帰り道。

69  軽音部員♪  [sage]  2010/08/31(火) 17:31:35 ID:kkE07jmEO [1/3]


 帰り道。あずにゃんともムギちゃんとも別れて、ひとりで家に向かう。

 道路には人の気はなくて、わたしの心もしんみりとしてしまう。

 手のひらは、行くあてもなくポケットのなか。

 オレンジに染まる空はきれいだけれど、今のわたしは見たくない。

 だって、なんだか……

「……寂しいな」

 気づくと、口から零れてた。

 寂しい。

 いつの間にかそう思うことが増えた帰り道。

 前はこんなこと思わなかったのにな。

 なんでだろ。

 気をまぎらわせたくて、思い出す。

 帰り道も笑ってたあの頃。

 前は、よくこの道を憂と歩いてた。

 高校に入る前、学校が終わったら憂とふたりで手を繋いで歩いてたんだ。

 そっか。憂がいないんだ。

 笑顔を向けて手を握る憂がいなくて、いまはわたしは上の空。

 しょうがないよ、憂は家のことやってくれてるもんね。

 しょうがないよね、わたしは部活やってるんだもん。

 家に帰ったら、すぐ会えるんだ。



70  軽音部員♪  [sage]  2010/08/31(火) 17:32:11 ID:kkE07jmEO [2/3]


「はっ、はっ……」

 知らないうちに、駆けていた。

 だって、はやく会いたかったから。

 この帰り道は、ひとりきり。

 でも、とっても大事なんだ。

 わたしを、憂にはやく会いに行かせるよう、

 わたしが、憂の大切さを忘れてしまわぬよう、

 しっかり思い出させてくれるんだ。

 わかってるよ、そんなこと。

 だから、息を切らしてわたしは走る。

 家に着いたら、真っ先に憂の名前を呼ぶんだ。

 そしたら、迎えてくれる憂に抱きついて、

 耳元で、こっそり言ってあげるんだ。

 いつもありがとうって。

 あとちょっと。この角を曲がればもうすぐそこ。

 あと少し、あと少し。

 二階の窓には、灯りが漏れる。

 気付かれないよう息を整え、綻ぶ顔を引き締めて、扉に手をかけ力を入れる。

 高鳴る胸を隠すよう、

 息を吸い込み呼び掛ける。

「ういー!ただいまー!」

 時計の針がゆっくり動く。

 そして聴こえるかわいい足音。

 またはやくなる心臓は、もう抑えられない。



   おしまい。

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最終更新:2010年08月31日 20:09
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