844 名前:軽音部員♪[sage] 投稿日:2011/05/07(土) 13:12:36 ID:suZ1C7wo0
家を出る。
そう告げたとき彼女は笑っていて。
彼女のへの想いはやっぱり届かないんだって思った。
届かない、ましてや伝えられない想いを持ち続けながら
彼女のそばに居続けることに耐えられなくなった。
日に日に育っていく想いに比例して私の心の痛みも増していく。
愛おしい彼女の笑顔を見るたびに、話すたびに、
触れるたびに、成長するこの想い。
ますます自分を締め付けているのを感じながら、それでもそばにいたら
やっぱり彼女のことを深く深く愛さずにはいられないのだ。
だから私は、逃げるように家を出ることを決めた。
*
「いよいよ明日だね。何か困ったことがあったらすぐに言ってね!」
「うん、大丈夫だよ~」
罪のない笑顔で笑う彼女を今すぐにでも抱きしめたいけど、
そんなことをしたら溢れる想いを飲み込むことが出来なくなりそう。
そんな私は彼女の顔すらまともに見られない。
「…どうしたのお姉ちゃん?」
私の様子がいつもと違うことにすぐに気づいてくれる憂。
そんなところもまた彼女を好きになった要因の一つ。
「…えへへ、やっぱりちょっと寂しいなぁ。…憂も寂しい?」
嘘をつくと、すぐにばれてしまいそうなので、できるだけ正直に答える。
ただ、言わないことがあるだけだ。
「ずっと一緒に暮らしてきたお姉ちゃんが明日からいなっちゃうかと思うとやっぱり寂しいけど…。
でも、私は大丈夫だよ!頑張って、お姉ちゃん。」
少し寂しそうに笑う彼女に、また胸がきゅっとしめつけられた。
う~ん、胸がしめつけられるって誰が考えたんだろう?
本当に今の自分の気持ちを表すにはぴったりの言葉だなぁって思う。
でも、憂が寂しいって言ってくれたから。
頑張ろう。
「頑張ります!ではでは、もう少し片づけが残ってるから部屋に行ってくるね~」
「あ、私も何か手伝うことがある?」
「だいじょ~ぶ!これから一人で暮らすんだもん!ちゃんと一人でできるよ~」
憂が一緒にいると泣いちゃいそう。
「…そう?じゃあ何かあったらすぐに呼んでね」
「ありがと~」
憂の方は見ずに、ゆっくりと自室へ向かう。
本当は走って逃げたいような気分。
*
きれいに片付いて物が少なくなった自室に一人たたずむ。
小さな窓からの夕日で部屋がオレンジ色になっていて、わざと寂しさを煽っているようだ。
ベッドの横の壁に立てかけてあるギー太もなんだかいつもよりも寂しそう。
「大丈夫、ちゃんと連れて行くよ」
もちろんギー太を置いていくわけなんかなくて、高校時代を共に過ごした親友に触れながらそっと語りかける。
「一曲、弾いて行こうかな…」
触れたとたんに、無口な親友にも一緒に過ごしたこの部屋に別れを告げさせてあげたくなった。
ケースから取り出したギー太は夕日に照らされて、いつもよりカッコいい。
ベッドに腰掛け、弾きやすい位置に持ってくると、共に一生懸命練習した3年間の日々が浮かんでくる。
思い出の隣には笑顔の憂がいて、またきゅっと心臓を締め付ける。
「…っいたいな~。ほんと、いたいな~…ふふ」
痛みを堪えるために、無理に笑ったけど、きっとうまく笑えていないと思う。
零れそうになった涙を、零さないようにいったん口をぎゅっと結び、
ふぅと一息つく。
「行くよ、ギー太♪」
リズミカルに動かす右手が成長したかな~なんて思う。
慣れるまではコードを押さえる左手よりも、右手のリズムの方が難しかった。
最初はコードも全然覚えてなくて、1曲弾けるようになるまで凄く時間がかかったなぁ。
歌を歌うと右手のリズムやコードチェンジのタイミングがおかしくなって、さわちゃんと声がかれるまで練習したっけ。
「むぅ」
そんなことを色々思い出しているうちに前奏から歌に入るところを逃してしまったので、
ループしてまた最初から弾く。
今度は間違えずに出だしを歌えて安心していると、コードを間違える。
「あちゃ~」
やっぱり私はまだまだ練習が足りないなぁ。
3度目の正直。
今度はすっと歌に入ることができる。
~~♪~♪
歌うのはもちろん『U&I』。
彼女に対する感謝と、秘めた想いを込めた歌。
いつものHTTの演奏とは違い、ギター一本だと迫力もないし少し物悲しい。
伝えられない想いを声にのせて。
精一杯の気持ちをこめて。
観客の居ない自己満足の演奏はさらにヒートアップし、憂への想いがあふれ出す。
憂のことを考えると、暖かい気持ちになったり
とくんとくんといつもより早いビートでなる心臓の音が心地良かったりするけど
彼女への想いが届かないということを自覚して時々悲しくて悲しくて涙が溢れてくる。
歌いながら怒っている憂、泣いている憂、笑っている憂、と色々な彼女を思い出す。
やっぱり憂は笑ってるのが一番いいなぁ。
誰も聞いていないのを良いことに、涙で濡れた声で秘めた想いを解き放つ。
ギー太、この気持ちを知ってるのは君だけだよ。
君も一緒にこの秘密を一生の秘密として持ち続けてくれるかな?
*
「うぅ…ぐすっ」
歌い終わって、涙を拭いてぐっと上を向く。
「よ~しっ!!」
勢いをつけて立ち上がり、両手を上げる。
とりあえず、うじうじしているのはここまで!
「頑張るぞ~!」
と、何を頑張るのかわからない熱い決心を口に出していると、ドアのところからくすくすと笑い声が聞こえる。
「憂?」
「あ、ごめんね。覗くつもりはなかったんだけど、ギー太の音が聞こえたから来てみたら」
そんな前からいたんかいって突っ込みは置いといて、何か変なことを口走っていなかったかちょっと不安になる。
…うん、大丈夫。多分。
「お姉ちゃん、さっき、泣いてたけど大丈夫?」
「おぉ!」
恥ずかしい。
さっきの感極まって泣きながら歌っていたところを見られていたなんて。
「お恥ずかしい、ちょっと歌ってたら色々思い出してしまいまして。えへへ」
恥ずかしいのを笑ってごまかす。
「ふふふ、そうなんだ。」
それ以上何も聞かない方が良いってわかっているから憂は私と同じように笑う。
「荷物は片付いたみたいだね」
がらんとした私の部屋を感慨深そうに見てから小さくつぶやく。
「うん。」
私も部屋を見回してうなずく。
「そろそろ、夕ご飯の準備しなくちゃ」
「憂がするの?」
いつも不在の両親もさすがに娘が一人暮らしを始める引越し日の前日には帰ってきている。
「うん、私がしたいってお母さんにお願いしたんだ」
「そっか、憂のご飯の方がおいしいもんね~♪」
「ふふふ、ありがとう。そんなこと言うとお母さんが拗ねちゃうよ」
憂は嬉しそうに笑ってから部屋を出るために私に背を向ける。
「…っ」
ちょっと寂しくなって手を伸ばしかけて、やっぱりやめた。
呼び止めて私はいったい何を言うつもりなんだろう?
「あっ、そうだ」
入り口まで歩いていって、何かを思い出したように足を止めて憂がこちらを振り向く。
「どしたの?」
不思議に思ってそう問いかけると。
「1年後、私も大学に入ったら」
ん?
まぁ、そりゃあ憂くらい頭がよければ当然大学くらいいくよね。
「私も一緒に住みたいな。良いよね♪」
…。
「え?」
一瞬、何を言っているかわからなくてぼやっとしてたらもう憂はいなくて。
「何で?」
そもそも憂と一緒にいるのが辛くて一人暮らしを…とかはもう吹っ飛んで。
一緒に暮らすのはダメなんて言えないし、というか言えるわけなんかなくて。
「おおぉぉぉぉぉ!」
とりあえず叫んでみました。
きっとまた一緒に暮らしたら同じように悩むんだろうけど、それでも嬉しくて。
「頑張るぞ~!」
さっきと同じように両手を上げて。
さっきよりももっと大きな声で。
今度は頑張るはちゃんと決意をこめたもの。
みなさん、私、平沢唯は1年の間に成長して憂を迎えに来ます!
感想をどうぞ
- 二人の絆は永遠だから -- (うむ) 2011-11-03 07:55:41
- 一生一緒が良い -- (名無しさん) 2011-08-14 00:27:47
- 別れるなんて俺が許さん! -- (名無しさん) 2011-06-01 00:00:34
- いいね、一緒に幸せになってくれ -- (名無しさん) 2011-05-15 01:55:25
最終更新:2011年05月08日 01:39