ゆっくりいじめ系2113 べじたりあん

『べじたりあん』



里山の茂みの中を進む、生きる大福。
金髪に黒いトンガリ帽子がトレードマークのゆっくり、ゆっくりまりさだ。

「そろ~り、そろ~り」

まりさは外敵に見つからないように、細心の注意を払って茂みを這っていく。
このあたりには人間や獣も多いことを、まりさは知っていた。

だが、それは裏を返せば、生き物にとってすごしやすい土地だということだ。
故にまりさは、多少の危険を冒してでも、この地に住んで、今日も狩りを行っていた。

「ゆゆっ! おやさいさんだよ! とってもゆっくりしているね!」

茂みの切れ目まで来たまりさの眼前には、
整地された柔らかい土と、そこからはえる青々とした野菜が広がっていた。

まりさは目を輝かせ、その青い葉の前へピョンピョン跳ねていく。

「ゆぅ~ん、すこしちいさいけど、とってもゆっくりできそうだよ」

野菜は、まだまだ小ぶりで、成長途中であることが見てとれたが、
お腹をすかせたまりさにとって、そんなこと関係ない。

「おやさいさん、かってにはえてきてくれてありがとうね!」

まりさは目を輝かせて、あ~んと大きな口を開いく。
そして、パクと口を閉じるまりさ。

けれど、むーしゃむーしゃしようにも、まりさの口の中には何も入っていない。
それを不思議に思って、下ぶくれた顎を傾けるまりさ。

「ゆぅ~? おやさいさん、どこいくの?」

目の前の野菜が、まりさから離れていく。
いや、正しくは、まりさが野菜から遠ざかっていたのだが、まりさはそれに気付かない。

「ゆゆゆ? おやさいさん、ゆっくりまりさにたべられてね!」

じたばた暴れて野菜を食べようとするまりさ。
しかし、野菜に飛びつこうにも、まりさの体は何者かに持ち上げられて動くことが出来ないでいた。

その時になって、まりさは初めて気付いた。
自分が、何者かに持ち上げられていることに。

「ゆ、ゆゆ?」

おそるおそる、後ろに視線を送るまりさ。
そこには、ぬぼぉーっと大きな下ぶくれ顔に、満面の笑みを浮かべる存在がいた。

「ぎゃおー♪ たーべちゃうぞぉー♪」
「れ、れ、れ、れみりゃだぁーー!」

まりさを掴んでいた者、それは胴体有りのゆっくりれみりゃだった。
ゆっくりを捕食する天敵の登場に、まりさは顔面蒼白になって、暴れ回る。

「やめてね、こっちこないでね! れみりゃはゆっくりできないよ!」
「うー!」

暴れた甲斐あってか、れみりゃの手が離れ、まりさの体はそのままポヨンポヨンと地面に着地する。

何とか自由を得たまりさだったが、その危機は変わらない。
ゆっくりれみりゃを見上げたまま、ガタガタ震えるしかなかった。

一方、れみりゃはといえば、最初こそ「ぎゃおー♪」とお馴染みの声を上げたが、
それ以降、まりさを捕まえようとも、食べようともしなかった。

それどころか、まりさにとって実に以外な声をあげるのだった。

「うーうー♪ いっしょにゆっぐりー♪ ゆっぐりしよぉー♪」
「ゆ、ゆぅ? ゆっくり、していってね?」
「うーうー♪ ゆっぐりゆっぐりー♪」

"ゆっくりしていってね"と言われ、"ゆっくりしていってね"と返すのは、
ゆっくりにとて本能に近いものであり、同時にそれは親愛の情を示すものでもある。

れみりゃからの思わぬ"ゆっくりしていってね"コールに、まりさは混乱した。
そんなまりさとれみりゃの前に、1匹のゆっくりれいむが現れた。

「れみりゃ、どうしたの?」
「うー♪ れーむー♪」

まりさは驚いた。
れいむ自体は珍しくなかったが、このれいむは目の前でれみりゃと仲良く話をしているではないか。

「れーむ♪ れみりゃのはたけにおきゃくさーん♪」
「ゆ? れみりゃのはたけさん?」

まりさは、れみりゃの言葉にピクと体を揺らした。

「うっうー♪ れみりゃってば、おやさいさんそだてるのもおじょーずなのー♪」

どうやられみりゃは、目の前の野菜は全て自分のものであり、ここは自分の畑だと言っているようだった。
畑、それは人間が"勝手にはえてくれるお野菜さんを独り占めしている場所"それがまりさにとっての認識だった。

まりさにとって、人間の言う「畑」は何ともゆっくり出来ず、理不尽に感じられるものだった。
それを、捕食種とはいえ同じゆっくりであるれみりゃが主張しているのは、我慢ならなかった。

「ち、ちがうよ! このおやさいさんは、まりさがみつけたんだよ!」
「う~?」

れみりゃに向かって、唾を吐くまりさ。
恐怖よりも、今は目の前の野菜への情念が勝っていた。

「おやさいさんは、まりさにむーしゃむーしゃされるために、ゆっくりかってにはえてきてくれたんだよ!
 おばかなれみりゃは、ゆっくりりかいしてね!」

まりさは、れみりゃへ背を向け、野菜へ跳ねる。
そして、今度こそそれを口に入れようとして……。

「う~~! だめぇ~~!」
「ゆべぇ!」

まりさが口を閉じるより早く、どたどただばだばれみりゃがやってきて、まりさを蹴り飛ばした。
ゴロゴロ転がり、もちもちした肌を擦り傷だらけにするまりさ。
自慢の金髪も帽子も、畑の柔らかい土で、すっかり汚れてしまう。

れみりゃは、そんなまりさに向かって立ち、短くふくよかな手を広げて、野菜を守ろうと立ちはだかった。

「うー! ここはれみりゃのはたけなのぉー!」

よろよろ起きあがる、まりさ。
そのまりさの前で、べそをかきながらも野菜を守ろうとするれみりゃ。

まりさは、何とかれみりゃを倒して野菜を手に入れたかったが、力の差は今の攻防で既に明らかだった。
どうすることも出来ぬまま、やがてまりさは頬をふくらませ、そのままわんわん泣き出してしまう。

「ゆぁ~~ん! まりさはおやさいさんたべたいだけなのにぃ~~! どうしてまりさにひどいことするのぉ~~!?」
「う~~~~~っ」

にらみあったまま、膠着するまりさとれみりゃ。
すると、れいむがぴょんぴょん跳ねてきて、まりさの土と涙でぐちゃぐちゃになった頬を舐めてあげた。

「ぺろ~り、ぺろ~り」
「れ、れいむ?」

れいむはまりさを泣きやませて落ち着かせると、笑顔で提案する。

「だったら、まりさもいっしょにれみりゃのおてつだいしようよ?」
「……ゆぅ?」

目を丸くする、まりさ。
一方でれみりゃは、れいむの提案にご満悦で、"うぁうぁ"喜びのリズムを体で刻みだす。

「う~♪ れーむ、あたまいい~♪」
「で、でもれみりゃといっしょなんて……」

チラリとれみりゃに視線を送る、まりさ。
れみりゃは、満面の下ぶくれスマイルでまりさに応えた。

「れみりゃは"べじたりあん"さんだから、おまんじゅうなんてたべないもぉーん♪」
「そうだよ、れみりゃは"おしゃまなおぜうさま"なんだって!」

れみりゃとれいむの言葉に、まりさは考え込んだ。

よくよく聞くと、元々この場所でれみりゃが畑を作っており、
れいむも以前野菜を食べようとした際に、れみりゃから一緒に野菜を作ろうと誘われたのだという。

「ゆぅ~~」

畑の概念は気にくわなかったまりさだが、そんな細かいことを抜きにしても、野菜はやはり魅力だった。
それにとってもゆっくりしているれいむとは仲良くなりたかったし、強いれみりゃと一緒にいれば安全だろうとも考えた。

「ゆっくりきめたよ! まりさも、れーむとれみりゃとゆっくりするよ!」

まりさの決意を聞いて、れみりゃとれいむはパァーと顔を光らせた。

れみりゃは、腕をぐるぐる振り回し、大きな尻を左右にぷりぷり揺らす。
れみりゃ特有の感情表現、のうさつ☆だんすだ。

「うっうー☆うぁうぁー♪ れみ☆りゃ☆うー♪」

この時、れみりゃは思った。

お野菜を作って良かった。
お野菜を作っていたから、こんなにもゆっくりできるお友達が出来たんだと。

これならきっと、ゆっくりできるに違いない。お野菜、大好きと。



   *   *   *



里の外れ、独り身で農業を営む男の下を、
大きな下ぶくれ顔と小さな羽を持った幼児体型のゆっくりが訪れていた。

「う~~♪ ゆっぐり~~♪」
「ん? なんだおまえか、久しぶりだな」

男の下を訪れたのは、ゆっくりれみりゃだった。
男は鍬を地面に置き、れみりゃを招いて縁側へ腰かける。

男は、熱い緑茶を煎れ、お茶請けに羊羹を用意する。
れみりゃは羊羹を頬張り、両手で頬をおさえて咀嚼する。

口の中いっぱいに広がる甘みに、れみりゃは顔をほころばせた。

「う~~♪ ぷっでぃ~~ん♪」
「はいはい……それで、今日はどうしたんだ?」

男とれみりゃは、顔見知りであった。

数ヶ月前、男は道で倒れていたこのれみりゃを拾い、介抱した。
その折に、男はその奇妙な嗜好に気付いた。

男は、ゆっくりれみりゃは野菜を嫌うと聞いていたが、このれみりゃは違っていた。

それどころか、農作業をする男に興味を持ち、
体力が回復してからは積極的に男を手伝い、野菜の作り方を学ぼうとしだしたのだ。

そして、とうとうれみりゃは独り立ちし、野菜畑を作ると言いだした。

男は、それをおもしろく思い、一定の収穫量を代価に、
自分の土地の一部と、れみりゃが特に気に入った野菜の種をわけて与えた。

それから数ヶ月。
音沙汰も無く、男が忘れかけた頃に、そのれみりゃがこうしてやってきたのだった。

「れみりゃのはたけー♪ とってもゆっぐりしてるのぉー♪ みてみてぇ~♪」

羊羹を食べ終わったれみりゃは、男を自分の畑へと導いた。
そこで青々と生い茂った野菜を見て、男は素直に感心する。

「へぇ、こりゃたいしたもんだ……」
「うっうー☆れみりゃゆっぐりがんばりましたぁー♪」

嬉しそうに胸を張る、れみりゃ。
よく見れば、あちこちに擦り傷ができており、服も体も土だらけである。
その様子から、男はれみりゃが真面目に農作業に取り込み、ここまでの成果を得たのだと思いを馳せた。

「たいしたもんだ。流石はお嬢様だな」
「う~☆なでなでぇ~♪ いいこいいこ~だいしゅきぃ~♪」

男に頭を撫でてもらい、れみりゃはご満悦だ。
そうして、笑顔を浮かべたまま紅い瞳を開いて、男に問いかける。

「う~♪ れみりゃいいこにしてたら、しゃくやおむかえにきてくれるぅ~?」
「ああ、きっとな」

れみりゃの問に、曖昧に応えて微笑む男。

男は、農作業に関する質問には真摯に答えてきたが、
れみりゃが時折口にする"しゃくや"に関する質問だけはよく意味がわからずにいた。

「じゃあ、俺は後で収穫に来るから。これからも頑張れよ、お嬢様?」
「おっまかせぇー♪ こーまかんのおぜうさまには、ゆっぐりしてるおともだちがたくさんいるのぉー♪」

とんと胸を叩いて、自慢するれみりゃ。
男はそんなれみりゃに一瞥をくれてから、収穫の準備をすべく畑を後にした。

れみりゃは、男を見送った後、どすんと座り込み、青空を流れる雲を眺めた。
ゆったりと流れる雲と、心地よいそよ風がれみりゃの心を落ち着かせていく。

「ゆっぐり~ゆっぐり~♪」

れみりゃは、とてもゆっくりしていた。

そこへ、わいわいがやがやとゆっくり達がやって来た。
れいむ、まりさ、ぱちゅりー、ありす、ちぇん、さらにはふらんまで。
そこに集まったゆっくり達は、みなれみりゃの畑で働くゆっくり達だ。

「ゆ? れみりゃどーしたの? いまにんげんさんがいたみたいだけど……」
「ゆっくりりかいしたよ! きっとまりさたちのはたけをよこどりしようとしたんだね!」
「むっきゅーん! それをれみりゃがおいかえしたのね!」
「さすが、れみりゃね! とってもとかいてきこういだわ!」
「わかるよぉー! れみりゃはつよいゆっくりなんだよぉー」
「うー☆おねーさますごい☆」

みな一様に笑顔でれみりゃを称えるゆっくり達。
れみりゃは、立ち上がり、ゆっくり達を出迎える。
今日は、いよいよ育てた野菜を収穫する日だ。

「うっうー♪」

れみりゃは笑顔で野菜を収穫していく。
育てていた野菜は2種類。一つは緑色の葉を元気に伸ばし、一つは地面に大きな実をつけている。

れみりゃはその2つの野菜を引き抜き、両手に持って喜びを爆発させる。

「う~う~♪ れみりゃのおやさぁ~い♪」
「ゆ、ゆゆ、すごいよ! おやさいさん、とってもたくさんゆっくりしてるよ!」

ゆっくり達も、れみりゃの姿を見て感激の声をあげる。
それは、苦労の末に豊穣を得られる、農における収穫の喜びでもあった。

小さいとはいえ、畑の野菜は多い。
ゆっくり達は、とりあえず今食べるぶんだけを引き抜き、それぞれに分配した。

ゆっくり達は野菜を目の前にして、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
今か今かとソワソワする、ゆっくり達。

そして、ついに。
れみりゃの声を合図に、野菜の味と喜びを噛みしめる時がやって来た。

「ぎゃおー♪ たーべちゃうぞぉー♪」
「「「「「いっただっきまぁ~~す!!!」」」」」

もしゃもしゃ。
ばくばく、むしゃむしゃ。

「うぁーうぁー♪」

れみりゃは、むしゃぶりつくように野菜を食べていく。
その野菜は、れみりゃが農業を教わった人間の家で食べて、やみつきになったものだった。
だが、自分で苦労して育てたぶん、愛情を注いで育てたぶん、今日の方が何倍にも美味しく感じられた。

「うっうー♪ とってもでりしゃすぅ~♪ しゃくやにもたべさせてあげよぉ~っと♪」

れみりゃは、止まらない。
むーしゃむーしゃと野菜を食べ続けていく。

これならきっとみんなもゆっくりしてくれているはず。
これからもみんなと一緒にゆっくり野菜を育てて、ゆっくりしよう。

れみりゃはそう思いを新たにしながら、
今日まで苦労をともにしてきた、れいむやまりさの様子を窺った。

「……うー? みんなどぉーしたのぉー?」

野菜を食べる手を止め、れみりゃは首を傾げた。
見ると、ゆっくり達は少ししか野菜に口をつけておらず、みなプルプルと体を揺らしていた。

「……れみりゃ、なに、これ?」
「うー? れーむー♪ むーしゃむーしゃゆっぐりー♪」

れみりゃは、ゆっくり達が初めて見る野菜の食べ方を知らないで困っているのだと思った。
故に、ゆっくり達の前で、美味しそうに野菜を食べる様を見せたのだが……。

「こんなの、ゆっくりできるわけないよ!」
「う、うー?」

れいむ達から、れみりゃの期待した"ゆっくり"は返って来なかった。
それどころか、せっかく育てた野菜を憎々しげに踏みつぶし、れみりゃに敵意を向けている。

「ひどいよ、れみりゃ! れみりゃはれいむたちをだましたんだね!」
「うぇ~~ん! まりさのおやさい~~! こんなのおやさいさんじゃない~~!」
「むっきゅー! これはくささんやおはなさんいかよ! きっとどくそうなのよ!」
「こんなのちっともとかいはじゃないわ! れみりゃのうそつき!」
「わかるよぉー! きっとれみりゃはちぇんたちをつかれさせてたべちゃうつもりなんだよ!」
「うー、おねーさま、やっぱりだめりゃだった……」

れみりゃは、わけがわからなかった。

れみりゃに、ゆっくり達を騙すような意図は無かった。
確かに、他のゆっくり達に、農業を教えてくれた人間との取り決めは言っていない。
そもそも"何故自分が畑をやろうと思ったのか"の理由を話したこともない。

だが、目の前のゆっくり達の不満は、明らかにそれとは別種のものだ。
"野菜がまずい""こんなものは野菜じゃない""こんなものじゃゆっくりできない"
言い回しは違っても、ゆっくり達の罵りはそういったものだ。

けれど、それがれみりゃには理解できない。
こんなに美味しい野菜なのに、どうしてゆっくりできないというのか。

「う~~! ゆっぐり~~! ゆっぐりじだいよぉ~~~!」

大好きな友達からの非難と罵詈雑言に、れみりゃの胸の中では、どんどん悲しい気持ちが溢れていく。
あんなに美味しいと思った野菜も、もはや何の味もしなかった。

れみりゃは、思いも寄らなかっただろう。
その野菜は、れみりゃだからこそ、中身が「肉まん」のゆっくりだったからこそ、美味しいと感じたのだということを。
中身が甘いもので出来ているゆっくり達にとって、その野菜の味や風味や臭いは、実にゆっくり出来ないものだということを。

その野菜、「ニラ」と「ニンニク」という野菜の特性を。

「ゆぅ~! れみりゃだけゆっくりしようなんてひどいよ!」
「さいしょっからまりさたちをゆっくりさせないつもりだったの!?」

ゆっくり達の敵意は、やがて実力行使へと移っていく。
怒りはうねりとなり、もはやれみりゃの言葉はゆっくり達に届くことはない。

「う、うー! ちがうー! ちがうのぉー! れみりゃは……」
「「「「ゆっくりできないれみりゃは、ゆっくりしね!」」」」

ゆっくり達は、一斉にれみりゃとれみりゃの畑へと襲いかかっていく。
れみりゃには、ただ叫ぶことしかできなかった。

「う、うぁぁぁーーー! しゃぐやぁぁーーーたすげでぇぇーーーー!!」



   *   *   *



れみりゃは、泣いていた。
全身を傷だらけ、泥だらけにしながら、泣いていた。
自慢の柔肌も、だいじだいじなおべべも、もうボロボロだった。

「うっぐ、ひっぐ……」

泣いて、泣いて、泣き続けて。
やがて泣き疲れたれみりゃは、ぐずりながらも顔を上げ、その惨状を見てまた泣き出すのだった。

「う、うあーー! れみりゃのはたげがぁーーー!!」

れみりゃの前には、かつて畑だった光景があった。
だが、ゆっくり達が怒りに任せて暴れたおかげで、畑は見るも無惨なものになっていた。

何ヶ月も苦労した結果が、目の前の光景などと、到底受け入れられるものではなかった。

「……おいおい、どうしたんだよこれ」
「うぁ?」

れみりゃが振り向くと、そこには収穫用の道具を取りに戻った、男が立っていた。

「おにぃーさーん! はたげがぁー! れみりゃのゆっぐりぶれいずがぁーー!」

れみりゃは、男の足にすがりつき、泣きわめく。
男は、れみりゃの涙と体についた泥で汚れるのに嫌悪を感じつつ、呟いた。

「ったく、やっぱりだめだったか。野菜好きの捕食種なんて珍しいから、躾けりゃ役に立つかと思ったのに……」
「おにぃーさーん! しゃぐやぁーー! しゃぐやぁをよんでぎでぇーー!!」

なまじ期待してしまったが故に、すっかり脱力する男と、
ただ永延と"しゃぐや"の名前を連呼するれみりゃ。

「まぁ、しょーがないか」

男は、風が冷たくなってきているのを感じ、ぐしぐしとれみりゃの頭を撫でてやった。

結果的に失敗だたとはいえ、あと一歩のところまでは出来たのだ。
むしろ農業初心者のゆっくりれみりゃがここまで出来ただけでも褒められるべき奇跡。
目の前で泣くれみりゃを家に連れ帰って、ゆっくりさせてやろうと、男は考えた。

「ほらほら、うちで甘いものやるから泣きやめよ」
「やだぁー! ぷっでぃーんだけじゃやだぁー! ごーまがんで、しゃぐやのおさらだたべるのぉーー!!」

普通のれみりゃなら飛びつく"あまあま"の一言でさえ、今のれみりゃには効果が薄かった。

「……あのな、誰かは知らないけど、そんな人は」
「しゃぐやー! れみりゃおやざいだいしゅきになったのぉー! もぉーぽいしないのぉー!!」

れみりゃは泣いた。
泣いて反省して、その場にいない"しゃぐや"に許しを求めていた。
そして、また一緒にゆっくりしたいと、必死に"しゃぐや"を探し求めた。

かつて自分に無償の愛を注いでゆっくりさせてくれた者の名を。
かつて自分がワガママを言って傷つけてしまっただろう者の名を。

「れみりゃはしゃぐやにゆるしてもらうのぉー! れみりゃのおやざいさんいっじょにたべでゆっぐりずるのぉーー!!」

れみりゃの"しゃぐや"を呼ぶ声は、いつまでも続いた。
そして次の日、毎日朝早くかられみりゃが水をまいていた場所には、土地の主である男の姿だけがあった。



   *   *   *



数日後。
野菜の無人販売を前に一人のメイドが立っていた。

「……あら?」

素性のわからぬ野菜など、主人やその賓客達に食べさせるわけにはいかないが、
野菜に添えられた一文が、そのメイドの興味をひいた。

誰かが捨てただろうぐしゃぐしゃの紙に、クレヨンで描かれた汚い平仮名。
そこにはこう書かれていた……。

"れみりゃががんばっでつぐっだおやざいざんでず。どっでもおいじいからたべでぐだざい"

ぼろぼろのニラとニンニクに添えられた一文を見て、メイドは溜息をついた。
その脳裏には、かつて愛情の限りを注いだ下ぶくれ顔がよぎって、消えた。

「……変わったれみりゃ様もいるのね。……もし本当にそんなれみりゃ様がいるなら、会ってみたいわ」



おしまい。




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……風邪ひきました。

最後の台詞をどう解釈されるかはお任せします。
ただ、私自身は(この場所で言うのも変なのですが)ハッピーエンド至上主義者だったりします。

by ティガれみりゃの人
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最終更新:2009年02月01日 21:02
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