※現代もの
※ドスあり
※人間による直接虐待描写なし
※初投稿




「お客様にお知らせします。現在、総武快速線は千葉駅構内で発生した
 ゆっくりによるポイント故障の影響により、千葉―東京間の運転を取りやめております。
 お急ぎのところ大変申し訳ございませんが、予めご了承ください」




               「ゆん身事故」




  鉄道先進国、日本。
 平地が頗る少ない国土で隧道を掘り、橋を架け、線路を引き、そこに数多の列車を走らせる。
 秒刻みでダイヤが定められ、にも拘らず、まさに職人芸といわれるほどの技術でそれを完璧にこなす。
 ある調査では、日本の鉄道の正常運行率(遅延せず、時刻表通りに列車を運行させる)は、
 89%を記録し──1分以上の遅れを遅延とした場合で──日本が世界に誇る高速列車の新幹線に至っては、
 平均遅延時間がなんと6秒であったという。

  しかし、そんな日本の鉄道に影を差す存在が現れた。


  それは"ゆっくり"だ。




「ゆゆ~ん おちびちゃんたちゆっくりすにかえろうね!!」
「「わかっちゃよ!おきゃーしゃん!!」」


  線路の脇に大小あわせて3つのゆっくりがいた。成体れいむ1匹と小れいむ2匹である。番のゆっくりはいない。
 親れいむの頬はいっぱいに膨れていた。おそらく狩りからの帰りであろう。子れいむの方も何かを咥えていた。


「おきゃーしゃんしゅごきゅきゃりがじょうじゅじゃっちゃね!」
「おきゃーしゃんのおきゃげでれいむちゃちしゅごきゅゆっきゅりできりゅよ!」
「ゆふ~ん そんなにいったられいむてれちゃうよ!それにおちびちゃんたちもすごくゆっくりしたものひろってきてさすがれいむのおちびちゃんたちだね!!」
「「ゆっへん!れいみゅちゃちしゅごいでしょ!!」」


  子れいむ達が咥えていたのは、駄菓子屋などに置いてあるガチャガチャの透明のカプセルであった。
 ゆっくり達には、それが大層ゆっくりしたものに見えるのであろう。子れいむ達はとても誇らしげである。


「「「ゆ~ゆ~ゆ~~ゆ~ゆ~ゆ~~ゆ~ゆ~ゆ~ゆ~~」」」


  騒音とも雑音ともとれる歌を歌いながられいむ親子は線路を越える。近くにマイクを構えたお兄さんがいれば確実に潰されていただろう。
 そして、3本目のレールに差し掛かった時、遠くから青白の帯が入ったステンレス製の車両がれいむ親子の方へ滑ってきた。


「ゆゆっ!?なんだかゆっくりできないおとがするよ!」
「「きょわいよー!おきゃーしゃん!!」」


  ぱふぉふぉぱふぉふぉ~ん


「おとさんゆっぐ……ッ!!」
「「ぅ゛……!!」」


  警笛を鳴らしながら、しかし速度を落とすことなく列車はれいむ親子を通過した。列車は、何事もなかったかのように遠くに過ぎ去った。


「「「…………………………」」」


  バラスト(レールの下に敷かれている砂利)の上には、もはやゆっくりであったのかすら疑わしい程ぐちゃぐちゃになったれいむ親子がいた。
 餡子の塊であるゆっくりが、時速100km以上もの速さで動く合金鋼(ステンレス)に当たったらどうなるか?もちろん即死である。
 れいむ親子は悲鳴すらあげることなく、列車に轢かれて死んだのだ。




  ゆっくりによる被害件数は都市部の列車より、どちらかというと所謂ローカル線と呼ばれる田舎・山間部を走る列車の方が多い。
 なぜなら、ゆっくりの数が都市部より圧倒的に多く、また地平を走り線路までの間に障害物がないことが多いのもその一因となっていた。
 だが、一たび事故が起きると他線区にあまり影響を及ぼさないローカル線よりも、直通列車が多く走る都市部の方が被害の大きさが尋常ではなくなるのだ。

  たとえば横須賀線の列車が走る新川崎で事故が起こったとしよう。ここを通るのは横須賀線のほかに湘南新宿ラインがある。
 横須賀線の列車は、久里浜から東京を経て総武快速線に入り千葉方面へと至る。この時点で神奈川・東京・千葉に影響を及ぼすことになる。
 さらに湘南新宿ラインは小田原・逗子から新宿を経て、大宮から分岐し高崎・宇都宮方面へと至る。事故が起きれば瞬く間に関東一円の列車が遅れてしまう。

  ゆっくりによる事故は単にゆっくりが走行中の列車にぶつかることで起きるのではない。だいたい重さが数kgしかないゆっくりが何十トンもの重さを持つ列車に
 当たったところでどうにかなるものではない。ではなぜか。ひとつはれみりゃやふらんなど飛行することができるゆっくりだ。いくらゆっくりといえども、
 走行中の列車の前部、つまり運転席の窓ガラスにぶつかればどうなるだろうか。罅くらいは入るだろうし、運転士の視界全域に肉汁や皮が張り付くことになる。
 列車が自走できたとしても、目の前の安全が確認できなければ列車を走らせることはできない。信号や標識を無視して走れば大惨事が起きてしまう。

  また、信号やポイントなどの設備にゆっくりが被害を与えることもある。前述の通り、ポイントに赤ゆっくりなどの小さいゆっくりが挟まることもある。
 無論、赤ゆっくりは即死だが、餡子が詰まり微妙にレールの隙間が空いてしまう。このままでは列車が脱線してしまう恐れがあるので除去する必要が出てくる。
 さらに、信号の光はゆっくりを寄せ付けるのであろう。信号機に大量のれみりゃが群がっていたこともある。信号が見えないので当然駆除しなければならない。

  他にも田舎の駅で停車中の列車内に大量の野良ゆっくりが入り込んできたり、胴付きの飼いゆっくりが乗車の際ホームと列車の間に足を挟んだり、
 留置してある列車の窓ガラスが割られ車内にゆっくりの死骸と大量のガラス片が落ちていたりしたこともあった。

 ゆっくりによる被害金額は合計で数十億円にまで上った。これではいかんと、JRや民鉄各社が政府に陳情した直後、ある事件が起こった。




「むきゅ、またかえってこなかったわ……」
「ゆ~……」


  群れのリーダーであるドスまりさと参謀役のぱちゅりーは悩んでいた。ここ最近、狩りを行った際ゆっくりが永遠にゆっくりしてしまう事態が多発しているのだ。
 別に捕食種に喰われて死んだり、躓いて皮が破けて餡子を大量に失って死んだりするわけではない。
 群れが住む場所から狩り場までは、運動能力が乏しいぱちゅりー種でも十数分も移動すれば到着してしまうほど近い。
 なのに多くのゆっくりが帰らぬ餡子となるのには理由があった。狩り場は線路の向こう側にあったからだ。


「ドス、やっぱりドススパークでやっつけるしか……」
「そうだね……みんなをひろばにあつめてね……」


  ドスの群れは元々この付近にいたのではない。もっと山の頂上に近いところで生活していた。
 しかし、このドスはあまり賢い方ではなく、群れに掟を作ることなくゆっくりし続けた結果、今の場所へと引っ越しせざるを得なくなった。
 現在、群れがいる場所は比較的ゆっくりにとっては安全な方で、近くに──線路を挟んでだが──狩りをするところがあったのも幸いした。

  群れの近くにある路線は、スカイブルーの各駅停車や銀色の快速列車、揺れる特急列車がバンバン走る通勤路線であった。
 そのため必然的にゆん身事故が起きる確率が高くなり、哀れ群れのゆっくりは大半が狩りの行き帰りにその餡子をぶちまけて死んでしまった。




「みんな!よくきいてね!ドスはむれのみんなをゆっくりできなくするあのゆっくりできないものをやっつけるよ!」
「「「「「ゆゆっ!」」」」」
「がんばるんだぜドス!」
「れいむのこどものかたきをうってね!」
「いなかもののあれをやっつけるなんてさすがドスとかいはね」
「かたきうちだね、わかるよー!」
「じゃおーん!」
「ちーんぽ!」


  大小さまざまなゆっくりの声援を受けドスまりさは線路へと向かっていった。

  ドスはゆっくりが轢死するのを話だけしか聞いていなかったが、一度だけその現場を見たことがあった。
 よって群れをゆっくりさせなかったのは全て同じものだと思い込んでいた。幸か不幸かその時と同じ形式の列車がやってきた。


「ゆ、ドススパークでむれのみんなのかたきをとるよ……!」


  ドスは線路の上に跳ね、列車の前に立ち塞がった。そしてドススパークを放とうとした瞬間、轢かれた。


「ゆっくりできないぎんいろさんはドススパークでゆっくりしんでぶべぇえっ!!!?」


  列車は辺りに餡子を撒き散らし、自身も餡子まみれになりながら、停車した。




「あっちゃ~駄目だったか……」


  運転士は心の中でそう吐き、すぐさま指令へと連絡した。


「運転指令、え~こちら4549H、4549H、山中渓―紀伊間において巨大ゆっくりと正面衝突した為、安全確認のため緊急停車いたしましたどうぞ」


  何事もなく山間を運転していた時、突然茂みの中からドスまりさが現れた。本来ならゆっくりが線路上にいれば警笛を鳴らしたあと、
 ゆっくりが逃げようが逃げまいがそのまま通過するだけだ。しかし、ドスまりさがドススパークを射出する構えを見せたため、
 構えてから実際に発射するまでの時間を瞬時に計算し、「この速度では運転室はおろか1両目全てが消滅してしまうかもしれない」と思い、
 咄嗟の判断でフルノッチ(車で言うとアクセルを思いっきり踏むようなこと)にした──のではなく、
 単にこの運転士はゆっくりについての知識は皆無で「デカイ饅頭がきたなあ」位にしか思っていなかったのだ。
 「もっとスピードを上げればビビって避けるだろう」と考えてのことだった。

  結構強い衝撃があったが所詮ゆっくり。ドスであろうと高速で動く金属の塊に餡子ではどうしようもなかった。




「ほう、この運転士、なかなかやるじゃないか……!」


  一連の出来事を運転席の後ろで腕を組み仁王立ちしながら眺めていた鬼意山は呟いた。
 実はこの鬼意山、国交省のお偉いさんであったのだ。地方の視察からの帰り、気まぐれで普通列車に乗っていたところ、
 ドススパークにも怯まず瞬時に最適解を導き出した有能な運転士を心の底から感心していた。実際は前述のとおりなのだが。

「しかし、頭の悪いドスでよかった。影から狙い撃ちされては一たまりもなかったな……」

  鬼意山はゆっくりに関してはスペシャリストといっても過言ではない。だからドススパークの恐ろしさもよくわかっていた。
 この事によりすぐさまゆっくりへのさまざまな対策が取られた。

  運転席の窓ガラスはより強固なものに取り換えられ、ゆっくりの皮だけを溶かす洗浄液が流れるようにした。
 ポイント近くには監視員や、ゆっくりだけを溶かすスプリンクラーが設置された。信号機にはゆっくり除けの音波が出る装置を取り付けた。
 ローカル線を走る列車にはトングやゆっくり虐待用の道具一式が備え付けられた。飼いゆっくりにも運賃・料金を取るようにした。
 留置線の道床は可能な限りバラストからスラブへと替えられた。

  鉄道が走る半径数キロ以内にいるゆっくりは全て駆除された。
 特にドスがいるかもしれない山の近くを走る区間では念入りにゆっくり狩りが行われた。もちろん、あの群れも例に違わず全滅させられた。


「ゆっへっへばかなにんげえ゛え゛え゛お゛え゛お゛え゛お゛え゛お゛お゛え゛え゛え゛!!!???」
「にんげんはあまあまをばびぶべぼ゛お゛お゛お゛!!!?」
「いなかもののにんげんばぼお゛ぼぼぼお゛お゛お゛お゛!!!?」
「わ゛がら゛な゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!?!?!?」
「じゃ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ん゛ん゛!!!」
「ぢぢぢん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!???」
「むぎゅう゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛う゛!???」
「「「「「ゆ゛っ゛ぐりでぎな゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!??」」」」」


  おわり




おまけ


「この電車は埼京線りんかい線直通新木場行きです」
「さいきょー!?」


「さいきょう!さいきょう!」
「うわっ!?……なんだゆっくりちるのか」
「あたいったらさいきょうね!」


「駅長、これどうします?」
「ううむ……」
「さいきょー!」


「「キャーかわいいー!!」」
「「「!?」」」
「これなんていうんですかー?」
「ええと、ちるのっていうゆっくりなんだけど……」
「「ちるのちゃんカワイイー!!」」
「!? あ、あたいったらさいきょーねっ!!」
「「キャー!!」」


「……駅で飼うか」
「そうですね……」
「あたいったらさいきょうね!」


  本当に終わり

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最終更新:2022年05月19日 13:44