昔々、ある所にお婆さん
ゆっくりれいむとお婆さんゆっくりまりさが住んでいました。
お婆さんゆっくりれいむは山へエサ取りに、お婆さんゆっくりまりさは川へ帽子の洗濯に行きました。
お婆さんゆっくりまりさが帽子を洗っていると、川上の方から大きな桃が「ゆっくらこ、ゆっくらこ」と流れてきました。
「おおきいももだ!!もってかえればゆっくりたべられるね!!」
そう叫ぶとお婆さんゆっくりまりさはどうにかこうにか桃を岸に上げ、必死こいて家まで持って帰りました。
帽子は桃の代わりに川に流されました。
「ただいまれいむ!!ゆっくりしていってね!!!」
「おかえりまりさ!!ゆっくりしていっt……ゆゆ!ももだあ!!おっきなももだ!!!」
「おみやげだよ!!ゆっくりたべようね!!!」
「はんぶんこしようね!!!ゆっくりわけるよ!!!」
お婆さんゆっくりれいむはそう叫ぶと、目を閉じて精神を集中し始めました。
数分後、カッ!という擬音がぴったりな勢いで目を開けると、
「岩山!両斬波ぁ!!」
婆れいむがいかつい成人男性のような声でそう叫び頭につけたリボンを振り回すと、桃は綺麗に真っ二つに分かれていました。
「ゆっくりわかれたよ!!!」
「ゆっくりわけられたね!!」
「おい、やめろ馬鹿。このSSは早くも終了ですね」
早速桃に噛り付こうとしていた二匹でしたが、謎の声が聞こえると同時に固まってしまいました。
よく見ると、割れた桃の中にはゆっくりが入っているではありませんか。
「お前ら勝手に食われそうになってる奴の気持ち考えたことありますか?」
そんな事を呟きながら桃の中から這い出てくるゆっくり。頭に小さな桃を二つ付けているのが特徴的です。
「ゆゆ!あなただあれ!?ここはれいむとまりさのおうちだよ!!!」
「そのももはまりさとれいむのなんだよ!!!かえして!!はやくかえしてね!!!」
別に桃を横取りされた訳ではないのですが、ゆっくりにはそんな事は関係ないようです。
「なんだおまえら?ズタズタに引き裂いてやってもいいんだぞ。
あまり調子こくとリアルで痛い目を見て工場で蒸かし小豆を食べる事になる」
「ゆ、ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりやめてね!!!ももをわったのはれいむだよ!!!」
ゆっくりにしては珍しい流暢(?)な言葉に妙な迫力を感じたのか、二匹の先程までの勢いが消えて怯え始めました。
このまま名無しでは不便なので、桃から出てきたゆっくりは仮に『ゆっくりてんこ』と呼ぶ事にします。
そのゆっくりてんこは二匹をじろじろと睨み付けた後、何処か満足気に自分が入っていた桃を食べ始めました。
このままでは大事なご飯が食べられてしまいます!焦った二匹は勇気を出してゆっくりてんこに体当たりを仕掛けました。
「ゆっくりたべないでね!!それはれいむとまりさのごはんだから!!」
「ゆっくりできないならでていってね!!ここはまりさとれいむのおうちなんだから!!」
殴られながらもゆっくりてんこは冷静に、しかし怒りを隠せない様子で
「お前らは一級饅頭のわたしの足元にも及ばない貧弱一般饅頭。
その一般饅頭どもが一級饅頭のわたしに対してナメタ言葉を使うことでわたしの怒りが有頂天になった。この怒りはしばらくおさまる事を知らない」
そう宣言しました。これがアニメなら間違いなく名シーンとして人気が出るのは確定的に明らかです。
しかし殴られた事より『ナメタ言葉』を使われた事に怒る辺り、このゆっくりてんこは中々プライドが高いようです。
その漲る自信と正体不明の迫力に押されたのか、二匹は先程のように萎縮して部屋の隅の方へ移動しました。
再び桃を食べ始めるゆっくりてんこ。こうして、三匹の謎の共同生活がスタートしたのです。
それからというもの、婆れいむと婆まりさはいちいち横柄なゆっくりてんこに事あるごとに喧嘩を仕掛けますが、
その度にあの妙に迫力のある言葉遣いで黙らされてしまうのでした。
とは言っても別にゆっくりてんこは二匹に直接危害を加える事はありませんし、自分でエサを取らずに怠けるなんて事もありません。
自分で取ってきたエサは全て自分だけで食べ、時々二匹のエサを横取りする事はありましたが概ね平和に暮らしていたのでした。
そんな日々が数週間も続いた頃、近所に住むゆっくりぱちゅりーが傷だらけになって三匹の家に飛び込んできました。
「ゆゆぅ!どうしたのぱちゅりー!!ゆっくりできる!!?」
「ヘァ゛ッ……へァ゛ッ……れ゛、れ゛み゛り゛ゃがあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛……」
「れ、れみりゃ!!?れみりゃはゆっくりできないよ!!!ゆっくりたべられちゃうよ!!!」
「む゛……む゛ぎゅう゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ん゛ん゛……」
ゆっくりぱちゅりーは深く深く息を吐くと、そのまま二度と動く事はありませんでした。
婆れいむと婆まりさは焦った様子で相談します。
「どどど、どうしようまりさ!!れみりゃがきたらたたた、たべられちゃうよぉ!!!」
「にに、にげようよれいむ!!てんこをおいていけばれみりゃからおそわれたりもしないよ!!!」
サラっと酷い事を提案する婆まりさ。それに対してゆっくりてんこは特に何も言いません。が、
「これやったの絶対れみりゃだろ……汚いなさすがれみりゃ汚い」
今言われたばかりの事なのですが、それは気にしてはいけません。ゆっくりてんこ独特の言い回しなのです。
要するに、このゆっくりてんこはれみりゃに対して怒りを抱いているのです。
「そそそそうだけど、どうするの!!!れみりゃはゆっくりたべちゃうんだよ!!れいむたちもたべられちゃうんだよ!!!」
「わたしパンチングマシンで100とか普通に出すし」
「ゆゆ!そんなにだせるの!!だったられみりゃをやっつけられるね!!ゆっくりいってきてね!!!」
どうやらゆっくりてんこがれみりゃをやっつけに行く事に決まったようです。
一体いつパンチングマシン等やったのかは謎です。突っ込んではいけません。
「これはおみやげだよ!!!ゆっくりがんばってね!!!」
「ゆっくりいってらっしゃい!!!」
「⑨個でいい」
ゆっくりてんこは虫やら雑草やらを丸めて作ったお団子を持たされ、家を出発しました。
何処にれみりゃが居るのか知っているのかはともかく頼もしい感じです。
適当に歩いていると、ゆっくりちぇんに会いました。
「にゃにゃ!わかるわかるよー」
「それほどでもない」
これらのやり取りを分かりやすく説明すると、
『ああ、貴女はあの恐ろしいゆっくりれみりゃを退治しに行こうとする勇敢なお方ですね』
『いやいやそんな勇敢だなんて事はありませんよ。単に両親に恩返ししたいだけです』
という事です。ゆっくり語は奥が深過ぎですね。
「わかりたいよわかりたいよー」
「同じ時代を生きただけのことはあるなー」
どうやら虫団子をゆっくりちぇんにあげる代わりに、ゆっくりちぇんがれみりゃ退治を手伝う事になったようです。
もうはっきり言ってこんな会話やってられないのでちょっと割愛します。
こんな調子でゆっくりてんこは仲間を増やしていきました。
どこからともなくモフモフしたゆっくりらんしゃまを呼び出すゆっくりちぇん。
「うんうんわかるわかるよー」
素早さと体の何処かに隠し持っているドスが武器のゆっくりみょん。
「ちーんぽっ!」
ゆっくり随一の凶暴性と戦闘力を誇るゆっくりフラン。
「ゆっくりしね!!!」
こんな頼もしい仲間と共に、ゆっくりてんこはれみりゃヶ島に渡りました。
れみりゃヶ島は紅い霧に包まれており、ありとあらゆるものが紅く染まった不気味な島です。
ゆっくりフランは妙に生き生きとしていますが、他の二匹の仲間は緊張しているようです。
ちなみにゆっくりてんこはそんな些細な事は全く気にならないようです。
「うー!うー!」
島のどこからかそんな声が聞こえてきます。この島にゆっくりれみりゃがいるのは間違いありません。
ZUNZUN島の奥へと進んでいくと、居ました。ゆっくりれみりゃです。それも凄い数です。数十匹は居ます。
ゆっくりフラン以外の三匹はいっせーのせ、で襲い掛かろうとしますが、ゆっくりフランは構わず突っ込みました。
「ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」
「う゛あ゛ー!う゛あ゛ー!!」
三匹はポカンとしています。無理もありません。
あの恐ろしいゆっくりれみりゃの群れが、たった一匹のゆっくりフランによって蹂躙されているのですから。
見る見るうちにゆっくりれみりゃはおぞましい悲鳴と共にその数を減らしていきます。もう他の三匹は帰ってもいいんじゃないでしょうか。
いや、そんな事はありません。勇敢なゆっくりれみりゃが三匹、ゆっくりフランの背後から一斉に飛び掛りました。
「ゆっくりしねぇ!!ゆっくりしねぇぇぇ!!」
「たべちゃうぞー!!」「ぎゃーおー!!」「うー!!うああー!!」
それに乗じて残りのゆっくりれみりゃが一斉にゆっくりフランに飛び掛ります。
ボケっとしていた三匹はゆっくりフランを助けに突撃します。
「お前らどうやらボコボコにされたいらしいなさっきも言ったがわたしはリアル天人属性だから手加減できないし最悪の場合永遠亭に行くことになる」
「わかって!わかってよぉー!!」
「ちちちちーんぽっぽ!!」
ゆっくりフランに気を取られて気付かなかったのか、ゆっくりれみりゃ達は乱入してきた三匹によって激しく混乱に陥りました。
体勢を立て直したゆっくりフランは再びその猛威を振るいます。ゆっくりれみりゃ虐殺ショー、ラウンド2です。
数分間この世の地獄が再現された後、ゆっくりれみりゃの群れは全滅しました。ほぼゆっくりフランの一人勝ちです。
ちなみにスコアはゆっくりフランが三十二匹、ゆっくりちぇんとゆっくりみょんが協力して二匹、ゆっくりてんこが無しです。
これだとゆっくりてんこは働いてないじゃないか、と思われるかも知れませんがそんな事はありません。
ゆっくりてんこは四六時中あの自信ありげで大胆な発言を繰り返す事でゆっくりれみりゃの恐怖と混乱を煽っていたのです。
何はともあれゆっくりれみりゃは退治され、島を多う霧も晴れました。もうゆっくり達が襲われる事も無いでしょう。
勇者なゆっくり一行は一人一匹ずつ、半死半生で生き残っているゆっくりれみりゃを持ってそれぞれの家路へつきました。
家を出て一週間後、ゆっくりれみりゃを退治したゆっくりてんこが家に帰ってきました。
あの婆ゆっくりれいむと婆ゆっくりまりさが出迎えてくれるかと思っていたゆっくりてんこでしたが、そんな事はありませんでした。
二匹は、家の中で頭から蔓を伸ばして黒ずみ朽ち果てていました。
蔓には、まだ目覚めぬ小さな小さなゆっくり達が実っています。
ゆっくりてんこがとりあえず持ち帰ったゆっくりれみりゃ(上半身しか無い)を床に放り投げると、ちびゆっくり達が目を覚ましました。
「ゆっくりちていってね!!」「おねえちゃんだあれ!!?」「ゆっくいちようね!!」
そんな風に思い思いの事を元気よく叫ぶちびゆっくり達。そんな様子を眺めていたゆっくりてんこは突然、
「想像を絶する悲しみがゆっくりてんこを襲った!お前らにゆっくりてんこの悲しみの何がわかるってんだよ!!」
生まれて初めて、涙を流しながら大声を張り上げました。
驚いて黙るちびゆっくり達。ただただ涙を流し続けるゆっくりてんこ。
その小さな家の中に、いつまでもいつまでもゆっくりてんこの啜り泣きが木霊していました。
Buront END
ゆっくりてんこがゆっくりれみりゃ退治から帰って三日が経ちました。
ちびゆっくり達は見る見る大きく育っていき、子育てに励むゆっくりてんこは毎日忙しそうです。
そんな賑やか家族の住む家に三人組の人間が近付いていました。
三人とも薄い水色の作業服を着ており、それぞれ手には籠と細長く、先端に輪の付いた棒を持っています。
彼らはゆっくりてんこら一家の喧騒を聞きながら、気付かれないようゆっくりと家の前まで近付いていきます。
その数週間後、人間達の里で商売する大手和菓子屋が「ゆっくり天子饅頭」なる新製品を発売しました。
桃色で桃風味のこしあんと皮が新鮮だとして、人々に大層喜ばれたそうです。
めでたしめでたし
最終更新:2008年09月14日 09:20