626 軽音部員♪ [sage] 2010/09/24(金) 00:47:27 ID:U1nNjKW20 [1/3]
人がいないうちに投下~。
短いですが。
少しだけ大人になった二人の日常です。
何年後かはご想像にお任せ。
かちゃかちゃと食器を片付けながら、かすかに聞こえてくるメロディに
少しだけ手を止めて耳を傾ける。
聞こえてきたBGMは、姉の練習するギターの音。
…。
う~ん。
ちょっと訂正。
聞こえてきたBGMは、『姉、兼恋人』の練習するギターの音。
昔よりも滑らかに奏でられるその音は、過ぎ去った年月を物語る。
お昼ごはんを終えて、ギター練習を始めたのはまだ30分前。
集中している時は、平気で5時間も6時間も弾き続けているからまだまだギターから離れることはないだろう。
私は彼女がギターを弾いている時は、極力邪魔をしないようにしている。
さすがに、ご飯の時間やお風呂の時間を忘れて弾き続けている時は声を掛けるけど、
せっかくの集中を私が途切れさせるわけにはいかない。
リビングを覗いてみると、譜面とコードを押さえる手元を交互に見ながら
じゃかじゃかと右手を動かしている彼女の後姿。
頻繁に譜面を確認しているところを見ると、どうやら最近出来たての曲を練習しているみたい。
見えるのは後姿だけだけど、なんとなく彼女のしている表情が想像できる。
きっと、いつものほんわか笑顔ではなく、とても素敵な真剣な顔をしているんだろう。
ぱたん。
静かに閉めたつもりだったけど、やっぱり少し音がしてしまった。
彼女は後ろを向いて私をちらりとみて、
にへらっと笑ってからまた視線をタブ譜に戻す。
あの笑顔は、食事と片付けに対する彼女なりの感謝の表現。
彼女も、ギターを弾いている時は私が他の事をするとわかっているので
それ以上何も言わないし、何もしてこない。
私は床に直接座っている彼女のちょうど真後ろのソファに腰かけ、雑誌を広げる。
しばらくそうしていたけど、何度か読んだその雑誌には真新しいものもなく、すぐに飽きてしまう。
こんなことなら新しい雑誌を買っておけば良かった。
暇になった私は、少し恋人を観察することにした。
体全体を小刻みにリズミカルに動かして、音色を奏でる。
全体を動かしたほうが、右手だけ動かすよりもリズムがとりやすいんだって前に
言っていた気がする。
私には滑らかに聞こえるメロディも、彼女にとっては少々気に食わないらしく
何度も同じところを弾きなおす。
コードチェンジのタイミングに気になるところがあるみたい。
何度かそうしていて、納得のいく形になったのか、また最初からそこまでを通して弾く。
いつものやわらかい笑顔の、少しだらけた彼女も大好きだけど、
ギターを弾いている時の彼女は特別かっこいい。
後姿だけだけど、それでもその姿に引き込まれてつい見入ってしまう。
627 軽音部員♪ [sage] 2010/09/24(金) 00:49:09 ID:U1nNjKW20 [2/3]
ふと。
下を向いている彼女の髪が左右にわかれて、白い首筋が顔を覗かせる。
そこには、何日前につけたものかわからないけど、だいぶ薄くなった赤い痕。
見えないように普段は髪の毛で隠れているところにと配慮したものらしいけど、
それがまたなんともいやらしく思えて恥ずかしくなる。
「///」
一人で恥ずかしくなって、じたばたしていると、彼女はすぐに気付いて問いかけてくる。
「うい?」
真っ赤な顔でなんでもないよと笑いながらひらひらと手を振ると、
変な憂だな~と笑ってまた背中を向ける。
しばらくまた後姿を見ていると、なんだかたまらなく愛おしくて少し寂しくなって
よくわからない気持ちになる。
うぅ~…いつもはギー太に譲っているんだからたまには良いよね。
と、自分に言い訳をして。
そ~っと彼女の側によっていきなりぎゅっと後ろから抱きしめる。
「わっ!」
夢中になっていたときに急に抱きつかれて、驚いたようでびくっとなったのが少し可笑しい。
「…ゆい~」
彼女の肩にあごを乗せて横から顔を覗き込む。
こんな私は私らしくないかな?
恋人になってからも普段私は彼女のことを『お姉ちゃん』と呼んでいる。
でも、極たまに、彼女と二人きりで、私が恋人として甘える時にだけ彼女の名を呼ぶ。
「ん~?どしたの?」
唯は、私がこんなことをするなんてちょっと驚いたみたいだったけど、
すぐにいつも通りゆる~く返事をしてくれる。
そんないつも通りの唯に、なんだか急に恥ずかしくなってきて。
「…な、なんでもないよ!真剣に練習してるのにごめんね」
すぐに離れようと回していた腕を少し緩めたら。
私に少しだけ体重を預けてくる。
練習の邪魔したのを怒ってないよとでも言うかのように。
このまま離れたら、お姉ちゃんが後ろに倒れちゃうかな?
とか考えていると。
「寂しくなちゃった?」
「っ!///」
簡単に気持ちを見透かされて、ますます恥ずかしくなってまた少し腕の力をゆるめると。
「ごめんね~、憂~」
と言って、私の腕の上に自分の腕を重ねてぎゅっと私の腕を引き寄せる。
おまけに肩に乗せてある私の顔に頬ずりまでしてくれる。
「お、お姉ちゃん!///」
「あ~、残念。呼び方戻っちゃった…。でも、こうして3人でいるとあったかあったかだね~」
3人、と言われてみてみると、お姉ちゃんの腕の上にはギー太がのっていてさらにその下に私の腕。
まるでお姉ちゃんが具のサンドイッチみたいに、ギー太と私でお姉ちゃんを挟み込んでいる。
「ふふふ、そうだね~。あったかあったかだね~」
私もようやく少し恥ずかしさから開放されて、笑顔になる。
「ね、唯」
「ん?」
「もう少しだけ、このまま…良いかな?」
「どうぞどうぞ~」
たまには、こんなわがまま言うのも良いかな。
おわり
感想をどうぞ
- どんどん魅力的になってくねぇ
大人唯憂は抜群に良いね -- (n) 2011-11-08 02:33:46
- 描写が丁寧
それに甘い
すごく好き -- (もるもっと) 2011-03-22 03:00:46
- 他人の幸せがこんなに喜ばしいのは
唯憂しかないなぁ -- (名無しさん) 2011-03-16 15:15:41
- 名前を「ゆい」って呼んだのが良い
なぁ…
オイラもありがとうと言おう -- (名無しさん) 2011-01-21 23:58:33
- ありがとう作者ありがとう
それしか言えない。 -- (名無しさん) 2010-11-03 21:53:16
最終更新:2010年09月25日 22:55