入れ替わりと秋の午後

397  入れ替わりと秋の午後[1/2]  [sage]  2009/10/10(土) 13:03:36 ID:sDmRLmrf

 夏の暑さも身を潜め、甘い金木犀の香りが郷愁を誘う季節。
 太陽は既に子午線を通過しており、秋陽が快い暖かさを齎す土曜日の午後。

 困ったことに、その心地よさが妹の堕落っぷりに輪をかけていた。

憂「唯ー、もうお昼過ぎてるよー? そろそろ起きないと」

唯「……んー」 

憂「んー、じゃなくて……」

 はぁ、と一つため息をついてから布団に手をかける。
 かくなる上は強硬手段しかない。
 布団を奪い取ってしまえばさすがに起きるだろうから。


 しかし――。

唯「……」

 この顔である。
 この幸せそうに惰眠を貪る愛らしい顔を見て尚、布団を奪い取ろうとする輩がいるのなら、
 それはもはや人外である。この私が直々にしばき倒さなければならない。

憂「甘いなぁ、私も……」

 唯の頬にそっと手を伸ばして、優しく撫でる。
 その感触に気付いたのか、唯は私の手を両手で掴んでぎゅっと引っ張る。

憂「うわっ!?」



398  入れ替わりと秋の午後[2/2]  [sage]  2009/10/10(土) 13:04:23 ID:sDmRLmrf

唯「んぅー、お姉ちゃん……好きー」

憂「……」

 ここまでされたら仕方ない。
 夢うつつで放たれた、『好き』の二文字を脳内で何度もリピート再生しながら、
 喜悦に満ちた顔で私は妹の布団へと潜り込む。

 自分の腕を枕代わりにして、未だ気持ちよさげに眠る妹の顔をガン見する。

 すると妹は、私の背中にそっと両手をまわして抱き寄せようとする。

 姉を抱き枕扱いである。

憂「唯、起きてるでしょ?」

唯「……えへ、ばれた?」

憂「全くもう……」

唯「お願いお姉ちゃん、もうちょっとだけこのままで……」 

 ――胸を打つその言葉に、私は精一杯の優しい笑顔を作って妹に答えた。





 ―おまけ―

唯「やっぱり、変な感じだね」

憂「ふふ、でも私は楽しかったよ、お姉ちゃん?」

 一日だけの、姉妹逆転生活。
 その行為に意味など無かった。
 いつもの姉の気まぐれである。


 ……というか、あんまり変わらない気がしたのは私だけだろうか?
最終更新:2009年12月14日 23:01
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