めはわたしが見たいって言ったんだよね。
「憂もいっしょに見よ~」
声をかけたら憂は目を輝かせてわたしに付き合ってくれて。
「お、お姉ちゃんまだ見るの……?」
「うん、最後まで見るよー」
「そ、そうだよね……」
でもその時からわたしはテレビなんかどうでもよくて、憂を見てた。
憂はやさしいから、わたしに心細い思いをさせたくないんだよね。
知ってるよ。憂のお姉ちゃんだから。
それでも憂は、「わたしが見たいから」なんて理由をつけてまたテレビをつけるんだ。
あ、またびくりと跳ねた。
54 軽音部員♪ [sage] 2010/08/30(月) 22:44:58 ID:vMsk43LgO [4/6]
わたしにはそんな憂がいとおしくてたまらなくて、それを見られるこの季節は嫌いじゃない。
蒸し暑くなかったら好きになるのにね。
「……うぅ……」
でもわたしには、このあともっと幸せな出来事が待ってるんだ。
「……あ、終わったぁ……」
ん?ちょうど終わったみたい。
「じゃあ憂、そろそろ寝よっか」
「うん……そう、だね……」
歯磨きを済ませ、部屋に入る。
電気を消すけれど、まだ布団には潜らない。
だって、まだ準備ができてないからね。
こんこん。
あ、きたきた。
55 軽音部員♪ [sage] 2010/08/30(月) 22:46:35 ID:vMsk43LgO [5/6]
がちゃり、と戸を開けて、こっそりと覗かせるかわいい顔。
「ん?どうしたの憂」
「あ、あの……その……」
ああ、ほんとにかわいいな。
あんまりからかうのもかわいそうだから、わたしから言ってあげた。
「ふふ、いいよ。おいで」
「!う、うん!」
いつも番組を見終わったあとは、憂が枕を抱えてやってくるんだ。
それが、わたしにはとっても楽しみで、いつも待ち遠しい。
「じゃあ寝よ」
「……うん」
布団に潜り、憂がこちらを向くけれど、わたしは憂に背を向ける。
ちょっといじわるすぎるかな?
でも、憂の声が聞きたかったんだ。
「お、お姉ちゃん……」
ぎゅっ、と裾を掴まれる。
「なあに?」
まだ振り向かない。
「こっち……向いてよぉ……」
その声が、あんまり弱々しいからさすがに憂へと向き直る。
わたしのために見てくれてたんだもんね。
今度はわたしの番。
布団の中をまさぐり手を探す。
「!」
やさしく握ると憂も握り返してくれて、わたしもまた握り返す。
「……えへへ」
わたしが微笑むと、憂も微笑んでくれて、今度こそわたしは目を瞑る。
「……」
聞こえるのは、静かな息遣い。
また手に力をいれて、ゆっくりと深呼吸をした。
どうか、憂がゆっくり眠れますように……
おしまい。
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最終更新:2010年08月31日 20:06